トライアンフ・スラクストン400(6MT)
本場の本物 2026.08.25 試乗記 カフェレーサーの本場である、イギリスのトライアンフがリリースした「スラクストン400」。車名のとおり、カジュアルに楽しめる400ccクラスのマシンではあるのだが、その実物からは、エントリーモデルとは思えない本物の香りが漂っていた。本場仕込みのカスタムスタイル
バイク乗りであれば、カフェレーサーというジャンルがあることを知っているだろう。
1960年代のイギリスには、リーゼントに革ジャンというファッションでバイクにまたがり、スピードに酔う、ロッカーズと呼ばれる労働階級の若者がいた。彼らは愛車をレーサー風に仕立て、夜な夜なカフェに集まっては速さを競っていた。発祥の地とされるのはロンドンにある「エースカフェ」で、ライダーたちはジュークボックスで曲をかけ、その曲が終わるまでに戻ってくるという公道レースに興じていたという。こうしたムーブメントから生まれたのがカフェレーサーで、クリップオンハンドル、ロングタンク、シングルシート、バックステップなどを特徴としていた。
1970年代あたりからは、メーカー自身がカフェレーサースタイルのモデルを送り出すようになった。ヨーロッパのみならず、あのハーレーダビッドソンも「XLCR」というモデルを販売したほどだ。日本では“ヨンフォア”こと「ホンダCB400FOUR」あたりがルーツだろうか。
僕もこのスタイルにあこがれたひとりで、「モトグッツィ850ルマンIII」を手に入れて楽しんでいた。しかし歳を重ねるにつれて前傾姿勢がつらくなり、泣く泣く降りたのだ。なのでトライアンフ・スラクストン400の試乗の話をいただいたとき、体がついていけるか、一抹の不安があった。その一方で、カフェレーサー発祥の国の最新モデルがどうなっているのかに興味もあった。
マシンに漂う本物の香り
スラクストンとはイギリス南部にあるサーキットの名前で、トライアンフは昔からここでのレースに出場。1960年代には、当時の主力だった並列2気筒エンジンを積むボンネビルのレース仕様に、この名を冠していた。そして21世紀に入ると、市販のカフェレーサーにその名を付与。空冷の865ccや水冷の1197ccがラインナップされた。
ここで紹介するスラクストン400は、「スピード400」や「スクランブラー400X/XC」と同じ、398ccの水冷単気筒エンジンを積む。つまり日本では普通二輪免許で乗れる、初のスラクストンになる。同じエンジンを積むモデルとしては、ほかにダートトラックスタイルの「トラッカー400」もある。
とはいえ、その見た目には“入門版”という雰囲気はない。なんといっても丸目のヘッドランプを収めたビキニカウルが効いているし、タンクはしっかり長く、シートからテールカウルにかけては尻上がりとなるなど、小柄ながら本物の香りに満ちている。
シート高は795mmで、身長170cmの僕の場合、両足の土踏まずより前が着地する程度。車両重量が176kgに抑えられていることもあって、不安はない。ステップがそんなに後ろではないことにもホッとする。気になるハンドルは、確かに低いが遠くはない。ただ、普段は上半身がほぼ直立するバイクに乗っているので、気がつくと腕に力がかかりがちになる。なので、ライディング中はニーグリップをしっかりして、腹筋や背筋で上体を支えるよう心がけるようになった。スポーツバイクに乗るには、体幹を鍛えておく必要もあるのだ。
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峠道も楽しいだろうけれど
ロケットカウルの内側に収まったメーターはほかの400シリーズと共通で、丸いアナログの速度計の右側に、四角い液晶パネルを合体させたような形状。小さいながらタコメーターも表示される。
エンジンは最高出力が42PS/9000rpmと、400ccクラスの単気筒としては高回転高出力型だ。つまりロイヤルエンフィールドの「クラシック350」のような、ドコドコした鼓動を味わうような性格ではない。アイドリングではトコトコぐらいの響きを伝えてくるものの、いざ発進すると2気筒っぽい感触で回転を上げていく。気が付くと低回転で鼓動を味わうより、3000~6000rpmあたりを使ってピックアップのよさを楽しむようになっていた。
ロケットカウルは胸から下に当たる風を和らげてくれるし、それ以上に佳(よ)き時代のレーシングマシンを思わせる眺めが、気分を高めてくれる。シートはカフェレーサースタイルの割には厚みがあって、座り心地がよかった。対照的にサスペンションは硬めで、少しペースを上げてコーナーを攻めるようなシーンがしっくりくる。しかしながらガチガチではなく、両手やお尻に接地感が伝わってくるのはトライアンフの伝統通り。安心して操ることができた。
でもこのビジュアルを前にすると、峠道でコーナーを攻めるより、都市を駆けたくなる。近所のカフェまでさらっと流し、お店に入って窓越しに眺めたくなる。そんな気分転換の相棒にするのであれば、ひとときの前傾姿勢も悪くない。
(文=森口将之/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/車両協力=トライアンフ モーターサイクルズ ジャパン)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×775×1110mm
ホイールベース:1376mm
シート高:795mm
重量:176kg
エンジン:398cc 水冷4ストローク単気筒DOHC 4バルブ
最高出力:42PS(30.89kW)/9000rpm
最大トルク:37.5N・m(3.8kgf・m)/7500rpm
トランスミッション:5段MT
燃費:3.6リッター/100km(約27.8km/リッター、WMTCモード)
価格:84万9900円

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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