ボルボXC90 T8 Twin Engine AWDエクセレンス(4WD/8AT)
あなたがもっと善く見える 2020.08.13 試乗記 後席ジマンの高級車は、数え切れないほどあるけれど……。ボルボのラインナップで最も高価な「XC90エクセレンス」に試乗した筆者は、他ブランドのプレミアムカーではなかなか味わえない心地よさに包まれたのだった。価格に見合った価値はある
ボルボSUVの旗艦、XC90のなかでも、プラグインハイブリッドの「T8 Twin Engine(ツインエンジン)AWD」に設定のあった最上級グレード「エクセレンス」が生産終了になるということで、「国内向けの最終となる10台を“特別オファー”付きで販売する」とボルボ・カー・ジャパンが2020年7月1日に発表した。
なんと新車保証を3年から5年に延長(走行距離無制限)、さらに充電機器設置の20万円サポート等のほか、現金2回払いの金利ゼロの分割プランなんてのが利用できたりする。契約時に半分キャッシュで支払ったら、残りの半分は3年後でいいのだそうだ。しかも、3年後、代金の代わりにそのクルマを返却してもいいし、新しいボルボに乗り換えることもできる。
といっても、エクセレンスはXC90のなかでもずぬけて高価で1359万円もする。もうひとつのグレードの「インスクリプション」(7人乗り)は1129万円だから、230万円も高い。おいそれと買えるような価格ではない。とはいえ、買える人にとっては、会う人にジマンできるオシャレな選択であるに違いない。
ぜいたくな空の旅気分
本来は7人乗りのXC90のリア居住空間に、左右独立式シートをちょっと後ろに配置してレッグルームを確保し4人乗りにしたぜいたくな仕様で、ショーファードリブンや、パーソナルオフィス空間としての需要に応えるべく開発されたものだという。実際、Bピラーから後ろは3列仕様とは別物で、北欧流のモダンラグジュアリーな、ちょっとあっさりした雰囲気があって、そこがステキだ。
専用の左右独立式シートにはリクライニング、ベンチレーション、マッサージなどの機能があり、それらは後部センターコンソールのアームレストに仕込まれた液晶の画面で操作する。中央のアームレスト内には、折りたたみ式のテーブルが収納してある。これを取り出すと、空の旅気分が味わえる。
シャンパーニュのボトルが2本入るクーリングボックスと、クリスタルのグラス、それにグラスホルダーも2個ずつ付いている。オレフォスというスウェーデンを代表するクリスタルのブランドのハンドメイドだそうだ。オシャレですねー。
レッグルームは足を伸ばせるほどには広くはないけれど、おそらくそれは安全性をおもんぱかってのことだろう。マッサージ機能は日本式のグリグリ、ゴリゴリ強く押したりもんだりするのではなくて、そーっと、やさしく動く。その昔、体験したヴァージン・アトランティックの機内サービスのマッサージを思い出した。
モーターがもたらす上質感
T8ツインエンジンAWDはプラグインハイブリッドである。フロントの横置き2リッター4気筒ガソリンエンジンはスーパーチャージャーとターボチャージャーのダブル過給により、最高出力318PS、最大トルク 400N・mを発生する。AWDを名乗っているけれど、後輪を駆動するためのプロペラシャフトはない。後輪は、リアに配置された最大トルク240N・m の電気モーターを動力源とする。
デファクトはハイブリッドで、エンジンとモーター、ふたつのパワーソースの組み合わせを電子制御で最大限に活用し、パワフルかつ効率のよい走りを実現している、ということである。
ドライブモードには、このほか、電動モーターだけで駆動する「ピュア」モード、力強い加速と高い環境性能を両立するという「パワー」モードがある。2019年のマイナーチェンジで、プロペラシャフトのある場所に仕込まれた駆動用のリチウムイオンバッテリーの容量が30Ahから34Ahに拡大されていてEV走行距離が向上している。はずだけれど、今回の試乗では電池の残量が少なかったため、ほとんどハイブリッドモードで走行した。
たとえ駆動用バッテリーのエネルギー量が低下していても、静止状態からスタートする際は、電気モーターが活躍する分は別枠になっている。なので、スタート直後はEVモードとなり、当然ながらものすごく静かである。筆者は思わず、ロールス・ロイスの「カリナン」みたい、と思った。カリナンのほうがもっと着座位置が高いかもしれないけれど、あちらが6.75リッター12気筒エンジンでやっていることを、こちらは電気モーターでやっているわけである。
アクセラレーターを深々と踏み込むと、ちょっと遠くでツインカムエンジンの快音が聞こえてくる。車重2370kgの大きなボディーをけっこうな勢いで加速させる。電気モーターも電池があれば助太刀しているはずだ。
気持ちよく付き合える
全体に大きいものを動かしている感があって、それはそれで大型車ならではの醍醐味(だいごみ)というべきだろう。エアサスペンションを装備する乗り心地は、大海原をいくクルーザーのごとしで、ピッチング方向にウニウニしている。と書くと、酔っちゃうみたいだけれど、いい心持ちでウニウニしている。
ホイールが21インチという特大サイズで、タイヤは前後ともに275/40という薄さゆえか、「ピレリ・スコーピオン ヴェルデ」の特質ゆえか、それなりに当たりは硬い。しかし、この巨大ホイール&タイヤが荒れた路面でもドタドタと暴れるようなことはない。よく制御されている。靴底の表面は硬いけれど、エアマックス的な空気の層が足の裏とのあいだにある感じ、というのでは比喩になっていない気もしますが、硬くて柔らかい、やさしいと感じる乗り心地だ。マジックカーペット、空飛ぶじゅうたんのようではない。もうちょっと庶民的といいましょうか、銭湯で風呂上りにマッサージチェアでくつろいでいるような、エクスクルーシブというよりは、もっとオープンな気持ちよさがある。
ハンドリングは、フツーに走っているとアンダーステアっぽい。大型車なのだから、それを無理に動かそうとするより好感が持てる。ちょっと意外だったのは横Gに対して、電子制御のエアサスが踏ん張ることで、ピッチング方向のウニウニは許してもロール方向はビシッとしている。コーナーで、ちゃんとドライバーの要求に応える足を持っている。
そうそう、ドライブモードに「ポールスターエンジニアード」というのがあって、これに切り替えると、エンジン回転がちょっと上がってドコドコという排気音が控えめに聞こえてくる。乗り心地が引き締まり、ウニウニしなくなる。スポーティーに変身するのだ。ただ、いつまでもドコドコ言わせているのはいけないことのような気がしてくる。ボルボの人徳かもしれない。
ショーファードリブンとして、起業家が乗っていたらステキに違いない。アラブの大富豪だったりしたら、アラブの大富豪なのに? という意外性もある。このクルマ自体、プラグインハイブリッドだし、そもそもボルボというブランドには社会的に正しいことをやっている、少なくとも「やろうとしている」というイメージがある。そこがこのメーカーの最大の美徳であり、強みであることは疑いない。
乗っている人が善人に見える。そんな高級車は、ボルボだけだ。
(文=今尾直樹/写真=小林俊樹/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
ボルボXC90 T8 Twin Engine AWDエクセレンス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4950×1960×1760mm
ホイールベース:2985mm
車重:2370kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ+スーパーチャージャー
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:318PS(233kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/2200-5400rpm
フロントモーター最高出力:46PS(34kW)/2500rpm
フロントモーター最大トルク:160N・m(16.3kgf・m)/0-2500rpm
リアモーター最高出力:88PS(65kW)/7000rpm
リアモーター最大トルク:240N・m(24.5kgf・m)/0-3000rpm
タイヤ:(前)275/40R21 107V/(後)275/40R21 107V(ピレリ・スコーピオン ヴェルデ)
燃費:12.8km/リッター(WLTCモード)
価格:1359万円/テスト車=1370万1650円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション ボルボ・ドライブレコーダー<フロント&リアセット>(8万9650円)/ヘッドレスト<2個>(2万2000円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1257km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:218.2km
使用燃料:18.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.6km/リッター(満タン法)/11.3km/リッター(車載燃費計計測値)
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。