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アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性

2025.09.05 デイリーコラム 鈴木 ケンイチ
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完成車メーカーやメガサプライヤーがサービスを活用

2025年8月、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)が「自動車業界におけるAWSの取り組みに関する記者勉強会」を開催したので、今回はその話をしたい。……のだが、そもそも多くの人にとっては、「AWSってなに?」という話だろう。

おおざっぱに言うと、AWSとは、米アマゾン(皆さんが通販などでお世話になっている、あの企業だ)においてクラウドサービスを提供する部門である。ソフトウエア開発のサポートなどにもクラウドを利用しており、データベースや仮想空間環境の提供だけでなく、近年は生成AIを提供する「Amazon Bedrock」といったサービスも用意。クラウドサービスとしては、世界最大級の規模だという。

自動車業界でいえば、トヨタやホンダといった日本の自動車メーカーだけでなく、BMWやフォルクスワーゲン、ステランティス、ゼネラルモーターズ、フォードといった欧米の自動車メーカー、さらにはデンソーやコンチネンタルといたティア1のサプライヤー、NVIDIAやQualcommといった半導体メーカーなど、非常に幅広い企業がAWSのサービスを利用している。つまり、表には出てきていないけれど、AWSは自動車の開発において欠かせない存在となっているのだ。

そんなAWSのクラウドサービスにおいて、現在、最も熱い視線を集めているのがAIだ。AWSの勉強会では、まずは今日に至るAIの進化が説明された。

AIの進化について説明する、AWSのエンタープライズ技術本部自動車・製造グループ本部長の岡本 京氏。
AIの進化について説明する、AWSのエンタープライズ技術本部自動車・製造グループ本部長の岡本 京氏。拡大
AWSとは、アマゾンが提供するクラウドコンピューティングサービスで、コンピューターを用いた情報の処理や伝達、保管、機械学習、分析……と、さまざまなサービスを利用できる。
AWSとは、アマゾンが提供するクラウドコンピューティングサービスで、コンピューターを用いた情報の処理や伝達、保管、機械学習、分析……と、さまざまなサービスを利用できる。拡大
AWSのサービスを利用する自動車業界の企業。トヨタに日産、ホンダ、スバル、マツダ、ダイハツ、デンソー、パナソニック、アステモ……と、日系のメーカー/サプライヤーも多数名を連ねている。
AWSのサービスを利用する自動車業界の企業。トヨタに日産、ホンダ、スバル、マツダ、ダイハツ、デンソー、パナソニック、アステモ……と、日系のメーカー/サプライヤーも多数名を連ねている。拡大

AIの進化とそれが自動車業界にもたらす変化

AIの歴史をひも解くと、まずは基礎的な自然言語処理技術から始まり、2022年に「Instruct GPT」が登場して、対話形式の生成AI(会話形式入力の続きを生成するAI)が実用的なものとなる。その後、外部のデータを利用した生成が可能となり、タスク完了に至る計画を生成する能力を獲得。今日では計画の策定だけでなく、タスクの完了までも自ら行うAIエージェントが登場している。わずか3年で、外部システム連携と計画策定能力の獲得により、目的を指示するだけでタスクを完遂するまでにAIは進化したのだ。

こうしたAIの革新を受け、AWSでは生成AIイノベーションセンターに1億米ドルの投資をすると宣言。学生や新卒者のAIスキル向上の支援を、世界で年間270万人という規模で実施すると表明した。目標は、「世界で最も有用なAIエージェントを構築するための最適な場所を提供し、信頼性が高く安全なエージェントを大規模に展開できるようにする」ことだ。

では、進化したAIは自動車業界にどのような影響をもたらすのか? 今回の説明会では、経済産業省の「モビリティDX戦略」を引用しつつ、「3つの“利用”がある」と語られた。ひとつは、車両のデザインやエンジニアリングの開発への利用。これは想像しやすいもので、AIの活用により製品の開発効率や開発スピードがアップするというわけだ。次に、車載インフォテインメントの領域における、新たなサービス提供への利用だ。例えばナビゲーションでは、AIエージェントなどを利用してルートの最適化やパーソナライズなどが可能となる……といった具合である。そして最後が、自動運転技術の開発への利用。AIによるシミュレーション環境の構築などを通し、その開発がより迅速に進むようになるのだ。

AIの進化が自動車の開発に及ぼす影響について説明する、AWSの自動車事業本部プリンシパル ソリューションズ アーキテクトの梶本一夫氏。
AIの進化が自動車の開発に及ぼす影響について説明する、AWSの自動車事業本部プリンシパル ソリューションズ アーキテクトの梶本一夫氏。拡大
AIは自動車開発の効率化やスピードアップのみならず、私たちの移動体験にも影響を与えるという。例えばメルセデス・ベンツは、「Sクラス」の2025年モデルで音声アシスタント機能に対話型の生成AIであるChatGPTを統合。より自然なコミュニケーションと広範な機能の操作が可能となったという。
AIは自動車開発の効率化やスピードアップのみならず、私たちの移動体験にも影響を与えるという。例えばメルセデス・ベンツは、「Sクラス」の2025年モデルで音声アシスタント機能に対話型の生成AIであるChatGPTを統合。より自然なコミュニケーションと広範な機能の操作が可能となったという。拡大
フォルクスワーゲンはAWSとの協業により、工場のデジタル化を推進。クラウドを介して、すべての拠点でAIを含む最先端ITシステムを活用できる体制を整える計画だ。すでに43の工場がネットワークにつながっている。
フォルクスワーゲンはAWSとの協業により、工場のデジタル化を推進。クラウドを介して、すべての拠点でAIを含む最先端ITシステムを活用できる体制を整える計画だ。すでに43の工場がネットワークにつながっている。拡大

自動車業界におけるAI活用事例

こうしたAIの活用はすでに多方面で進んでおり、いくつかの実例も紹介された。例えばホンダの電気自動車(EV)用インフォテインメントシステムでは、EV向けに最適化されたルート提案において、走行ルートだけでなく、充電中に楽しめるアクティビティーの提案なども実行。また同社ではコールセンターの応答にもAIを活用しており、ユーザーからの問い合わせに対するより的確な応答と、回答までの時間短縮を実現したという。

車両のシステム開発においても、要件管理やコード生成、そしてその検証など、いわゆる“V字モデル”における開発/テストの各段階でAIの利用が可能に。説明会では、AIを使った仮想ECU上でのメーターデザインの一部変更や、自動運転向けの検証用映像生成などのデモが披露された。

さらに将来的な技術として、AIの自然言語処理モデルとなるLLM(Large Language Models:大規模言語モデル)を、クラウドだけでなくクルマにも搭載し、トンネル内など電波の通じないところでもAIとの会話が途切れないようにするアイデアも紹介された。

実用的なAIが登場してからほんの数年ではあるが、その進化はすさまじく、自動車業界での採用も着実に進んでいる。開発の現場でも、サービスや体験価値提供の領域でも、この先のクルマにAIは欠かせない存在となるのだ。

(文と写真=鈴木ケンイチ/編集=堀田剛資)

質疑応答にて、報道関係者の質問に答える岡本氏(写真右)と梶本氏(同左)。
質疑応答にて、報道関係者の質問に答える岡本氏(写真右)と梶本氏(同左)。拡大
説明会ではAWS Gravision上で、開発中のメータークラスターのデザインを一部変更するデモも行われた。これは「CES 2025」でも披露されたもので、生成AIがソースコードを変更。仮想ECU上で、その結果を確認することもできた。
説明会ではAWS Gravision上で、開発中のメータークラスターのデザインを一部変更するデモも行われた。これは「CES 2025」でも披露されたもので、生成AIがソースコードを変更。仮想ECU上で、その結果を確認することもできた。拡大
鈴木 ケンイチ

鈴木 ケンイチ

1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。

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