BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)
パイオニアの本気 2025.10.13 試乗記 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。250kgの巨体を軽く感じる
大型アドベンチャーモデルは相変わらず人気が高い。各メーカーが魅力的なモデルを投入してきているが、そんななかでもダントツに強い存在感を漂わせているのが、BMWのR1300GSシリーズである。進化したフラットツインエンジンや、テレレバー、パラレバーなどの独自の足まわりに加え、走りだすと自動的にサスペンションが伸びる車高調整システムまで用意。個性と最新技術の塊のようなマシンに仕上げられている。
今回の試乗では、そんなR1300GSをオフロードコースで思い切り走らせることができるのだとか。これを聞いて思ったのが「思い切りジャンプして、油圧サスは平気なの?」ということである。でもまあ走ってよいというのであれば、相応の自信があるということなのだろう。
まずはコース周囲のワインディングロードを走ってみることにする。車体にまたがり、いざ引き起こしたときに感じたのは、車体の軽さ。押し引きも簡単だ。現行モデルになって車体も軽くなっていることに加え、停止時にシート高が下がる車高調整システムの恩恵が大きいようだ。
オンロードでのハンドリングは安定感が高い。それでいて動きは軽快。ステアリングに入力してやると、大きな車体がきれいにバンクしていく。重量のあるシリンダーヘッドが低い位置にあるフラットツインの構造(横から見たとき、重心位置の近くに重量物が集中している)と、パワートレインのジャイロ効果がハンドリングに影響しない、縦置きエンジンの効能である。
ユニークな足まわりにパワフルでシャープなエンジン
ステアリングダンパーが強めに利いているようで、超低速でゆっくり走っているときに舵を大きく切ろうとすると、若干抵抗を感じる。低速コーナーでバンクさせたときに車体が自分から倒れ込んでいこうとする傾向が少し感じられるのも、ステアリングダンパーによってフロントタイヤの動きが抑えられているからだ。もっとも、違和感や乗りにくさにつながるものではないし、個人的には好きなフィーリングである。
フロントサスがテレレバーだから減速時のピッチングモーションはほとんどない。だからといってフロントが突っ張っているような感じもしない。ハードな加減速でもサスペンションの動きは自然だ。エンジンは2000rpmくらいでも十分すぎるほど力があるので、ストリートは楽しい。3000rpmくらいからはパワーがグッと盛り上がってきて、4000rpmからはまさに強烈。回転を上げずにワインディングを走っているときでも、スロットルを開けるだけでドカンという感じで加速していく。ストリートでは無敵じゃないかと思うような力強さである。
フライホイールマスが大きいこともあって、ビッグツインながら低回転でも非常になめらかな点も、R1300GSのフラットツインのいいところ。なんて書くと「前にリポートした『R12 G/S』とおんなじじゃん」と言う人がいるかもしれないが、R12 G/Sに比べると、R1300GSのほうが1割くらいパワフルでシャープに回る印象だ。乗り比べると「ずいぶん違うなあ」と思う。もうひとつ感心したのはクイックシフター。非常に緻密に制御されていて、どんな回転数でも気持ちよくシフトしてくれてショックを感じることはほとんどなかった。
オフロードでも乗りやすく、面白い!
オフロードコースではタイヤの空気圧を低く設定。ステアリングダンパーの利きが強めということもあって、コースまでの取り付け道路をゆっくり走っていたときは、「ステアリングの動きが重いかな」とも思った。ところが、コースインしたらこれがフロントの絶大な安定感につながっていて、滑りやすい路面でも不安なく走れる。
トラクションコントロールの制御も賢くて、特にオフロードタイヤでの走行を想定した「エンデューロプロ」モードを選択すると、実に走りやすい。パワーを思いっきりかけてタイヤが滑ったときでも、確実にグリップを回復させてくれる。試乗時の設定ではちょっとトラクションコントロールの介入が早かったけれど、エンデューロプロモードであれば、トラコンだけの設定を変えることも可能だ。
R12 G/Sの場合は、フライホイールマスの大きさによるマッタリ感が乗りやすさにつながっていたが、R1300GSの場合は、どんな回転域でも1.3リッターのビッグツインとは思えないほどシャープに吹け上がる。……と書いてしまうと「小さなコースでは扱い切れないのでは?」と想像されるかもしれないが、扱いやすいエンジン特性と電子制御システムの恩恵によって、使い切れないもどかしさは皆無。夢中になってぶん回していて、あとで「あれ、オレ1300のバイクでオフロードを走っていたんだよな」と思い出すことになったくらいである。
豪快なジャンプもしなやかにいなす
サスペンションのショック吸収性も良好だ。超低速でシートにドッカリまたがって走ったコースへの移動区間では、ギャップを強めに感じたので、初期の動きが固いのかと思った。ところがオフロードを走行すると、非常にいい感じで動いてくれる。ジャンプ台でかなり大きく飛んでみても、着地時に底づきすることもなく、そのショックも小さい。フロントサスからの突き上げがハンドルに伝わらない構造になっている効果は絶大である。
調子に乗ってもっとスピードを上げて大きく飛んでみたら、撮影しているカメラマンたちから歓声が……。さすがに飛びすぎたかと思って空中で少し後悔したが、それでも何事もなく接地。もっと飛べる! でも失敗して大きな車体が振られたりしたら大変だと思って(結局一度も破綻することはなかったが)、次の周からは飛距離を抑え気味にしてみた。やはり、メッチャ安定してジャンプできる。「テレレバーってこんなに飛べるんだ」というのが正直な感想だった。
R12 G/Sに比べると、少しだけ重くて、よりパワフルなR1300GSだが、こちらもまたオフロードコースをぶっ飛ばすのが最高に楽しいマシンだった。
軽くて、シャープで、加速が鋭い
F900GSで走ったのはオフロードコースのみである。またがってみるとR12 G/SやR1300GSに比べてひとまわりコンパクトに感じる。重量はR12 G/Sより10kg弱軽い。微妙な重量差で、引き起こすときはR12 G/Sとあまり変わらないような感じがするのだけれど、実際に走るとこのコンパクトさと軽さが効いてくる。動きが俊敏なのである。
パラレルツインだけれど爆発間隔が同じなので、排気音はフラットツインに似ている。ただしフラットツインほどフライホイールマスは大きくないから、レスポンスはシャープ。これがF900GSの走りに生きている。車体の軽さとこのエンジンレスポンスによって、ジャンプ後やコーナー立ち上がりでの加速が鋭いのである。
トラクションコントロールの介入を少なく設定していたことから(設定はエンデューロプロモード)、リアタイヤの流れ方は大きかったのだけれど、路面状況がいいコースだったので、テールをスライドさせながら豪快な走りを楽しむことができた。
今回の試乗ではR12 G/S、R1300GS、F900GSの3台をオフロードコースで走らせた。印象的だったのは、どの機種でも、一回も不安な挙動を出さずにハイペースで楽しく走れたこと。ビッグオフローダーでここまで気持ちよく、しかも疲れることなくコースを走れるとは思わなかった。BMWのビッグオフに対する本気が、どのマシンからも感じられた。最近、体力不足を痛感しているゴトー。どれか1台買って、週末の体力トレーニングのためにオフロードコースに通いたいと思ったほどである。
どれも魅力的だけれど、個人的にはR12 G/SかR1300GSかな。デカいバイクをオフで走らせるのって、独特の優越感が感じられて楽しいから。
(文=後藤 武/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
BMW R1300GS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2210×1000×1405mm(全高は、スポーツサスペンション装備車:1425mm、アダプティブビークルハイトコントロール装備車:1375mm、いずれもウインドスクリーン:ロー)
ホイールベース:1520mm
シート高:850mm(GSスポーツ:870mm、ツーリング:820mm/850mm)
重量:237kg(DIN空車時)/250kg(日本国内国土交通省届出値、スポーツサスペンション装備:260kg、アダプティブビークルハイトコントロール装備:258kg)
エンジン:1300cc 空/水冷4ストローク水平対向2気筒 DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:145PS(107kW)/7750rpm
最大トルク:149N・m(15.2kgm)/6500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:20.83km/リッター(WMTCモード)
価格:285万円~358万7000円
BMW F900GS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2270×945×1395mm
ホイールベース:1600mm
シート高:870mm
重量:219kg(DIN空車時)/224kg(日本国内国土交通省届出値)
エンジン:894cc 水冷4ストローク直列2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:105PS(77kW)/8500rpm
最大トルク:93N・m(9.5kgf・m)/6750rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:22.72km/リッター(WMTCモード)
価格:204万3000円~210万円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
ホンダ・ヴェゼル【開発者インタビュー】 2025.11.24 「ホンダ・ヴェゼル」に「URBAN SPORT VEZEL(アーバン スポーツ ヴェゼル)」をグランドコンセプトとするスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。これまでのモデルとの違いはどこにあるのか。開発担当者に、RSならではのこだわりや改良のポイントを聞いた。
-
三菱デリカミニTプレミアム DELIMARUパッケージ(4WD/CVT)【試乗記】 2025.11.22 初代モデルの登場からわずか2年半でフルモデルチェンジした「三菱デリカミニ」。見た目はキープコンセプトながら、内外装の質感と快適性の向上、最新の安全装備やさまざまな路面に対応するドライブモードの採用がトピックだ。果たしてその仕上がりやいかに。
-
ポルシェ911カレラGTSカブリオレ(RR/8AT)【試乗記】 2025.11.19 最新の「ポルシェ911」=992.2型から「カレラGTSカブリオレ」をチョイス。話題のハイブリッドパワートレインにオープントップボディーを組み合わせたぜいたくな仕様だ。富士山麓のワインディングロードで乗った印象をリポートする。
-
アウディRS 3スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】 2025.11.18 ニュルブルクリンク北コースで従来モデルのラップタイムを7秒以上縮めた最新の「アウディRS 3スポーツバック」が上陸した。当時、クラス最速をうたったその記録は7分33秒123。郊外のワインディングロードで、高性能ジャーマンホットハッチの実力を確かめた。
-
NEW
第938回:さよなら「フォード・フォーカス」 27年の光と影
2025.11.27マッキナ あらモーダ!「フォード・フォーカス」がついに生産終了! ベーシックカーのお手本ともいえる存在で、欧米のみならず世界中で親しまれたグローバルカーは、なぜ歴史の幕を下ろすこととなったのか。欧州在住の大矢アキオが、自動車を取り巻く潮流の変化を語る。 -
NEW
「スバル・クロストレック」の限定車「ウィルダネスエディション」登場 これっていったいどんなモデル?
2025.11.27デイリーコラムスバルがクロスオーバーSUV「クロストレック」に台数500台の限定車「ウィルダネスエディション」を設定した。しかし、一部からは「本物ではない」との声が。北米で販売される「ウィルダネス」との違いと、同限定車の特徴に迫る。 -
NEW
ジープ・ラングラー アンリミテッド ルビコン(後編)
2025.11.27あの多田哲哉の自動車放談かつて家族のクルマとしてジープを所有したことがある、元トヨタのエンジニア、多田哲哉さん。ジープを取り巻くビジネス環境やディーラーでの対応を含め、同ブランドについて語る。 -
第855回:タフ&ラグジュアリーを体現 「ディフェンダー」が集う“非日常”の週末
2025.11.26エディターから一言「ディフェンダー」のオーナーとファンが集う祭典「DESTINATION DEFENDER」。非日常的なオフロード走行体験や、オーナー同士の絆を深めるアクティビティーなど、ブランドの哲学「タフ&ラグジュアリー」を体現したイベントを報告する。 -
「スバルBRZ STI SportタイプRA」登場 500万円~の価格妥当性を探る
2025.11.26デイリーコラム300台限定で販売される「スバルBRZ STI SportタイプRA」はベースモデルよりも120万円ほど高く、お値段は約500万円にも達する。もちろん数多くのチューニングの対価なわけだが、絶対的にはかなりの高額車へと進化している。果たしてその価格は妥当なのだろうか。 -
「AOG湘南里帰りミーティング2025」の会場より
2025.11.26画像・写真「AOG湘南里帰りミーティング2025」の様子を写真でリポート。「AUTECH」仕様の新型「日産エルグランド」のデザイン公開など、サプライズも用意されていたイベントの様子を、会場を飾ったNISMOやAUTECHのクルマとともに紹介する。





















































