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「BYDラッコ」「スズキeスカイ」登場で卍どもえに 軽乗用BEVの覇権はどこが握る?

2026.10.14 デイリーコラム 今尾 直樹
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5モデルが出そろった軽乗用BEV

電気ですかー。電気があれば、なんでもできる。2026年の夏は、中国から小さな電気の黒船、BYDラッコがやってきて、ニッポンは軽市場の開国を迫られた。観測史上だけでなく、軽乗用電気自動車(BEV)市場も酷暑の夏だった。そこに「スズキeスカイ」が名乗りをあげ、秋も深まる11月16日に発売になる。2022年発売の「日産サクラ/三菱eKクロスEV」、2025年発売の「ホンダN-ONE e:」の4陣営による決戦が始まるのだ。フォーミュラKEV秋の陣、覇権を握るのはどこか?

じつは私、これらのいずれも未試乗でありまして、ここでは机上の空論、すなわち、最大トルクと一充電走行距離(WLTCモード)、価格の3要素によって、勝者を占ってみることにした。当たるも八卦、当たらぬも八卦である。最高出力を無視したのは、いずれも自主規制値の64PSを主張しているからだ。また、話をシンプルにすべく、ここではeKクロスEV=サクラと見なす。では、早速、発売順にデータを並べてみよう(ラッコは上位グレード「300プラス/300プレミアムの数値)。

  • 日産サクラ 195N・m/180km/244万8600円~299万8600円(国の補助金58万円)
  • ホンダN-ONE e: 162N・m/295km/269万9400円~319万8800円(国の補助金58万円)
  • BYDラッコ 160N・m/320km/239万8000円~249万7000円(国の補助金およそ16万円)
  • スズキeスカイ 133N・m/310km/212万円(受注生産)~279万円(国の補助金56万8000円)

日産サクラは、航続距離の短さが際立つ。電池容量は20kWhとダントツに小さく、車重は1070~1090kgとやや重い。それを195N・mの最大トルクが補う。「スーテキな毎日を」が送れるように、スーと走れることを最優先しているのだ。高速充電の受電能力は30kWまで、バッテリー残量警告から40分で80%とのことで、いまどき、速いとはいえない。それでも生活の足としては十分ということだろう。先行者利益もあって、4年連続国内BEV販売台数ナンバーワン、7月9日に累計販売台数10万台(これにはeKクロスEVは含まない)を達成している。実績十分。それが多くの消費者にとっての魅力だ。この春、フェイスリフトを受け、容姿は若返ってもいる。

ホンダN-ONE e:はサクラを航続距離で大幅に上回る。電気で走るN-ONEは「e:(イー!)ことだらけ」を目指し、最大トルクを小さく、電池容量を大きく、軽量化に勤しんでいる。価格が若干高いことは否めないけれど、スペック上、最新2モデルと比べても、競争力はありそうだ。

「日産サクラ」は2026年7月に累計販売台数10万台に到達。ライバルが増えてきただけに今後の売れ行きに注目だ。同年4月には一部仕様変更とともに実質的な値下げを実施した。
「日産サクラ」は2026年7月に累計販売台数10万台に到達。ライバルが増えてきただけに今後の売れ行きに注目だ。同年4月には一部仕様変更とともに実質的な値下げを実施した。拡大
「日産サクラ」の三菱版といえるポジションの「eKクロスEV」。こちらは2026年6月に小改良を受けており、グリルを縮小してよりBEVらしいデザインにしたとのこと。
「日産サクラ」の三菱版といえるポジションの「eKクロスEV」。こちらは2026年6月に小改良を受けており、グリルを縮小してよりBEVらしいデザインにしたとのこと。拡大
「ホンダN-ONE e:」はほかのどれよりもミニマルなデザインがセリングポイント。ホンダにはこれの最高出力を引き上げてブリスターフェンダーを装着した登録車の「スーパーONE」もラインナップされており、補助金額の違いからスーパーONEのほうが売れているという。
「ホンダN-ONE e:」はほかのどれよりもミニマルなデザインがセリングポイント。ホンダにはこれの最高出力を引き上げてブリスターフェンダーを装着した登録車の「スーパーONE」もラインナップされており、補助金額の違いからスーパーONEのほうが売れているという。拡大

後出し有利は世の常ながら……

黒船ラッコは、ゆいいつのスーパーハイトワゴンで、両側電動スライドドアを持っている。背が高いぶん、空気抵抗は大きく、車重も1200kg以上と非常に重い。それを35.8kWhという大容量電池でカバーしている。電池容量22.40kWhで航続距離210kmの廉価グレード「200」もあり、こちらは214万5000円のバーゲン価格。されど、あと25万円ほどで、「ラッコ楽」な航続距離320kmの上級グレードが手に入る。となると、使い方次第ではあるものの、廉価版は釣り球と見るべきか。中国製ゆえ、国の補助金はたったの16万円。いくらなんでも安すぎる。とはいえ、広い空間と両側スライドドアで、最上級モデルでも250万円を切るのだから、お値打ち感はたっぷり。「ホンダN-BOX」のガソリンターボ車より安いのだから、なるほど、日の本は元寇以来の大ピンチ……かもしれない。余談ながら、CMキャラクターの広瀬アリスはいいと思います。

スズキeスカイは、民族派にとって神風である。受注生産とはいえ、車両価格は212万円と、ラッコより安く、航続距離は310kmと、ラッコに迫ることあと10km! 大和魂でなんとかなるレベルだ。スズキの工夫は、133N・mという控えめな最大トルクと、N-ONE e:より小さな26.1kWhの電池容量にある。14インチを採用するなど軽量化に取り組み、車重は最重量版でも1030kg……、あ。N-ONE e:も1030kg、14インチで155/65でした。eスカイは165/65で、なんと、よりワイドなタイヤを装着している。N-ONE e:の航続距離295kmとの15kmの差は、電気エネルギーの制御に秘密があるのだ。おそらく。最大トルクはN-ONE e:の162N・mより、31N・mも小さい。それで車重は同じだから、加速タイムではN-ONE e:に劣るはずだ。サクラより遅いかもしれない。「EVである前に軽自動車」というコンセプトだから、これでいいのだ。軽を知り尽くしたスズキの真骨頂であろう。

充電速度については、今回は考慮しなかった。それでも前述の3つのデータを並べてみると、はっきり分かることがある。それは、後出しのモデルほど、スペック的に優れている、ということだ。それはそうである。後出しは先出しを見ながら開発している。相手がチョキを出しているのにパーを出すのは愚の骨頂。パーでなければ、出すべきはグーである。まして、こんにちバッテリーの進化は著しい。1年後、いやさ、半年後、どこがどうなっているのか、予断を許さない。ダイハツの出方にも要注意だ。背後には大トヨタがいる。軽乗用BEVの覇権は、ニッポンのBEVの行方をも左右するだろう。つまりですね、現時点で覇者を予見することはむずかしい。ここまで読んでくださった方、すまん。

重要なのは、真の敵はCO2、ということである。トヨタの会長のこのことば、ゆめゆめ忘れることなかれ。

(文=今尾直樹/写真=スズキ、BYDオートジャパン、日産自動車、三菱自動車、本田技研工業/編集=藤沢 勝)

ここで取り上げたモデルでスライドドアを装備しているのは「BYDラッコ」だけだ。補助金の額では冷遇されているものの、最上位グレードで249万7000円はやはり安い。
ここで取り上げたモデルでスライドドアを装備しているのは「BYDラッコ」だけだ。補助金の額では冷遇されているものの、最上位グレードで249万7000円はやはり安い。拡大
「スズキeスカイ」は受注生産ながら212万円というエントリーグレードの安さが際立つ。ただし、この「A」グレードは急速充電機能が省略されるなど、徹底的に装備を割り切った仕様となっている。
「スズキeスカイ」は受注生産ながら212万円というエントリーグレードの安さが際立つ。ただし、この「A」グレードは急速充電機能が省略されるなど、徹底的に装備を割り切った仕様となっている。拡大
今尾 直樹

今尾 直樹

1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。

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