スバルWRX STI tS TYPE RA NBR CHALLENGE PACKAGE(4WD/6MT)
売り切れ御免 2013.08.02 試乗記 スバルのモータースポーツ活動を担うSTIが、実戦で得たノウハウを注ぎ込んで作り上げた300台の限定モデルに試乗。現行型「WRX STI」の完成形という、その走りに触れた。単なるうたい文句ではない
乗り終えて、じわじわ満足感が全身に満ちてくるのを実感させられる「WRX STI tS TYPE RA」。もともと「スバル・インプレッサ」は満足度が高い。「WRX STI」ならスポーツ心も満たされる。「スペックC」なら望外の幸せに浸れる。そのすべてを上質のゼリーに封じ込めたようなのが、今度の新型「TYPE RA」。ドライバーとしてだけでなく人間としての成熟を感じさせてくれて、「まるで運転がうまくなったように感じる」というのは本当だ。
それにしても、テストの前に説明を聞いてしまったのは失敗だった。スバルやSTIの技術者のクルマ話はオタクっぽく微に入り細をうがつので、聞くだけでクルマ全体がわかってしまったような気になる。そんな精神状態で乗るから、すべて納得せずにいられないのだ。すべてを詳しく報告するスペースはないから、特に注目すべき感触のみを取り上げておこう。
STIの息がかかったインプレッサだから、もちろん速い。とてつもなく速い。それも当然で、全長4.6m、重量1.5トン足らずなのに水平対向4気筒2リッターターボは最高出力308ps/6400rpm、最大トルク43.8kgm/3200rpmの怪力なのだ。しかもボールベアリング支持のターボだから瞬間的に回転が上がり、アッという間にトゥルルルル~ッと8000rpmのレッドゾーンまで飛び込みそうになる。
興味深いのは、このエンジンだけでなく6段MTもベースのスペックCと同じはずなのに、3500rpmを超えてからのパンチの盛り上がりを、より強く感じたこと。全域フラットトルクが常識になった今では珍しいドッカンタイプだ(ただし超低回転でも粘ることは粘る)。全身くまなく戦闘モード的なスペックCでなら「そんなもんだろう」と思えたものが、成熟した雰囲気のRAでは、実際以上に目立ってしまったのかもしれない。
こうなると、1、2速以外のギアでは2000rpm以下を使うのがためらわれ、必要以上にシフトダウンしたくなる。これを味わうにつけ、大人のスポーツセダンとして、STI単独ではなく親会社の富士重工が、時代の先端を行くDCT(デュアルクラッチトランスミッション)とパドルシフトの開発に乗り出してくれたらと思う。
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細やかな処置で確かな手応え
それでもクルマに自然な落ち着きを感じるのは、シャシーの総合的な味付けによるところが大きい。専用ラック&ピニオンでステアリングのギア比が13:1から11:1に速められただけでなく、前輪タイヤの接地感が絶妙なので、操作するというより、行きたいと思った方向へス~ッと吸い込まれるように曲がってくれる。接地感といってもガチッと強烈ではなく、ねばねば執拗(しつよう)に食いつく感じなのだが、それが鈍さになっていない。ただしS字カーブの切り返しで、一瞬だけ手応えが頼りなく思える瞬間は残っている。
スペックCより乗り心地がソフトに思えるのは、おそらくタイヤの違いだろう。同じ「ブリヂストン・ポテンザRE070」ながら、切った瞬間ガキッと踏ん張り感を叫ぶのではなく、しなやかさを重視したケース剛性設定のため、ある程度は自由に変形しているらしい。コーナー進入の瞬間、一気に最大荷重をかけることにより性能を発揮しやすいスペックC用に対し、こちらは入力の大小に正比例して、必要な性能を正直に発揮するタイプだ。
それなのに反応の遅れが気にならないところに、サスペンション取り付け部のヒステリシスをあらかじめ取り除く「フレキシブルドロースティフナー」の効果が、そこはかとなく現れたと見よう。こういう微妙な手当てはSTIの特技で、かつて「S204」に採用されたパフォーマンスダンパーも、言われなければ判然としないが、結果としての効果は明らかだった。
逃したファンの叫びが聞こえる
これらを総合してみると、従来のどのSTI製インプレッサより、クルマとしての完成度は高い。今回のテスト車は、ニュルブルクリンク攻略イメージの「NBR CHALLENGE PACKAGE(チャレンジパッケージ)」にオプションのレカロシートを取り付けたもので、508万2000円にもなるが、もしノーマルのWRX STIの各部を一つ一つRA化したら、総額で700~800万円には届くだろう。特にレカロシート(単体で買ったら、フロント片方だけで50~70万円?)は秀逸で、ほっくり上品に体を包み込んで支え、瞬間ごとにクルマとの一体感を演出してくれる。そのうえでぜいたくを言えば、これほどの高価格車なのだから、ゆったり広めのタイプだけでなく、きっちりタイトなものも選び分けられたらうれしい。
うれしくないのは、7月2日の発売から間もなくテストして、急いでリポートを用意したのに、もはや限定300台はそろそろ完売(うち200台のNRBチャレンジパッケージは、すでに完売済み)という現実。さすがSTI の人気だが、出遅れてじだんだを踏んでいるスバリストは少なくないはず。正式発売までに、舞台裏で情報が飛び交って売り切れるという事態はフェアとはいえない。ファン総立ちの限定モデルの売り方をどうすべきか、今後に向けて検討すべき課題だろう。
(文=熊倉重春/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
スバルWRX STI tS TYPE RA NBR CHALLENGE PACKAGE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4605×1795×1465mm
ホイールベース:2625mm
車重:1460kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブツインターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:308ps(227kW)/6400rpm
最大トルク:43.8kgm(430Nm)/3200rpm
タイヤ:(前)245/40R18 93W/(後)245/40R18 93W(ブリヂストン・ポテンザRE070)
燃費:--km/リッター
価格:483万円/テスト車=508万2000円
オプション装備:RECARO製バケットタイプフロントシート(アルカンターラ/本革、「STI」ロゴ黒刺しゅう、赤ステッチ入り)+リアシート(アルカンターラ/本革、赤ステッチ入り)+本革センターアームレスト+SRSサイドエアバッグ+SRSカーテンエアバッグ(25万2000円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:1593km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

熊倉 重春
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