第163回:カーマニアの回り道
2020.02.18 カーマニア人間国宝への道狙うはイタフラ車
新型「ハスラー」の「ハイブリッドXターボ」(FF/車両本体価格161万2600円)に2トーンカラーと約18万円のナビとフツーのETCを付けると、約185万円。それならば……というところから始まった妄想物語。憧れの「ジャガーXJ」や「XFスポーツブレイク」(ともに中古車)はちょっとムリという結論になったので、狙いはイタフラ車に転じられた。
まず思い浮かんだのは、憧れの「DS 5」だった。
あのデザインは本当にすごかった。あのデザインが欲しい! あんなのに乗って、「まぁ、センスのあるオジサマね」と美女に言われたい!
ただ、1.6のガソリンターボは「C5」で十分堪能したので、狙いは後期型に追加されたディーゼルターボだ。
ガーン! 全国に1台しか流通してない!(※執筆時点)
17年式、走行2.6万kmで258万円の「シックBlueHDiレザーパッケージ」(繰り返すが執筆時点)。ウルトラ魅力的だけど、ハスラーよりだいぶお高いなぁ。この流通量と価格じゃ「ハスラー買うならDS 5!」とは、ちょっと言えない。
もうちょっとクルマのランクを下げてみようと思った瞬間、目にとまったモデルがあった。「C4カクタス」である。
うおおおお、C4カクタス、いい! タマも全国に30台ある! お値段も中心価格帯が170万円くらい! ちょうどハスラーともガチ!
私はそのうちの1台に狙いをつけ、早速現場の中古車店に急行することにした。
考えてみりゃ「DS3」を買った時も、こんな感じでスッ飛んでってその場で買ったんだった。悪い予感。
「C4カクタス」はクセになる
現場のお店に到着すると、そこには確かにC4カクタスがあった。17年式の走行1.5万kmで、価格は178万円である。
この値段、確かに新車のハスラーといい勝負だが、カクタスの新車価格(238万円)を考えると、決してお安くはない。カクタスは200台限定だったので、希少価値が高いのだろう。
実は私、カクタスの正規モデルには乗ったことがなく、試乗体験は並行輸入のディーゼルターボモデルだけ。1200ccのガソリンノンターボ+シングルクラッチセミATの乗り味はどんな感じなのだろうか? 出発前、『webCG』の今尾直樹さんの試乗記(とぼけた味がいつもステキ)を駆け込みで読んでおいたが、やっぱり自分で動かしてみたい。
お店の人に、「場内だけでいいから試乗させてもらえないか」とお願いすると、車検残があったので近所を一周することを快諾してくれた。ヤッター! いまさらながらのカクタス初試乗だ。
エンジンをかけ、インパネ中央下にあるマヌケなボタンを押してDレンジに入れる。セミATだけにクリーピングはないが、アクセルを踏むと実にスムーズに発進した。
おお! ちゃんと低速トルクがある! 今尾さんは「極低速トルクは超細い」と書いていたが、個体差なのか、まったく問題なくふんわり発進する!
そこからの加速も、「遅い」「『シトロエン2CV』のようにのんびりしている」とされていたが、今度こそシフトアップで失速するのかと思いきや、そうでもないので「速い!」と感じる。今尾さんのおかげで期待値が猛烈に下がり、脳内評価はうなぎのぼりだ!
最終的に今尾さんは、「これが実にイイ」「ヘンテコを愛すすべての人のためのクルマ」とカクタスを絶賛しているのだが、ホントにまったくヘンテコで実にイイ! この感じがクセになるのは、やっぱりカーマニアだからでしょうか。
「C3」の限定車も魅力的
このクルマ、欲しい!
しかし私はそこでハタと立ち止まった。
この遅さがステキすぎるC4カクタスに、178万円を出すのはどうなのか。だったらすぐそばに並んでいる、わずか1年落ちで168万円の値札がついた「C3」(現行モデル)のほうがよくないか?
なにせC3は、このエンジンにターボが付いているのだ。トランスミッションはのんびり屋さんのセミATじゃなく、アイシン・エィ・ダブリュ製の6段トルコンATだ。ついでに自動ブレーキやACCも付いているのだ。性能差はあまりにも歴然としている。それでいて10万円安いのだ!
しかもしかもこのC3、ボディーカラーがものすごくハデ! 「JCC+」という限定100台の特別仕様車らしく、そのたたずまいは熱帯地方の毒蛾(ドクガ)のように妖しい。ベースはブラックでルーフに赤、ドアミラー等に黄、フォグランプまわり等に青という満艦飾。黒の上に色の3原色が全部ブチ込まれているのだ! 見てると色彩感覚が破壊されてクラクラしてくるが、これがまたクセになる! カクタスののんびりした走りもクセになるけど、逆方向から引き込まれるぅ!
私はどっちを買えばいいのだろう……。
どっちもメチャメチャ惹(ひ)かれたんだけど、どっちか決められなかったことで冷静になることができまして、「もうしばらくDS3に乗り続けよう」という、大変まっとうな結論になりました。よかった……。
新型ハスラーを出発点に、思えば遠くへ来たもんだ。これがカーマニアの回り道。
(文と写真=清水草一/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。