ジープ・レネゲード トレイルホーク(4WD/9AT)/レネゲード リミテッド(FF/6AT)
「Jeep」という名の神通力 2015.09.15 試乗記 ジープ初のコンパクトSUV「レネゲード」に試乗。フィアットとの共同開発になろうと、生産地がイタリアになろうと変わらない、ジープならではの魅力とは?フレンチブルドッグじゃん!
「フレンチブルドッグじゃん!」
それがジープ・レネゲードを目の当たりにした第一印象だ。スモールSUVとはいうものの、小さいというよりはギュッとしたカタマリ感が強く、ブルドッグ特有の短くも筋肉質な四肢をほうふつとさせる。顔もまたいじらしいほどにクシュッとしていて、もはやフレンチブル以外には見えなくなってしまった。
いつだったかテレビでフレンチブルドッグの魅力を伝える番組を見て以来、かなり気になっている。もし何かの縁でこいつの赤ん坊に出会っちまったら、どこかで静かに眠っているはずの衝動を抑えることができないかもしれない。なんてことを胸に秘めていた折にレネゲードを目の当たりにしたから、「これはちょっとヤバいかも?」とブルッとしたのはシャレなんかじゃない。
神奈川県藤沢市の湘南T-SITEで開催されたジープ・レネゲードのデビューイベント。特設ブースなどが設けられ、なかなか盛大だった。おやっと思ったのは、ブース内に「ウィリス・ジープ」が展示されていたことだ。クロカンだのSUVだのといろんな呼び名がつくものの、このアメリカ製軍用車は四駆の祖であり、ジープの源流でもある。その横に真新しいレネゲード。何でまたウィリスなのだろうと、ちょっと不思議だった。そのささいな違和感は、レネゲードの随所からにじみ出していることを後に知るのである。
「ウィリス」から始まった違和感
「レネゲードはジープの新しいファミリーです。『グランドチェロキー』が父親なら、レネゲードはやんちゃな末っ子」。そう語ったのは、今回のイベントのために来日したFCA(FIAT CHRYSLER AUTOMOBILES)のクラウス・ブッセ氏だ。ドイツ生まれのこの人の肩書はインテリアデザイン担当バイスプレジデント。メルセデス・ベンツ・デザインに10年務めた経歴を持っている。裏を取っていないが、1998年から2007年のダイムラー・クライスラー時代を経て、言葉を選ばずに言えば、それまでペラペラだったクライスラーのインテリアデザインを著しく向上させたのは、ブッセ氏をはじめとするドイツ系の人たちだろう。
企業方面の話題に達したところでレネゲード誕生の背景を説明しておきたい。フィアットとクライスラーが経営統合してFCAが誕生したのは2014年1月。その新体制で初めて共同開発を行ったのがレネゲードだ。狙いをつけたのは、世界中で大人気のスモールSUV市場。そこに小型車はお手の物のフィアットの経験と、スモールSUVは初めてながらジープの得意分野でもあるオフロード技術を融合させた新型車を投入する、というのが物語のあらすじ。
ただし、FCAの新型車はジープブランド以外でも発売される。日本でも間もなくデビューする予定の「フィアット500X」。このチンクエチェントのクロスオーバー版とレネゲードは、プラットフォームが同じなのだ。搭載エンジンのバリエーションも四輪駆動システムも同一。ブランドの統合では珍しくないパターンだが、バッジを替えた程度で「新しいジープです」「新型フィアットです」とは言いにくい。そこで各ブランドのデザインは旧陣営がそれぞれ手がけることになった
ジープにはまだ“お初”がある。従来はほぼアメリカ国内で生産を行ってきたが、レネゲードの生産拠点は旧フィアットのイタリア工場になる。さらに今後はブラジル新工場での組み立てや中国の広州汽車との合弁生産も始まるという。となればますますアメリカ純度が薄まっていく。そうしたこともあり、ジープファンの失望をかなり危惧しているのではないか? だから新車発表会でウィリスを引っ張り出し、ジープの血統をことさら強調した……?
「SINCE 1941」で疑念が加速する
先のクラウス・ブッセ氏によれば、これまでのジープにはいささか若さが足りなかったという。そこで今回のインテリアデザインは入社間もない24歳のデザイナーに任せ、既成概念を取っ払う試みをしたそうだ。細部のデザインもエクストリームスポーツからヒントを得た造形とし、また随所に“隠れキャラ”を配するという遊びも用意したという。ふむふむ。インテリアに限らず、オレンジやイエローといったボディーカラーも含め、確かにレネゲードはポップだ。
ただし、ダッシュボード中央、モニターの上の刻印を発見して、抱いていた疑念が加速した。「SINCE 1941」。これは、第2次世界大戦でアメリカ軍がウィリスを実戦投入した年号。つまりジープはそこから始まり、このレネゲードに伝わっていると、そう訴えたかったのではないか。気持ちはわかる。何かと新しいことだらけで不安が拭えないのかもしれない。けれどわざわざこんなに目立つところに刻まなくてもいいんじゃないのか?
悩まし過ぎるグレード選択
ぐだぐだと勝手な疑念を書き連ねてきたが、クルマのことを伝えなきゃなりません。日本で販売されるグレードは3種類。輸入SUVモデルとしては破格の297万円、というトピックを引っ提げるのは「オープニング エディション」だ。これ、あまりにお得。必要なものはほぼそろっている。そのオープニング エディションにレザーシートや17インチアルミホイール(オープニング エディションは16インチ)などの豪華装備を加えたのが313万2000円の「リミテッド」。
これら前輪駆動の2グレードに搭載されるドライブトレインは、旧フィアットが用意した1.4リッター直列4気筒マルチエア16バルブターボエンジン+6段乾式デュアルクラッチAT。燃費を稼ぐのが目的で、オープニング エディションではジープブランド最高の15.5km/リッターを達成しているという。
このエンジン、300万円前後のデザインに力を入れたクルマだと考えれば悪くない。濁音系のノイズと振動はあるが非力ではないし、ある意味ではクロカンっぽいラフな雰囲気も楽しめる。ただ、四輪駆動の「トレイルホーク」と比較してしまうと、どうだろう。
340万2000円の値札が付くトレイルホークのエンジンは、2.4リッター直列4気筒「タイガーシャーク」マルチエア16バルブ。トランスミッションはスモールSUV初の9段AT。と、この組み合わせは新型「チェロキー」と同じだ。さらに四輪駆動システムには路面状況に応じて5つの走行モードが選べる「セレクテレインシステム」を標準装備するなど、ジープのテクノロジーが満載されている。
その運転感覚、1.4リッターのレネゲードと同じクルマかと疑うほど滑らか。振動も確実に軽減されている。オープニング エディションとは約43万円のギャップがあるが、これはこれでお得だと思う。「ジープなら四駆でしょ」と言い切る人ならトレイルホークで間違いない。でも、初期投資やランニングコストを考えるならオープニング エディションも捨てがたい。そこ、かなり悩ましい。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
愛すべき“ちっちゃいジープ”
さて、先ほど述べた疑問についてそろそろ決着をつけたい。もし仮に新体制のジープが何かしらの懸念を持っているのなら、「そんなこと心配しないで大丈夫ですよ」と、そっと肩に手を添えたい気分だ。ブッセ氏にもそうしたかったけれど、この人は相当に背が高いので手が届かなかったが。
いやまぁ、ブッセ氏にしてもFCAにしても、そんな心配は元からないのかもしれない。勝手に心配し、難癖のような疑念を持ち出しているのは自分のほうだ。とどのつまり、あれこれネタを繰り出したところでユーザーにはどうでもいい話なのだと思う。グローバリズムなくして企業の生き残りが果たせないこの時代、企業が合併しようがどこで生産されようが関係ない。それよりも製品としてどんなメリットがあるのか、わが家に迎え入れる家族として愛せる存在たり得るのか、それがすべてではないだろうか。そこに興味が集約するとき、ジープというブランドには強大な力があることを悟るのだ。
こんなことを言ったら怒られるだろうが、伝統の7スロットグリルと丸型ヘッドライトの顔にすれば、いやが応でもジープに見える。さらに旧フィアットとプラットフォームを共有することで生じたいくつかの制約によって、フレンチブルドッグみたいな愛らしいフォルムを持つことができた。いや、全員がフレンチブルドッグに見えるわけではないけれど、少なくとも誰かにどんな新車を買ったんだと問われたら、こういう返答はできると思うのだ。
「ちっちゃいジープ」
これ、相当にポイントが高い。「でっかいフィアット」とか「カッコいいトヨタ」とか、各ブランドに対してケンカを売る気など毛頭ないけれど、それらとはまったく違った響きがあると感じませんか? そこに潜んでいるのがジープの普遍的ブランド力。わが家にちっちゃいジープを招き入れる家庭、決して少なくないと思う。
(文=田村十七男/写真=荒川正幸)
拡大 |
テスト車のデータ
ジープ・レネゲード トレイルホーク
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4260×1805×1725mm
ホイールベース:2570mm
車重:1580kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 SOHC 16バルブ
トランスミッション:9段AT
最高出力:175ps(129kW)/6400rpm
最大トルク:23.5kgm(230Nm)/3900rpm
タイヤ:(前)215/60R17 96V/(後)215/60R17 96V(グッドイヤーVector 4Seasons)
燃費:10.4km/リッター(JC08モード)
価格:340万2000円/テスト車=358万7004円
オプション装備:カーナビゲーションシステム<カロッツェリアAVIC-MRP600>(9万9360円)/エクステリアガーニッシュセット(1万8144円)/ETC車載器(1万260円)/フロアマット(2万3760円)/バックカメラ(3万3480円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2802km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
ジープ・レネゲード リミテッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4255×1805×1695mm
ホイールベース:2570mm
車重:1460kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 SOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:140ps(103kW)/5000rpm
最大トルク:23.5kgm(230Nm)/1750rpm
タイヤ:(前)215/60R17 96V/(後)215/60R17 96V(ミシュラン・プライマシー3)
燃費:14.6km/リッター(JC08モード)
価格:313万2000円/テスト車=331万8300円
オプション装備:カーナビゲーションシステム<カロッツェリアAVIC-MRP600>(11万8800円)/ETC車載器(1万260円)/フロアマット(2万3760円)/バックカメラ(3万3480円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1625km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

田村 十七男
-
フィアット500トリノ ハイブリッド(FF/6MT)【試乗記】 2026.10.13 電気自動車からエンジン搭載車へと華麗に変身! 日本では珍しい、4代目「フィアット500」のマイルドハイブリッドモデルに試乗。1リッターの自然吸気エンジンを6段MTで駆るイタリアンコンパクトは、今のクルマが忘れてしまった楽しさに満ちていた。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.10.12 ボルボの電気自動車(BEV)「ES90」のトップモデル「ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」を駆り、東京から初秋の新潟へ。往復700kmを超えるロングドライブで分かった新型5ドアハッチバックモデルの実力と、BEVで気になる充電環境のリアルな今を報告する。
-
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.10.8 フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。
-
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】 2026.10.7 新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。
-
スバル・レヴォーグ レイバック プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)【試乗記】 2026.10.6 「スバル・レヴォーグ レイバック」にストロングハイブリッド搭載モデルが登場。高効率なパワーユニットが積まれたのはもちろんのこと、既存の純エンジン車とはデザインやボディーサイズも違っているというから興味深い。上位グレードの「プレミアムS:HEV EX」を試す。
-
NEW
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
NEW
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。 -
スズキの未来を徹底検証! 技術戦略説明会から“10年先のスズキの姿”を夢想する
2026.10.16デイリーコラム年間生産500万台で、Dセグメントまでカバーする巨大メーカーに!? スズキが発表した「10年先を見据えた技術戦略2026」を徹底検証。技術開発に製品開発、インドを核としたグローバル戦略などの中身を通して、「10年先のスズキの姿」を予想した。 -
賢い選択 ――キャデラック「LYRIQ」フラットプランのすゝめ――
2026.10.15投資家も太鼓判! 「キャデラック・リリック」×フラットプランという最適解<AD>クルマが変わり、時代も変われば“持ち方”だって変化する? お金のプロである投資家が、「キャデラック・リリック」の残価保証型リースを勧める理由とは? 夢の「2台持ち」をかなえる、最新電気自動車の賢い選び方を考えた。 -
間もなく正式発表 ミツオカの新型2シータースポーツカー「LA1」を予測する
2026.10.15デイリーコラム光岡自動車が2026年11月26日に正式発表を予定しているアメリカンスタイルの新型2シータースポーツカー「LA1」。現在公開されているLA1の画像とティーザーサイトに掲載された情報から、その特徴を分析する。





























