第483回:“あの色”のモデルがナゼ売れる?
イタリアで人気の「パンダ」にまつわるトリビア
2017.01.06
マッキナ あらモーダ!
街のパンダはベージュばかり
最近イタリアの路上を運転していて気付いたことがある。現行型である3代目「フィアット・パンダ」のボディーカラーについてだ。
ややグレーがかったベージュが、やたらと多いのである。
路上のクルマだけではない。かつて「アルファ・ロメオ・アルファスッド」のために建設された南部ポミリアーノ・ダルコ工場から陸送車に載せられてきた、できたてホヤホヤのパンダも、このベージュが多い。場合によっては荷台に積載されたすべてのパンダが、ベージュ色だったりする。
これは何かある。そう思ったボクは、早速フィアットのお膝元トリノの、あるディーラーに聞いてみた。
そのボディーカラー、正式名称は、コーヒーの色にちなんで「ベージュ・カプチーノ」という。選ばれる理由は単純だった。
「ベージュ・カプチーノは、追加料金が要らないカラーだから」
たしかにイタリア本国仕様の価格表をみると、ベージュ・カプチーノは「アランチョ・シチリア」と名付けられたオレンジ色とともに、追加料金ゼロである。ちなみに、メタリックカラーは550ユーロ(約6万7000円)、ソリッドカラーの一部は450ユーロ(約5万5000円)の追加料金が必要だ。
「安くてオシャレ」に言うことなし
ディーラーの説明によると、「ビアンコ・ジェラート」と名付けられたホワイトは、数カ月前からソリッドカラーのひとつとして450ユーロの追加料金が必要になったという。
なぜ白よりもベージュのほうが安いのか? 質問に対して、そのディーラーセールスマンは、「あくまで予想だが……」と断りつつも「フィアットは、国内市場における昨今のホワイトの人気を見て、“要追加料金のカラー”に入れたのだろう」と語る。
察するに、メーカーは需要を見込んでホワイトに追加料金を設定したものの、コスト感覚とカラーセンスの双方にたけたイタリア人ユーザーたちの間で「ベージュ・カプチーノもなかなかオシャレじゃないか?」という見解が広まった。路上で見かける頻度が増えれば、われもわれもとオーダーするユーザーが増加する。結果としてベージュ・カプチーノが路上にあふれてしまったに違いない。
前述のように“追加料金ゼロ”にはオレンジもあるものの、ブラック、グレーそしてホワイトといったボディーカラーが主流の今、多くのイタリア人、特にお年寄りにとっては、ちょっと気恥ずかしい。となると、ベージュ・カプチーノ一択となる。
加えて、1950~70年代にかけて生産された「フィアット500」の時代にベージュ・カプチーノに近いカラーが人気だったために、ノスタルジックな雰囲気を愛するイタリア人に受け入れられたと考えられる。
イタリアのパンダは4シーター!?
そのような話を、あるイタリア人のクルマ好き青年にしてみた。彼の見解はこうだ。
「今やパンダでも1万ユーロコース(筆者注:オーディオレスの基本グレード「アッズーリ」は1万1300ユーロ、約138万円)。シティーカーのユーザーは価格に対してシビアだから、色についても、納得がいくものが落としどころになるだろうな」
その彼は、「なにしろパンダは5人乗りも追加料金だからね」と言う。
日本仕様は5人乗りだ。だからボクは思わず、「はあ?」と身をのりだしてしまった。そして、今度は地元シエナのフィアットディーラーでセールスをしている知人にたずねてみた。
例のクルマ好き青年の言うことは正しかった。イタリア市場におけるパンダは、4人乗りが標準だという。
「5人乗りは、後席の追加シートベルトと車両登録で、250ユーロ(約3万円)のオプションだよ」
「それならばディーラーでは標準の4人乗りを買い、自分であとから市販のシートベルトを装着して5人乗りに改造すればいいじゃないか」と想像する読者諸兄もいるだろう。実際イタリアでも、そう考えるユーザーは存在する。
モテるにはワケがある
だが、イタリア名物である“お役所仕事”は、陸運事務所も同じ。改造の申請への対応は、各地の窓口によってまちまちになってしまうだろう。手続きに要する膨大な時間的ロスも考えれば、フィアットが定めた250ユーロでは済まない。
実際イタリアで販売されたパンダで、5人乗り仕様にしたユーザーがどのくらいの割合でいたか、データは示されていない。しかし今日、1人1台所有で、しかも大きなサイズのクルマを同時所有する家庭が多いイタリアでは、たとえパンダの室内が広くても、5人フル乗車するシチュエーションは極めて少ない。
そうしたなか、シートベルト1人分でも価格を抑えようとするフィアットの姿勢は理解できる。
ついでにいえば、そうしたユーザーフレンドリーなポリシーこそが、紅白歌合戦連続出場の石川さゆりのごとく、フィアット・パンダをイタリアで新車登録台数トップの座に毎月つかせる理由になっているのだ。
参考までにいうと、2016年11月のパンダ国内登録台数は1万2939台。2位「ランチア・イプシロン」(4379台)の、なんと約3倍であった。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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