トヨタ86 GT“リミテッド”(FR/6MT)
身近で手ごろなファン・トゥ・ドライブ 2016.10.25 試乗記 「スポーツカーとしてのさらなる深化」をキーワードに、2016年夏にマイナーチェンジを受けた「トヨタ86」。従来モデルとの違いを確かめるとともに、FRのスポーツカーをマニュアルトランスミッションで楽しめる幸せをかみしめた。精悍になった!
デビューから4年が過ぎ、86がマイナーチェンジした。進化した86をじっくり見るのは実はこれが初めてだが、その第一印象は「精悍(せいかん)になった!」。トヨタが「スポーツカーとしてのさらなる深化」をテーマに、走りの味を鍛え直したという今回のマイナーチェンジだけに、エンジン、ボディー、シャシーなど多岐にわたって手を入れているのはわかっているが、スポーツカーは走りと同じくらいに見た目が大切だから、これはうれしい進化である。
特に新しい86は明らかにフロントマスクが精悍さを増し、「新型いいんじゃないの!」と直感的に思えたのだ。「ハ」の字型に大きく口を開けたラジエーターグリルと主張の強いノーズフィンが、イメージチェンジに大きく貢献しているのだろう。
コックピットの印象もいい。今回は最上級グレードのGT“リミテッド”を引っ張り出したこともあって、なかなかおしゃれにまとまっている。例えば、ダッシュボードとドアトリムに施されたスエード調の素材(グランリュクス)が上質さを与えているし、タンとブラックのコントラストも、ともすると殺風景になりがちなスポーツカーのインテリアに彩りを添えている。それ以外の部分も心なしか質感が向上しているようで、“マイナーチェンジしましたよ感”が十分伝わってくる仕上がりなのである。
スペック以上の違いを感じる
デザインに比べると、エンジンの変更はどちらかといえば控えめだ。実際、6AT仕様では、マイナーチェンジの前後で200psの最高出力と20.9kgmの最大トルクは同一。今回試乗した6MTでも、7ps、0.7kgmアップの207ps、21.6kgmと、数字を見るかぎりは驚くほどの変更ではない。
ところが、いざ走らせてみると、右足の動きに対するエンジンの反応が明らかに向上している。おかげで、アクセルペダルを踏むのがさらに楽しくなった。その際、キャビンに流れ込む吸気音がスポーティーな印象を高めるのは相変わらず。これをつかさどるのが「サウンドクリエーター」で、人工的に合成した音をスピーカーで流すのとは違い、吸気音を巧みにキャビンに引き込むので不自然さがないのがいい。しかも、低負荷で巡航しているときなどはサウンドのボリュームが抑えられ、耳障りに感じることもなかった。
この水平対向4気筒エンジン、3000rpmの手前あたりからトルクの盛り上がりを感じ、さらにアクセルペダルを踏み続けると、4500rpmあたりからサウンドに磨きがかかると同時に力強さを増していく。その勢いは7000rpm超まで持続し、このあたりの高回転を保つようシフトを繰り返せば、楽しいことこの上ない。FRならではのカチッとした感触と短いストロークが自慢のマニュアルシフトが、その楽しさを倍増させてくれるから、つい無駄にシフト操作を繰り返してしまうが、それもまた楽しい。できることならマニュアルで乗りたいクルマである。
低速トルクはもう少しほしい
そうはいっても、四六時中エンジンをぶん回して走るわけではない。街中を流すような場面ではエンジンの低中回転を使うことになるが、このあたりでもう少しトルクが太いとさらに扱いやすい。このところすっかり“ダウンサイジングターボ”に慣れてしまった身には、なおさらそう感じるのかもしれないが、そのぶん高回転でのレスポンスの良さが味わえると思えば納得もいく。
元気なエンジンとともに体感できたのが、そのボディー剛性の高さ。新旧86を直接乗り比べたわけではないが、過去の記憶よりも明らかにボディーがカッチリとしている。プレスリリースには「リアピラーのスポット打点増し打ちによるボディー剛性の強化」と書かれており、その恩恵が大きいのだろう。
このボディー剛性の向上が、スポーツカーとしての86に良い影響を与えるのはいうまでもない。オプションのSACHS(ザックス)ダンパーが装着された試乗車は、やや硬めの乗り心地を示すものの、ストローク感があって、コーナーでは懐の深さが感じられ、よく粘る印象だ。高速道路でもフラットライドが気持ちよく、目地段差を越えたときのショックもうまくいなしてくれる。装着されるタイヤが215/45R17の「ミシュラン・プライマシーHP」ということもあり、真円度が高く、アタリがスムーズなのもこのクルマの印象をよくしている。一方で、軽快感をスポイルしていないのはうれしいところだ。
広がるスポーツカーの世界
もちろん86が自慢とする素直なハンドリングは、しっかりと受け継がれている。残念ながら今回はサーキットも、ワインディングロードも走るチャンスはなかったが、高速道路のランプやちょっとしたコーナーでノーズの軽さを感じることができたし、ブレーキ、ステアリング、アクセルをセオリーどおりに操作することで、FRならではのドライビングを積極的に楽しむことができた。しかもこの86なら、ほどほどのエンジンパワーを使い切ることができるし、絶対的なスピードが高くなくても、スポーツカーを操る楽しさに浸れるのがいい。
気になったのは、いまどきのクルマでありながらアイドリングストップ機能が搭載されていないところ。スポーツカーだから不要というものではないし、マニュアルギアボックスならクラッチペダルを踏んだ瞬間にエンジンを再始動するから、発進にもたつくなど煩わしさを感じることもないだろう。さらに、万一エンストしたときも、アイドリングストップ機能によってエンジンが再始動すれば、慌てずにすむというメリットもある。
最近ではマニュアルのスポーツカーを運転する機会がどんどん減ってきているが、「マツダ・ロードスター」やこの86のように手ごろな価格で気軽に楽しめるモデルが身近にあるのはなんともうれしい話。これから先も、年次変更やマイナーチェンジにより、この86の魅力をキープし続けてほしいものだ。
(文=生方 聡/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
トヨタ86 GT“リミテッド”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4240×1775×1320mm
ホイールベース:2570mm
車重:1260kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:207ps(152kW)/7000rpm
最大トルク:21.6kgm(212Nm)/6400-6800rpm
タイヤ:(前)215/45R17 87W/(後)215/45R17 87W(ミシュラン・プライマシーHP)
燃費:11.8km/リッター(JC08モード)
価格:318万3840円/テスト車=345万5136円
オプション装備:T-Connectナビ ステアリングスイッチ付き車(15万7680円)/バックモニター(1万7280円)/ETC2.0ユニット ナビ連動タイプ(3万2616円)/iPod対応USB/HDMI入力端子(9720円)/SACHSアブソーバー(5万4000円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1139km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:360.0km
使用燃料:34.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.3km/リッター(満タン法)/11.4km/リッター(車載燃費計計測値)
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生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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