アウディA3スポーツバック 3.2 クワトロ(2ペダル6MT)【試乗記】
「顔つき」以上の変化とは? 2004.12.27 試乗記 アウディA3スポーツバック 3.2 クワトロ(2ペダル6MT) ……475万円 「A3」の5ドア版には「スポーツバック」なる名が与えられ、ハッチバックとは違う位置づけが与えられた。そのハイパワーバージョンである「3.2クワトロ」に、『NAVI』編集委員鈴木真人が試乗した。ゴルフと明らかな差別化
販売好調とはいえ、「A4」に半ばを依存する現在の体質を改善することがアウディジャパンの大きな課題だ。幸いにして「A6」「A8」は前年より大幅に売り上げを伸ばしているが、基準となる数字がなんとも小さかった。やはり、量販クラスであるA3の販売増が悲願であろう。
しかし、あまりに優秀な兄貴分として「フォルクスワーゲン・ゴルフ」がいることが、悩みの種である。何しろ、質実剛健、品行方正、親切至極な優等生で、弟が少々頑張ったくらいではなかなかまわりは評価してくれない。モード系のコスチュームをまとって都会派を気取ってみても、万人に好かれるお兄さんにはかなわない。
しかし、「A3スポーツバック」はちょっと違うのだ。A6ゆずりの大口をこれ見よがしに誇示し、ハッチバック以上アバント未満のスタイリッシュでユーティリティに優れるボディを持つ。これは、ゴルフと明らかな差別化ができるモデルである。
商品性を高めるDSG
今回試乗したのは、最強グレードの「3.2クワトロ」である。ほかに、2リッターエンジンの「2.0FSI」、そしてそれにターボをつけた「2.0TFSI」がラインナップされていて、ともに駆動方式はFFである。TFSIと3.2クワトロの上位2モデルには「世界最速2ペダルMT」たるDSG(ダイレクトシフト・ギアボックス)が用意されていて、これが商品性を高めるのにおおいに寄与している。
何しろこの3.2リッターV6エンジンのデキがいい。アルファ・ロメオの至宝であるV6は気持ちのいいサウンドとレスポンスが命だが、このエンジンも引けを取らない。低回転からのトルク感では、こちらのほうが上だろう。「オペル・ベクトラGTS」に積まれる3.2V6を含めて、この排気量のV6にタレントが豊富なのはうれしいかぎりだ。
エンジン単体ではなく、トランスミッションと組み合わせた印象では、アウディはグッと有利になる。DSGは魔法でも使ったのかと思うくらい、クイックでスムーズなシフトを行う。アルファの「セレスピード」はこの方面のパイオニアとして重要な意義を持っているが、DSGを前にしてはさすがに顔色を失わざるを得ない。
セレスピードは「スポーツドライビング」を演出する術に長けているが、DSGのコントロールははるかに緻密なのだ。アルファがドライバーを自己陶酔に誘うならば、アウディはその反対に、意識を覚醒させ、静謐な境地に導いていく。
変わってきた乗り味
マニュアルモードにせずとも、オートの状態で十分に楽しめる。殊に、「S」レンジに入れた時のスポーティな制御には感嘆してしまう。普通に走っていたのではなかなかシフトアップしてくれず、前が詰まって少し速度が落ちてくるとすぐさま中ブカシを入れてギアを落とす。常にエンジン音が車内を満たし、「もっと速く走れ」と、ドライバーを駆り立てるのだ。エンジンの平均回転数は、マニュアルモードで運転するよりも確実に高くなっている。
その代わり、乗り心地は明らかに硬い。首都高速3号線を流れに乗って走っている時など、間断なく訪れる継ぎ目からの突き上げに耐えなければならない。もう少し速度域が上がれば多少は収まるものの、しなやかとはいいがたい。
以前、アウディはA2からA8に至るまで、もちろんグレードに見合った違いはあるものの、見事に同一の乗り味を持っていた。それが、少し変わってきたように思う。前は絶え間ないピッチングを許しながらもしなやかに路面の変化を受け止め、しかもスタビリティを確保していた。
このA3スポーツバックは、よりフラットな運動性を求めていて、今のところ硬さが前面に出てしまう結果になっている。しかし、この方向性を煮詰めていくことで、スタビリティと乗り心地の両立を現在の水準を超えて実現できるとアウディは考えているのだろう。
ボディが延びた分のユーティリティの向上について、また「シングルフレームグリル」の採用によるエクステリアの印象の変化について、何も書いていないことに気づいた。しかし、アウディの価値は、やはり過剰なほどの安定感、そして細部にわたる精緻な仕上げにある。アウディユーザーとは、何よりもそこに価値を見出している人であるはずだ。
(文=NAVI鈴木真人/写真=岡村昌宏(O)、洞澤佐智子(H)/2004年12月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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