マセラティ・ギブリ ディーゼル(FR/8AT)
ディーゼルでも高速系 2016.07.04 試乗記 ディーゼルが退屈な実用エンジンだったのも今は昔、もはやマセラティのノーズにまで収まる時代になった。「ギブリ」の最新モデルとしてこの春、ラインナップに加わった「ギブリ ディーゼル」は、モデナの名門にふさわしいマナーと走りを披露するのだろうか。マセラティもディーゼル
ヴィスコンティの映画の中の貴族のように、そのまま穏やかに黄昏を迎えるかに見えたイタリアの名門ブランドは、今や業界の注目の的である。100年を超える波瀾万丈の歴史を持つ名門にとって初めてのディーゼルモデルをアッパーミディアムクラスのギブリに投入(「クアトロポルテ」にもある)、ついにはSUVの「レヴァンテ」もデビューした。このレヴァンテが軌道に乗った暁には、悲願だった米国市場でも足場を固め、年間5万台レベルのビジネスを確立する計画という。日本市場での伸長も目覚ましく、ギブリのデビューとともにここ2年ほどは年1500台レベルまで一気に増加している。21世紀を目前にしてフェラーリ傘下に組み入れられた時は年に1000台も生産できなかった名門ブランドが、現代のプレミアムカー・メーカーとして見事に復活を遂げたことは、まことに稀有(けう)な例であるといえるだろう。
かつて夢のような傑作レーシングカーやエキゾチックカーを生み出した歴史と伝統を持ち出して昔を懐かしむつもりはないが、それでもディーゼルエンジンを積んだ“ギブリ”を目の前にすると、時代が変わったことを感じないわけにはいかないのだ。
ガソリンV6ターボモデルと見分けがつかないスポーティーでエレガントなセダンに搭載された3リッターV6直噴ターボディーゼルが生み出すパワーとトルクは、275ps(202kW)/4000rpm、600Nm(61.2kgm)/2000rpmとかなりのハイスペックだ。一時期は代名詞のようだったトランスアクスル配置ではないが(車検証記載の前後重量配分は55:45)、トランスミッションはシフトパドル(パッケージオプションの一部)付きのZF製8段オートマチックで、メーカー公称値は最高速=250km/h、0-100km/h加速=6.3秒を主張する。車重2トンを超える大型セダンとしては文句なしのパフォーマンスである。
2000rpmで事足りる
ご存じのようにギブリはクアトロポルテの弟分に当たり、全長は30cm、ホイールベースも17cm短いが、それでも全長×全幅×全高は4970×1945×1485mm、ホイールベース3000mmという堂々としたサイズで、全高も意外に高く間近で見るとかなりのボリューム感を持つ。「メルセデス・ベンツEクラス」より大きく、「Sクラス」よりちょっと小さいだけだから、他のメーカーならフラッグシップといっても十分に通用するぐらいの巨大なセダンである。もっとも、その割に室内はそれほど広くはない。マセラティは外寸にかかわらずタイトな室内が特徴である。リアシートももちろん窮屈ではないが、全長5m級のセダンと考えて実際のスペースにがっかりするといけないので、この点には留意すべきだ。あくまでパーソナルなドライバーズカーがマセラティの第一義だ。
エンジンを始動すればさすがにディーゼルと分かるが、それを理由に敬遠するような種類のバイブレーションやノイズを心配する必要はない。無論、あの泣き叫ぶように回る自然吸気V8エンジンの切れ味は昔話で、最新のギブリ ディーゼルはかすかなうなりとともに粛々と走る。メーター100km/hはトップギアで1500rpmぐらいだが、有り余るトルクをもってすれば、どのギアでも2000rpmまで使えばたちまち独走状態となる。ちなみにスポーツモードを選択するとディーゼルらしからぬワイルドな排気音に変化するのは、マセラティの意地かもしれない。
飛ばすと輝く一族
アルミとスチールを使い分けた、いわゆるハイブリッド構造ボディーの骨格そのものはしっかりしているが、乗り心地は良路と悪路の落差が大きいタイプである。滑らかな道ではスムーズでフラットなのに、荒れた舗装を踏み越えるような際には、バシン、ドシンとビックリして目が覚めるほどダイレクトな衝撃が伝わってくることもあった。しかも振動が少し尾を引くことが気にかかる。どこかに建て付けが緩い部分があり、振動がそこに集まって音になるといった感覚だ。足まわりなのかサブフレームなのかは分からないが、隅々まできっちり締め上げられていないフィーリングが惜しい。
もっとも、スピードが高くなればなるほど腰が低く据わって落ち着きが増し、ハーシュネスが気にならなくなるのはクアトロポルテと同様だ。ステアリングフィールも低速ではなんとなく上滑りしているようで心もとなく感じられるが、これもスピードが増せばしっかり頼もしいフィールに変わり、微妙な操作にもすかさず正確に反応してくれるようになる。まるでピントが合うのはこの速度以上、と定められているようだ。
ギブリ ディーゼルは本来ノーマルサスペンションでタイヤサイズも18インチが標準だが、この試乗車には「20インチ・スポーツパフォーマンス・パッケージ」(約71万円)なるオプションパッケージが備わり、それに伴って電子制御可変ダンパーが装着されていたことも理由かもしれない。ちなみに他にも「フル・プレミアムレザー」(約35万円)、「ツーリング・パッケージ」(約29万円)など総額200万円以上のオプションが加えられており、合計では1150万円余りに達する(車両本体価格は933万円)。
あの華麗さを思い出す
いかにも華奢(きゃしゃ)で汚れやすそうだが、艶(なま)めかしくゴージャスなマセラティのインテリア、というものを期待していた私にはギブリの内装は、正直言ってもうひとつである。使用されているレザーは一級品で、シートそのものもアンコが詰まった分厚く快適なものだが、スイッチ類の見栄えや操作感はクアトロポルテとは明らかに異なる。フィニッシュのレベルも発展途上というか、やや組み付けが甘い部分、例えばかみ合わせが狂っていてきちんと閉まらないセンターコンソールのリッドなども散見された。それこそマセラティらしいじゃないか、と古い人は言うかもしれないが、少量生産車の手作業の見落としと、大量生産における精度レベルの違いでは、自(おの)ずと与える印象が違う。
メーターやカーナビなどの表示も、いささか配慮が行き届いていないように感じられた。ひと昔前のエキゾチックカーなら大目に見られてきたことも、台数が増えれば、すなわち好事家以外の顧客が乗るようになれば、弱点として指摘されるようになるということを理解してさらに神経を使わなければならないだろう。
そうは言いながらも、このエレガントな雰囲気はドイツ勢には求め得ない独特のものだ。およそ300km走って平均12km/リッターは、マセラティとしてはこれまでにない優秀な燃費であることも確かである。実用性だけではないラグジュアリーセダンとなれば、やはりリストの一番上に挙がるのも、もっともなのである。
(文=高平高輝/写真=小河原認)
テスト車のデータ
マセラティ・ギブリ ディーゼル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4970×1945×1485mm
ホイールベース:3000mm
車重:2040kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:275ps(202kW)/4000rpm
最大トルク:61.2kgm(600Nm)/2000-2600rpm
タイヤ:(前)245/40ZR20 99Y/(後)285/35ZR20 100Y(ピレリPゼロ)
燃費:5.9リッター/100km(約16.9km/リッター EU複合サイクル)
価格:933万円/テスト車=1150万5431円
オプション装備:コンフォート&アシスタンス・パッケージ(15万7372円)/20インチ・スポーツ・パフォーマンス・パッケージ(71万6914円)/ツーリング・パッケージ(28万6972円)/ブラック・ピアノ・インテリア・トリム(21万1886円)/ブラック・ピアノ&ベージュ・ステアリング(9万514円)/フル・プレミアム・レザー(35万1772円)/トライコート・ペイント(ロッソ・エネルギア)(23万9657円)/レッド・ペイント・ブレーキ・キャリパー(5万4515円)/自動防眩(ぼうげん)サイド・ミラー(6万5829円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:4226km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:295.1km
使用燃料:24.6リッター(軽油)
参考燃費:12.0km/リッター(満タン法)、8.3リッター/100km(約12.0km/リッター 車載燃費計計測値)

高平 高輝
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.10.12 ボルボの電気自動車(BEV)「ES90」のトップモデル「ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」を駆り、東京から初秋の新潟へ。往復700kmを超えるロングドライブで分かった新型5ドアハッチバックモデルの実力と、BEVで気になる充電環境のリアルな今を報告する。
-
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.10.8 フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。
-
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】 2026.10.7 新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。
-
スバル・レヴォーグ レイバック プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)【試乗記】 2026.10.6 「スバル・レヴォーグ レイバック」にストロングハイブリッド搭載モデルが登場。高効率なパワーユニットが積まれたのはもちろんのこと、既存の純エンジン車とはデザインやボディーサイズも違っているというから興味深い。上位グレードの「プレミアムS:HEV EX」を試す。
-
アウディA6アバントTFSIクワトロ200kW(4WD/7AT)【試乗記】 2026.10.5 今も昔もアウディの中核を担うアッパーモデル「A6」。その最新世代の「アバント」に試乗した。堂々とした優雅なボディーに最新のハイブリッドシステムを搭載したステーションワゴンは、いかなる走りを見せてくれるのか。その実力をリポートする。
-
NEW
「BYDラッコ」「スズキeスカイ」登場で卍どもえに 軽乗用BEVの覇権はどこが握る?
2026.10.14デイリーコラムこれまで「日産サクラ/三菱eKクロスEV」と「ホンダN-ONE e:」のみだったところに「BYDラッコ」と「スズキeスカイ」が加わり、軽BEV市場がにわかに盛り上がりを見せている。どれもほぼ同じ床面積を持つBEVだが、比べてみるとその中身は結構違う。今後の覇権を握るのはどの陣営か。 -
NEW
第132回:軽EVのデザインを考える(前編) ―「スズキeスカイ」にみる“大衆車メーカー”スズキのスゴみ―
2026.10.14カーデザイン曼荼羅希代の凡作か? 実はすべてが計算のうちか? スズキ初の軽乗用電気自動車「eスカイ」の造形を、カーデザインの識者と考察。つかみどころのないイメージの背景にある、“大衆車メーカー”スズキの慧眼(けいがん)に思いをはせた。 -
NEW
先進のSUV「エクストレイル」という選択
2026.10.13SUVのフロントランナー 日産エクストレイルの魅力に迫る<AD>4代・四半世紀にわたって進化を重ね、SUVブームのなかでも開拓者であり続けてきた「日産エクストレイル」。その先進技術がもたらす“乗ればわかる喜び”とは? 最新世代の到達点について、詳しくリポートする。 -
自動運転はこの先10年でどこまで進化できる?
2026.10.13あの多田哲哉のクルマQ&A自動車業界において、再び話題になる機会が増えてきた「自動運転」。この先はどのように進化・普及するのか。既存の先進運転支援システムで十分ではないのか? 元トヨタの車両開発者、多田哲哉さんの見解を聞いた。 -
フィアット500トリノ ハイブリッド(FF/6MT)【試乗記】
2026.10.13試乗記電気自動車からエンジン搭載車へと華麗に変身! 日本では珍しい、4代目「フィアット500」のマイルドハイブリッドモデルに試乗。1リッターの自然吸気エンジンを6段MTで駆るイタリアンコンパクトは、今のクルマが忘れてしまった楽しさに満ちていた。 -
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】
2026.10.12試乗記ボルボの電気自動車(BEV)「ES90」のトップモデル「ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」を駆り、東京から初秋の新潟へ。往復700kmを超えるロングドライブで分かった新型5ドアハッチバックモデルの実力と、BEVで気になる充電環境のリアルな今を報告する。






























