アバルト124スパイダー(FR/6MT)
アバルト流“快楽へのアプローチ” 2016.11.02 試乗記 アバルトのオープンスポーツモデル「アバルト124スパイダー」に試乗。市街地や高速道路、ワインディングロードなど、さまざまなシチュエーションを走り、ベースとなった「マツダ・ロードスター」との違いを浮き彫りにする。日本人はスゴいのが好み
「あぁ、もうこれでいーじゃんね」
アバルト124スパイダーを転がすたびに、そういう気持ちがほんわかとわき起こる。その理由は、このスポーツカーが“マルチエア”と呼ばれる1.4リッターの直噴ターボエンジンを搭載しているからに他ならない。
イタリア本国では(少なくともオフィシャルには)マツダの“マ”の字も語られていないとの話を聞いたが、ご存じの通りこのアバルト124スパイダーはマツダ・ロードスターのシャシーを使って作られた、後輪駆動のオープン2シーターだ。当初はアルファ・ロメオがこれを使って次期型「スパイダー」を作るとアナウンスされていたが、いつの間にかそのプロジェクトをフィアットが引き継ぎ、あれよあれよという間に仕立ててしまった経緯がある。
アバルトというからにはそのベースがあり、ヨーロッパと北米ではベーシックグレードを「フィアット124スパイダー」として販売しているようだが、日本では今回試乗した「アバルト」のみ。これは筆者の推測でしかないが、日本には本家であるマツダ・ロードスターがあるからバッティングを避けたのだろう。また日本はアバルトに限らず、ベーシックグレードよりもスペシャルモデルが特に売れる傾向がある。ロータスが世界で一番売れているのも日本だし、ルノーでも「ルノースポール」の販売台数は、やはり世界で3本の指に入る。ポルシェにしても「911」は北米や本国ドイツの次くらいに人気があるはずである。
懐かしのターボエンジンの味
話を戻すと、エンジンのキャラクターというのはその“時代感”によって構築されていくものだ。現代の潮流は、完全なる「トルク型」。その理由は間違いなくエミッションコントロールと燃費性能の追求で、低中速トルクのパンチ力と、多段化したクロスレシオのトランスミッションによって、エンジンを回さずとも加速力と高速巡航性能を得られることがスタンダードになっている。
そんな世の中にあって、このアバルトがちょっと面白いのは、はやりのダウンサイジングターボと古典的なターボの特性が、うまくミックスしているところだろう。
1.4リッターの小排気量エンジンをターボ化したものだから、過給がきちんと掛かるのは3000rpmを過ぎてから。ローギアードな1速や2速の加速はよいとして、例えば街中を3速以上でクルージングしているような場面でいきなり目の前が開けても、きちんとシフトダウンしてやらないと、加速体勢に入らない。
これが筆者には、ちょっと懐かしい感じがした。イマドキのダウンサイジングターボならたとえ1500rpmでもアクセルをちょこっと踏み足すだけで、トルクがわき起こってクルマは進む。それができないアバルトに最初には「む?」と眉をひそめたけれど、それによりいかに自分が現代慣れしていたのかを確認できたし、このシフト操作による“ひと手間”こそ、クルマ好きがスポーツカーに求める対話なのだと久々に思い出した。
今回試乗したのは6MTで、その手応えは本家ロードスターよりもちょっと曖昧なフィーリングだが、これは先代「NC」型のトランスミッションを採用したことが理由らしい。NCロードスターは確かに2リッターだったし、25.5kgmのトルクに耐えるにはうってつけなのだろう。北米仕様の2リッター用トランスミッションは使えなかったのかな? などと想像を巡らしつつも、ほどよく緩い感じがその乗り味とも絶妙にマッチしていたので、それほど悪い気はしなかった。
そう、アバルト124スパイダーは、普段使いでは実にまったりと走ってくれるのだ。過給ゾーンを外すと出ばなをくじかれるけれど、これをキープすれば必要にして十分なトルクが得られ、そのしなやかなサスペンションとともに快適なクルージングができる。
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「SPORT」モードで本領発揮
ターボ化とエクステリアのデコレーションによって、最も軽い「ロードスターS」との比較では140kgも違う車重がそうさせるのか、乗り味も落ち着きがあっていい。特にロードスターで感じた操舵における初期応答性の過敏さが街中では薄らいでいる。最初からフロントに荷重(プリロード)が掛かっているために、サスペンションの沈み始めが穏やかなのである。また路面からの突き上げ感も、重量増によって対策されたのであろうダンパーのダンピングが、うまく衝撃を吸収してくれる。
そう書いているとこのスパイダーがロードクルーザーだと勘違いされてしまいそうが、それだけじゃない。もちろんその性格も持ち合わせているのだが、お楽しみは過給圧をはじめとしたエンジン制御が先鋭化する「SPORT」モードボタンをポチッと押してからだ。
ジキルとハイドとまでは言わないが、このモードに入るとスパイダーは、インタークーラーターボの実力を発揮して、きちんと“サソリの毒”を前面に押し出して来る。
エンジン回転のリミットは6500rpm付近と低めで、針がリミッターに当たってもエンジンは“モォ~”っとうなるだけなのだが、そこまでの行程はパンチがあり、ひとことで言えば本家よりもずっと速い。なおかつトルクの出し方がうまく、これがオープンエアの走行フィールと合わさると、本当にドンピシャな刺激になる。
ロールでクルマと語り合う
17インチタイヤを履くことでスタビリティーは確保されているが、きっちり走らせるとハンドリングの本質は本家ロードスターと同じ。前輪のグリップをあてにして、ブレーキング重視でコーナーへノーズをねじ込んでゆくと手応えが薄く、ステアリングを切り込んだ際のインフォメーションが希薄になる。これはオープンボディーゆえにフロントのサスペンション剛性を上げられないこと(乗り心地からの要求)と、電動パワーステアリングの操舵フィールによるものだろう。
だからアバルトを気持ち良く走らせるには、ブレーキングをあまり追い込まず、さっさとターンしてしまうに尽きる(アンダーステアは出さずに、だ)。ターンインではなくターンミドルで外側ふたつのタイヤに荷重をかけると、実に気持ち良いグリップ感でコーナリングを開始してくれる。ロールモーメントでクルマ(およびタイヤ)と会話することができるのだ。
そのとき生きてくるのがターボパワー。この穏やかで力強いトルク特性が、後輪をジワジワさせるのも、逆にグリップさせるのも自在にこなしてくれる。その際に機械式LSDが絶妙なトラクションを与えてくれるのはとても助かる。ドライバーは自分の運転がうまくなるほどに「ポテンザRE050」のグリップを「やや高いかな」と感じるだろうが、それまでの安全を保証してくれる意味では、そのチョイスも絶妙だ。
マツダとはここが違う
ちなみに富士スピードウェイでアバルト124スパイダーを走らせたときは、オーバーハング重量の増加がサスペンション剛性に対して余計なイナーシャ(慣性)を生み出していると感じたが、ワインディングロードではその影響が出るほど飛ばさないから、ノーマルサスペンションでも十分に楽しく走ることができた。
本家ロードスターは少ないパワーを使い切って走らせる楽しさを追求するタイプ。それゆえにチョット本気を出すと、常に高回転をキープして走り続けなければならない。それがバイクのようで楽しいのだけれど、「アドバンスポーツV105」を標準タイヤとすることからもその高いグリップが支配的で、タイヤとの会話を楽しむには、少しばかり限界が高いと筆者は思う。
対してアバルト124スパイダーはパワー&トルクがあり、場所を選べば本家よりもイージーにマシンコントロールを楽しめる。それが結果として、走りを追い込まない“ゆるさ”になっていると思う。この快楽に対するアプローチの違いが、マツダ・ロードスターとの一番の違いだ。
どちらが欲しい? と聞かれたら悩んでしまうけれど……マツダ・ロードスターにこのエンジンを積んでくれたらいいかも! と今回は逃げておくことにしよう。
(文=山田弘樹/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
アバルト124スパイダー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4060×1740×1240mm
ホイールベース:2310mm
車重:1130kg
駆動方式:FR
エンジン:1.4リッター直4 SOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:170ps(125kW)/5500rpm
最大トルク:25.5kgm(250Nm)/2500rpm
タイヤ:(前)205/45R17 84W/(後)205/45R17 84W(ブリヂストン・ポテンザRE050A)
燃費:13.8km/リッター(JC08モード)
価格:388万8000円/テスト車=423万4312円
オプション装備:メタリックカラー(5万4000円)/レザーシート/ナビパッケージ(21万6000円) 以下、販売店オプション スコーピオンフロアマット(3万1320円)/ETC車載器(3万8664円)/ETC取り付けキット(5400円)/電源接続キット(928円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:3949km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(5)/山岳路(2)
テスト距離:356.6km
使用燃料:32.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.0km/リッター(満タン法)/9.9km/リッター(車載燃費計計測値)
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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