ボルボXC90 V8 TE(4WD/6AT)【試乗記】
雪の中で垣間見た「スポーティ」 2006.03.03 試乗記 ボルボXC90 V8 TE(4WD/6AT) ……930万3000円 ボルボのSUVに「トップエグゼクティブ」を名乗るモデルが加わった。V8エンジンを搭載する「XC90 TE」は、北海道の雪の中でボルボの新たな可能性を覗かせたのである。イースター島からスウェーデンへ……
新しいV8エンジンを得たボルボのSUV「XC90」に乗って、チリの沖合3800キロに位置するイースター島を訪れた。地球温暖化による異常気象はここでも猛威をふるい、立ち並ぶモアイ像は半ば雪に埋もれている。大自然の爪痕を見届け、次に北欧へと向かった我々は、スウェーデンの小さな村にいた。極寒の中で氷に閉ざされた家並は、ひっそりと静まりかえっていた――。
というのはもちろん作り話で、北海道で行われたXC90 V8 TEの試乗会に参加したのである。モアイ像は札幌の南に位置する霊園内に設置された「三十三モアイ地蔵」で、スウェーデンっぽい家はモエレ沼公園の近くにある「スウェーデンヒルズ」という住宅街なのだ。ただ、この日は天気の変化が激しく、走行した道の路面もバラエティに富んでいた。世界旅行とは言わないまでも、さまざまな路面を体験できたという意味では、XC90の真価を体験する絶好の舞台だったのは確かである。
ボルボ初のSUVであるXC90にV8エンジンを搭載したトップモデルがアナウンスされたのは1年以上前だが、ようやく日本に本格導入する体制が整った。TEとは、「トップエグゼクティブ」の略である。日本に導入されるのはこれのみであるが、欧米ではTEではないものも販売されている。つまり、最強モデルであるとともに、最豪華モデルでもあるのだ。プレミアムソフトレザーシート、RSE(リアシートエンターテインメント)システム、フロントアームレスト内蔵の冷蔵庫など、贅沢装備がてんこ盛りである。お値段も900万円を超え、全方位プレミアムだ。
パウダースノーとシャーベット状の雪
朝起きると空から何やら落ちてきている。夜の間にずいぶん降ったみたいで、さすがに除雪も間に合わず、路面が白くなっている。先日は「V70R」の試乗会のあった鹿児島で思わぬ雪に見舞われて辟易したが、北海道では雪は日常だ。雪が前提だから何の問題もない。標準では18インチのホイールが装着されるところを、17インチにミシュランのスタッドレスという万全の装備が用意されている。
試乗の基地となった千歳から高速道路に乗り、北を目指した。雪は降りやむ様子もなく、速度規制が行われていた。とはいっても、電光表示板に示された数字は80キロである。数センチの積雪で交通が麻痺する首都圏とはやはり備えが違う。はじめは慎重に60キロ程度で走行車線を流していたのだが、札幌ナンバーの商用バンや軽トラにびゅんびゅん抜かれるのには閉口した。速度差から考えれば、どう見ても三ケタのスピードで走っているのは間違いない。こっちはオンデマンドの4WDでトップエグゼクティブだぜ! とばかりに勝負を挑むなどという子供じみたことはせず、粛々と制限速度を守って走行する。
札幌の南、北広島インターで高速を降り、モアイのある霊園を目指す。札幌市という住所で想像していたよりも、かなり山深い地域へと向かっていく。路面は完全にパウダースノーで覆われ、車線も見えない状態だ。風も出てきて、もう吹雪といってもおかしくない状況だ。前を行くクルマの姿が、ホワイトスクリーンの向こうにぼやけてしか見えない。なんとか撮影地にたどり着き、暖かく快適な室内から出てみると、想像していた以上に厳しい気象の中を走ってきたことを知った。降りて眺めると、ボディ全体に雪と氷がこびりついている。積もったばかりの雪は柔らかく、歩を進めるごとに靴が埋まってしまう。
撮影を済ませ、札幌市内に向かった。だんだん天候が回復し、市街地に着く頃にはすっかり雪はやんでいた。交通量が多いこともあり、路面は泥まじりでシャーベット状になっている。しかし、一本路地を入るとふかふかの雪が一面に広がっていて、うっかりすると白い平面に隠れて穴ぼこがあったりして驚くのだ。地上高に余裕があることが、切実なありがたさとして感じられるのはこういう時である。
快音を響かせるV8エンジン
次に向かったスウェーデンヒルズは、文字通り、丘の上にあった。結構な急斜面の道は、雪が積もっては通るクルマに押し固められることが繰り返され、表面がツルツルの圧雪が厚い層を形成している。降りてみると、滑って歩きにくいことおびただしい。こんなところを2.2トンの車体が登っていくということには、本当はもっと驚くべきなんだろう。そんなわけで1日のうちにいろいろな種類の路面に遭遇したわけだが、ありがたいことにどの場面でも何のストレスも感じさせられることはなかった。もちろん、このくらいの状況はスウェーデン生まれのSUVにとっては楽勝ということなんだろう。
帰りの高速ではようやく路面が乾いてきて、少しばかりスピードを出せる状況となった。血気盛んな高橋カメラマンにステアリングを譲り、リアシートでRSEを試してみることにした。ヘッドレストに備えられた液晶モニターは左右別々に操作することができ、DVDとゲームを同時に楽しむことが可能だ。ワイヤレスのヘッドフォンを頭にセットすれば、完全にプライベートスペースができ上がる。こりゃ快適だが、前席と後席の乖離という状況は、ファミリーカーとして使う場合にはどうなのか、と要らぬ心配をする。
高橋カメラマンがガンガン飛ばしていると、回転を上げるにつれて後席にも快音が響いてくる。新しいV8エンジンは、ちょっとこれまでのボルボのイメージとは印象を異にする仕上がりだ。ヤマハの磐田工場で生産されるバンク角60度のアルミ製V8は、北米市場でプレミアム性を獲得するために必須の武器だったわけだが、もっと別な効果をもたらすかもしれない。このエンジンが他のモデルにも搭載されるようになれば、プレミアムに加えてスポーティというブランドイメージも付いてくるだろう。高価格で左ハンドルのみという条件からすれば、それほど大きな販売数は期待できないだろうが、ボルボにとっては大きな意味を持つモデルとなるはずである。
(文=NAVI鈴木真人/写真=高橋信宏/2006年3月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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