マセラティMCプーラ チェロ(MR/8AT)
名門はしぶとい 2026.02.18 試乗記 かつて「マセラティの新時代の幕開け」として大々的にデビューした「MC20」がマイナーチェンジで「MCプーラ」へと生まれ変わった。名前まで変えてきたのは、また次の新時代を見据えてのことに違いない。オープントップの「MCプーラ チェロ」にサーキットで乗った。純エンジンのプーラ
電気自動車(BEV)のスーパースポーツカー「MC20フォルゴーレ」を2025年には発売するとの計画は棚上げになってしまったようだ(そういえば「ジャガー・タイプ00」もなかなか姿を現さない)。その代わりというわけではないだろうが、2025年夏のグッドウッド・フェスティバルでお披露目されたのがMCプーラである。2020年デビューのMC20のバージョンアップ版といえるマセラティのフラッグシップスーパースポーツで、「プーラ」は英語でピュアのこと、「マセラティの神髄を凝縮した」と説明されているが、モーターなしの純エンジン車であらためて勝負する決意表明と受け止めることもできる。
BEV化を推進するプレミアムブランドはどこも先行き不透明で対応に苦慮しているようだが、数あるスポーツカーメーカーのなかでも屈指の長い歴史を持つマセラティ(1914年創設)は、何というか苦境には慣れっこだ。モータースポーツで華々しい戦績を挙げ、イタリアンカロッツェリアの傑作選のようなスポーツカーを多数生み出しながら、波瀾(はらん)万丈の歳月を乗り越えて今も健在であるしぶとさには感心するしかない。そういえば今年2026年は「コルセ100周年」という。タルガ・フローリオでクラス優勝を遂げたのが1926年、そこから数えての100年ということだ。ちなみにこのレースに出場した「ティーポ26」のフロントグリルには海神ネプチューン(ギリシャ神話ではポセイドン)が持つ三叉(さんさ)の鉾(ほこ)のエンブレムが初めて装着されたという。したがって2026年はトリデンテの100周年にもあたる。
ちょっとだけアグレッシブに
MCプーラにはクーペとコンバーチブルのチェロがあり、サーキット試乗会に用意されていたのは「AIアクアレインボー」という新色をまとったチェロだった。光線によって微妙に色合いが変わるこのボディーカラーはもちろん“フォーリセリエ”のカスタムカラーで、ペイントだけで300万円もするオプションだ。
チェロの電動ガラスハードトップは、この種のスーパースポーツカーのなかでは最もクイックな12秒で開く(50km/h以下で開閉可能)ことも自慢のひとつである。しかもルーフガラスは透過率を調整できるポリマー分散型液晶技術を採用している。ただし、このスイッチはセンターのタッチスクリーンで操作する必要があり(ルーフの開閉スイッチも同様)、走行中にワンタッチでというわけにはいかない。
これ見よがしな仰々しいエアロパーツを持たないのはMC20譲りだ。無駄がなくて洗練されていて美しいという意味のエレガンスこそマセラティの伝統である。ただし、プーラはMC20に比べてフロントのエアインテークまわりのラインがよりシャープに攻撃的になり、リア下部のディフューザー形状も明確になっている。全体的なボディースタイルは従来どおり、ホイールアーチを強調する一方でボディーサイド部分が絞り込まれ、そのくびれたウエストはピニンファリーナの「バードケージ75th」や大昔の「ティーポ61」をほうふつとさせるものだ。
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F1由来の「ネットゥーノ」
MC20に搭載された新型3リッターV6ツインターボエンジンがその名も「ネットゥーノ」である。今どきマイルドハイブリッドシステムはおろかアイドリングストップさえ備わらない純粋な内燃エンジンだが、その代わりに現代の市販車用エンジンでは初のプレチャンバー(副燃焼室)システムという先進技術が盛り込まれたことが最大の特徴だ。F1グランプリ直系の技術といわれるこのシステムは、主燃焼室に加えて小さな副燃焼室を備えている。ホンダのCVCCがその元祖ともいわれているが、当時はもちろん希薄燃焼による排ガス浄化が目的だった。現代のグランプリエンジンの場合は薄い混合気を効率よく燃焼させることが主眼である。
ネットゥーノでは、メインのプラグの直下に小さなプレチャンバーが設けられ、ここで作られた火炎流が細い回路を通って主燃焼室に噴射され、混合気を一気に燃焼させる仕組みだ。ただし、リーンバーンを幅広い運転状況下で安定して維持するのは難しく、マセラティの場合もポート噴射とサイド配置のプラグによる点火を併用している。つまりネットゥーノは直噴とポート噴射、プレチャンバー用プラグとメインチャンバー用プラグを持つツインインジェクター&ツインプラグである。直噴燃圧は350bar、圧縮比11:1というスペックから考えて、プレチャンバーの採用は超希薄燃焼を追求したというよりパワーとノッキング制御の両立を図ったものだろう。
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正統派ミドシップ、だがGTの趣もあり
ミドシップされるドライサンプ式3リッター90°V6ツインターボは最高出力630PS/7500rpm、最大トルク730N・m/3000-5750rpmを発生するが、このスペックは従来型から変化なし。しかし、コースを走りだしてみると、以前に乗ったMC20よりも明らかに滑らかに回る。特に改良を加えた事実はないというが、洗練されていることは確かである。ちなみに「100%マセラティ」をうたうネットゥーノだが、90°のバンク角(V6エンジンは60°が一般的で完全バランスの理想値は120°)をはじめとして補器類の配置などいくつもの特徴がアルファのV6、すなわちフェラーリF154系V8との血縁関係をうかがわせる。ダラーラ製カーボンモノコックを持つボディーの車重は1560kg、0-100km/h加速は2.9秒、最高速は325km/h以上を豪語する。
高いギアでゆっくり加速すると、ちょっと不機嫌な不協和音のようなうなりが伝わってくるのは以前と同じ。それでも回転フィーリングはあくまで滑らかで、さらにフル加速した際の力感もたくましくなっているようだ。これがネットゥーノの本来の実力とすれば喜ばしい限りである。短いサーキット試乗では断言できないが、乗り心地も快適といっていい。ハンドリングは、電子制御でシャープさを演出するのではなく、ごく自然なレスポンスを備える正統派のフィーリングだ。最近のフェラーリのようにピーキーすぎると感じることはない。ミドシップながらどこか理性的なプーラは確かにグランツーリスモとしての実用性も併せ持っているようだ。それこそマセラティのだいごみである。
(文=高平高輝/写真=マセラティ ジャパン/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
マセラティMCプーラ チェロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4669×1965×1224mm
ホイールベース:2700mm
車重:1560kg
駆動方式:MR
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:630PS(463kW)/7500rpm
最大トルク:730N・m(74.4kgf・m)/3000-5750rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y XL/(後)305/30ZR20 103Y XL(ブリヂストン・ポテンザ スポーツ)
燃費:--km/リッター
価格:3135万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

高平 高輝
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