ハイパーBEV「5ターボ3E」に至るルノーの革新と進化の歴史を振り返る
2025.05.01 デイリーコラム格別の輝きを放つ初代「5ターボ」
先日、このデイリーコラムで電気自動車(BEV)の新型ミニスーパーカー「ルノー5(サンク)ターボ3E」のメディア発表会の雰囲気と、そこで耳にしたエピソードをお伝えした(参照)。同記事では「ルノーが保存する元祖5ターボが多数持ち込まれた」として、初代5ターボの最初のコンセプトカーからWRCワークスカー、サーキット仕様車などを紹介させていただいた。しかし、この電気で走るミニスーパーカーは、さすがルカ・デメオCEOのキモいりのプロジェクトだけあってか、発表会も規模こそ小さかったが、その内容はなんとも力の入った、濃厚でマニアックなものだった。
当日の会場に持ち込まれた車両も、じつは前回ご紹介した主役たる新型5ターボ3E(の市販型とコンセプト)と、元祖5ターボ各車だけではなかった。これら(合計8台)の新旧5ターボに加えて、年代ごとに分けられた約30台の歴代ルノーがならんでいた……といえば、どれくらい力の入った発表会だったか、ご想像いただけるかもしれない。
持ち込まれた歴代のルノーは、(初代5ターボを含めて)すべて「オリジナル・ルノー・ラ・コレクション(以下、ルノーコレクション)」に所蔵されるクルマである。ルノーコレクションは現在800台ほどの規模だそうで、今回の会場となった(パリ郊外の)フラン工場の敷地内に保管されている。通常は一般公開されていないが、各国のクラシックカーイベントや、今回のような自社イベントにいつでも出動できるよう、基本的に動態保存されているという。
そんななかでも、今回も格別の輝きを放っていたのが、当然ながら881台が生産された元祖5ターボだ。外観デザインはベルトーネだが、とくに斬新なインテリアデザインは、当時ベルトーネを率いていたマルチェロ・ガンディーニ自身の手になるとされる。ルノーファンならご承知のように、その後にガンディーニは独立して、2代目「5」(通称シュペールサンク)のデザインを手がけることになる。
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異彩を放つルノーの六輪乗用車
発表会場には主役である5ターボ3Eとその元祖5ターボのほか、前記コレクションから、「戦前」「1950~1960年代」「1970~1980年代」「1990年代」、そして「モータースポーツ」と、年代別(とモータースポーツ車)の代表作が連れ出されて、さしずめ「ルノー歴史館」の様相を呈していたのだ。
「戦前」のコーナー最大の注目は、ルノーの第1号車となる「タイプA」である。1898年12月24日、21歳のルイ・ルノー青年は、自らつくった一台のクルマで、パリはモンマルトルのルピック通り(最大勾配13度の急坂)を走破してみせた。それまではチェーン式が定石だったドライブトレインを、現代に通じるシャフト式のダイレクトドライブとしていたのが最大の特徴で、同日に12台の注文を受けて、ルノーは自動車メーカーとしての第一歩を踏み出すのだ。ちなみに、タイプAを含めた初期のルノーは、フランス語で小さなクルマを表す「ヴォアチュレット=小型車」とも呼ばれた。
さらに戦前ルノーの代表作として、1923~1925年のアフリカ大陸の探査に使われた六輪車「タイプMH」、直列8気筒エンジンを搭載する1932年「レナステラRM2」、空力ボディーが特徴的な1935年「ビバ グランスポール」などが持ち込まれた。これらを見てもわかるように、戦前のルノーは大型モデルの多い高級車ブランドだったのだ。
戦後になり1960年代の代表作として持ち込まれたのは、1961年「フロリド」、1968年の「ドーフィン ゴルディーニ」、1963年の「4ラ・パリジェンヌ」、1964年「8ゴルディーニ」、そして1965年にデビューした「16」だ。
フロリドはその名のとおりフロリダで有名なアメリカ市場を意識して、ドーフィン ゴルディーニのシャシーをベースに、「ギア」がデザインした流麗なボディーを載せたスペシャリティーカーである。16は「シトロエンDS」のファストバックスタイルに触発されたのか、当時の上級車ではめずらしいFFハッチバックサルーンとして登場した。
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ターボ全盛の1980年代
1970年代のスターといえば、やはり1972年に登場した初代5だ。元祖5ターボのベースモデルであるだけでなく、同じルノーの「4(キャトル)」やシトロエンの「2CV」が走り回っていたパリの街に、突如として現れた5はまさに新時代の乗り物だったことだろう。
1970年代の代表作として置かれていたもう1台が、「12」をベースとしたクーペの「17」である。17はルノー初のFFクーペで、流麗なスタイルながら、大人4人がきっちり座れる室内空間も売りだった。
続く1980年代から連れてこられた3台が、すべてターボ車……というのも、今回の主役=5ターボ3Eと初代5ターボに合わせたマニアックな選びである。
ルノーは1977年にF1に史上初のターボエンジンを持ち込んだ。参戦当初は苦戦したが、1979年には勝ち始めて、1981年に新人だったアラン・プロストを迎え入れてから圧倒的な速さを発揮して、その後の1980年代のF1ターボ全盛時代を築いた。初代5ターボもそんな時代に生まれた一台である。
1984年に登場した「11ターボ」はある意味で初代5ターボの後継として、1987年からグループAマシンで争われるようになったWRC(世界ラリー選手権)に参戦した。1985年発売の「5GTターボ」はミドシップのモンスターマシンだった初代5ターボとは異なり、ベースである2代目5のFFレイアウトはそのままに、伝統ある1.4リッター直列4気筒ターボを搭載したホットハッチだ。手ごろな価格や卓越した走り、そして身近なグループNでのWRC参戦などの効果か、1990年までの6年間で16万台が生産されるヒット作となった。
1980年代最後の1台が、1984年からルノーのフラッグシップとして君臨した「25ターボ バカラ」である。その心臓部はルノー市販車最大の2.5リッターV型6気筒をさらにターボ過給して、当時としては大台の最高出力205PSを発生した。
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ターボを武器にモータースポーツでも活躍
1990年代から2000年代初頭のルノーは、あのパトリック・ル・ケマンがコーポレートデザイン担当副社長としてらつ腕をふるって(実際の任期は1987年から2009年)、“トレンドセッター”の名をほしいままにした時代だ。
1992年秋のパリサロンで初公開された初代「トゥインゴ」はクラスレスの魅力で、富裕層の大人でもコンパクトカーに乗るライフスタイルを世に確立した。1996年発売の「メガーヌ セニック」は欧州の元祖モノスペースワゴンといえる存在だし、1999年にベールを脱いだ「アヴァンタイム」は、モノスペースクーペというジャンル自体は市民権を得なかったが、その特徴的なプロポーションはその後の2代目「メガーヌ」に受け継がれた。
さらに歴代モータースポーツ車両を見ると、あらためて、ルノーがモータースポーツでも数々のエポックを残していることがわかる。最高峰のF1でも、アロンソ(とフィジケラ)の手で2006年にドライバーとコンストラクターのF1ダブルタイトルを獲得した「R26」、そして1979年にターボエンジンでグランプリ初優勝を果たした「RS10」がならべられた。
1978年のルマン24時間レースを制覇した「アルピーヌA442B」も置かれていた。A442もまた、もともとは前身の「A441」が積む2リッターV型6気筒エンジンをターボ化して大幅パワーアップを果たしたマシンである。ルノーはやはりターボを武器に一時代を築いたといっていい。
さらには、5ターボに通じるミドシップコンパクトの「クリオV6」や「スピダー トロフィー」といったワンメイクレースで使われた車両も顔をそろえた。ルノーには草の根のアマチュアモータースポーツ活動にも力を入れてきた歴史がある。
日産との確執やカルロス・ゴーン氏による特別背任事件など、最近はルノーにあまりいい感情を抱いていない日本人もおられるかもしれない。しかし、こうしてルノーの歴史をふり返ると、やっぱりルノーは面白い……と、ここ25年の間に4台連続でルノー車を購入しているルノーファンの筆者はしみじみ思うのだ。
(文=佐野弘宗/写真=ルノー、佐野弘宗/編集=櫻井健一)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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