第61回:「あえてのフツウ戦略」に脱帽! 「スズキeスカイ」の若きチーフエンジニアを直撃!
2026.10.23 小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ 拡大 |
注目の軽EV
もう予想外の人気ですわ、スズキの事実上の初の軽EV「eスカイ」。正直バッテリーEVはニッポンの自動車業界ではまだまだ不人気で、3代目「日産リーフ」や大幅値下げ&性能アップの「トヨタbZ4X」が頑張ってるけどまだまだ大ヒットというには至らず。このニッポンでEVが「N-BOX」や「カローラ」並みに売れる日はいつのことやら……って感じなんだけど、eスカイはもしや……とも思わせる想定外レスポンス。
なんせYouTubeで扱っても人気のガソリン車並みのヒットで、コメントも多い多い。ウラ事情的には例の中国EV「BYDラッコ」のアンチ意見がeスカイで爆発してる側面もあるようだけど、いずれにせよ日本人がガソリン車みたいに買えるEVとして超注目しているのは間違いない。
一体そのキモはなんなのか? 開発コンセプトの「Easy to switch(イージートゥスイッチ)」はどこがスゴいのか? コージ小沢がメディア向け試乗会で若きチーフエンジニアの杉山達樹さんを直撃してみましたっ!
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「違和感なく」を重視
小沢:事実上のスズキ初の軽EVたる「eスカイ」ですけどちょっとテストコースで乗らせていただいて。まずは怒らないで聞いて欲しいんですけど、つくりのケチケチっぷりがスゴいなと(笑)。例えばライトまわり。ヘッドライトはしっかりフルLEDですけど、イマドキのEVにしてウインカーが前後左右全面的に豆球(バルブ)! それからなによりATシフトレバーがいまどき電子のスイッチ式じゃなくってPRNDのストレート式ってのにも驚きました。こんなEV、今まであり得なかっただろうと。
杉山:いやいや、これこそがガソリンの軽自動車からeスカイに乗り替えた時に「違和感なく」ということを考えて、あえて採用した部分です。
小沢:だからこそ開発コンセプトが「イージートゥスイッチ(気楽に乗り換え)」なんでしょうけど、やはり先進的なEVとしてはチャレンジングかなと。具体的に何のATと一緒なんですか?
杉山:ベースは「ソリオ」と共通ですが、多少アレンジしてあります。
小沢:そのほかリアブレーキもあえてドラム式。これはの他の日本製軽EVもそうですけど、ほぼ同時に出たBYDラッコは逆に4輪ディスクブレーキです。そのほかリアシートの背もたれポケットすらない省いた感じがスゴいなと。
杉山:ありがとうございます(笑)。
小沢:あとは根本の骨格やつくりがeスカイはスズキらしくデザインが可愛らしいし、パッケージングも効率的で、車高とかあえて微妙にセミトールのわりに下げたりしてますよね。
杉山:ガソリン軽の「ワゴンR」が全高1650mmnなのに対し、eスカイは1625mmで25mm下げています。空力面で少しでも前面投影面積を少なくということと、クルマのキャラクターをデザインで表現しつつ、コーナー部をmm単位で削るなどして空力は相当やってます。
小沢:ちなみにシートとかシートのフレームはガソリン車と一緒だったりするんですか?
杉山:基本的にシートはこのクルマ専用に新規で起こしています。
小沢:見えないところで頑張ってるんですね。タイヤサイズも165/65の14インチでちょっとデカめ。偏平率が55%から65%になったぶん、直径がデカくなってグリップが増してると思うんですけど、重くなりがちなEVとしての対応もしっかりしている。
杉山:ありがとうございます。
スズキのケチケチ流の本当のスゴさ
小沢:さらにびっくりしたのはかなり割り切った電池容量です。ラッコの場合は最大で35.84kWhとすごい大容量で一充電走行距離320kmをたたき出してますが、eスカイはわずか26kWhで310km! も走る。もちろんWLTCモードの数値ですけど、これは電費ではほとんど世界一レベルだと思うんですが。
杉山:少なくとも軽EVではベストです。
小沢:そこが今回のスズキのケチケチ流の本当のスゴさで、もっとアピールすればいいと思うんですが。実は電費世界一!? なんだとか(笑)。
パワーユニット(PU)開発担当者:ケチケチ……というか、技術者としては、バッテリーリデュースって言い方もしています。航続距離を電池容量だけに頼らないという考え方がありまして、パワートレインの効率であり、空力もスゴく効いているんですけど、そのほか全部含めてあの値が出てきていますので、そこは私どもも自信を持ってお話しできるところかなと思っております。
小沢:確かeアクスルもスズキ専用開発ですよね?
PU担当:専用です。
小沢:中国のEVや日産リーフは8 in 1や5 in 1、3 in 1とかパッケージ効率を高らかにうたってますが、eスカイはどうなんですか?
PU担当 今回は3 in 1です。他社さんと比較しても小型で、軽いeアクスルがつくれたと思っています。軽に合うeアクスルというのがもともとあって、そのほか今後の派生展開も考えながらつくっています。モーターとかインバーターも含めて小型になるアイデアを出しあってつくったeアクスルです。
小沢:とにかくすべてにおいて効率のよさと、スズキらしくシンプルで軽い! みたいなところを目指してつくったのがeスカイであると。
杉山:スズキが培ってきた「小少軽短美」という考えに基づいてつくっていますので、少ない電気で少しでも長く走れるようにという。“軽EVのアルト”とまではいかなくても、ワゴンRのような感じで気軽に使っていただけるクルマにと思っています。
小沢:狙ったのはワゴンRのEV版であると。
杉山:そういう部分はあるかなと。
ラッコ出現で価格が変わった
小沢:とはいえ他の軽EVって「日産サクラ」にせよ内装とかいいじゃないですか。華やかだし、クオリティーがフツウの軽レベルを超えている。そのほかBYDラッコは装備がハンパないし、このシンプルなつくりは逆に勇気がいるんじゃないかと。
杉山:そこは狙っているお客さまがeスカイとは違うかなと思っています。
小沢:あとなんといっても価格です。ここが最大の焦点になると思ってるんですが、いくらくらいになりますか?(取材時点では未公表だったが、のちにスタート価格が212万円と判明。CEV補助金を加味すると155万3000円の驚愕の爆安!)
杉山:いったん社内で決まった価格はあるんですが、BYDさんのラッコが先に安い金額で出てきたこともあって、練り直しが必要かなと思っています。
小沢:サクラの売れ筋グレードは価格260万円ぐらいの補助金58万円で実質202万円。「ホンダN-ONE e:」は電池が大きくて大体270万円ぐらいの同じく実質212万円。スズキだけに補助金を加味すると200万を切るとは思うんですが。ラッコは電池が小さいほうの「200」グレードでも容量22.4kWh。背がデカくて両側スライドドア付きで、補助金は少なめなのに実質199万5000円。これはスゴいなと。
杉山:実に悩ましい金額で出てきたなと(笑)。
小沢:それからスゴいのが床の低さです。電池を26kWh積んでいて全高1625mmなのに、身長175cmの小沢が普通に座ってリアにも十分座れる。ぶっちゃけほとんどガソリン車の軽と変わんなくないですか?
杉山:電池をしっかり守らないといけないということを考え、サイドにも衝突エネルギーの吸収材を使っていたり、前もぶつかった時にサスフレームが下に滑り台のように落ちていくというような構造を採用したりしています。
小沢:EVっていうことで今まで以上に安全に気を使っていて、それでいて床が低い。EVはホイールベースを長くするという傾向があるんだけど、eスカイの「ハーテクトe」は実のところホイールベース2460mmでフツウのガソリン軽と変わらない。一体どういう魔法を使ってるんですか?
杉山:そこは非常に工夫しておりまして、フロア下に大容量の電池を積んだとしても、軽に求められる小回り性は捨ててはいけない。実際、最小回転半径は4.4mで他社と比べてもトップクラス。まさしくEVであることよりも軽であるということを重視したクルマなので。
小沢:なるほど。だからある意味、EVとしてのインパクトは薄め。陶器風のカップホルダーにしろ10.1インチモニターにしろ頑張ってるんだけど、装備的には本当にフツウ。でもそこはあえてなんですね。それどころかまさしく「フツウの軽の代わりに乗れる」のが最大の売りで。
杉山:その通りです。まさしくフツウの軽自動車としてのクルマなので、そこまでお金をかけず、お客さんが負担する額は少しでも下げられるようにと。
小沢:メーターも4インチぐらいのカラー液晶で、ホントにスズキのガソリン軽と変わらない。いわゆるSDVでもないんですよね。ネットを使ったOTAには対応しているとか?
杉山 このクルマではSDV的な対応はしていません。お買い上げいただいた後にネットで機能が成長するようなところも盛り込んでないです。
小沢:あえてのフツウ。正直、このクルマが男だったらあまりモテない感じですが(苦笑)、あえてそういう戦略を選んだわけですね。
杉山:まさしく「EVに初めて乗る」ようなお客さまに乗っていただきたい、そういうクルマになっております。加速にせよ、EVらしさを強調してパワーを出しすぎると怖さを感じてしまうお客さんもいるのかなと思っております。「イージートゥスイッチ」というコンセプトを元に、乗り替えても違和感なく乗っていただけるようなクルマに仕上げています。
小沢:eスカイのあえてのフツウ戦略。よく聞くと面白いんですけど、正直伝えるのは難しそうです(笑)。
(文と写真=小沢コージ/編集=藤沢 勝)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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