第6戦モナコGP「6戦目に6人目の勝者」【F1 2012 続報】
2012.05.28 自動車ニュース【F1 2012 続報】第6戦モナコGP「6戦目に6人目の勝者」
2012年5月27日、モンテカルロ市街地コースで行われたF1世界選手権第6戦モナコGP。70回目を迎えた伝統の一戦では、いつ崩れるかわからない空模様をにらみながらの、タイヤをめぐる駆け引きと我慢くらべが繰り広げられた。
■70回目、伝統の一戦
伝統とは、今日的な尺度でははかりきれないある種の“特権”を有しているもの。立すいの余地もないほど幾十もの建物が立つ極小の国で、2台が並走するのもままならない細い市街地コースが上下左右にうねる。そこには現代のサーキットには必須とされる、不測の際にマシンが逃げこむランオフエリアはほとんど用意されていない。
4km超のサーキットがほとんどのなかで3.34kmの全長は異例の短さ。例外的に総距離300kmに満たないレースでもある。レーススケジュールは1日早く木曜日に始まり、金曜日は一切の走行が行われないのも特別だ。表彰式はおなじみのお立ち台ではなく、モナコ公国のロイヤルファミリーが待つコース脇のボックスで執り行われる。そしてここで勝利を重ねたドライバーは「マイスター」と呼ばれ、名勝負は後世まで語り継がれることになる。
すべてはモナコのなせる業。1929年にモナコ自動車クラブ が中心となって始まったモナコGPは、今年で節目の70回目を迎えた。83年の長い歴史の中で、マシンのパフォーマンスは飛躍的に高まったが、基本的なコースレイアウトはほとんど変わっていない。そのアンバランスさも、モナコをGPのなかで特別たらしめるゆえんである。
その特別なコースで勝つためには、何よりも予選順位が重要だ。最近の記録を見れば、過去8年間でポールシッターが7勝。1986年以来、1回の例外を除いて、予選3位までに入ったドライバーが表彰台の頂点にのぼり続けている(1996年のみ、オリビエ・パニスが14位から優勝している)。
これまでの5戦で5人のドライバー、5つのチームがウィナーとなる乱戦模様の2012年。ここモナコで6人目の勝者が誕生すれば、史上初の出来事となる。混戦の最大の要因とされる、扱いが難しいピレリタイヤは、今回ソフトとスーパーソフトの2種類が用意された。後者は今季初めて実戦投入されるタイヤで、果たしてレースでどのような働きをするかは誰にとっても未知数。記録が生まれるかもしれないスリリングな週末は、予選での大ベテランの活躍でがぜん熱を帯びた。
■現役マイスター、最速タイムながら惜しくも好機を逃す
モナコで最多6勝をマークするアイルトン・セナに次ぐのが、5勝しているミハエル・シューマッハーである。43歳になった現役モナコ・マイスターが、勝負のカギを握る予選Q3でライバルに0.08秒差をつけ、最速タイムをたたき出した。モナコで自身4回目、通算69回目の、2010年のカムバック後初となるポールポジションは、しかし実現しなかった。
前戦スペインGP決勝でブルーノ・セナに追突したシューマッハーには、そのペナルティーとして5グリッド降格が既に決まっていた。それでも、6番グリッドからスタートするメルセデスのドライバーは「ゾクゾクしたね」と会心のタイムに満面の笑みを浮かべ、「予選6位から優勝をねらっているよ」と自信をのぞかせた。
代わりにポールポジションを獲得したのが、レッドブルのマーク・ウェバー。2010年にポール・トゥ・ウィン、2005年にはウィリアムズで自身初表彰台となる3位フィニッシュを記録した得意なモンテカルロで絶好の位置につけた。シューマッハーの降格で、好調メルセデスのもう1人、ニコ・ロズベルグが2番グリッドにつけた。今季未勝利のルイス・ハミルトンが3番グリッドを得る一方で、開幕戦を制したジェンソン・バトンはペースがつかめずQ2どまりの12番グリッド。マクラーレンの2台は明暗が分かれた。
“6人目の勝者”の有力候補と目されたロータスの2人は、ロメ・グロジャンが4番手、キミ・ライコネンは8番手からレースに臨んだ。そして忘れてはならないのが、フェルナンド・アロンソ5番手の真後ろ7番手に、今シーズンまったくいいところのなかったフェラーリのもう1人、フェリッペ・マッサがつけたことだ。5戦して1勝、ポイントリーダーとなったチームメイトのはるか後方、2得点どまりだったマッサが息を吹き返し、アロンソとのタイム差も0.1秒と肉薄した。
■ドライバーの我慢くらべ
決勝日はドライでスタートしても、途中で雨が降るだろう――レースは各チームが空を仰ぎながらさまざまな予測を立て、折々に作戦を考えなければならない展開となった。
ポールシッターのウェバー、ロズベルグらが続々と狭い1コーナーを抜けたのだが、出だしが鈍かったロータスのグロジャンがスピンしたことでシューマッハーと接触、11番グリッドからスタートした小林可夢偉のザウバーはロータスのタイヤに乗り上げてしまった。シューマッハーは走行を続けたが、レース終盤、7位で周回中に燃料プレッシャーに問題が起きリタイア。小林は早々にサスペンションにダメージを負い戦列を去った。
2周目からセーフティーカーが導入され、4周目にリスタート。トップのウェバーは2位ロズベルグ、3位ハミルトン、4位アロンソ、5位マッサ、6位ベッテルらを従えて走行した。ウェバーのリードタイムは1秒から2秒で安定し、モナコゆえ順位の変動もあまりない中、各陣営は雨の到達予測タイミングを無線でドライバーに伝え始めた。
そうなると難しいのはタイヤ交換のタイミングだ。周回を重ねるにつれピレリタイヤはパフォーマンスを落としていくが、ピットに飛び込んでドライタイヤのままコースに戻り、すぐに雨に降られたら、再びピットに向かわなければならずポジションも大きく落としかねない。
各ドライバーの我慢くらべが続くなか、2位のロズベルグが78周レースの28周目で賭けに出てタイヤ交換。ウェバーを抜かんとアンダーカットを狙ったが、30周目にウェバーがピットストップを終えると、レッドブルがメルセデスの前を走る構図は変わらなかった。
■今季初の“2勝目”
この時点で、多くのドライバーが最初にして最後のピットストップを敢行するが、なかなかタイヤを変えなかったのがベッテルである。
(硬めの方である)ソフトタイヤを装着してスタートした数少ないドライバーのひとりだったベッテルは、46周目までノンストップでトップを走ったが、2位ウェバーとの間に十分なギャップが築けずじまい。唯一のピットストップでスーパーソフトに変えると、1位の座は明け渡したもののハミルトンを抜くことには成功し4位でコースに戻った。
全車タイヤ交換を済ませると、1位ウェバー、2位ロズベルグ、3位アロンソ、4位ベッテル、5位ハミルトン、6位マッサというオーダー。膠着(こうちゃく)状態のままレースは終盤を迎え、そして残り10周を切った時点で、ようやく雨らしい雨がコースの一部の路面を弱めに叩き始めた。すると各車の間隔は一気に縮まり、6台は数珠つなぎとなってゴールを目指した。結局上位はこの順位のままゴールするのだが、この6人が、微妙にぬれ、タイヤカスでひどく汚れたコースで1度のミスもせずに接近戦をやってのけたのはさすがである。
そしてウェバーは、6戦6人目のウィナーとなり、レッドブルは今季初めて2勝したチームとなった。
■いかに安定してポイントを稼ぐか
コース上でも接戦なら、チャンピオンシップも僅差の覇権争いが繰り広げられている。今季3度目の表彰台となる3位に入ったアロンソはランキングで単独トップに躍り出たものの、わずか3点後方にはベッテル、ウェバーの2人が虎視眈々(たんたん)と首位の座を狙っており、トップ5人のポイント差は1勝分(25点)に満たない17点しかない。
これだけ勝者が変わるとなると、重要なのは常に安定してポイントを稼ぐことだ。開幕戦で優勝したマクラーレンのジェンソン・バトンは、その後原因が不明確なスランプに陥り、モナコでも無得点。いまではアロンソの31点ビハインドとなる7位と低迷している。
次戦は大西洋を渡ってのカナダGP。ファイナルラップでバトンがベッテルを抜き優勝、大逆転劇にわいた昨年のような“思わぬ展開”が、今年も見られるのか? 決勝は6月10日に行われる。
(文=bg)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |