電動カスタムバイクの祭典「Reload Land」の会場より
2023.06.15 画像・写真2023年6月3日と4日、ドイツ・ベルリンで電動バイクの祭典「Reload Land(リロード・ランド)」が開催された。2022年に初開催されたこのイベントは、欧州では初となるE-モペットを含む電動バイクにフォーカスしたイベントで、今年は開催2回目となる。2日間のイベント開催で1200人が来場。モーターサイクルショーや欧州で人気が高いカスタムバイクショーに比べればごくごく小規模なイベントだったが、そこでは既存のショーでは見ることができない、電動バイクのコミュニティーを形成しようとする動きを感じることができた。
イベントでは、既存および新興の電動バイクメーカーが、販売中または開発中のモデルを展示。すでに販売している車両については会場内や一般公道を使った試乗会も実施された。また、会場には電動バイクをベースにしたカスタム車両も展示。参加ブランドのエンジニアによるパネルディスカッションも行われた。ユニークだったのが電動バイクだけでベルリンの街を走る“サイレントライド”というコンテンツで、約60台の電動バイクが音もなく街を疾走。その楽しさを参加者自身が感じるとともに、ベルリン市民にアピールしたのだった。
イベントに参加したメーカーの多くは、さまざまなTech系ブランドが参加するエレクトロニクスショー「CES」のほか、2020年からフランクフルトモーターショーに代わって開催される「IAAモビリティー」にも参加している。それでも、投資家やメディアではなくライダーが目の前にいて、実際に自社製品に乗った彼らからフィードバックを得られることには大きな意味があるという。またライバルメーカーとの親交も深まり、そこでの意見交換もとても重要だと話していた。
それでは、この「Reload Land」の模様を写真で紹介しよう。
(文と写真=河野正士/編集=堀田剛資)
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1/30「Reload Land」のコンテンツのひとつである「カスタムエキシビション」。市販の電動二輪車をベースとしたカスタムバイクや、オリジナル製作の電動バイク、電動バイクのコンセプトモデルを展示したスペースだ。外会場のフレンドリーな雰囲気とは一線を画す、ピンと張りつめた空気感のなかで、アート作品のように電動バイクを鑑賞するという趣向だ。
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2/30ドイツ・ドレスデンに拠点を置くカスタムバイクファクトリー、Hookie Co.が製作した電動バイク「Tardigrade」(クマムシ)。架空の月探査用電動二輪をテーマに車両が製作されている。この車両はインダストリアルデザイナーのAndrey Fabishevskyが描いた、架空の惑星探査用二輪車のスケッチをきっかけにプロジェクトがスタート。3D CADを駆使しながらも、その製作過程は既存のカスタムバイク製作に通じる“手づくり感”が満載だった。アルミ板をサンドイッチ状に重ね合わせるメインフレームは、トレリスフレームの内側に隠れている。最大出力10kW(14PS)のモーターは、そのフレームにマウント。ラバーレスのタイヤやアルミ製の変形スポークホイールなど、ユニークなディテールも見どころとなっている。
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3/30デンマーク・オーフスを拠点にするE-Racingが製作した電動スピードウェイレーサー。E-Racingは、二輪・四輪問わず、さまざまな車両の電動化をサポートするスペシャリストだ。そもそもガソリンエンジンを使ったレース活動も行っていて、そのノウハウを生かした電動モータースポーツの普及も推進している。“スピードウェイ”とはフラットトラックに似たオーバルトラックで行われるオフロードレースで、この車両は社内にあるパーツを寄せ集めて製作したという。フレームやサスペンションも車体に合わせたオリジナルだ。0-100km/h加速は4秒以下、最高速度約150km/hをマークしている。
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4/302020年のIAAモビリティーでBMWモトラッドが発表した電動バイクのコンセプトモデル「Vision Amby(ビジョン アンビィ)」も展示されていた。前回のIAAで、BMWは電動小型モビリティーのコンセプトモデルを複数台発表。ビジョン アンビィはその1台で、今後BMWモトラッドは小型の電動バイクを市場投入すると予想される。
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5/30ハーレーダビッドソンから独立し、電動バイクブランドとしてスタートを切ったLIVEWIRE(ライブワイヤー)。当初「ハーレーダビッドソン・ライブワイヤー」として発表されたモデルは、同ブランドにおいて「ONE(ワン)」というモデル名で展開されている。この車両は、欧州でも販売がスタートしているライブワイヤーブランドの2台目の市販電動バイク「S2 DEL MAR(デルマー)」だ。ONEとは異なるブラットフォームを採用し、より軽量コンパクトに仕上げられている。ちなみに“DEL MAR”とは、アメリカ・サンディエゴにある歴史あるフラットトラックコースの名称である。
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6/30スウェーデン・ストックホルムを拠点にするSTILRIDE(スティルライド)は、コンセプトモデル「Stilride 1」を発表した。折り紙にヒントを得て、アルミ板を折り曲げて三次元で構成されるフレームを構築。それによって、従来のスクーターに比べて40%軽く、構造部品は70%少なくでき、材料費と製造コストを20%以上削減できるという。280N・mの最大トルクを発生するリアハブモーターは、容量5.1kWhのバッテリーで駆動。異なる出力モードと回生ブレーキモードを持ち、誤発進を防ぐためドライブ/ニュートラル/リバースのグリップ操作式ギアを採用する。
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7/30イベントでは、参加した各ブランドのCEOやエンジニア、さらにはカスタムバイクビルダーを交えたトークショーも開催。電動バイクの製作やその可能性について、それぞれの意見や体験を語った。
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8/30会場となったのは、バイク系DIYのシェアガレージ兼コワーキングスペース兼カフェである「Craftwerk Berlin(クラフトウェルク・ベルリン)」。実に100人を超える会員が、ここで自分のバイクをメンテナンスしたりカスタムしたりしているという。そして週末には、今回のようにさまざまなイベントを開催。いまやベルリンにおけるバイク&クルマカルチャーの情報発信地となっている。
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9/30「Reload Land」では、「Craftwerk Berlin」内の作業スペースは、電動カスタムバイクの展示会場やトークショースペースとして使われた。それにしても、ドイツのペトロキッズ(メカいじり好きのクルマ&バイクおたく)たちが電動バイクのイベントをサポートしているのは、実に面白い。
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10/30「Reload Land」の主催者たち。中央のマックスは編集者として欧州のカスタムバイクシーンを盛り立てた人物で、その後「Craftwerk Berlin」を仲間たちとともに設立。バイクやクルマまわりの企業コンサルティング会社も運営している。レオ(右)とジェームス(左)は、ともに工業デザイナーおよびエンジニアとして、さまざまな企業で電動バイクをはじめとする製品の開発やイベント開催に携わっている。
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11/30会場となった「Craftwerk Berlin」は、1900年代初頭に建てられた旧東ドイツ地区のパン工場をリノベーションしたもの。この地区の古い建造物は、その多くがベルリンの壁崩壊後に取り残され、近代的なマンション群やオフィスビルへと立て替えられた。この建物は21世紀まで生き延びた数少ない建物のひとつだという。ドイツの消防法によって使用できなくなった上階の壁は、名もなきアーティストたちが描いたグラフィティーで覆われていた。
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12/30「Tardigrade」と同じく、カスタムファクトリーのHookie Co.が製作した電動カスタムバイク「Silver Ant(シルバーアント)」。スウェーデンの電動二輪ブランドCAKE(ケイク)の「Ösa Plus(オーサ プラス)」をベースに、ドラッグレーサーのようなカフェレーサーのような、スポーティーなスタイルを構築。メインフレームやバッテリー、モーターには手を加えず、サスペンションやホイールサイズを変更。そこにアルミ板金で仕上げた外装類を架装している。
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13/30スペイン・バルセロナを拠点に活動するカスタムファクトリー、Bizarro Corp.(ビツァッロ・コープ)が製作した「Espuntik(エスプティック)II」。電動バイクブランドZERO Motorcycleのアドベンチャーモデル「DSR」のパワー&制御ユニットとバッテリーを、オリジナルフレームに搭載。フレームには「スズキGS500」のそれの一部を使用している。アルミ製のダストビンカウル(1950年代にロードレースのトップチームが採用していた、車体前側を大きく覆うレーシングカウルのこと。その姿がゴミ箱のようだったことからこう呼ばれた)はかなりワイルドな仕上がりだが、モーターやバッテリーとクラシックなディテールがミックスされていることや、きらびやかなカウルのカラーリングによって、宇宙的なイメージを構築している。
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14/30ドイツ・ケルンのカスタムビルダー、JvB MOTOが、ハーレーダビッドソンからの依頼を受けて製作した、「ライブワイヤー」ベースのカスタムバイク「Silent Alarm(サイレントアラーム)」。基本骨格や動力系はスタンダードのままだが、ヘッドライトカバーやタンクカバー、シートカウルやホイールカバーなど、外装類のほとんどがオリジナルデザインとなっており、JvBのカスタムバイクに共通する、シンプルでクリーンな意匠が貫かれている。
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15/30デンマーク・レイレ発のスタートアップ、Poulsen Motors(ポールセン・モータース)のコンセプトモデル。ハブステアを採用したことで前後同形状のスイングアームを持ち、またバッテリーボックスをフレームとして使用することで、モナカ形状のバッテリーボックス兼フレームも左右対称としている。こうすることで生産効率を高め、コスト削減も実現するという。燃料タンクに見えるものは取り外し可能なキャリーケース。このケースのデザインを変えることで、カフェレーサーやアドベンチャーといった、スタイリングのアレンジも容易にできるという。
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16/30先に紹介した電動スピードウェイレーサーを製作したE-Racingが、そこに使用したバッテリー&動力系をミニモト風の車体に搭載した電動ピットバイクがコレ。フレームはオリジナルのスチール鋼管製。小さな車体、短いホイールベース、ドーナツみたいな肉厚タイヤに、600cc単気筒エンジンと同等の出力を発生するモーターを組み合わせれば、どんなマシンに仕上がるか? レース会場でスタッフやライダーが移動に使うピットバイクをモチーフに、モーターとバッテリーを使って遊び心満載で製作された。
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17/30ウクライナ・キエフ出身のインダストリアルデザイナー、アイバン・ジュヴァ氏。彼の新しい試みである電動バイクのデザインプロジェクトが「ICHIBAN MOTORCYCLE」だ。アニメーションをはじめ日本のサブカルチャーからも多大な影響を受けているというアイバンは、日常的にバイクに乗り、スピードの世界にもカスタムの世界にもどっぷりと漬かっている。その日常と電動バイクをミックスして、新しいモビリティーの世界を創造していくのだという。
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18/30ドイツ・ハンブルグで活動するMETORBIKE(メトロバイク)の電動バイク。オーストリアのバイクブランド、PUCH(プフ)の小排気量車用フレームに、モーターとバッテリーを搭載している。革巻きのハンドルグリップや木製のシートカウルなど、クラシックとモダンを掛け合わせたスタイルが特徴だ。なによりもユニークなのは、アクセルワークと連携したサウンドシステムを採用していること。V8などの四輪車用エンジンの排気音、並列4気筒エンジンや2ストロークエンジンを搭載したスポーツバイクの排気音、さらには映画「スター・ウォーズ」に登場する「タイファイター」の飛行音に似たデジタルサウンドまで、全8種類の走行音をセット。エンジンの形をしたモーターの下に見える、マフラーのような部品がスピーカーだ。地面に向けて音を発することで、ライダーや道を歩く人々に、よりクリアに走行音を聞かせられるという。もちろんスピーカーは防水仕様。
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19/30ドイツ・ベルリン発のブランド、SECOND RIDE(セコンドライド)は、旧東ドイツのモペッドブランドであるSIMSON(シムソン)用の電動スワップキットを展開している。SIMSONが使用していた空冷2ストローク単気筒エンジンのマウントを利用した動力ユニット(モーターとインバーターがセットになっている)と、シートを改造したバッテリーユニットが、そのキット内容だ。キャブレターのピストンをインバーターのセンサーと連動させるため、いままでどおりのアクセル操作で加減速が可能。2次駆動にもベースのエンジン車と同じチェーンを使用する。動力ユニットとバッテリーユニットの交換に要する時間は3時間ほど。動力ユニットのマウントをアレンジすれば、さまざまなバイクに搭載できるという。
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20/30これがSECOND RIDEの動力ユニット。上部の筒状のパーツが、キャブレターのピストンを挿入するセンサーユニットの入り口。奥にボンヤリと見えるのは、SIMSONの2ストロークエンジンだ。
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21/30「Reload Land」の一大コンテンツが、電動バイクだけでベルリンの街を走る“サイレントライド”だ。約60台が一団となって音もなく街を走り、ライダーがその楽しさを満喫するとともに、電動バイクをよく知らない人々にその存在をアピールした。かつて“エンジン付き”のカスタムバイクの大所帯で、同じようにベルリンの街なかを走ったことがあるが、われわれを見る街の人の表情は、電動バイクで走った今回のほうが圧倒的に穏やかで、驚きに満ちていた。なにより、通りの人の驚きの声が聞こえ、また信号待ちで仲間たちとの会話が楽しめるのも、いままでにない経験だった。
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22/30信号待ちのたびに、仲間同士で会話が弾む。こんな体験も電動バイクならではだ。一度“サイレントライド”の一団に、エンジン付きスクーターに乗った帰宅途中のサラリーマンと思(おぼ)しきオジさんが紛れ込み、「コレ何の集まりなの!?」と話しかけてきた。それまで話し声だけが聞こえていた集団のなかでは、普段気にもしないバイクの排気音に違和感を覚えてしまった。
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23/30POHLBOCK(ポールボック)は、スイスの国境に近い南ドイツの街ブラックフォレストが拠点。かの地でもモトクロス場やトレイル(林道のような場所)でのバイクの騒音が問題となっており、それを解決するために電動オフロードバイクの開発をスタートさせたという。450ccモトクロスバイクのジオメトリーを参考にしたオリジナルフレームに、350ccエンジンと同等のパフォーマンスを発揮するモーターを搭載。チェコのメーカーと共同開発したセンサーユニットやコントロールユニットをセットしている。また自社開発の電動リアブレーキシステムを採用しており、オフロードバイクらしくリアタイヤのスライドや駆動の積極的なコントロールを実現しつつ、同時に回生ブレーキ機能も備えているという。写真のモデルは、競技専用車のモトクロスバイクをベースとしたモタードモデルで、公道仕様車のプロトタイプである。
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24/30オランダ・アムステルダムをベースに活動するBREKR(ブレッカー)。アムステルダムの中心部ではガソリンエンジン車の乗り入れが厳しく制限されていることから、モビリティーにおける電動バイクの役割は非常に大きいという。そこで開発したのが、この「MODEL B」だ。シンプルでコンパクトな車体は、それだけで利用者のハードルが低くなる。自転車にもスクーターにも似た、新しさも懐かしさもあるデザインも魅力だ。カスタムエキシビションの会場には、デリバリーバイクをモチーフに積載量を増やしたカスタムモデルも展示。また会場では、MODEL Bと同系統のデザインを採用した電動アシスト自転車「MODEL F」も発表された。
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25/30会場裏にある試乗コース。往復400mほどの直線だが、公道走行できないプロトタイプなども、ここで走らせることができた。
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26/30会場では脱着式バッテリーを用いたバッテリースワップシステムの説明も行われていた。この手のシステムでは台湾のGogoro(ゴゴロ)のそれが有名で、日本でもENEOSグループが展開し、国産4メーカーが後押しするGachaco(ガチャコ)の運用が開始された。小型電動バイク、特に事業者向けのモデルの間では、バッテリースワップシステムの利用が世界的に拡大すると予想されている。
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27/30ドイツ・ミュンヘンを拠点に活動するBLACK TEA MOTORBIKES(ブラックティーモーターバイク)。パテントが切れたことで安く流通している「ホンダCG125」系のフレームに電動ユニットを搭載。エンジン部分に脱着可能な2つのバッテリーをセットし、リアにホイール・イン・モーターを備えている。手ごろな価格とノスタルジックなスタイルで、独自の電動バイクの世界を構築。出力やバッテリー容量が異なる複数の電動パワートレインを用意しており、スタイルのアレンジを含め、全4モデルをラインナップする。
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28/30イベントにはイタリアトップの電動バイクブランド、ENERGICA(エネルジカ)も参加。試乗会は常に“待ち”の状態が続く人気ぶりで、いままでと違うスイッチ操作やモード変更などの説明を聞く参加者の真剣な表情と、帰ってきたときの満面の笑顔が印象的だった。
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29/30インディアンモーターサイクルは、会場内のオフロードエリアに専用コースを開設。子供たちがミニ電動バイク「eFTR MINI」のライディングを楽しんでいた。写真のように、家族の伴走のもとに電動バイクデビューを果たす子供たちも大勢いた。
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30/30土曜日の“サイレントライド”が終わった後は、会場で小さなパーティーも開かれた。初夏のベルリンは22時を過ぎても明るく、参加者はゆっくりと電動バイク談義に花を咲かせた。