ジャガーXJシリーズ(6AT)【試乗記】
もう一世代 2003.06.12 試乗記 ジャガー XJシリーズ(6AT) 前モデルのデザインを踏襲しつつ、アルミ合金モノコックボディの採用などで、大きく中身が変わった「ジャガーXJ」。『webCG』エグゼクティブディレクター、大川 悠が全グレードを試乗し、印象を語る。はじめに
別なクルマのインプレッションを依頼されたときに、『webCG』コンテンツエディターのアオダンこと青木禎之に「ウン、XJジャガーなら興味あるけれどね」と言ったのは事実である。だから「じゃあ、書いて下さい」と、いつもどおりの有無を言わせぬ調子で依頼されたら、断るわけにはいかない。
というわけで、数日前に自動車専門誌『NAVI』の仕事で「3.5」に乗った後、小田原で開かれた試乗会では「4.2」「XJR」そして「Super V8」と、結局2003年5月31日から輸入販売が始まった全モデルのXJに乗ることになった。
せっかちだから、結論から言ってしまう。多くのメディアが報告しているとおり「基本的にはとてもよくできた大型プレスティッジカー」である。でも二つ懸念がある。一つは古くからのXJユーザーの意見で、多分「XJの固有の味が薄まった」という声が挙がるであろうこと。もう一つは私個人の感情で「気持ちはわかるけれど、あのスタイリングはやや後ろ向きと思う。特に中身が新しいのなら、やはりその外皮でも新しいジャガー像を提唱して欲しかった」ということだ。
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何はなくてもアルミボディ
新型の最大の価値はアルミボディにある。これはアウディのようなスペースフレーム方式ではなく、本格的なモノコックであり、同じアルミでもこちらの方が技術的には難しい。聖堂建築の場合は逆で、柱構造のゴシックがいわばスペースフレーム式なのに対し、壁構造のロマネスクはモノコック風で、歴史的にはこちらの方が古い。なんていう話は一見関係ないと思われようが、実は構造様式の変化は、創造されたものの精神まで変えるだけの力を持っていると考えるなら、やはり今回のジャガーの英断は、歴史的に大きく評価されるべきである。
アルミモノコック化によって素晴らしい軽量化を得た。従来より平均40%軽くなったという。しかしこれはボディシェルだけの数字であり、車重は先代が1710〜1775kgだったのに対し、新型は1680〜1750kgと、それほど変わっていないように見える。が、ホイールベースが165mm延び、5090×1900×1545mmと外寸が一まわり大きくなっていること、そして各種装備が格段に増えていることを考えるなら、実質的には相当軽くなったと言えるだろう。
それ以上の収穫は剛性の向上で、メーカーによればボディ剛性は60%高まっているという。それは実際に乗って、もっとも強い印象を受けた。つまり軽くて強い骨格、それこそこのクルマの最大の資産であることを理解した。
弱点を消し、伝統を生かしたジャガーライド
まずそのボディの価値は、乗り味全体で表現されている。サスペンション・セッティングやタイヤの違いによる硬軟の差はあるものの、基本の感覚は同じで、従来のXJの味わいを残しつつも大きく洗練された。
具体的には、全体で受ける大きな路面変化などにおける乗り心地は、従来にも増してソフトというより柔軟であり、一種のカーペットライドを実現する。そしてこれまで得意とは言えなかった、路地段差などの高周波領域での強い反応や、フロアが多少突き上げられるような感覚は、見事なほどに消え去った。要するに伝統のジャガーのライドを保ちつつも、それの弱点を完全に消している。やはり何といっても剛性向上が効いているからだろう。ただし従来のように、容量の大きなブッシュの変形に大きく委ねたような、一種の鷹揚さはなくなった。それをジャガーらしくないという人はいるかも知れない。
ステアリング・フィールもまた、ジャガーの味が薄くなったと表現する人もいるだろう。全般的にドイツのよくできたステアリングのように、際だってシャープではなく、応答性が大きく変化しなくなったからだ。しかし実際はかなりクイックで、大柄なボディのノーズは瞬間的にスムーズに向きを変えるし、その時のロール制御もドライバーの期待どおりである。
とても洗練されていながら、それでもあくまでスポーティなこの感覚にこそ、新しいボディ構造が大きく貢献している。
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小さなエンジンが意外といい
3.5、4.2、そのスーパーチャージャー版のXJR、そしてXJRエンジンを比較的ソフトな足まわりと組み合わせ、主としてリアの乗員のための装備をおごったSuper V8と各モデルが、明瞭に性格付けられているのもいい。
個人的には3.5でも充分だし、軽快で好ましく感じた。遅れて日本に入るはずの3.0のV6も相当いいと聞いている。一方、4.2は「Sタイプ」に初めて採用されたときは、そのスポーティさに感動したものだが、XJの場合は、何となくおとなしく感じる。普通のドライバーにとっては最適の選択なのだろう。
XJR用の406psユニットも、Sタイプのときは過給幾の音が耳障りなほどだったが、遮音材が効いているのか、吸気系が手直しされたのか、XJの場合はそれほど過激な印象は受けない。他モデルの235/50-18に対して、255/40-19サイズの「ピレリPゼロ・アシンメトリコ」を履くがゆえに、確かに硬派の乗り心地を示すが、それが決して苦痛ではなく、硬いなりに洗練されている。何よりもこのモデルで気に入ったのは、ブレンボのブレーキの応答性で、これだけはジャガー伝統の長めのペダル・ストロークを要求する他モデルとは異なる。ただしXJ全体の名誉のために言っておくなら、どのモデルもフェードにはかなり強い。
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冒険できないスタイリング
これもXJファンでは意見が分かれるところだが、室内は確実に大きくなった。特にリアのルームの拡大が効いている。ともかく長くなっただけでなく、それ以上に上下空間が増えた。それでも古くからのXJ乗りは、あのモータボートというかバルケッタに乗っているような、フロントルームの浅さがよかったんだと言いそうだ。リアも、“適度に狭いけれど居心地がいいのがイギリス風”だったともいうだろう。だが、やはり広い方がいい。荷室は相変わらず薄いが、それでも格段に容量は増えている。
ただし最後まで個人的に納得できなかったのは、内外のデザインだった。決して悪い形ではないし、誰が見たってジャガー以外の何ものでもない。でも、あそこまでボディ構造を変えたのなら、これを機会に新しいジャガースタイリングに挑んでもらいたかったと思う。もっと先を見て、なおかつジャガーネスを守り通すような、そういう造形に挑戦してもらいたかった。室内もSタイプやXタイプと基本造形、レイアウトはまったく同じで、価格相応に材質や仕上げがよくなっているだけである。つまりは相変わらず「ビクトリアン」にしがみついている。
でも大フォードの中でのジャガーの地位、特にアメリカ市場での重要性を考えるなら、XJでは絶対に冒険が出来ないことは承知している。ということは、まずはテクノロジーで大きな冒険をしたのだから、スタイリングはもう一世代待つということなのだろう、そう納得することにしよう。
(文=大川悠/写真=清水健太/2003年6月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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