フェラーリ12チリンドリ マヌアーレ(FR/8AT)

そのひと手間に、しびれる 2026.10.21 試乗記 西川 淳 MT車が長らく不在となっていたフェラーリ。そこに突如として現れファンを驚かせたのが、MT車と同じ変速動作で運転できる「12チリンドリ マヌアーレ」だった。果たして、その乗り味は? 名コースで試乗した西川 淳の第一報。
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“なんちゃって”ではなかった

読者諸兄は、私が以前、すべてが“違う”フル電動車「ルーチェ」が登場した際に、「マラネッロはヘリテージを忘れてなどいない。ルーチェとは対極にあるモデルを早晩デビューさせるだろう」と書いたことを覚えていらっしゃるかもしれない(関連記事)。その第1弾が「12チリンドリ マヌアーレ」である。

速いクルマをつくるために、マラネッロはペダルを2個に減らし、レバーをパドルに変え、ひたすら変速時間を削ってきた。パドルをはじけば次のギアが瞬時に選ばれ、駆動力を途切れさせることなく、適切なギアへとバトンタッチする。際限なく増え続けるパワーを安全に扱うためにも、それは正しい進歩だった。

ところが、だ。クルマ好きというものは、つくづく天邪鬼な存在である。ラクに、速く、安全に走らせられるようになればなったで、今度は暇になった左足と右手が気になりだす。渋滞でくたびれた記憶などすっかり忘れ、シフトダウンがきれいに決まったときの快感だけを思い出す。そして願う。もう一度、マニュアル操作をドライバーの手に取り戻したい、と。

9500rpmまで回る自然吸気V12エンジンを、クラッチペダルとHパターンのシフトレバーで操る。そう聞いただけで、乗り手はすっかり前のめりになってしまうだろう。

とはいえ、昔ながらの機械式MTを復活させたわけではない。ベースとなったトランスミッションは、標準の12チリンドリと同じ8段DCTである。そこにギアレバーとクラッチペダルを電気的に結びつけた。名づけて“Manuale by Wire”。手足の操作を電気信号に変え、変速機へと伝える仕組みである。

最初にそう聞いたとき、正直、疑った。物理的につながっているわけではない。電気信号のやり取りだけで、あの懐かしいマニュアル操作のフィールを楽しめるのだろうか。きっと“なんちゃってマニュアル”に違いない。いまさら、そんな子供だましを楽しめというのか……。

伝統的なMTのような操作で変速できる特別なモデルとして、2026年7月にデビューした「12チリンドリ マヌアーレ」。フェラーリの12気筒エンジン搭載モデルに“MTのシフトレバー”が組み合わされるのは、2006年2月に登場した「599GTBフィオラノ」(6段MT)以来のことである。
伝統的なMTのような操作で変速できる特別なモデルとして、2026年7月にデビューした「12チリンドリ マヌアーレ」。フェラーリの12気筒エンジン搭載モデルに“MTのシフトレバー”が組み合わされるのは、2006年2月に登場した「599GTBフィオラノ」(6段MT)以来のことである。拡大
エンジンフードは前ヒンジで展開。6.5リッターV型12気筒エンジンのスペック(最高出力830PS、最大トルクは678N・m)は「12チリンドリ」のものと変わらない。
エンジンフードは前ヒンジで展開。6.5リッターV型12気筒エンジンのスペック(最高出力830PS、最大トルクは678N・m)は「12チリンドリ」のものと変わらない。拡大
インテリアのデザインは、変速系以外は基本的に「12チリンドリ」と同じ。センターにレバーが直立する一方で、ステアリングコラムにシフトパドルは備わらない。
インテリアのデザインは、変速系以外は基本的に「12チリンドリ」と同じ。センターにレバーが直立する一方で、ステアリングコラムにシフトパドルは備わらない。拡大
サイドシルには「MANUALE」の大きなロゴが添えられており、ドライバーは乗り込むたびにシフト操作への意識が高まる。
サイドシルには「MANUALE」の大きなロゴが添えられており、ドライバーは乗り込むたびにシフト操作への意識が高まる。拡大