日産モコ X(FF/CVT)【ブリーフテスト】
日産モコ X(FF/CVT) 2011.05.11 試乗記 ……116万3400円総合評価……★★★★
日産で最初の軽自動車「モコ」の3代目に試乗。いまの“軽”の使用実態を踏まえ、各部を細かくチェックした。
本家はどちら?
今や5車種を数えるまでになった日産の軽自動車。その元祖「日産モコ」は、現行型でも引き続き「スズキMRワゴン」を“タネ車”にしている。両モデルはボディ、メカニズム、インテリアなど、車両の基本構成を共有しており、違いはフロント部のデザイン、シート地、専用ボディカラー「モコベリー」の設定(MRワゴンの「カシスピンクパールメタリック」よりやや明るめ)程度にとどまっている。ちなみに、新車販売台数で比較すると、モコの所帯の方が圧倒的に大きい。2010年度は約8割を占めた(モコ:5万4452台、MRワゴン:1万7179台。全軽自協調べ)。これだけ差があると、モコを本家と呼びたくなってくる。
ところで今回、評価するにあたっては、こんにちの軽自動車の使用実態を考慮し、絶対的な性能よりむしろ合目的性を重視した。使用実態については、自工会が公開している『2009年度軽自動車の使用実態調査報告書』を参考にしている。
それによれば、乗用系の軽自動車の主だった運転者は、女性が6割台と過半数を占めている。男性を含めた平均年齢は48.2歳で、高齢化が進んでいるという。また、軽自動車の73%は人口30万人未満の市・郡部で保有されており、用途としては「通勤・通学」と「買い物」の比率がいずれも38%と高い。加えて乗用系の軽自動車は、月間の平均走行距離が452km(つまり1日約15km)と短いのも特徴だ。さらに人口10万人未満の地域において、車で通勤・通学している人が公共交通機関を利用した場合、48%が「行けない」又は「行きにくい」と答えており、個人負担の公共交通機関的な側面が浮かび上がってくる。
そういう目であらためてモコを見てみる。すると、それまでややもすれば退屈に映っていた箇所ですら、がぜん意味を帯びてきたのであった。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2002年4月に日産初の軽自動車としてデビューしたのが「モコ」。「スズキMRワゴン」のOEMモデルだ。基本部分はMRワゴンと同じだが、フロントマスクはモコ専用にデザインされ、内装でもシートカラーに専用色を採用するなど、差別化が図られている。
モコは、MRワゴンのモデルチェンジにあわせて進化し、現行モデルは2011年2月にフルモデルチェンジした3代目。MRワゴン同様、新開発のプラットフォームを採用し、16年ぶりに全面刷新された新エンジンを搭載する。新開発の「R06A型」エンジンは、NA版が54ps/6.4kgm、ターボ版が64ps/9.7kgm。それぞれに副変速機構付きCVTが組み合わされる。10・15モード燃費は、NAのFF車が25.5km/リッター、4WD車が23.0km/リッター、ターボのFF車が22.5km/リッター、4WD車が21.5km/リッター。
装備で特徴的なのが、タッチパネル式のオーディオの採用。iPhoneなどでおなじみの静電容量式タッチパネルで、軽く触れたりスライドしたりすることで操作ができる。
(グレード概要)
ラインナップは、NAエンジン搭載の廉価モデル「S」と標準モデル「X」、ターボエンジン搭載で本革巻きスポーツステアリングなどを装備する上級モデル「G」の3車種。テスト車「X」は「S」に比べ、フルオートエアコンやプッシュエンジンスターター、インテリジェントキー、運転席シートリフター、リアシートスライドなどが標準で装備される。また、「X」「G」には、タッチパネル式のオーディオ(バックビューモニター付)がオプション設定(5万2500円)される。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
ともすればコスト低減の名目の下にコモディティ(個性を失った日用品)化が進みがちな軽自動車であるが、モコ(MRワゴン)のダッシュボードにはポップな遊び心が感じられ、退屈にならずに済んでいる。メータークラスターから中央部に続くピアノブラック調のパネルや、インパネシフト周辺のスイッチ類のクオリティはなかなかだ。日産によれば、モコのターゲット層は20代後半から30代の独身女性という。彼女たちを相手にクルマを作るとこれだけ楽しげな仕上がりになるのなら、日本の実用車はすべて彼女たちを意識してほしいものだ。
メーターとカーナビ(オーディオ)は同じ高さに設置されており、横方向の視線移動だけで済むので見やすい。ちょっと古いが、フォルクスワーゲンの「ゴルフII」を思い出させる。また小物入れの充実ぶりには目を見張るものがある。助手席側のグローブボックス(上段と下段がある)やドアポケットのほか、隙間という隙間に小物入れが設けられている。さらに助手席クッションと跳ね上げると、深さ12センチ程度の収納(取り外し可能)が隠されている。
装備については、最廉価の「S」グレード(107万9400円)だとやや物足りない印象だが、もうひとつ上の「X」(116万3400円)ならグッとにぎやかになる。エアコンがマニュアルからオートになり、ステアリングチルト機構、インテリジェントキー、運転席シートリフター、後席スライド機構などが付いてくる。ただし、話題のタッチパネル式オーディオを付けたければ、さらに5万2500円が必要。モコはあくまでオーディオレスが“標準”である。
(前席)……★★★★
ベンチシートタイプの前席はクッションは厚めで、掛け心地がふんわりとしている。こういうシートは着座姿勢が徐々に崩れて、長距離走行では結果的に快適とはいえない場合がある。しかし、数キロ乗っては降り、を繰り返すような走行パターンなら問題はないだろう。Aピラーは立っており、乗員とフロントウィンドウの距離が遠い。加えて室内高が十分にあるので、開放感がとても高い。一方で、センターパネル(エアコンダイヤル)部を左方向に10cm程度オフセットさせて運転席側のスペースを優先させたインパネデザインのために、助手席の右ひざまわりが若干窮屈になっている。不満といえば不満だが、室内幅が1285mmしかないことを考えれば、不満も同情に変わる。
(後席)……★★★★
前席ほどではないが、後席もクッション、背もたれともに厚みがあり、居心地はなかなかいい。また、ヒップポイントが前席より高く設定されており、前方視界が確保されているおかげで開放感もある。センタートンネルの出っ張りはなく、フロアがフラットになっているおかげで左右の移動が楽。また、ドアが大きく開くので乗降性も良好だ。さらに後席は前後に約16cmスライドさせることができ、最後端で固定すれば足が組めるほどの余裕が生まれる。おまけにリクライニングも可能。こういう広々とした後席を味わってしまうと、セダンにはもう戻れない。
(荷室)……★★★★
後席を最後端に固定した状態だと、ラゲッジルームのフロア長は30cm足らずしかない。しかし、一番前までスライドさせれば約45cmまで広がり、後席を前に倒せば130cm、さらに助手席の背もたれを前に倒せばそれ以上の長尺物を積むことができる。絶対的な広さもさることながら、柔軟性が非常に高いラゲッジルームである。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
ターボの付かない自然吸気の660cc直列3気筒エンジンは、自分のペースを維持してゆったりと走れる環境でこそ動力性能に不満はない。しかし、高速道路や流れの速い環境下(たとえば夜の都市部はタクシーも乗用車もみんなけっこう飛ばす)では非力な印象がぬぐえない。ワイドな変速比幅を持つジヤトコ製の副変速機付きCVTのおかげで、発進でこそモタつく感じはないのだが、いかんせんそこから上の中速域のパンチ力に欠ける。エンジンの回転だけは上がるが、思いのほか速度が乗ってこないのだ。また、“キックダウン”のレスポンスも甘く、即座にピッと加速体勢に入ることができないところも、もどかしい。このボディをそれなりにキビキビと走らせたいのなら、インタークーラーターボ仕様の「G」グレードを選ぶべきだろう。
一方で、ちょっとぐらい荒々しいスロットルワークにおよんでも、エンジンが終始静かなことには感心させられた。それなりにノイズは透過してくるが、耳障りな音質ではない、と言った方が正確かもしれない。タコメーターがないので回転数はわからないが、巡航体勢に入るとギア比はかなり高めに固定されている印象だ。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
ステアリングを握り、動き出してすぐに感じたことは、ずいぶんと“当たり”の柔らかいタイヤだな、ということだった。装着しているタイヤは145/80R13。久しぶりのハチマルタイヤである。乗り心地はどこか弾むような、厳しい言い方をすれば締まりのない柔らかさであるが、意外やダンパーがイイ仕事をしており、それなりに節度があってむやみにあおられることはない。おおらかな掛け心地のシートとあいまって、ちょいとそこまで流すにはこれはこれで快適な、ある意味、非常に割り切った味付けである。
ステアリングはロック・トゥ・ロックで3.7回転も回り、レスポンスはかなり鷹揚(おうよう)である。しかもロール剛性が低いので、高速道路のインターチェンジのようなタイトなコーナーではグーッと大胆に傾きを深めていく。したがってハンドリングはそれなり。運転して楽しいたぐいではない。もっとも、だからといって不安定な挙動を示すわけでもなく、そういう意味では素直なハンドリングといえないこともない。むしろ問題は、風にとても弱いことだ。横風には翻弄(ほんろう)されるし、走行中の風切り音も目立つ。特に高速巡航時にAピラーやドアミラー付近から発せられる音が大きい。ふだんはいいことずくめの箱型ボディが、一転してうとましく思える瞬間だ。
(写真=高橋信宏)
【テストデータ】
報告者:竹下元太郎
テスト日:2011年4月28日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2011年
テスト車の走行距離:681km
タイヤ:(前)145/80R13(後)同じ(いずれも、ダンロップSP10)
オプション装備:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5):高速道路(5)
テスト距離:249.5km
使用燃料:16.9リッター
参考燃費:14.7km/リッター

竹下 元太郎
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