カワサキW800ストリート(MR/5MT)
回春ネオクラシック 2019.11.05 試乗記 一度はカタログから消えた「カワサキW800」が、大がかりな仕様変更を受けてカムバック。カスタムバイクを思わせるクールな「ストリート」モデルは、その乗り味も若々しさにあふれていた。寝耳に水の商品展開
カワサキの「W800ストリート」は、2019年3月に販売が始まったネオクラシックモデルだ。2016年までW800の名でラインナップされていたが、厳しさを増す排ガス規制を前にして一度ラインナップから消滅。しばらくの空白期間の後、事実上のフルモデルチェンジを受けて復活したのである。
今回の記事を書くにあたり、用意されたマットブラックの車両に乗ったのは2019年10月初旬のことだ。その印象は良好なもので、動力性能になんら不満はなく、質感やライディングポジションに関して要望がいくつかあった程度。それらも個人的な好みの範囲におさまるものだった。
そのままツラツラと書き連ねていけば、ごく素直な、そしてポジティブな原稿になったに違いない。空冷2気筒という形式を残してくれたこと自体、大いに称賛されるべき姿勢だからだ。
ところが、これはまったくの偶然なのだが、W800ストリートの原稿締め切りの数日前に、東京モーターショー2019のプレスデーが開催された。そこでカワサキは3台のニューモデルを世界初公開。そのうちの1台に新型W800があった。つまり、“ストリート”の名を持たない別バージョンである。
いや、今にして思えば浅はかだった。3月の時点で、なぜ車名にわざわざストリートと付け加えたのか。そこに疑問を持つべきであった。その語感には若々しさがあり、ブラックアウトされたエンジンや燃料タンク、フェンダーはそれに見合うもの。なるほど、ユーザー層の拡大を図っているんだな、くらいの認識だったのである。
その認識は先の試乗時点でも変わらず、「ベベルギアのカバーは黒よりメッキの方が“らしく”ないか? そう思うのは自分がアラフィフだから?」などと思いつつ、原稿を書き始めたところに新型W800である。いやもう、そのタイミングもさることながら、W800ストリートで感じた「ここがもう少しこうだったら」という思いが、すべてかなえられているのだからたまらない。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
走りはしっかりスポーツ寄りに
W800、もしくはW800ストリートに興味があり、これから手に入れようとしている人にとっては悩ましくも楽しい「たまらん」だろうが、W800が控えているとは夢にも思わず、すでにW800ストリートを手に入れてしまった人の何割かにとっては、嘆きとため息交じりの「たまらん……」に違いない。無論、魅力的な新型モデルや派生モデルの登場は世の常ではあるが、2つのモデルの時間差は半年強にすぎず、その心中は察して余りある。
とはいえ、既述の通りW800ストリートの印象はいい。エンジンの排気量、ボア×ストローク、360度のクランク位相角は、旧W800(~2016年)の数値をそのまま踏襲。ただし、その味つけはかなり異なり、最大トルクの発生回転数は2300rpmも引き上げられ(2500rpm→4800rpm)、その過渡特性は明確にスポーティーなものになった。
旧W800が下から上までスムーズに吹け上がるフラットな特性だったのに対し、W800ストリートは4000rpm付近を境にキャラクターが変わる。低回転域では鼓動というより強めのバイブレーションで存在感をアピールする一方、回転域が高まるとそれを相殺するように軽々とタコメーターの針が上昇。「ギューン」という独特なメカニカルノイズを伴い、表情の変化を楽しむことができる。
ハンドリングもやはりスポーティーだ。旧W800はフロントに19インチホイールを装着していたが、W800ストリートは18インチに小径化。キャスター角(27度→26度)とトレール量(108mm→94mm)もマイナス方向に振られ、車体をリーンさせる時の手応えはより軽快になった。コーナリングスピードとそれに伴うバンク角もワンランク上がり、つまり、いろいろと若々しい。
と言いつつ、不思議だったのはライディングポジションだ。とりわけハンドルは高く、広くなり、しかも大きくプルバックされている。ここだけアラフィフ対応なのかと思ったが、これはこれでカスタマイズされた雰囲気があり、身近なヤング層に聞いてみたところ、どうやらイケてるっぽい。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
買いたい人にはうれしい悩み
なるほど、その色といい、ハンドリングといい、ポジションといい、車名の通りストリート系であり、最近のカスタムカルチャーが色濃く反映されているようだ。
それが理解できると、間をあけることなくW800が登場したのもうなずける。このカテゴリーには正統なクラシックスタイルを求めるユーザーが多く、W800はそれに応える存在として必要だったのだ。
ブラックアウトせずにメッキを多用したエンジンパーツ、マット塗装ではなく深みのある艶(つや)やかな塗装、適度に前傾したハンドル、そしてなにより、おおらかなハンドリングをもたらす、フロントホイールの再度の19インチ化。これらはまさにその好例で、一定の世代以上は「そうそう、欲しかったのはこれだよ、これ」となるに違いない。
カワサキのモデルラインナップと販売戦略は実に巧みだ。クールでシンプルなW800ストリートか、ネオクラシックの王道をいくW800か。加えて刺激的なポジションを持つ「W800カフェ」という選択肢も用意され、ライダーのニーズを広くカバー。それぞれの車体価格にどうにもならない乖離(かいり)があるわけではないため、このシリーズに興味のあるユーザーはW800の発売(2019年12月1日)を待ちつつ、検討するといいだろう。
(文=伊丹孝裕/写真=三浦孝明、webCG/編集=関 顕也)
拡大 |
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2135×925×1120mm
ホイールベース:1465mm
シート高:770mm
重量:221kg
エンジン:773cc 空冷4ストローク直列2気筒 SOHC 4バルブ
最高出力:52PS(38kW)/6200rpm
最大トルク:62N・m(6.3kgf・m)/4800rpm
トランスミッション:5段MT
燃費:30.0km/リッター(国土交通省届出値)/21.1km/リッター(WMTCモード)
価格:101万2000円

伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。
-
日産リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2026.2.11 フルモデルチェンジで3代目となった日産の電気自動車(BEV)「リーフ」に公道で初試乗。大きく生まれ変わった内外装の仕上がりと、BEV専用プラットフォーム「CMF-EV」や一体型電動パワートレインの採用で刷新された走りを、BEVオーナーの目線を交えて報告する。
-
ホンダN-ONE RS(FF/6MT)【試乗記】 2026.2.10 多くのカーマニアが軽自動車で唯一の“ホットハッチ”と支持する「ホンダN-ONE RS」。デビューから5年目に登場した一部改良モデルでは、いかなる改良・改善がおこなわれたのか。開発陣がこだわったというアップデートメニューと、進化・熟成した走りをリポートする。
-
日産キャラバン グランドプレミアムGX MYROOM(FR/7AT)【試乗記】 2026.2.9 「日産キャラバン」がマイナーチェンジでアダプティブクルーズコントロールを搭載。こうした先進運転支援システムとは無縁だった商用ワンボックスへの採用だけに、これは事件だ。キャンパー仕様の「MYROOM」でその性能をチェックした。
-
無限N-ONE e:/シビック タイプR Gr.B/シビック タイプR Gr.A/プレリュード【試乗記】 2026.2.7 モータースポーツのフィールドで培った技術やノウハウを、カスタマイズパーツに注ぎ込むM-TEC。無限ブランドで知られる同社が手がけた最新のコンプリートカーやカスタマイズカーのステアリングを握り、磨き込まれた刺激的でスポーティーな走りを味わった。
-
インディアン・チーフ ヴィンテージ(6MT)【海外試乗記】 2026.2.6 アメリカの老舗、インディアンの基幹モデル「チーフ」シリーズに、新機種「チーフ ヴィンテージ」が登場。このマシンが、同社のラインナップのなかでも特別な存在とされている理由とは? ミッドセンチュリーの空気を全身で体現した一台に、米ロサンゼルスで触れた。














