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建て替えから一転 ホンダの東京・八重洲への本社移転で旧・青山本社ビル跡地はどうなる?

2025.09.18 デイリーコラム 玉川 ニコ
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移転の理由は四輪部門の採算性悪化?

本田技研工業は2025年8月、2029年中に本社機能を東京・八重洲の高層オフィスフロアへ移転するとともに、「Honda青山ビル」の所有権の一部を三井不動産レジデンシャルへ譲渡すると発表した。そして譲渡後はホンダと三井不動産レジデンシャルが共同でビルの建て替えを行った後、同建物内の一部フロアをホンダが使用し、ブランド価値向上のための新たな活用の場とする考えであるという。

本社やショールームなどの場所や形態を決定するのは、ホンダという企業の専権事項であり、株主でも従業員でもない筆者には何の関係もないことではある。だがひとりの自動車愛好家として、そして青山一丁目のHonda青山ビルおよび「Hondaウエルカムプラザ青山」(同ビル内のホンダショールーム)に対して好感を抱いていたひとりの都民として、この件について少々考えてみたい。

まず、本社機能に関してである。ホンダは2023年9月に、青山一丁目の本社ビル建て替え計画を発表した。「イノベーションを生み出す変革と発信の拠点となる、新たなグローバル本社機能」は、2030年度に青山一丁目の同地での完成を目指していたわけだが、結局、ホンダの本社機能は「2029年に東京・八重洲にできる今どきの高層ビル内に入る計画」へと変更された。

変更の表向きの理由は、ホンダ特有のワイガヤ(「夢」や「仕事のあるべき姿」などについて、年齢や職位にとらわれずワイワイガヤガヤと腹を割って議論するホンダの文化)を推進するうえで、従業員が働くオフィスは「広大なワンフロア」であることが望ましい。だが青山の敷地では「広大なワンフロア」をつくることができない。いっぽう、八重洲の再開発高層ビルであれば、それが可能になる。しかも八重洲はホンダにとって、東京進出を果たしたゆかりのある場所でもある──というようなことになっている。

これに対して「表向きはそうだが、実際は近年のホンダの四輪部門の採算性悪化が、都内における完全自社施設の建て替えを断念させたのでは?」とみる向きもあるようだ。

この見方が正しいのかどうかは、知る人ぞ知るだが、結論としては「どっちでもいい」と考えている。決めるのは、あくまでもホンダだからである。しかし、「いち自動車愛好家」としては、八重洲の今どきな高層ビルへの移転に対して若干の懸念も感じている。

惜しまれつつも2025年3月31日に閉館された「Honda青山ビル」1階の「Hondaウエルカムプラザ青山」。ショールーム機能を兼ねたホンダの情報発信基地として、1985年8月19日にオープンした。
惜しまれつつも2025年3月31日に閉館された「Honda青山ビル」1階の「Hondaウエルカムプラザ青山」。ショールーム機能を兼ねたホンダの情報発信基地として、1985年8月19日にオープンした。拡大
1985年に竣工(しゅんこう)した「Honda青山ビル」。2023年9月、老朽化を理由にビルの建て替えが発表された。新しい本社ビルは2030年の完成を目指し、同地に建てられる予定だった。
1985年に竣工(しゅんこう)した「Honda青山ビル」。2023年9月、老朽化を理由にビルの建て替えが発表された。新しい本社ビルは2030年の完成を目指し、同地に建てられる予定だった。拡大
2025年2月の「Hondaウエルカムプラザ青山」。ホンダの歴史を彩った初代「NSX」をはじめとする歴史的車両や、ゆかりのあるイベントなどを振り返る展示が行われていた。
2025年2月の「Hondaウエルカムプラザ青山」。ホンダの歴史を彩った初代「NSX」をはじめとする歴史的車両や、ゆかりのあるイベントなどを振り返る展示が行われていた。拡大
2020年1月にリニューアルオープンした当時の「Hondaウエルカムプラザ青山」。フロアには、役職や年齢、性別を超えて気軽にワイワイガヤガヤと話し合うホンダ伝統のコミュニケーション「ワイガヤ」にちなんだ「ワイガヤの木」が置かれた。
2020年1月にリニューアルオープンした当時の「Hondaウエルカムプラザ青山」。フロアには、役職や年齢、性別を超えて気軽にワイワイガヤガヤと話し合うホンダ伝統のコミュニケーション「ワイガヤ」にちなんだ「ワイガヤの木」が置かれた。拡大
2029年に本田技研工業が入居する東京・八重洲の複合ビル。同ビルの建設は「八重洲二丁目中地区第一種市街地再開発事業」の名称で三井不動産が行っている。三井不動産は、ホンダにオフィスフロアの一部権利を譲渡すると発表している。
2029年に本田技研工業が入居する東京・八重洲の複合ビル。同ビルの建設は「八重洲二丁目中地区第一種市街地再開発事業」の名称で三井不動産が行っている。三井不動産は、ホンダにオフィスフロアの一部権利を譲渡すると発表している。拡大
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本社ビルに息づいた本田宗一郎氏の哲学

多くの人がご存じのとおり、旧本社のHonda青山ビルは、なかなか味のあるビルだった。「有名グローバル企業の本社なのに、意外とこぢんまりしている」という表層的な部分も“味”だったが、それ以上に、創業者である本田宗一郎氏の哲学のようなものが随所に表現されていたという点が、あのビルの本質的な味をつくっていたのだろう。

そしてこれまたご承知のとおりHonda青山ビルには、本田宗一郎氏の「安全」や「社会貢献」に関するビジョンが細部において具現されており、「シビックのように20年後に最新であれ!」という思いも確実に反映された、非常に──良い意味で──ユニークなビルだった。

しかしそれが「今どきのおしゃれな汎用(はんよう)型の高層オフィスビル」に変わったとき、果たしてホンダの従業員さんたちは、それまでのような「ユニークなクルマ」をつくれるのだろうか? という一抹の不安はある。

もちろんこれは部外者による大きなお世話であり、クルマは、ビルやオフィスがつくるものではない。だが「どうかホンダ本社で働くみなさんが2029年以降、八重洲の汎用おしゃれ高層ビルの空気にのまれて“大企業病”を発症しませんように……」と深く祈っているのが、ここ数週間ほどの、いち自動車愛好家としての筆者なのだ。

青山一丁目の交差点に向かってつくられた「Honda青山ビル」のメインエントランス。ビルの完成直前に視察した本田宗一郎氏が、エントランスにある2本の柱を見て「円い柱は大銀行のようであり権威的」と激怒したエピソードは有名である。柱はすぐにスリム化した小判型に変更された。
青山一丁目の交差点に向かってつくられた「Honda青山ビル」のメインエントランス。ビルの完成直前に視察した本田宗一郎氏が、エントランスにある2本の柱を見て「円い柱は大銀行のようであり権威的」と激怒したエピソードは有名である。柱はすぐにスリム化した小判型に変更された。拡大
「Honda青山ビル」の地下3階には、「ヒバの大樽」と呼ばれる貯水量35tの飲料水用タンクが2基設置されていた。タンクは樹齢200年を超える、カナダ産のヒバの木を用いてつくられた。
「Honda青山ビル」の地下3階には、「ヒバの大樽」と呼ばれる貯水量35tの飲料水用タンクが2基設置されていた。タンクは樹齢200年を超える、カナダ産のヒバの木を用いてつくられた。拡大
「Hondaウエルカムプラザ青山」のリニューアルに合わせてオープンした「MILES Honda Cafe(マイルズ ホンダ カフェ)」。世界各国のF1開催地にちなんだサンドイッチや、「ヒバの大樽」にためた「宗一郎の水」でいれられたオリジナルコーヒーなどのメニューが並んだ。
「Hondaウエルカムプラザ青山」のリニューアルに合わせてオープンした「MILES Honda Cafe(マイルズ ホンダ カフェ)」。世界各国のF1開催地にちなんだサンドイッチや、「ヒバの大樽」にためた「宗一郎の水」でいれられたオリジナルコーヒーなどのメニューが並んだ。拡大

新施設にもあの雰囲気は維持されるのか

そして「で、ウエルカムプラザ青山はどうなるの?」という心配もある。

Honda青山ビルは2025年春に解体工事がスタート。2030年度には、ホンダと三井不動産レジデンシャルが共同でつくる新たなビルディングが竣工する。そして冒頭付近で記したとおり「同建物内の一部フロアをホンダが使用し、ブランド価値向上のための新たな活用の場とする」ということになる。この「ブランド価値向上のための新たな活用の場」が、名称は別として、新たなウエルカムプラザ青山になるのだろう。

しかし旧Honda青山ビルが地上17階、高さ72.12mであったのに対し、「Honda青山ビル建て替え計画」の規模は地上25階、高さ約150m。つまり旧来の「大企業らしからぬこぢんまりしたビル」の2倍以上の高さを持つ、堂々たる中高層建築になるわけだ。もっともこの数字は当初計画に基づくものであるため、今後変更される可能性はある。当初計画では新ビルディングの用途は「事務所、ショールーム、集会所」となっていたが、所有権の一部を三井不動産ではなく「三井不動産レジデンシャル」へ譲渡するとなると、でき上がるのはオフィスビルではなく、いわゆるマンションになるのかもしれない。

しかもホンダはその建物内の一部フロアのみを使用する予定であるため、これまでの雰囲気──つまり、災害発生時に大勢の人々が通ることなども計算に入れた余裕ある建ぺい率や、やわらかな曲線を用いた完全自社ビルディングならではの“全体”でつくり上げていた“ホンダイズム”とも称されるあの独特な雰囲気が維持されるとは、なかなかイメージできないのだ。

しかしホンダはきっと、単なるショールームや情報発信基地には終わらない「ウエルカムな何か」を青山の地につくり上げるのだろう(と期待している)。そこは基本的には心配していないのだが、あまりにも画一的な建物や施設ばかりが絶賛増殖中である東京都内に住んでいると、どうしても一抹の不安を感じてしまうのである。

とにかく「ホンダさん、妙な大企業病にだけはかからないでくださいね!」というのが、筆者が今願っていることのすべてである。

(文=玉川ニコ/写真=本田技研工業、webCG/編集=櫻井健一)

「Honda青山ビル」は鉄筋コンクリートづくりの地上17階建て、地下3階の規模であった。オフィス用ビルとしては珍しいバルコニーのある外観は本田宗一郎氏のこだわりで、災害時に窓ガラスが地上まで落下しないようにとの配慮から設置されたという。
「Honda青山ビル」は鉄筋コンクリートづくりの地上17階建て、地下3階の規模であった。オフィス用ビルとしては珍しいバルコニーのある外観は本田宗一郎氏のこだわりで、災害時に窓ガラスが地上まで落下しないようにとの配慮から設置されたという。拡大
「Honda青山ビル」の2階に配置された商談ロビー。1階の「Hondaウエルカムプラザ青山」からここに至るまでの階段は、初代の自社ビル「八重洲ビル」に設置されていた階段をオマージュしたデザインになっていた。
「Honda青山ビル」の2階に配置された商談ロビー。1階の「Hondaウエルカムプラザ青山」からここに至るまでの階段は、初代の自社ビル「八重洲ビル」に設置されていた階段をオマージュしたデザインになっていた。拡大
「Honda青山ビル」の10階にある役員室は、一般的な企業にみられるような個室ではなく「役員室」という大部屋で運用されている。役員同士はもちろんのこと、ときには従業員も交えて議論する共用テーブルが用意されているのはいかにもホンダらしい。
「Honda青山ビル」の10階にある役員室は、一般的な企業にみられるような個室ではなく「役員室」という大部屋で運用されている。役員同士はもちろんのこと、ときには従業員も交えて議論する共用テーブルが用意されているのはいかにもホンダらしい。拡大
ホンダの国内販売を支えている軽自動車「N-BOX」シリーズ。2025年上半期(1月~6月)における販売台数は10万3435台となり、登録車を含む新車販売台数において第1位を獲得した。こうしたヒットモデルには、創立時から綿々と受け継がれてきた“ホンダイズム”が息づいている。
ホンダの国内販売を支えている軽自動車「N-BOX」シリーズ。2025年上半期(1月~6月)における販売台数は10万3435台となり、登録車を含む新車販売台数において第1位を獲得した。こうしたヒットモデルには、創立時から綿々と受け継がれてきた“ホンダイズム”が息づいている。拡大
「Hondaウエルカムプラザ青山」では、モビリティリゾートもてぎ内の「Honda Collection Hall」による出張展示もしばしば行われた。写真は1967年の「ホンダN360」。
「Hondaウエルカムプラザ青山」では、モビリティリゾートもてぎ内の「Honda Collection Hall」による出張展示もしばしば行われた。写真は1967年の「ホンダN360」。拡大
玉川 ニコ

玉川 ニコ

自動車ライター。外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、自動車出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。愛車は「スバル・レヴォーグSTI Sport R EX Black Interior Selection」。

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