ランドローバー・レンジローバースポーツ・スーパーチャージド(4WD/6AT)【試乗記】
英国紳士の筋肉 2005.12.12 試乗記 ランドローバー・レンジローバースポーツ・スーパーチャージド(4WD/6AT) ……1090万円 「ランドローバー」から第5のモデル「レンジローバースポーツ」が登場した。スポーティな派生車種と思いきや、それはこれまでの英国紳士然としたたたずまいから大きく飛び出したクルマなのだった。獰猛で、まがまがしい
英国紳士というと、伝統を重んじて軽佻浮薄なところはなく、上質なものを好むけれどこれ見よがしにはしない、というイメージがある。あからさまなマッチョは慎ましやかな英国趣味にはそぐわないもの、と思っていた。「レンジローバースポーツ」に乗るまでは。
フラッグシップの「レンジローバー」をちょっとスポーティにしただけのものかと思っていたのだが、まったく違うモデルだった。2002年に3代目となったレンジローバーは、モダンなデザインをまといながらも初代の無骨な面影を宿していて、近くで見ると小山のように悠々たるボリューム感をたたえている。しかし、このレンジローバースポーツは、一見して攻撃的だ。低く構えた姿は、力の凝縮を感じさせる。
フロントマスクの獰猛なことに、一瞬たじろぐ。硬質なメッシュグリルが、まがまがしい表情を形作る。巨大な電気ヒゲ剃りの刃のように見え、そこから剛毛が連想される。そう、このクルマにはシャツのボタンを三つ開けた胸もとやシルバーのゴツいブレスレットをはめた手首に、黒々とした毛がのぞいているフェロモンなオヤジが似合いそうだ。地味なツイードジャケットを着こなす、上品な枯れた紳士が乗るクルマではない。
全高は低いがアイポイントは高い
乗り込んでみると、これがまた普通のレンジとはまったく異質な空間なのだ。ウィンドスクリーンははっきりと寝かされ、インストゥルメントパネルも傾斜がつけられている。二つの面が鋭角を形作るので、どちらも立っていたノーマルモデルとは居心地が全然違う。全高が低くなっているのに、高いアイポイントの「コマンドポジション」は踏襲されているから、居住空間はどうしたって狭くなる。ただ、それが息苦しさをもたらすのではなく、タイト感がスポーティな雰囲気を作り出しているように感じられた。
試乗したスーパーチャージドモデルは、センターコンソールなどのトリムがウッドではなくロジウム仕上げとなっていた。レンジローバーといえば木と革で室内が飾られるのが当然という感覚からすれば、懸隔は大きい。かくして、あっけらかんと広く明るいスペースを身上としていたレンジとは、きっぱりと一線を画した設えであることが了解されるのだ。
視覚から得た印象は、走らせてみるとそのまま具体的な形となって現れた。エンジンを始動させるだけでも、荒々しい力強さを印象づけられる。電子式のパーキングブレーキを解除し、ゆっくりと右足に力を込めると、2.5トンの巨体は勇み立つように身を震わせて前へと進む。あまりお上品ではない振る舞いである。そのまま踏み込んでいけば、スムーズなZF製6段ATの手助けのもとに目覚ましい加速が始まる。もちろん、勇猛なサウンドの高鳴りを伴って。
明らかに次元が違う
レンジローバースポーツには、「ディスカバリー3」で採用されたテクノロジーが取り入れられている。モノコックとラダーフレームを融合させた「インテグレイテッド・ボディフレーム」構造をとり、オン/オフロードで最適な走行モードをロータリースイッチで選択する「テレインレスポンス」も採用された。今回の試乗ではオフロードを走る機会はなかったが、ディスカバリー3に乗った経験からすると、悪路走破性の高さは期待が持てそうだ。
新たに導入されたのは、「ダイナミック・レスポンス・システム」と名付けられたアンチロールコントロール装置である。コーナリングフォースを感知し、油圧モーターによってアンチロールバーの硬さを変化させるシステムだ。その恩恵なのか、山道でタイトなコーナーが連続するような場面でも、いささかの不安も感じることはなかった。レンジローバーが3代目になった時もそのハンドリングには感心したものだが、このモデルは明らかに次元が違う。
ハイパフォーマンスSUVのジャンルは、「ポルシェ・カイエン」「VWトゥアレグ」「トヨタ・ハリアーハイブリッド」など、多士済々である。「ジープ・チェロキー」も参入してきたし、「アウディ」のニューモデルも待ち構えている。オンロードでの使用がほとんどであるのはどのモデルにも共通していて、高速道路での移動や街中での使い勝手が商品性を大きく左右するのは当然である。そして、それ以上にユーザーにアピールするのはブランド性であることも確かだ。オフロードでの確かな実績を背景にした「マッチョな英国紳士」は、この激しい競争の中で間違いなく特別なポジションを手に入れそうな気がする。
(文=NAVI鈴木真人/写真=日高正嗣/2005年12月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】 2026.10.17 三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。
-
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】 2026.10.16 欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。
-
フィアット500トリノ ハイブリッド(FF/6MT)【試乗記】 2026.10.13 電気自動車からエンジン搭載車へと華麗に変身! 日本では珍しい、4代目「フィアット500」のマイルドハイブリッドモデルに試乗。1リッターの自然吸気エンジンを6段MTで駆るイタリアンコンパクトは、今のクルマが忘れてしまった楽しさに満ちていた。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.10.12 ボルボの電気自動車(BEV)「ES90」のトップモデル「ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」を駆り、東京から初秋の新潟へ。往復700kmを超えるロングドライブで分かった新型5ドアハッチバックモデルの実力と、BEVで気になる充電環境のリアルな今を報告する。
-
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.10.8 フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。
-
NEW
トヨタ・ランドクルーザー“300”GRスポーツ(4WD/10AT)【試乗記】
2026.10.19試乗記トヨタの「ランドクルーザー“300”」にハイブリッドパワートレイン搭載モデルが登場。環境負荷低減のために牙を抜かれた……どころか、電気の力を味方に、さらに力強さを増しているから面白い。愛知県のオフロードコースで乗った印象をリポートする。 -
NEW
フェラーリが「日本上陸60周年」 記念祭から“ブランドの今とこれから”を読む
2026.10.19デイリーコラム「日本上陸60周年」を祝うファン感謝イベントを開催したフェラーリ。自動車界に燦然と輝くハイブランドは、いま何を目指しどこに行こうとしているのか? 経営トップの談話を交えながら推察してみよう。 -
日産キックスX e-4ORCE(前編)
2026.10.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産キックス」に試乗。デザインが新しいのはもちろんのこと、まさに下ろしたての最新のパワートレインを搭載。日産の大きな期待を背負ったコンパクトSUVである。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。

































