TVRタスカンスピードシックス(5MT)【ロードインプレッション】
『火を噴く「S席」』 2000.10.24 試乗記 TVRタスカン・スピードシックス(5MT) ……1027.0万円 英国のスポーツカー、TVRを試乗するときにまずしなければいけないのは、どうやったら内側からドアを開けられるのかを聞くことだ。 「どうやったらドアが開くのですか?」 グリフィンならダッシュパネル下センタートンネル横のドアハンドルを引き、キミーラはトンネルコンソール上の球形ダイヤルを捻り、サーブラウでは内張り奥のボタンを押すと、ドアから外に出ることができる。 聞いておいてよかった。 タスカン・スピードシックスの場合は、オーディオ脇の小さなボタンを押すのであった。コトッ……。FRP製のドアが開いた。コンパクトなモンスター
TVRのニューモデル、タスカン・スピードシックスは、2+2スポーツ「サーブラウ」のシャシーを切りつめ、自社開発の4リッター直6ユニットを積んだ2シーター。鋼管を組んだフレームに、ファブリックを織り込んだ特殊なグラスファイバー製ボディシェルを被せるという、年産約2000台のスポーツカー専門メーカーならではの、凝った車体構造をもつ。
一見、クーペのようだが、フロントスクリーン上端部からクオーターガラスより前の部分のルーフを外せる、いわゆるタルガトップモデルである。
まったく奇怪な6ツ目のフロントマスクをもち、肉感的にうねるニュータスカンのボディサイズは、全長4235mm、全幅1720mm、全高わずかに1200mm。ホイールベースは、サーブラウより205mm短い2361mm。押し出しの強い外観とは裏腹に、マツダRX-7にスッポリ入るコンパクトさである。
玄人が唸るデザインのハイライトは、前後に分かれたボンネット。波形のスカットル側パネルが生み出す「隙間」が、エンジンルムームからの有効なエアアウトレットとなり、また、ダウンフォースを稼ぐ一助になる。ボンネットを開けたときに支える自重が小さくなるので、全体として軽くつくることができるのも利点だ。といっても、オイルや冷却水を補給するために開閉できるのは前ヒンジになったノーズ側だけ。キャビン寄りのパネルは、ボディに直接ボルトで留められる。
ピーター・ウィーラーの意図
地べたに座るがごとくの低い着座位置。エアポンプでランバーサポートを調整できる本革シート。短い足をペダルに投げ出そうとして、ハッとする。トウボード手前に、アルミ削り出しのペダルが、3本、稟として立っている。ペダルの取り付け剛性を高くしたかったのだろう、いまや珍しいオルガン式である。ドタ靴で踏みつけていいものか、躊躇する。
セキュリティを外してエンジンをかけると、「オヤオヤ」と思った。
「パーソナル」の革巻きステアリングホイールの奥のメーターには、大きく半円状に速度が刻まれ、中央のパネルに回転数などを表示するディスプレイ、その右下に燃料計、左に水温計の小さな窓が配される。エンジン始動と同時に、燃料、水温計を覆っていた薄いシャッターが、扇を閉じるようにゆっくりと開いていく。
「SFアニメを見ているようだ」。可笑しく思いながら内装全体に目をやると、木と革、そしてアルカンタラで覆われたサーブラウと比較して、ずいぶん質素な印象を受ける。
アルミメンバーがインストゥルメントパネルをブチ抜いて横切り、ドアトリムは樹脂にアルミの縁取り。シフトノブとパーキングブレーキが、これまたアルミの鈍い光を放つ。
ラグジュアリーな「2+2」と、スポーティな「2シーター」。TVRのボス、ピーター・ウィーラーの意図は明確だ。
襲いくるワンダリング
ちょっと聞いただけでハイチューンユニットとわかる不整脈を打ちながら、4リッターストレート6が唸っている。
「AJP8」と呼ばれるV8、GT1マシン用「スピード12」に続く、第3のTVR自製エンジン「SP6」は、各気筒4枚のバルブを、チェーン駆動による2本のカムで開閉するヘッドメカニズムをもつ。最高出力360ps/7000rpmの最高出力、最大トルク42.9kgm/5250rpm。オイル循環システムは、水冷式オイルクーラーを備えたドライサンプである。
撮影のために移動したとたん、「こりゃあ、レーシングエンジンだァ!」と驚いた。野太い音から想像していた重々しさは、まったくない。羽のように吹け上がる。
ブラックプールのオールアルミユニットは、各気筒ごとに吸入空気量を調整する6連スロットルを備え、しかもバタフライと燃焼室が極端に近づけられたレーシィなレイアウトをとる。フライホイールは軽量化され、アルミ鍛造ピストン、ニッケルクロムモリブデン綱のクランクシャフトなどが惜しげなく使われる。
撮影を終え、ひと鞭入れて山道に躍り出ると、リアビューミラーのカメラカーがたちまち小さくなった。1100kgに360ps。停止から96km/hに達するまで、わずか4.2秒。カーボン製のエンドをもつステンレスマフラーからの排気音が心地よい。
閉口したのは、深く掘られた轍にステアリングを取られるワンダリングで、前225/35ZR18、後255/35ZR18というオプション設定の超扁平かつワイドなタイヤを、いささかもてあます。なかなかスロットルペダルを踏み込めない。前後とも225/50ZR16のノーマルサイズだったらなァ……。
とはいえ、所期の興奮が醒め、ワンダリングをいなせるようになると、タスカン・スピードシックス、意外や乗り心地は悪くない。ダブルウィッシュボーンのサスペンションが、有効に働いているためだろう。スプリングは、アイバッハ製、車高調整機能を備えたダンパーは、TVRが開発したものだという。
野蛮なよろこび
「……マーケットリサーチ、あるいは練りに練ったアドバタイジングといった活動は、あまり真剣に行っていません」(タスカンのカタログより)。自動車メーカーに限らず、製造業を営む者にとって、一度は言ってみたいセリフなんじゃあないか。トレバー・ウィルキンソン由来の偏屈なスポーツカーは、生活の具たることをはなから放棄している。
スピードを上げるにつれ軽くなるステアリング、そしてボルグワーナー製5段ギアボックスからシフトレバーに伝わってくる熱を気にしながら考えた。
タスカン・スピードシックスは、エンターテインメント・マシンなのだ。6本のシリンダーに火を入れた際の大袈裟なシャッターの動きは、あれは緞帳が上がるところだったのか。タスカンの厚い革シートは、火を噴く興奮を提供する豪華な「S席」。日本での価格は948.0万円。
試乗時間が終わりに近づき、大慌てで山道を戻る。4本の対向ポットを備えたAPロッキードのブレーキが、おもしろいように速度を殺す。カチッとしたフィールが好ましい。
日向では乾いた、木の陰では湿った匂いが車内に飛び込む。ライトハンダーではセンタートンネルが、左に曲がるときにはドアの小物入れが格好のニーサポートになる。TVRの開発者もトバし屋ぞろいなんだろう。
タスカン・スピードシックスの楽しさは、自動車原初の野蛮なよろこびだ。次の世紀には、クルマであることをやめないと手に入らない。
緑の小道を走りながらフロントスクリーンにほんのり映るのは、20世紀においてきた恋人のうしろ姿。だからよけいにいとおしい。
(文=web CG 青木禎之/写真=郡大二郎/テスト日=2000.9.27)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD) 2026.8.22 DSオートモビルから登場した、新時代の旗艦モデル「N°8」。完全新設計のシャシーにアクティブサスペンションを組み合わせた電気自動車(BEV)は、往年の“ハイドロ”を思わせる乗り味と人車一体の走りを備えた、稀有(けう)なサルーンに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツCLA220(FF/8AT)【試乗記】 2026.8.21 メルセデス独自のオペレーティングシステムと、フル電動化を見据えた最新プラットフォームを組み合わせて開発された新型「CLA」。その先鋒として発売されたハイブリッドモデルの仕上がりを、セダンの上級グレードに試乗して確かめた。
-
マツダCX-5 L(4WD)【試乗記】 2026.8.19 マツダの販売の中軸を担うミドルクラスSUV「CX-5」が、3代目にフルモデルチェンジ。その完成度にはどうしても期待してしまうところだが、実車の仕上がりはどうだったのか? 絶対に失敗の許されない、マツダの基幹車種の実力に触れた。
-
トヨタbZ4XツーリングZ(FWD)【試乗記】 2026.8.18 クルマの進化か、充電インフラの進化か、それともCEV補助金拡充の効能かは定かではないが、ようやく日本の電気自動車(BEV)も普及期を迎えつつある。ことに「bZ4Xツーリング」は豊かな一充電走行距離と優れたドライバビリティーが自慢のトヨタの最新作だ。FWDモデルの仕上がりをリポートする。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【試乗記】 2026.8.17 BMWの新世代電気自動車の第1弾である「iX3」がいよいよ日本の道を走り始めた。さすが「ノイエクラッセ」をうたうだけあって、内外装だけではなく、運転感覚もまた新しい。「Mスポーツ」グレードの仕上がりをリポートする。
-
NEW
OEM車で自社製品らしさを出すために、多田さんだったら何をする?
2026.8.25あの多田哲哉のクルマQ&A他メーカーが開発したクルマを、自社製品として別の名前でユーザーに供給するOEM車。エンジニアの工夫次第で、オリジナルとは異なる独自の個性を出すことはできるのか? 元トヨタの車両開発者、多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
BMW 120オリジナル(FF/7AT)【試乗記】
2026.8.25試乗記BMWの主要モデルに新グレードの「オリジナル」が設定された。位置づけとしては新たなエントリーグレードということになるが、BMWらしさを損なうことなく装備を厳選し、価格を抑えたのがポイントだという。「1シリーズ」の「120オリジナル」の仕上がりをリポートする。 -
NEW
トライアンフ・スラクストン400(6MT)【レビュー】
2026.8.25試乗記カフェレーサーの本場である、イギリスのトライアンフがリリースした「スラクストン400」。車名のとおり、カジュアルに楽しめる400ccクラスのマシンではあるのだが、その実物からは、エントリーモデルとは思えない本物の香りが漂っていた。 -
NEW
スズキeスカイ プロトタイプ(FWD)【試乗記】
2026.8.24試乗記スズキが満を持して世に問う、軽規格の新型電気自動車「eスカイ」。軽乗用車の本質である、生活の足としてのちょうどよい性能を追求したという一台は、どのようなクルマに仕上がっているのか? 2026年秋の正式発表を前に、プロトタイプモデルに試乗した。 -
デビュー4年でどう変わる? 最新型「トヨタ・クラウン クロスオーバー」の詳細を予測する
2026.8.24デイリーコラム2022年7月のデビューから4年がたち、仕様変更が予告された「トヨタ・クラウン クロスオーバー」。では、どこがどう変わるのか? 最新型の発売を前に、さまざまな角度からポイントを予測してみよう。 -
トヨタRAV4アドベンチャー(前編)
2026.8.23思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「トヨタRAV4」に試乗。ご存じのとおり今やトヨタの屋台骨を支えるSUVであり、先代モデルではグローバルでの年間販売台数が100万台に到達。世界で最も多く販売されるトヨタ車の6代目だ。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。



