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電動化時代も軸足は“スポーツ”に CEOに聞いた「アルピーヌブランドのこれから」

2026.10.21 デイリーコラム 渡辺 敏史
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モータースポーツはF1に一本化

2026年9月末に行われたWECの第6戦、富士6時間レースでは、5時間経過後にホームストレートでのクラッシュによるペースカー導入を味方につけた「トヨタGR010」の8号車が大逆転優勝劇を演じ、耐久レースのなんたるかをまざまざと見せつけました。

と、それまで盤石のワンツー体制でレースを完全に支配していたのが「アルピーヌA424」です。特に予選ポールポジションの36号車はそのままフィニッシュまでトップを守り通すのでは……という安定した速さを誇っていました。ちなみにアルピーヌ、昨年の富士6時間では総合優勝を飾ってもいます。そう、なぜか富士との相性は抜群なんです。

が、そんな彼らの勇姿をWECで見られるのは今季いっぱい。中東方面のレース開催がロジスティクス等で不透明な面もあり、現時点ではバーレーンの代替として設定された11月8日のモンツァが最終戦になりそうです。そして来季以降、アルピーヌはモータースポーツ活動をF1に集中し、WECからの今季での撤退を発表しています。

くしくも一線級のポテンシャルを証明したその日、富士スピードウェイでアルピーヌのフィリップ・クリーフCEOに話を聞く機会がありました。まず最も気になる、まだまだ十分戦えるWECをやめるという決断についてを尋ねてみます。何せフランス人は耐久レースが大好きですから、社内での思い入れもひとしおではと思うわけです。

「確かにそれは苦渋の決断でもあります。でも、残念ながらわれわれのビジネスの大きさ的に、WECとF1のどちらも、というわけにはいかなくなっているのも事実です。よく問われるのが運営コストの違いですが、正直なところ、F1とWECの差は皆さんが想像するほど大きくはありません。限られたリソースを投入するにあたって、マーケティングやブランディング的な理由も含めてF1に注力しようという話になったわけです」

ちなみにフィリップCEOはシャシー系出身のエンジニアで、ミシュランやフィアットなどを経て直近まではフェラーリに所属。エンジニアリングディレクターとして「SF90ストラダーレ」や「296GTB」のみならず、「モンツァ」や「F80」などのスペチアーレも担当してきた方です。また、アルファ・ロメオやマセラティが共有するFR系のジョルジオプラットフォームの開発も指揮したといいます。つまり出自はバリバリの技術者……と、そういう方もマーケティングを軸に語らざるを得ないところに、現在のWECとF1の温度感が表れているのかもしれません。というか、F1に若干のバブル感をみてしまうのは還暦世代の筆者ゆえでしょう。

写真右がアルピーヌのフィリップ・クリーフCEO。ミシュランやフィアット、フェラーリ等で活躍してきたシャシー系のエンジニアでもある。
写真右がアルピーヌのフィリップ・クリーフCEO。ミシュランやフィアット、フェラーリ等で活躍してきたシャシー系のエンジニアでもある。拡大
富士6時間レースの36号車「アルピーヌA424」は惜しくも2位でフィニッシュ。最後はトヨタが大逆転で優勝を飾ったものの、安定したレース運びが際立っていた。
富士6時間レースの36号車「アルピーヌA424」は惜しくも2位でフィニッシュ。最後はトヨタが大逆転で優勝を飾ったものの、安定したレース運びが際立っていた。拡大
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楽しくなければアルピーヌじゃない

ときに、WECではハイパーカーカテゴリーにおいて3シーズンの参戦となったわけですが、この間に得られたノウハウが市販車に反映された、そんな事例はあったのでしょうか。

「アルピーヌは小さなメーカーですが、かといって市販車とレーシングの部門間で密接な交流があるわけではありません。これはフェラーリでも然りです。だから目に見える箇所での共通項は感じられないかもしれません。でも、MGU-Hのエネルギーマネジメントなどの技術移管や、AIによる開発のアジャイル化といった方法論の共有は進めています。あとは空力ですね。形状は異なれど、得られた知見は市販車にも確実に反映されます」

とあらば、そのノウハウが織り込まれていくのは次期「A110」あたりからになるのでしょう。一方で2017年にデビューしたミドシップ版の復活モデルは、日本でも多くのクルマ好きに愛されています。

「日本はアルピーヌにとって、最大の海外市場といっても過言ではありません。日本のエンスージアストは目利きが多く、製品のクオリティーにおいても完璧を求められる。そういった方々がわれわれの歴史やプロダクトを深く理解し、共感いただいているというのは大きな自信につながります」

ちなみにフィリップCEOはミシュラン時代に5年近く赴任し、スタッドレスの開発では冬の北海道も経験したという日本通。そんな氏にとっては日本の市場環境の変化もアルピーヌ展開への自信を深める一因となっているようです。

「30年前、日本において成功しているプレミアムといえばドイツ系が寡占していました。でも今は状況が大きく変わり、多様な価値を認めてくださるようになったのだと思います」

ちなみにアルピーヌのアイコンともいえるA110は、電気自動車(BEV)を前提としたアーキテクチャーがすでに発表され、今年のグッドウッドではミュール(実験車両)がその走りを披露しました(参照)。そして「5ターボ」へのオマージュともいえる「A290」も年内には日本に投入されるのではとうわさされるなど、新生アルピーヌはいよいよBEV化への道を突き進むかのようにうかがえます。が、一方で海外からは新型A110には内燃機仕様も用意されるのではという聞き捨てならない話も伝わってきます。

「パワートレインに関する詳細は将来の計画に関わるのでお話しできません。が、適材適所で物事を進めていくことは経営の基本です。でも、個人的には内燃機であることがアルピーヌのDNAだとは考えていません。われわれの核心は、ともあれ乗って楽しいということです。それはBEVではできないという既成概念と戦えるシナリオは十分ありますし、BEVでも楽しいスポーツカーは成立すると確信しています」

ちなみに新生アルピーヌは、ブランドのポジショニングとしては中の上、ポルシェより少し下のあたりを考えているそうで、そのために内外装のしつらえにも工夫を凝らすそうです。一方で、スポーツという軸足は絶対に外すことはないのことで、新しい世界観をどのようなかたちでみせてくれるのかが楽しみではあります。

(文=渡辺敏史/写真=アルピーヌ・ジャポン/編集=藤沢 勝)

次期型「A110」のコンセプトモデルのサイドシルエット。
次期型「A110」のコンセプトモデルのサイドシルエット。拡大
「アルピーヌA290」は「ルノー5 E-TECHエレクトリック」の兄弟車にあたる前輪駆動のBEVだ。
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「A390」はリアに2基、フロントに1基の駆動用モーターを搭載するパフォーマンス志向のBEVだ。「A290」ともども日本導入は「検討中」というステータスである。
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2026年のパリモーターショーで公開されたデザインコンセプト「A310ビジョン」。将来の量産モデルを予告するものではないとされているが……。
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渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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