スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)
旅の相棒 2025.10.18 試乗記 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。あなたの旅の相棒
最近、街で軽商用バンや軽トラのカスタマイズカーをよく見かけるようになった。
軽商用バンといえば、少なくとも販売台数的にはスズキ・エブリイと「ダイハツ・ハイゼットカーゴ/アトレー」が双璧だ。もう1台の「ホンダN-VAN」は、少なくとも販売台数では、2台に大きく水をあけられている。そんな2台のうちでも、カスタマイズのベース車人気は、エブリイのほうが高いようだ。それは街で見かける頻度からも実感するし、それぞれを取り上げたカスタマイズ専門誌もあるが、エブリイ本のほうが種類も多く、歴史も長い。
こうした風潮を察知してか、スズキは近年、自社の軽商用車をカスタマイズカー風に仕立てた特別仕様車を手がける。その第1弾は2023年末、軽トラの「スーパーキャリイ」に設定した「Xリミテッド」で、ちょっとマニアックな4種の外板色をベースに、車体サイドの専用デカールのほか、フロントガーニッシュやフォグランプベゼル、ホイール、ドアハンドル、ドアミラーなどをブラックにすることで、カスタム感を醸成していた。そんなXリミテッドは、外板色のバリエーションを増やしつつ、今も健在である。
今回の試乗車は、そのエブリイ版となるJリミテッドで、この夏の2025年8月に発売された。専用サイドデカール+各部のブラック化という手法も、設定される外板色がひとまず4色という点も、スーパーキャリイと同様だ。
ただ、そのXリミテッドより1年半ほど後発となることもあってか、カスタマイズ内容は進化……というか、より凝っている。たとえば、サイドデカールはXリミテッドにはなかった雄大な夕焼け(あるいは朝焼け)となり、ドアには「SUZUKI EVERY FOR YOUR JOURNEY BUDDY」の文字があしらわれる。その文字列をあえて訳すと「あなたの旅の相棒……スズキ・エブリイ」といったところか(笑)。さらに、前後バンパーがブラック塗装されるのも新しい。
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4ナンバー登録のメリットとデメリット
Jリミテッドは主に個人ユースを想定しているはずだが、ベース車両が5ナンバー乗用登録の「エブリイワゴン」ではなく、4ナンバー商用登録のエブリイであることは興味深い。具体的には最上位グレードの「JOINターボ」である。このエブリイより後発の現行ハイゼット/アトレーとN-VANには、すでに乗用登録のワゴンモデルが用意されないことからもわかるように、最近の軽バンは、個人ユースでも、4ナンバーの商用登録モデルが選ばれるケースが多いそうだ。
軽ではない商用車は、車検が1年ごと(初回のみ2年)になるなど、個人使用にはわずらわしいことも多いが、軽商用車は常に2年車検で、初回(乗用車は3年)以外は軽乗用車とちがいはない。標準装着されるトラック/バン用タイヤやホイールも、今は乗用車用に履き替えても問題ない(以前は車検に通らなかった)し、標準では硬いサスペンションもエブリイならカスタマイズパーツが豊富。しかも、毎年の自動車税は商用車のほうが安い。
商用車というと後席がせまくて簡素になりがちだが、今回のJリミテッドを含むJOINターボは、スライド機構が省かれるだけで、調整式ヘッドレストを備えるリアシート自体はおそらくワゴンと同じだ。起こした状態の後席より荷室が広くなければならない……という商用車(正式には貨物車両)の規定はあるものの、身長178cmの筆者がアシは伸ばせずとも普通には座れる。
また、そのリアシート自体も少なくともアトレーやN-VANのそれよりは立派で、小さいながらもセンターアームレストまでつく。しかも、スライドドアのウィンドウが一般的な電動昇降式なのもエブリイだけの特権だ(ダイハツとホンダは手動のチルト開閉のみ)。このあたりは、いまだにワゴンのバリエーションをもっているがゆえの強みだろう。いずれにしても、これならわざわざワゴンを選ぶ理由はないかも……とは思わせてくれる。
心臓部に使われるダイハツ製ユニット
ベースのJOINターボ同様、Jリミテッドも変速機は2ペダルのみで、MTの用意はない。駆動方式は2WDと4WDがあるが、試乗車は2WDだった。
で、エブリイの2ペダル変速機はご承知のとおり、昨2024年の2月に(最安価の「PA」グレード以外は)CVTとなった。そして、これまたカーマニアならご承知のとおり、このCVTと、それに組み合わせられるスタンバイ式4WD機構はハイゼットカーゴ/アトレーと同じダイハツ製。もう少し厳密にいうと、ダイハツが設計・開発して、ダイハツ90.3%出資の子会社である明石機械工業が生産したCVTと4WDのユニットが、スズキに供給される。
永遠の宿敵であるダイハツとスズキが……なんてツッコミも、今は昔。軽用の縦置きCVTを必要とする企業など、おそらく、世界でもダイハツとスズキの2社だけだろう。それを共有するのは“つくって売れる”ダイハツにとっても、“つくらずに買える”スズキにとってもメリットが大きい。まして、スズキとダイハツは今やトヨタを介した資本関係にもある。
この縦置きCVTは床下に置かれるので、一般的な横置きFF用よりもコンパクト化が必須だったというが、そこはダイハツCVTならではの「インプットリダクション式」が大きく貢献した。さらに、最初に減速される独特の構造を生かして、この縦置きCVTでは負荷が大きいリバース走行を、ベルトとプーリーを通さないダイレクト駆動にすることも可能とした。この点も、酷使される商用車用CVTには欠かせない耐久性を担保するキモなんだとか。
そんな画期的技術を満載したダイハツの軽用縦置きCVTとそれ用の4WDシステムは、2023年3月にリコー三愛グループの創始者にちなんだ「市村産業賞」の貢献賞を獲得した。
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ACC要らずのCVT
以前の「アトレーRS」試乗記(参照)でも書かせてもらったとおり、このCVTは目からウロコの技術内容に加えて、そのデキも素晴らしい。まさに逸品と申し上げたいくらいだ。その印象はエブリイでも変わりない。エンジン単体ではダイハツのほうがスムーズな気もするが、当然ながら変速ショックのないシームレスな加減速のおかげで、以前の4段ATより車格そのものが上がった……と錯覚するほどである。
Jリミテッドはターボエンジンなので、絶対的な動力性能にはそもそも不足はないものの、それでもさらにパンチとレスポンスが上乗せされているのは、いうまでもなくCVTのおかげだ。おそらく、エブリイの売れ筋である自然吸気エンジンなら、実質的な動力性能の向上効果はさらに如実だろう。
とくに心地いいのは、80~100km/hの高速域での、足がアクセルペダルに吸いついたかのような加減速マナーだ。エブリイには、今も「ワゴンR」や「ハスラー」に使われる「デュアルカメラブレーキサポート」が標準装備されるが、残念ながらアダプティブクルーズコントロールは省かれる。ただ、このCVTであれば、安定しない交通の流れに、アクセル操作だけで合わせて走るのも、さほど苦ではない。ブレーキ操作も最低限で済む。
まあ、冷静に観察すれば、その乗り心地は、最新の軽スーパーハイトとは比較にならないくらいガタピシである。しかし、スムーズきわまりないパワートレインのおかげで、乗り心地までランクアップしたように感じるのも本当である。
それでも乗り心地や操縦性に不満なしとはいわないし、カッコよくまとまったエクステリアに対して、インテリアやメカニズムがドノーマルなのが味気ないと感じる向きもあろう。ただ、そのあたりは、軽商用バンではカスタマイズパーツがもっとも豊富にそろうのが、エブリイの強みだ。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=スズキ)
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テスト車のデータ
スズキ・エブリイJリミテッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1895mm
ホイールベース:2430mm
車重:950kg
駆動方式:MR
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64PS(47kW)/6000rpm
最大トルク:95N・m(9.7kgf・m)/3000rpm
タイヤ:(前)145/80R12 80/78N LT/(後)145/80R12 80/78N LT(ヨコハマ・ブルーアース バンRY55)
燃費:15.1km/リッター(WLTCモード)
価格:183万5900円/テスト車=198万1870円
オプション装備:バックアイカメラ付きディスプレイオーディオ(5万2800円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン>(2万0130円)/ドライブレコーダー(4万9940円)/ETC車載器(2万3100円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:189km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(5)/山岳路(2)
テスト距離:422.3km
使用燃料:31.0リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:13.6km/リッター(満タン法)/13.9km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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