フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)
究極の内燃機関 2025.12.09 試乗記 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。新たな規制との格闘
2001年に発表されたフェラーリのスペチアーレ「エンツォ」とともに開発された12気筒ユニットであるティーポF140系はその時々の最新技術を織り込みつつ、排気量を6リッターから6.5リッターにまで拡張しながら21世紀のフェラーリにおけるフラッグシップエンジンとして君臨し続けてきた。エンツォのF140Bを皮切りにその型式名称は13タイプにも及び、「デイトナSP3」も「プロサングエ」もカバーする多様なキャラクターを備えてもいる。
そして14番目のF140系搭載モデルとなるのが、その名も「12気筒」のイタリア語、12チリンドリだ。型式名称F140HDは「812コンペティツィオーネ」やデイトナSP3の流派であることを示唆している。いわゆるスペチアーレ系からストラダーレ系へと技術をスライドさせながらさらなる高みを次のスペチアーレで目指すというのは、フェラーリのパワートレイン開発におけるサイクルだ。
12チリンドリに搭載されるF140HDの最高出力は830PS。それを9250rpmで発生する。レブリミットは9500rpmの設定だ。そして最大トルクは678N・mを7250rpmで……と、これを812コンペティツィオーネのF140HBと比較すると、最大トルクのみが14N・mほど痩せている。これは欧州ユーロ6eや中国6Bなど、各国の厳しい排ガス規制に対応すべくGPFやセラミック触媒コンバーターなどの装着を迫られたことで吸排気系の負荷が高まったからだ。そこをさらなる高回転・高出力化で補うべく、コンロッドやクランク等のムービングパーツには軽量化や形状変更を施し、摺動部にはコーティングを加えるなど、スペックを高めるのが難しい自然吸気ユニットを極限まで絞り切るハードウエアのチューニングを実施している。
デザインを内製化した理由
12気筒をフロントに積む2シーターモデルといえば、フェラーリの市販車の歴史においては最も古いパッケージだ。ゆえに数々の名車が名を連ね、それらのデザイン的なアセットも豊富なわけだが、12チリンドリは一見するに多くの方が“デイトナ”こと「365GTB/4」、それもプレキシグラスのライトカバーをまとった前期の姿を重ねてしまうだろう。しかしリアに回ると裾が絞り込まれた独特な形状のリアガラスと同化するように後端部までがブラックアウトされている。
彼らが「デルタウイングシェイプ」と呼ぶこのグラフィックは12チリンドリのデザインの要とみえて、例えば車体と同色に……というような注文は受け付けられないと発表会の際に説明を受けた。それから1年以上たった現在もコンフィギュレーションに選択肢はないから、チェントロスティーレとしてはこの部位のフィニッシュには自信をもっているのだと思う。
ちなみにこのデルタウイングの後端部は分割式の可動型スポイラーになっており、速度域に応じて猫の耳のように左右端がポップアップする仕組みだ。モデルでいえば「458イタリア」あたりから動力性能が過激化したことで、開発初期からのスタイリングと空力特性とのすり合わせが性能的に欠かせないものとなってきた。このあたりもフェラーリがデザインをインハウス化した大きな理由だろう。
低回転域でも至極快適
タッチ式のスタートスイッチに触れると、12気筒特有のクゥーンと短ピッチなクランキング音の後に、F140HD型はフォンとお目覚めの一発をブチかます。が、ほどなくアイドリングが下がるとその音は覚悟していたよりは静かで、地下駐車場でも耳のやり場に困るほどではない。日欧の騒音規制はクルマづくりそのものにも影響を与えるほど厳しいものへと移行しつつあるが、この手のクルマも治外法権とまではいかないのだと思う。
地下のスロープをノロノロとはいずり回り、街なかをズルズルと走っていても、ドライブトレインのマナーは優秀で、曖昧な速度域でもギクシャクすることはない。3000rpm以下の低回転域でのエンジンの摺動感はひときわ滑らかさを増したようで、前述のとおり音量が控えめに抑えられたこともあってか、車内の環境は至極快適だ。乗り心地も含めて、日本の日常的な速度域で走らせる限り、12チリンドリはラグジュアリークーペにも比する快適さを備えていると言っても過言ではない。後ろに控える火力を知るにつけ、よくここまで丸くしつけたものだと感心させられる。
この足まわりのしなやかさに一助しているのがフェラーリいわくのバーチャルショートホイールベース、つまり4WSによる高負荷域での同相制御による安定性付与だとすれば合点がいく。一方で、12チリンドリのホイールベースは「812スーパーファスト」に対して20mm短くなっている。回頭性は高くなるわけだが、4WSとのすり合わせがうまくハマっているのだろう、コーナーの進入でも必要以上にアタマの動きが速すぎる、もしくは入りすぎるといった挙動のピーキーさは感じられなかった。
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クルマで体験できる究極の官能
300km/hにほど近い超高速域でのスタビリティーは海外での試乗会で確認済みだが、前述の猫耳スポイラーのみならず、12チリンドリのエクステリアには数々のグラウンドエフェクト的なディテールが内包されている。スピードを出せば出すほど安定していく感覚というのは今日びのスーパーカーセグメントでは珍しいものではないが、エフェクトパーツをなるべくそうは見せないようまとわせるように形づくるというのがフェラーリのデザインにまつわるこだわりなのだろう。
それでもフル加速の態勢に入ると830PSでかき乱されるお尻のムズムズぶりにヒリつくわけだが、そんな速さ以上に強烈なのがやっぱり12気筒ならではのサウンドだ。低回転域からいや応なしに伝わってくる荘厳な回転フィール、そして回転が高まるほどにクォーンと高音をそろえて突き抜けるむせび泣きとが織りなすところは、クルマで体験できる究極の官能である。
直近では電気自動車用プラットフォームも発表したフェラーリだが、F140系の12気筒をその代替としてディスコンにするつもりなど毛頭ないだろう。くしくもご同胞や英国のライバルたちは12気筒ユニットの存続について前向きな方針へとシフトしつつある。内燃機の灯は消えず。12チリンドリはそのロマンを示す究極体たれという期待に見事に応えている。
(文=渡辺敏史/写真=佐藤靖彦/編集=藤沢 勝/車両協力=フェラーリ・ジャパン)
テスト車のデータ
フェラーリ12チリンドリ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4733×2176×1292mm
ホイールベース:2700mm
車重:1770kg
駆動方式:FR
エンジン:6.5リッターV12 DOHC 48バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:830PS(610kW)/9250rpm
最大トルク:678N・m(69.1kgf・m)/7250rpm
タイヤ:(前)275/35ZR21 103Y XL/(後)315/35ZR21 111Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツS 5)
燃費15.5リッター/100km(約6.45km/リッター、WLTPモード)
価格:5674万円/テスト車=--円
オプション装備:エクステリアカラー<ヴェルデトスカーナ>/ツートンボディーワーク<ネロDS>/スペシャルボディーライン<ジョルジョスクーロ>/鍛造ホイール<グロスオービットグレー>/ブラックブレーキキャリパー/スペシャルスレッド/チタニウムボルト/ミシュランタイヤ/パノラミックルーフ/カーボンファイバーエクステリアミラー/カーボンファイバーアウターシルキック/スクーデリア・フェラーリフェンダーエンブレム<エアブラシ>/カーボンファイバーフロントスポイラー/カーボンファイバーディフューザー/カーボンファイバーフロントエアインテーク/カーボンファイバーロアリアスクリーントリム/カーボンファイバーサイドスカート/フロントサスペンションリフター/アクティブヘッドライト/アダプティブクルーズコントロール+フロントレーダー/ブラインドスポットモニター+リアレーダー/ブラックセラミックテールパイプ/全面防傷フィルム/マットブラックフルバッジ/インテリアカラー<ネロ>/ブラックカーペット<レザー×アルカンターラ>/コントラストアッパーアウターハンドグリップ<テッラアンティカ>/インテリアカスタムスペック/デイトナスタイルシート/ヘッドレストの跳ね馬ステッチ<ネロ>/ベンチレーション&マッサージ機能付きフロントシート/シートセンター<インターナショナルレザー>スペシャルレザーダッシュボード<テッラアンティカ>/デュアルカラーレザーインテリアトリム<ネロ>/カラーインナーディテール<ネロ>/ルーフ内張<ネロ>/コックピット下部コンパートメント<レザー>/カーボンファイバーステアリングホイール/カーボンファイバードアパネル/トリコロールドリームラインF1パドル/スペシャルレザーコックピットバンド<テッラアンティカ>/アルミニウムフットレスト/サラウンドビュー/カーボンファイバーアッパートンネルトリム/リアベンチ スペックドリームラインデザイン1<ゴールド>/プライバシーウィンドウ/パッセンジャーディスプレイ/カラードステアリングホイール/カラードステアリングステッチ/レザーパッセンジャーコンパートメントインサート/デジタルリアビューミラー/エレクトリックトランクドア/エアクオリティーセンサー/デリケーションシルバープレート/ハイエンドオーディオシステム/スマートフォンワイヤレスチャージャー/スマートフォンインターフェイス
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1855km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:289.0km
使用燃料:51.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:5.6km/リッター(満タン法)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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