マセラティ・ギブリ ハイブリッド グランスポーツ(FR/8AT)
山に行け! 2021.08.25 試乗記 マセラティの新世代パワーユニット第1弾に位置づけられる、同社初のマイルドハイブリッド搭載モデル「ギブリ ハイブリッド」が上陸。電気の力が加わった直4ターボユニットに、果たしてマセラティテイストは健在なのか?ハイブリッドでも50:50
ギブリ ハイブリッドはマセラティ初の電動車両にして、私の記憶が確かならば、同社初の市販4気筒エンジン車でもある。このクルマはラインナップ的には従来のV6ディーゼルの代替モデルであり、「ギブリ ディーゼル」は日本でも2020年11月に「ファイナルエディション」が発売されて生産が終了した。ちなみに、先日の上海モーターショーでは、基本的に同じパワートレインを積んだ「レヴァンテ ハイブリッド」も公開されている。
同社初のハイブリッドシステムの中心となるのは2リッター直列4気筒ターボで、エンジン本体は同じグループのアルファ・ロメオでおなじみのあれだ。マセラティでは、そこにベルト駆動スターター兼発電機による48Vマイルドハイブリッド(MHEV)と、同じく48Vで駆動するeブースター=電動スーパーチャージャーを追加。他のギブリ同様の8段ATを介して後輪を駆動する。
マセラティ初のダウンサイジングエンジンを採用したこともあり、公式資料によると、前身モデルともいえるディーゼルに対して、約80kgの軽量化を達成したとしている。実際、カタログ表記の車両重量は1950kgで、以前webCGでリポートしたギブリ ディーゼル(2040kg)より80kg以上軽いことになっている。ただし、今回の試乗車の車検証重量は2030kg。試乗車が電動サンルーフや20インチホイールを備えていたことを考慮に入れても、実際にディーゼルより80kg軽い仕様は、かなり限定的な内容になるのだろう。
また、ギブリはかねて前後重量配分に対して執念めいたこだわりを見せてきたが、その態度はハイブリッドでも変わらない。エンジンが軽量な4気筒になるのに加えて、48Vバッテリーと同コントロールユニット、そして12Vの補機バッテリーまでをトランク下におさめることで、車検証の軸重配分はほぼ前後イーブンの“50.7:49.3”に仕上がっている。
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シームレスに働く過給機
というわけで、注目のマセラティ初のハイブリッドだが、あくまでMHEVなので作動マナーそのものに特別なところはない。アイドリングストップは再始動マナーも滑らかだが、走行中にエンジン停止したりはしない。
パワートレインには「ノーマル」「スポーツ」「I.C.E.」という3つのモードがある。ハイブリッド=電動車なので、I.C.Eは“Internal Combustion Engine=内燃機関”モードか……と錯覚しそうになるが、そうではない。マセラティのI.C.E.とは“Increased Control & Efficiency”の略で、いわゆるエコモードの一種。ただし、そのマイルドな特性は雪道などの滑りやすい路面でのコントロール性を高める効果もあり、「アイス」モードと読み換えても、それなりに使えるように意図されているのが大きな特徴だ。
0-100km/h加速5.7秒という動力性能は従来のディーゼルより0.6秒速いが、ひとつ上の3リッターV6ターボの素ギブリよりは0.1秒遅い……というエントリーモデルらしい位置づけとなる。しかし、実際のギブリ ハイブリッドは、その数字以上に速く感じる。
メーターパネル内のマルチファンクションディスプレイでハイブリッド画面を選択すると、48Vバッテリーの残量とeブースター=電動スーパーチャージャーの作動状況がリアルタイムで表示される。それを見るかぎり、アイドリングから加速していくと3000rpm前後までは電動スーパーチャージャーがフル稼働して、それ以上の回転数になるとフェードアウトしていく。これは過給をターボチャージャーにバトンタッチしているということだろう。ただ、高回転域でも、そこからさらにアクセルを踏みこんだり、加減速を繰り返したりすると、電動スーパーチャージャーが立ち上がる瞬間があり、いわゆるターボラグを補っていると思われる。
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柔軟性とパンチが魅力
そんな電動スーパーチャージャーとターボチャージャーの掛け合いは見事なまでにシームレスだ。ギブリではエントリーあつかいのハイブリッドだが、2リッターで450N・mという最大トルクは、たとえば「メルセデスAMG A45 S」にはゆずるが「ホンダ・シビック タイプR」よりも強力である。つまり、かなりのハイチューンユニットなのだ。
しかし、ギブリ ハイブリッドはあらゆる回転域で、まったくラグを感じさせず、右足に吸いつくようにパワー供給する。それこそ1000rpmからトップエンド領域まで谷間のようなものがまるでない。I.C.E.モードだとさすがにどこかフタがされたような感触になるが、ノーマルモードなら、じつにリニアで小気味よい。
スポーツモードにすると、さらに吹け上がりが活発になるとともにサウンドも明らかに豪快になるが、6200rpmのレブリミット付近はアタマ打ちの感が強い。よってギリギリの高回転まで引っ張るよりは、場合によってはコラム固定式の大型変速シフトも駆使しながら、レスポンスもトルクもいちばんアブラが乗る5000rpm付近をキープするのが、ギブリ ハイブリッドで気持ちよく走るコツと思われる。
この5000rpmを中心とした4000~5500rpmでは、驚くほど快活なパンチにあふれる。しかもまるでよくできた自然吸気エンジンのようにリニアなのだ。コラムパドルでダウンシフトしても盛大にブリッピングするわけでもなく、作動は滑らかだが変速スピードだけは高い。こういう粛々としながらもキレのある変速にはMHEVのモーターアシストも一助になっているのだろう。
そこに伝統のV8のような、コブシのきいた快音やシフトショック上等の迫力を期待すると、この4気筒ハイブリッドはなんとも物足りないだろう。しかし、これはいかにも新しい感触であり、走るシーンによっては上級のV6ターボより速いのでは……と思わせる柔軟性とパンチが魅力だ。
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山道で輝きを増す
試乗車のトリムグレートが低偏平20インチタイヤを履く「グランスポーツ」だったこともあってか、コイルスプリングと電子制御可変ダンパーによるフットワークは、少なくとも高級サルーンとしての快適性や落ち着き……という視点では、残念ながら絶品とまではいえない。
ノーマルモードではバネに対して減衰が総じて低すぎるようで、路面からのアタリこそ柔らかいが、速度を問わずにフワフワと落ち着きに欠ける。全体に減衰力が高めとなるスポーツモードのほうが、フラット感が増して低速での乗り心地もまずまず滑らかで及第点といえる。これなら普段もスポーツモード固定で乗るドライバーが多そうだが、ギャップが多めの路面だとどうしても揺すられるクセもあり、決定版とまではいいがたい。
しかし、そんなギブリ ハイブリッドも、山道に乗り入れて、Gが高まり、前後左右にきっちりと荷重が乗るようなシーンになると、まさに水を得た魚のように輝きが増す。こういう場面でもスポーツモードのほうが総じて好印象だが、じつは中途半端な入力では落ち着きに欠けたノーマルモードも、Gが高まるほどに歯応えのある走りを見せてくれるのが面白い。ターンインこそスポーツモードより鈍いが、より滑らかな荷重移動をうまく活用したドライビングを心がけると、振り回しやすいのはノーマルモードだったりもする。
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クセの強い先進運転支援システム
それにしても、ステアリング操作そのままにグイグイと切り込んでいくハナ先の軽さは驚くほどだ。実際、ダウンサイジングエンジンのおかげで前軸荷重は他のギブリより20~50kgほど軽いのだが、体感的には数字からイメージするよりはるかに軽快なのだ。さらに、とにかくラグがなくリニアでレスポンシブなパワートレインが、シャシーの荷重移動のカツを入れてくれて、生来の旋回性能をさらに強調する。山道でこれほど快活に喜々として曲がりまくるEセグメントサルーンはめずらしい。
このクルマは本来の商品企画的には“都市部でスマートに乗るのが似合うギブリ”という想定なのだろうが、実際にステアリングを握っていると、つねに「山に行け!」と耳元でささやかれている気がしてならない(笑)。
先進運転支援システムも全車速対応ACCに加えて、レーンキープ機能も車線中央を積極的にトレースする、フル機能ともいえる半自動運転タイプである。ただ、サポートしている曲率半径がまだ大きいのか、いつの間にか車線をハズれかけて、逸脱防止アシスト機能で強引に引き戻されてぎょっとする……といったシーンが多いし、ACCによる車間距離も首都高あたりの相場ではちょっと長すぎて割り込まれがちである。……というわけで、ギブリ ハイブリッドはやっぱり、自分でアクセルとステアリングを操作して、結局は山に行きたくなる(笑)。
まあ、そんなクルマのささやきに乗じて山道で遊びすぎたことを差し引いても、7.5km/リッターという燃費もまた、都会派の最新電動車両としてはちょっと物足りない。しかし、このクルマの存在によって、欧州市場でマセラティらしいマセラティが少しでも長く生き延びる助けとなるなら、それだけでファンはありがたい。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
マセラティ・ギブリ ハイブリッド グランスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4971×1945×1461mm
ホイールベース:2998mm
車重:1950kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 SOHC ターボ+電動スーパーチャージャー
トランスミッション:8段AT
最高出力:330PS(243kW)/5750rpm
最大トルク:450N・m(45.9kgf・m)/4000rpm
タイヤ:(前)245/40ZR20 99Y/(後)285/35ZR20 104Y(ピレリPゼロ)
燃費:8.1~9.4リッター/100km(約10.6~12.3km/リッター、欧州複合サイクル)
価格:1106万円/テスト車=1214万5000円
オプション装備:メタルシェントペイント<グリジオマラテア>(13万5000円)/フルプレミアムレザー(26万円)/ブルーアルマイトブレーキキャリパー(15万円)/電動サンルーフ(17万円)/ツーリングパッケージ(13万5000円)/harman/kardonプレミアムサウンドシステム(13万5000円)/20インチテゼーオホイール(7万円)/ワイヤレスチャージング(3万円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1124km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:466.2km
使用燃料:60.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.6km/リッター(満タン法)/7.5km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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