ロレンツォ視点の「IAAモビリティー2025」 ―未来と不安、ふたつミュンヘンにあり―
2025.09.18 画像・写真「コカ・コーラはドイツ製です」に見る苦悩
2025年9月8日から14日まで、ドイツ・ミュンヘンで開催された「IAAモビリティー」のフォトギャラリーをお届けする。リアビューのみを掲載した車両のフロントビューは、リポート記事で紹介しているので、そちらもご参照いただきたい。
IAAモビリティーは、メッセと市内会場の2つを拠点として、隔年開催されている。3回目を迎えた今回は37の国・地域から約750社の出展があり、来場者数は2023年をわずかに上回る50万人だった。ただし市内会場の熱気が前回を上回っていることは初日でわかった。雨にたたられたにもかかわらず、主要メーカーの各パビリオンはおおいに賑(にぎ)わっていた。とくに新デザインランゲージを反映した「コンセプトC」を目玉に据えたアウディには、入場待ちの長い列ができていた。いっぽう隣のポルシェは子ども向けにメリーゴーラウンドまで用意。未来の顧客開拓に熱心なのが印象的だった。
前身のフランクフルトIAA時代からの“名物”ともいえる抗議行動もあった。地元ニュースは、メッセ会場前の池に沈むクルマのオブジェを浮かべた環境保護活動家たちのパフォーマンスを伝えた。筆者も市内会場のルートヴィッヒ通りで、類似の活動家によると思われる、数百mにわたる緑色の液体を目撃した。
米国の関税問題がドイツ自動車産業にとって大きな問題であることは、フォルクスワーゲンの記者発表会で「貿易問題」という婉曲(えんきょく)な言い回しで言及されたことでもわかる。それを聞いた翌日、鉄道駅のホームに掲示されていた清涼飲料水の広告が目に留まった。ひとりの女性従業員の写真とともに「ハイケ(筆者注:女性の名前)がつくりました。コカ・コーラ。Made in Germany」 と記されている。関税問題がドイツからの輸出品に影を落とすなか、米国を代表するブランドであるコカ・コーラは冷ややかな視線を浴びやすい。「アメリカ憎けりゃコーラも悪い」というわけである。たとえベルリン郊外の工場製であってもアメリカのブランドと見なされ、攻撃の矛先を向けられるテスラと同じだ。そうした批判をかわすべく、国内工場製であることをアピールしているのは明らかだ。ドイツの困惑はさまざまな場所に広がっている。
(文と写真=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/編集=堀田剛資)
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1/32「AMG GT XXコンセプト」。最高出力1000kW超、最高速度360km/hを誇るハイパーBEV(電気自動車)。
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2/32こちらはメルセデス・ベンツの市内会場に展示された、別の「AMG GT XXコンセプト」。2025年8月、イタリア・ナルドサーキットで7日と13時間24分7秒、4万0075kmを走破し、25の世界記録を樹立した。汚れたままの状態で、過酷な挑戦であったことを誇示していた。
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3/32前回同様、メルセデス・ベンツの市内会場は宮廷の中庭(レジデンツへーフェ)に設営された。
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4/32メルセデス・ベンツの市内パビリオン。吹き抜けから1階を望む。
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5/32BEVとして登場した新型「メルセデス・ベンツGLC」。メーカーの新プラットフォーム「MB.EA」を採用している。一般会場初日における注目度は抜群であった。
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6/32「メルセデス・ベンツGLC」。欧州メディアによれば、ライバルは「BMW iX3」 「アウディQ6 e-tron」「テスラ・モデルY」などだ。
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7/32メルセデス・ベンツの新型「CLAシューティングブレーク」。今回はBEVとしての発表だが、ハイブリッド車にも対応できるモジュラーアーキテクチャーを採用している。
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8/32BMWは新型「iX3」のダッシュボード「パノラミックiDrive」の巨大ディスプレイ(米ラスベガスの「CES」で公開済み)を持ち込んだ。同社のUX/DX開発リーダー、ミヒャエル・ハルラー氏が解説中。
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9/32BMWモトラッドの「ビジョンCEコンセプト」(手前)。2000年代初頭に発売した「C1」のコンセプトを継承。ライダーを金属製のフレームで囲むことで、ヘルメットなどの乗員保護装備を不要とすることを目指した電気モーターサイクルで、バランシング機能も搭載している。
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10/32市内ヴィッテルスバッハ広場のポルシェのパビリオン。今回は巨大エンブレムで衆目を引いていた。
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11/32「ポルシェ911ターボS」。2024年発表の「GTS」に1基搭載された電動ターボチャージャー「eTurbo」を2基備えている。
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12/32読者諸氏は信じられないかもしれないが、これはポルシェのパビリオンである。未来の顧客開拓は、従来のブランドイメージからは想像できないほど積極的だ。
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13/32フォルクスワーゲンはBEVの「ID.」シリーズにも従来モデルの名称を使用することを決定。ディスプレイに映し出されている2026年発売予定の「ID. ポロ」は、その第1弾となる。
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14/32「アウディ・コンセプトC」。車体中央にバッテリーを搭載した後輪駆動車で、リトラクタブルハードトップをもつ。ブランドの新しいデザイン哲学「ラディカル・シンプリシティー(過激な簡素さ)」を体現している。
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15/32「アウディ・コンセプトC」のダッシュボード。ステアリングは真円。物理スイッチをあえて積極的に残している。
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16/32フォルクスワーゲン・グループで最も若いブランド、クプラの市内パビリオンで。「ティンダヤ」は、4つのバケットシートを備えた電動4WDのコンセプトカー。Tindayaとはカナリア諸島にある火山の名前である。
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17/32「オペル・コルサGSEビジョン グランツーリスモ」。その名のとおり、「プレイステーション7」のゲームにも登場予定だ。
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18/32吉利とボルボによるラグジュアリーBEVブランド、ポールスターの市内パビリオン。入場待ちの列ができていた。
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19/32今回のIAAで世界初公開された「ポールスター5」は、ブランドにおける旗艦モデル。
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20/32「ポールスター5」はデュアルモーターのAWDである。
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21/32「ヒョンデ・コンセプトスリー」。2026年発売のサブコンパクトBEV「アイオニック3」の予告である。
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22/32ステランティスが出資する中国のBEVメーカー、リープモーター。会場でモックアップが公開された「ラファ5」は、2026年発売予定のコンパクトハッチバックだ。
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23/32メッセ会場内におけるリープモーターのブースで。ワールドプレミア直後の「ラファ5」(欧州では「B05」の名称で販売予定)を、早速スマートフォンで配信するスタッフ。
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24/32中国シャオペンの記者発表で。フラッグシップBEV「P7」の性能を示すスライド。米国のショーでよく見られるライバル車種とのあからさまな性能比較を、欧州に持ち込んでしまっているところに、彼らのたくましさを感じる。
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25/32中国の新興ブランド、リンクツアーによるマイクロモビリティー「アルーミ」。イタリアをはじめ欧州数カ国への進出を狙う。
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26/32中国の大手メーカー、東風系列のサブブランドである風行。欧州の一部地域で既発売のガソリン/LPG併用車「Uツアー」をステージに上げた。女性モデルを見なくなった昨今の欧州ショーで、その風景は“懐かしの自動車ショー”といった感があった。
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27/32主要サプライヤーの多くは、「ソフトウエア・デファインド・ビークル」(ソフトによって進化する車両)への対応を主眼に置いていた。これはZFのもの。ステアリング、ダンパー、ブレーキなどのアクチュエーターを完璧に連携させる。
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28/32デンソーのブースで。同社はEV用走行中給電システムの車載装置開発に携わっている。イタリア北部では、同社製装置を搭載した車両による実証実験が、きわめて短い距離であるが開始されている。
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29/32市内を散策する。タクシーにおける多数派は「メルセデス・ベンツEクラス」、次はトヨタ製ハイブリッド車である。ときおり「レクサスES」も。
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30/32ミュンヘンの最新路線バス。メルセデス・ベンツが2018年に発表した電気バス「eチターロ」である。
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31/32ミュンヘン空港の化粧室洗面台で。見上げれば、リヒャルト・ワーグナーの大パトロンであり“狂王”と呼ばれたバイエルン国王ルートヴィッヒ2世像が。
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32/32ハッカーブリュッケ駅のホームで。右端のコカ・コーラの広告には「Made in Germany」の文字が。