ドゥカティ・ハイパーモタードV2 SP(6MT)
より自由に、さらに刺激的に 2026.05.15 試乗記 刺激的な走りを追求した「ドゥカティ・ハイパーモタード」の2気筒モデルがフルモデルチェンジ。まったく新しい「ハイパーモタードV2」が登場した。エンジンもフレームも刷新されたニューモデルでドゥカティが追求した走る喜びとは? 伊モデナから報告する。“デスモ”を捨てた新世代Vツイン
ドゥカティの異端児、ハイパーモタードが大きな変革を遂げた。初代のコンセプトモデルが登場してから20年、その節目に送り出された新型車ハイパーモタードV2は、従来の延長線上にあるモデルではない。伝統を守りながら進化するのではなく、一度すべてを壊し、ゼロからつくり直した意欲作だ。今回、その国際メディア試乗会が、ドゥカティの本拠地であるイタリア・ボローニャで開催された。舞台はモデナの中心地にほど近い「アウトドローモ・ディ・モデナ(モデナ・サーキット)」。モタードらしい過激な走りを味わうには、これ以上ないロケーションである。
新型V2最大のトピックは、やはり完全刷新されたパワーユニットだろう。搭載されるのは「パニガーレV2」にも採用された新世代の890cc V型2気筒エンジン。長年にわたりドゥカティの象徴でもあったデスモドロミック機構を廃し、一般的なバルブスプリング方式へと転換したエンジンである。熱心なドゥカティファンなら気づくと思うが、基本ユニットは新型「モンスター」系と共通。とはいえ、ハイパーモタード用として専用チューニングが施され、120.4HP/1万0750rpmという、シリーズ史上最高のパフォーマンスを実現している。さらにIVT(可変吸気バルブタイミング)によって、低回転から高回転まで実に滑らかに厚みのあるトルクを発生。エンジン単体で約9kg(従来型「950」比)もの軽量化を達成している点も驚きだ。
車体も劇的に変わった。これまでの鋼管トレリスフレームを捨て、新たにアルミ製モノコックフレームを採用。パニガーレ譲りの設計思想を取り込み、理想の剛性バランスとマスの集中を徹底的に追求している。スイングアームも従来の片持ち式から両持ちのアルミタイプへ刷新し、より軽快かつシャープな運動性能を狙った構成としている。結果として、「SP」仕様の車重はわずか177kg。大型バイクとは思えぬ軽さである。
電子制御も大幅に進化しており、6軸IMUを核に、コーナリングABSやトラクションコントロール、ウイリーコントロール、EBC、クイックシフターなど最新の制御パッケージをフル装備。なかでも最大の注目が「スライド・バイ・ブレーキ」だ。これはコーナー進入時のリアスライドを積極的に許容・制御するモタード専用ABSで、まるでプロレーサーのような豪快な走りが、安全マージンを残したまま楽しめるのだ。
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ライダーの理性を溶かす軽さと鋭さ
サイドスタンドを払った瞬間、まず脳裏をよぎったのは「本当にこれが900ccクラスなのか?」という疑問だった。SP仕様で177kgと数字は知っていたが、ハイパーモタードV2の軽さは感覚へ直接訴えかけてくる。車体を起こす際の抵抗感が驚くほど小さいのだ。またがれば880mmというシート高ゆえ視界は高く、いかにもモタードらしい見晴らしのよさ。それでいてシート前方は驚くほどスリムに絞り込まれており、嫌な威圧感はない。
新型V2は、従来型の950とは根本的にキャラクターが違う。伝統的なデスモドロミックも鋼管トレリスフレームも捨て去り、より軽く、より速く、より扱いやすく、運動性能を徹底的に研ぎ澄ました、まるで余計な装飾をそぎ落としたレーシングツールのようだ。
スターターボタンを押すと、新しい890cc Vツインが低く乾いたサウンドを響かせながら目を覚ます。950にあった“荒々しい鼓動感”はかなり薄れた感じで、代わりにあるのは、驚くほど緻密で滑らかな回転フィールだ。スロットルを開け始めた瞬間からエンジンはよどみなく吹け上がり、4000rpm付近ですでに強烈なトルクを発生する。しかも、それが決して暴力的ではない。ライダーを脅すのではなく、「もっと開けろ」と誘惑してくるタイプの速さである。
これが実に厄介で、体感的にはあまり速度感がない。しかし気づけばモデナ・サーキットの短いストレートで200km/hを軽々と超えていた。かつての950では、ライダーが気合でねじ伏せる場面もあったが、新型V2は違う。スムーズすぎるほど扱いやすいからこそ、エンジン性能を最後まで使い切れてしまう。ライダーに速さを感じさせないまま、とてつもない速度域へと連れていく危うさがある。
圧巻なのがハンドリングだ。今回試乗したSP仕様は、オーリンズ製サスペンションと鍛造ホイールを装備しており、この足まわりがまさに別次元だった。ブレーキを引きずりつつフロントへ軽く荷重を乗せ、視線をコーナー出口へ向ける。すると車体はライダーの意思を先読みしたかのように、スッとインへ吸い込まれていく。アルミ製モノコックフレームへの転換は単なる軽量化ではない。車体全体の一体感が極めて高く、入力に対する反応が異様にシャープなのだ。
しかも、その動きが神経質ではない。ニュートラルで、極めて自然。倒し込みは驚くほど俊敏なのに、不安感がまったくないのである。前:170mm、後ろ:160mmとストロークの長い足がしなやかに沈み込み、ため込んだエネルギーを「ピレリ・ディアブロ ロッソIVコルサ」が強烈なグリップへ変換する。特に立ち上がりではフロントがふわりと浮き、ライダーはモタードらしい高揚感を全身で味わうこととなる。
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“進入ドリフト”を誰もが味わえる時代へ
さらに、このマシンの“遊び心”を象徴しているのが、先にも触れたスライド・バイ・ブレーキだ。コーナー進入でリアブレーキを強く踏み込むと、ABSが絶妙に介入しながらリアタイヤを滑らせ、滑らかなドリフト状態へ導いてくれる。かつてならトップライダーだけの世界だった“進入スライド”を、電子制御が現実的な領域まで引き寄せたわけだ。もちろん簡単ではない。相応の速度と覚悟は必要だ。実際、自分も思い切った角度までは攻め切れず、せいぜいリアがヌルリと流れる程度だった。しかし、それでも「この先に、とんでもなく楽しい世界がある」と感じ取るには十分だった。
このように、スポーツライディングに振り切った一台に仕上がっていたV2だが、印象的だったのは、これだけ過激なマシンなのに、驚くほど疲れないことだ。15分×5セッションを全力で走り込み、さらに撮影までこなしたにもかかわらず、まだ走り足りないと感じたほど。軽さと扱いやすさがライダーの体力消耗を抑え、結果として“楽しめる時間”を大きく伸ばしているのである。
ハイパーモタードV2は、ツーリング性能や快適性を競うバイクではない。積載性も快適性も実用性も、優先順位としてはかなり低いだろう。だが、このマシンにはそれを超える圧倒的な魅力がある。コーナーをひとつ曲がるたびに心拍数が上がり、アクセルを開けるたびに笑みがこぼれる。“バイクに乗る喜び”を、これ以上ないほどに高純度で抽出した一台なのだ。
ドゥカティはこの新型で、「ハイパーモタードとはなにか?」をあらためて定義し直した。そこにあるのは単なる性能競争ではない。もっと自由で、もっと刺激的で、もっと感情を揺さぶる乗り物であるべきだ。そんな思想が、ハイパーモタードV2からはありありと感じられた。
(文=佐川健太郎<ケニー佐川>/写真=ドゥカティ/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1514mm
シート高:880mm
重量:177kg(燃料を除く)
エンジン:890cc 水冷4ストロークV型2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:120.4HP(88.5kW)/1万0750rpm
最大トルク:94N・m(9.6kgf・m)/8250rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:249万円

佐川 健太郎(ケニー佐川)
モーターサイクルジャーナリスト。広告出版会社、雑誌編集者を経て現在は二輪専門誌やウェブメディアで活躍。そのかたわら、ライディングスクールの講師を務めるなど安全運転普及にも注力する。国内外でのニューモデル試乗のほか、メーカーやディーラーのアドバイザーとしても活動中。(株)モト・マニアックス代表。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。
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