シトロエンDS3(FF/6MT)【海外試乗記】
モダンでスパルタン 2010.02.12 試乗記 シトロエンDS3(FF/6MT)シトロエンの新シリーズ第1弾「DS3」に初試乗。ベースとなる「C3」との違いを確かめた。
“アンチレトロ”なクルマ
このモデルは“アンチレトロ”の精神で開発を行った――「DS」と耳にするとどうしても「あの名車」を思い浮かべてしまう人の想いを牽制するかのように、そんなコメントと共にリリースされたブランニューモデルが「DS3」だ。それは、「昔を懐かしむレトロの流行に反する回答」であり、「革新的でモダンな答えをシトロエンの歴史に刻むモデル」とシトロエンは明言する。もっとも、そんなフレーズは、多分に「BMW MINI」や「フィアット500」の存在を意識したものでもあるはず。端的に言って、初代「BMW MINI」の成功無くして、こうしたプロジェクトにGOサインが出されたかとなれば、そこには甚だ疑問が残るというのが現実だからだ。
そんなシトロエンでは、すでにこのDS3に引き続き「DS4」「DS5」と、この先もプレミアム性の高い新レンジのモデルを投入する計画を明らかにしている。歴史に基づいた“DS”という2文字ではあるが、それは前衛さ、創造性、テクノロジーなどを象徴する「Different Spirit」からくるもの。だからこそ、それは“アンチレトロ”でしか有り得ないというのが、同社の主張であるのだ。
そんな考え方を踏まえつつDS3を目前にすると、多彩なカラーバリエーションやアクセサリーなどで「自分好みの1台」を創り上げられるという、MINIや500と同様のアイディア以外にも、いくつかのポイントに、そうした意図的な新しさのアピールが施されているのが理解できる。
余裕あふれるパワー
たとえば、このモデルを単なる3ドアハッチバック車に仕立てるのであれば、Bピラーのシャークフィン型造形はありえないだろうし、欧州市場内ではランニングライトの役目を果たすフロントバンパー両端に内蔵のLEDランプも、あれほど顕示性の強いレイアウトでマウントされることもなかったはず。一方、見た目にはかくもプレミアム性の高さが強く表現されつつも、実際にはそのパッケージングがかなり実用性に富んだものであるというのは、やはりその“出典”が新型「C3」という点が大きく影響しているに違いない。
大きく、重いドアを開閉しての乗降性はフレンドリーとは言えないものの、後席での空間は見た目の印象よりもずっと余裕が大きく、深いフロアが生み出す285リッターというラゲッジスペースのボリュームも、さすがは欧州ハッチバック車基準と納得のできるもの。そう、ニッチ狙いのようでも、内容的には意外にマーケットの間口が広そうなのがこのモデル。見かたによっては「C3の3ドア版」という戦略も読み取れるのがDS3なのだ。
フランス・パリを基点に開催された国際試乗会で用意されたのは、BMWとの共同開発によるターボ付き直噴エンジンに6段MTを組み合わせたモデル。基本的には「MINIクーパーS」と同じ心臓だが、細部のキャリブレーション等はそれぞれが独自に行っているとみえ、出力スペックには微妙な違いが見られる。いずれにしても、156psと24.5kgmという出力が1165kgという重量に対して余裕にあふれる力強さを与えてくれることは、走り始めてすぐに納得できた。ターボの効きがアクセルワークに対してとても素直で、特にパーシャルスロットル領域では、うっかりするとそうしたアイテムを加えていることに気付かない……といったポイントは、MINIクーパーSでも体験済みだ。
C3より硬派
フットワークのセッティングは、予想していたよりも、ずっとスパルタンな印象だった。70km/h付近からはそれなりにスムーズなストローク感が生まれ始めるものの、それまでは上下Gも強めで、コーナーも「さしたるロールもなく曲がり切ってしまう」という感覚だ。
そもそも、このモデルのそうした予想外に硬派なキャラクターを垣間見たのは、スタートを切るべくローギアをセレクトしようとクラッチペダルを踏み込んだ時からだった。その踏力はやはり予想をしていたよりも重く、この時点でこのモデルが相当にスポーティな走りのキャラクターを狙っていることを教えられたのだ。さらに、前述のフットワークテイストに加え、タップリした手応えが演じられたステアリングフィールも、そうしたキャラクターを後押し。少なくとも、どこまでも優しい乗り味が特徴のC3とは共通するメカニカルコンポーネンツを用いつつも、全く異なるテイストが演じられていたのが、DS3のこの仕様だった。
ちなみに、欧州市場では新型C3に続いてのローンチとなるDS3だが、日本市場にはC3と同時の投入が、2010年春を目処に行われる予定という。その折には今回報告のターボ付きMT仕様に加え、120psの自然吸気エンジンに4段ATを組み合わせた仕様も導入される見込み。果たしてこちらが、どのような走りのキャラクターを味わわせてくれるかも興味深い。
(文=河村康彦/写真=プジョー・シトロエン・ジャポン)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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