第947回:秒殺で当確? 新型「ルノー・クリオ」が販売店にやってきた!
2026.02.05 マッキナ あらモーダ!3種のエンジン、3種の仕様
2025年9月のミュンヘン「IAAモビリティー」で発表された、6代目「ルノー・クリオ(日本名ルーテシア)」が、筆者が住むシエナの販売店に展示されたというので見に行ってみた。
クリオは欧州では人気モデルである。2025年の欧州新車登録台数は22万9778台で、24万3676台を売り上げた姉妹ブランド、ダチアの「サンデロ」に次ぐ、2位に輝いている(データ出典:Autonews/Dataforce)。フランスでは5代目クリオが2025年に3年連続登録台数1位となった(データ出典:CCFA)。
それを象徴するように、と記してよいかためらうところだが、フランスでは転売を目的としたクリオの部品盗難が多発している。現地メディアによると、テールゲートのリアビューカメラはおろか、室内ディスプレイや後部座席まで盗まれてしまったユーザーも報告されている。
新型クリオは目下のところ、
- 1.2リッター3気筒(115PS)+5段MT 1万8900ユーロ(約346万円、以下いずれも付加価値税込み)
- 1.8リッター4気筒(160PS)フルハイブリッド+AT 2万4900ユーロ(約455万円)
の2ラインナップである。
追って、1.2リッター3気筒(120PS)ガソリン/LPG併用+ATの仕様も、2026年中に発売される。
グレードは下から「エボリューション」「テクノ」「エスプリ アルピーヌ」の3種が用意されている。ショールームに展示されていたのは、看板車種であるフルハイブリッドのテクノであった。
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後ろ姿が自慢です
2025年のIAAモビリティーで初対面したときの第一印象は、「モデルチェンジして、ずいぶん立派になってしまったな」だった。実際、前ルノーCEOのルカ・デメオ氏は在職時、「史上最もセクシーなクリオをつくれ」と指示していたという。
しかし、普段通い慣れたショールームで再会すると、より現実的なデザインに感じられた。理由のひとつは、おそらくショー会場の照明や造作物が、より劇的な印象を筆者に与えていたのだろう。もうひとつは造形だ。側面から見ると一見とりとめのないキャラクターラインやショルダーラインだが、その多くが前後に回り込んでも破綻していない。ひとつの塊(マス)として見える安心感があるのだ。
ましてやイタリア人ユーザーは「ロッソ・アッソルート」と名づけられた赤メタリックよりも白やグレーを好むだろう。実際、ショールームの片隅でナンバープレートを付けられて納車を待っていた個体も、白と、追加料金が不要な緑であった。こうした色では、攻撃的な印象はさらに抑制される。
面白いのは、ディーラー内見会の招待状に印刷された写真が、新型車にもかかわらず後ろ姿を強調したものだった点だ。筆者が覚えているかぎり、広告写真で後部を前面に打ち出したものは、いずれも初代の「日産チェリー クーペ」「ホンダ・バラードCR-X」程度と数少ない。
従来的フランス車らしさや、乗り手の個性を反映できるクルマを求める日本の愛好家が、新型クリオに困惑する顔は今から想像できる。筆者も前述のミュンヘンで初対面したとき狼狽(ろうばい)した。しかし主要市場である欧州や周辺一帯で、クリオのような普及車種にフランスらしさを求めるユーザーは稀有である。そもそも「ルノーがフランスのブランドだから買う」という顧客もきわめて少ない。それよりも―オペル、フォード、フィアットなどと同様に―聞き慣れたメーカーの、クールなルックスのモデルが、予算内で買えることのほうが重要なのである。そうした意味で、今回のクリオのデザインは、さまざまな市場の要望に十分に応えられるものと察する。
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圧倒的有利の理由
販売店の経営者で、みずからも新型クリオ フルハイブリッドの日常使いを始めているルイージ・カザーリ氏は語る。「私のように通勤が主用途だと、ほぼ電動走行(EVモード)で済む」。実際、メーカーも都市部および郊外での用途なら約80%はEVモードで移動をまかなえるとうたう。彼の視点からすれば「バッテリー電気自動車(BEV)と同じ走行感覚を得ながら、充電時間が節約できるのはきわめて実用的だ」とのこと。加えて、1000km(WLTPモード)という満タンからの最大航続距離も魅力と話してくれた。
フルハイブリッドといえばトヨタという選択肢もある。しかし、長年欧州各国で親しまれてきたルノーの、それも最多販売車種であるクリオにフルハイブリッドの設定があるのは大きい。同様のクラスにフルハイブリッドをもたないステランティスに対して、圧倒的に有利である。新型クリオの販売は選挙報道でいえば「秒殺で当確」になる確率が高い。実際にカザーリ氏によると、早くも予約は好調という。
さらに、前述のようにLPG/ガソリン併用車という援軍も加わる。『オートモーティブ・ニュース』欧州版が2026年1月22日に伝えたところによると、2025年の欧州での販売において、LPG/ガソリン併用車は前年比で10%増を記録したという。BEVの比重を高めるいっぽうで、既存のLPG/ガソリン仕様をことごとく引っ込めてしまったステランティスの戦略は、裏目に出たと言わざるを得ない。「イプシロン」の全面改良に際し、BEVとマイルドハイブリッドで挑んだランチアが、2025年の欧州新規登録台数で前年比64%減の1万1747台にとどまったことをみれば、それは明白だ。
「あの大顧客」に応えられるか
しかし、新型クリオに死角がないとはいえない。それはフリート需要だ。法人の営業車やレンタカー需要に応えてきたのも、欧州におけるクリオの特徴なのだ。リース会社から長期レンタル契約で借りた白のクリオが、オフィス前にずらりと並んでいるのは、よくある光景だ。また筆者は、欧州はもとより地中海の向こうのチュニジアでもクリオのレンタカーに当たったことがある。ルノーも新型投入にあたり、「個人およびビジネス顧客のニーズに応える、効率的で高性能なエンジンを搭載しています」と資料に記している。
車両寸法も拡大され価格も上昇したクリオが、引き続きこうした市場の要望に応えられるのか。それとも、お客にはダチアに移ってもらうのか、興味深いところだ。
ただし別の見方をすれば、そうしたプロ需要があったからこそ、クリオは大きな拒否反応を呼び起こさないデザイン、開発コスト管理、そしてユーザーの維持管理のしやすさが常に命題であったといえる。デザインを含めた開発チームの高度なスキルを感じるのである。
(文=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、ルノー、Luigi Casagli/編集=堀田剛資)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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