第2回:2017年のナンバーワンはこれだ!
輸入バイク チョイ乗りリポート(後編)
2017.05.16
JAIA輸入二輪車試乗会2017
魅力的な輸入バイクが一堂に会するJAIA輸入二輪車試乗会。開催3年目にしてようやくの快晴となった会場から、「アプリリアRSV4 RF」「KTM125デューク」「KTM1290スーパーデュークR」「BMW Cエボリューション」の4台の走りをリポートする。
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「その存在を目の当たりにできただけで光栄です」
アプリリアRSV4 RF……275万円
この原稿を書いている日曜日にも某国はミサイル実験を強行するという不穏な時節柄、こういう表現は不適切かもしれませんが、アプリリアの「RSV4 RF」はほぼ兵器です。「保安部品を付けたレーシングマシン」という四輪界でも通じる典型的な言い回しのほうが穏やかだとは思いますよ。ましてや兵器なんて物騒な言葉を用いても、RSV4 RFがその秘めたるスペックをフルに発揮するのは(または発揮できるのは)、一般社会から隔絶された非日常的なサーキットという場所に限られるし。
それはさておき、こうした過激なプロダクトが二輪界ではいまだ健在である事実は、何というかよろこばしいです。ある意味で平和な社会を反映しているとも言えるし。
2017年モデルの最大のトピックとして取り上げるべきは、既存モデルの185psからクラス最高レベルの201psまでエンジン出力を高めながら、主に排ガス規制を強化した最新ルールのユーロ4をクリアしたことで間違いないと思います。このルールによって幾多のモデルがカタログ落ちを余儀なくされるそうですが、アプリリアが超ハイスペックモデルで厳しい規制をクリアした点は立派ですね。
もうひとつ特筆すべきなのが、レース譲りの、というかレース設定そのままの電子制御システム。RSV4 RFを最新鋭の高精度兵器に仕立てる、APRC(アプリリア・パフォーマンス・ライド・コントロール)です。トラクション、ウイリー、ローンチ等のコントロールを最適化するのは当然のこと、サーキットにしかないピットレーンの制限速度を守るためのリミッターまで備わっております。こうした電子制御技術の発展が現在のモンスターマシンを支えているのが実情なのでしょう。でないと人間が扱えるレベルにとどまらないんだろうなあ。
ずいぶん前に乗ったアプリリアのV4エンジンはガサガサと荒れた感じで、今回の新型にもその雰囲気は残っていた。しかし、最新テクノロジーをまとったせいか、全体的に理性的な印象を受けました。「トリガーを引いた分だけの正確な反応を示します」と冷静に訴えかけるかのごとく。ごく平凡な民間人にすれば、「その存在を目の当たりにできただけで光栄です」とお答えする以外にないのだけど。
(文=田村十七男/写真=三浦孝明)
バイクはやっぱり楽しくてナンボ
KTM125デューク……51万円
このバイク、皆さん乗ったら驚くと思いますよ。なにに驚くって、そりゃもう、軽さに。スペック表の記載値は“乾燥重量137kg”だけど、実際に乗ったら、それよりずっと軽く感じられるハズ。重心位置や重量配分、足まわりのチューニングなど、車両設計のすべてでもってヒラリ感が追求されているのでしょう。
そのライドフィールを端的に言い表せない語彙(ごい)力がもどかしいが、強いて言うなら、「水が入ってる」と思って持ち上げた500mlペットボトルが、実は空だったときの拍子抜け感に近い。リーンさせるときも、そこから起こしていくときも、あまりに手応えなく「すっすっ」と動くものだから、慣れないうちはすごく戸惑うし、じわっと動かしたいときなどは体にヘンな力が入る。ふだん大型バイクに乗っていることもあり、記者はこのライドフィールに大いにパニクった。お前、どうやって乗ればいいんだよ!?
ところが、これが慣れてくると楽しいのなんの。ヒラヒラとライダーの操作に抵抗なく動いてくれるものだから、そのうちにバイクを走らせているのではなく、自分の体が地上1mの空中をすっ飛んでいるような感覚に至る。
125ccの単気筒エンジンはレスポンスが素晴らしく、煽(あお)ればたちまちレブリミットで頭打ち。しかも6段もギアが切られているから左手左足は大忙しだ。パワーは15psとタカがしれているものの、先述の重量ゆえに動力性能に不足ナシ。それでいて50km/hでも十分にスリルが味わえる。軽いバイクの特権である。
125ccにしてお値段51万円。イバリも利かない、見えもはれない、ただただ楽しいだけのネイキッドスポーツである。試乗会場にて田村氏は、「これに金を払うというのは、本当にゼータクな行為だね」と述べていた。記者もまったく同意である。
(文=webCG ほった/写真=三浦孝明)
長く付き合えそうな気がする
KTM1290スーパーデュークR……196万円
どこかに隠されている秘密のボタンを押したら、やおら直立して昆虫型有機ロボットに変身するんじゃないか? そんな期待を抱かせるLEDヘッドライト。このモデルには2017年型から採用されたというが、同シリーズは以前からこの顔だったらしい。
KTM、唯我独尊ですな。オフロードに特化した製品づくりで個性の礎を築き、舗装路と未舗装路をミックスしたスーパーモタードレースでも活躍。そうしたKTMの成長過程から清く正しく生まれ落ちたのが「1290スーパーデュークR」であります。
早めにお伝えしておきます。これが2017年JAIA試乗会の個人的“部門別”ナンバーワン。その理由は、長く付き合えそうだから。キテレツな見た目だけど、KTMの伝統というべきトレリスフレームは構造美があふれていて、エンジンやマフラーのメカメカしさとベストマッチ。所有欲をくすぐってくれそうですよね。
さらに乗車感覚がフレンドリーなのです。1301ccの75度V型2気筒エンジンは177psもあるのだけど、オフローダー譲りのアップライトなポジションならハイパワーも抑え込めるような気持ちになるんですね。あくまで気持ちなので自制を求めますが。
オンロードモデルとしては、単純に上体が起きればいいというような昨今のストリートファイター的なスタイルはあまり好きではないけれど、1290スーパーデュークRなら許せる。なぜなら、これがKTMの流儀だから。強いて言えば、野球でセカンドを守るならプロフェッショナルなセカンド用グローブを使う感じ。伝わりますか?
オートバイらしい機械のカタマリ感があり、けっこうパワーがあるのに乗って楽。そういえば昨年も、今もっとも乗りたい一台としてドゥカティの「ムルティストラーダ」を選んだから、まったくもって個人的にこの手のタイプがドンズバなんですね。人はそう変われない、はずだった……。
先に1290スーパーデュークRを“部門別”ナンバーワンと書きました。この部門とはガソリンエンジンです。そんな区分をした理由は次ページで述べます。
(文=田村十七男/写真=三浦孝明)
電動部門第1位
BMW Cエボリューション……148万7500円
まさしく電気ショック。そんな陳腐な表現じゃ自分の中に湧き起こった衝撃は伝わらないと思うけれど、ここまで打ちのめされた自分に何より驚きました。
ついに日本にも導入されるBMWの「Cエボリューション」。早い話が電動スクーターです。正直なところバカにしていました。これまで何度か経験した電動バイクはせいぜい家電レベル。オレたちが乗りたいものじゃなかった。四輪のハイブリッド車を初めて運転したときもそう。未来はこうなるんだと言われても、そうですかと人ごとのように感じるほど、さして楽しめなかった。
そうした経験値がすべて吹っ飛びました。この加速感、生まれて初めて! 単純に言えば速い。しかし、ガソリンエンジンの速さ、すなわち自分に染みついている加速の段取りとはまったく異なっていたのです。4ストロークエンジンを持つオートバイなら、吸入・圧縮・燃焼・排気という行程を経ますよね。それで発生した力がトランスミッションを通じ、チェーンを介してホイールに伝わり車体を前に押し出す。そういう機械的契約が完全に破棄されている。だからこのスピードが生まれる経緯が信じ難いわけです。爆発的加速、って言えばいいのかな。いや、モーターなので実際に爆発してはいないのか。ああ、うまく言えない。
そうした未知の加速感を見せながら、スロットルレスポンスは旧来的タッチというか、オフにしたら単純にゼロになるような無神経さがないところも素晴らしい。おそらく、四輪も含めて過去に体験した電動系にはなかった感動をCエボリューションで味わえたのは、これが風に身をさらす二輪だったことも大きいと思います。文字通りの体感なんでしょうね。
惜しむらくは……という言い方は不適当ですが、これだけのシステムなら、スクータータイプじゃなくてよかったかもしれません。バッテリーの搭載スペースを確保するためにスクーター形態をとったらしいけど、本当はスタイル自体からも固定概念を取っ払えるはずです。例えば「AKIRA」的にね。
そんなわけで、本音を言えば今回の試乗会で乗った全モデルの中でCエボリューションがナンバーワン。これほどの未来に触れてしまえば他は……です。マジで。ただ、どこか夢を見ているような気もするので、あえて“電動部門”の1位とします。そんな区分が不要になる日は、そう遠くないんだろうけどなあ。
(文=田村十七男/写真=三浦孝明)

田村 十七男
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