トライアンフ・トライデント800(6MT)
大人のスポーツネイキッド 2026.02.20 試乗記 英国の名門トライアンフから、800ccクラスの新型モーターサイクル「トライデント800」が登場。「走る・曲がる・止まる」のすべてでゆとりを感じさせる上級のロードスターは、オールラウンダーという言葉では足りない、懐の深いマシンに仕上がっていた。一段上の余裕と上質
トライアンフの2026年モデルの目玉として、新たに登場したのがトライデント800だ。位置づけはミドルクラスの“ロードスター”、要はカウルを持たぬ軽快なネイキッドである。弟分にあたる「トライデント660」も同時に大幅な刷新を受けたが、800は単なる排気量拡大版ではなく、装備や足まわり、そして走りの質感に至るまで、しっかりと一段上を目指した設計思想が感じられる。
まずはスタイリング。近未来的でありながら、丸型のヘッドランプや柔らかな車体の曲線が、英国車らしい伝統をほのかに漂わせる。モダンとクラシックのバランスが見事で、また660よりも一層筋肉質なプロポーションが力強さを自然に際立たせている。
搭載されるのは798ccの水冷並列3気筒で、最高出力115PSという数値は、トライアンフが誇る“ストリートファイター”「ストリートトリプル765」に比べれば控えめだが、その実力は数字以上だ。中回転域の厚みあるトルクと、高回転へとよどみなく伸びていく回転フィール。また、いかにもトライアンフらしい3気筒の鼓動が、スロットルを開けるたびに心地よく響く。再設計されたエアボックスとインテークにより、吸気音は澄み、排気音はより艶やかに重なる。その音色は単なるノイズではない。ライダーの気持ちを高ぶらせる旋律だ。
“TRIDENT”とは三又の矛を意味し、トライアンフの長い歴史のなかで、度々登場してきた由緒ある名だ。その名にふさわしい風格を、現代のトライデントも確かに備えている。
走りを構成する要素のすべてが高次元
走りだしてまず感じるのは、懐の深さである。発進直後の低回転域から安定してトルクが立ち上がり、2速へとつないでからも、そのまま自然に加速していく。2000rpm前後からでもちゅうちょなくスロットルを開けられる安心感。フラットで厚みあるトルクはワイドレンジに持続し、市街地も高速のワインディングロードも、2~4速で自在にこなす。扱いやすさと力強さが高次元で両立している。
ライディングポジションもフレンドリーだ。シート高は810mmで、アップハンドルな設定により足つきと視界は良好。上体は自然に起き、長時間でも疲労を感じにくい。いっぽう、ホイールベースは1402mmとコンパクトで、タイトコーナーでは軽やかに向きを変え、Uターンや低速バランスも難なくこなす。
ハンドリングはトライアンフの伝統でもあるニュートラルステアで、どんな場面でもライダーの意思に忠実。軽快なフットワークのなかにフロントの確かな接地感があり、前後のショーワ製調整式サスペンションは路面をしなやかに捉え続ける。ブレーキについてはフロントにφ310mmのダブルディスクとラジアルマウント4ピストンキャリパーを採用。十分な制動力を備えつつタッチは穏やかで、コーナー進入時の速度調整もしやすかった。
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活躍のシーンを選ばぬ懐の深さ
今回、国際メディア試乗会の舞台となったのは、地中海東端のキプロス島だ。古来より交易の要衝として栄え、東西の多様な文明の影響を受けてきたこの島は、濃密な異国情緒をたたえた静かな美しさを持つ。現在も一部はイギリス領であり、日本と同じ左側通行という点が、試乗に臨む筆者にはありがたかった。
そんなキプロスの入り組んだ旧市街地を、トライデント800はスイスイと走り抜け、また急峻(きゅうしゅん)なワインディングロードでも軽快かつ安心感のある走りを示す。標準装着の「ミシュラン・ロード6」との相性も良好だ。また試乗日は寒暖差が激しく、雹(ひょう)混じりの豪雨に見舞われる場面もあったが、コーナリングABSとトラクションコントロールが自然な介入でライダーをサポート。それでいて電子制御が過剰に前へ出ることはなく、3気筒本来の優れたトラクション性能が強く印象に残った。
加えて、クルーズコントロールやクイックシフターを標準で装備して約125万円からという価格設定にも驚かされる。同クラスの国産と比べても割安感があるほどで、そんなところからも、トライアンフの本機に込めた意気込みが感じられた。
軽快な車体、扱いやすいエンジン、快適なポジション。しかし、前のめりに走ろうとすれば確かなスポーツ性で応えてくれる。この懐の深さこそが、トライデント800の真価といえそうだ。都市でも峠でも気負わずにバイクにまたがり、それでいて情熱も忘れていない。そんな大人のライダーにおすすめしたい。
(文=佐川健太郎<ケニー佐川>/写真=トライアンフ モーターサイクルズ/編集=堀田剛資)
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【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×815×1088mm
ホイールベース:1402mm
シート高:810mm
重量:198kg
エンジン:798cc 水冷4ストローク直列3気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:115PS(84.6kW)/1万0750rpm
最大トルク:84N・m(8.6kgf・m)/8500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:4.7リッター/100km(約21.3km/リッター)
価格:124万9000円~126万9000円

佐川 健太郎(ケニー佐川)
モーターサイクルジャーナリスト。広告出版会社、雑誌編集者を経て現在は二輪専門誌やウェブメディアで活躍。そのかたわら、ライディングスクールの講師を務めるなど安全運転普及にも注力する。国内外でのニューモデル試乗のほか、メーカーやディーラーのアドバイザーとしても活動中。(株)モト・マニアックス代表。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。
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