ポルシェ・ボクスター スパイダー(MR/6MT)【海外試乗記】
全身筋肉 2009.12.11 試乗記 ポルシェ・ボクスター スパイダー(MR/6MT)最もスポーティなボクスター、「ボクスター スパイダー」に初試乗。カリフォルニアの陽の下で対面した、ライトウェイトスポーツカーの走りはいかに?
テーマは軽量化
「スパイダー」を名乗る“ボクスターファミリー3番目の兄弟”が、ポルシェのヒストリーの中でも特に重要な、往年のいくつかのミドシップ・オープンモデルにオマージュを抱いた存在である事は言うまでもないだろう。実際、サイドシル上部を彩るちょっと懐かしい書体の「PORSCHE」のロゴなどは、そうした思いが象徴的に表現されたアイテムだ。
しかし、ポルシェというのはいつの時代においても、単なるノスタルジーのみに頼ったクルマづくりなどは行った試しがない。2009年の自動車シーンを締めくくるイベントであるロサンゼルスモーターショーでワールドプレミアが行われた、この「ボクスター スパイダー」も、まさにそうしたクルマづくりのフィロソフィーをあらためてアピールする存在。そして、今回そこに盛り込まれたテクノロジーの主役は、ずばり「軽量化」だ。
価格や生産性に課題を残す特殊な素材を用いるわけではないにも関わらず、周辺ライバル車に比べるとトータルでは極めて軽いのがポルシェのスポーツカー。そんな特徴の持ち主であるボクスターをベースとしながら、さらなる徹底的な軽量化にトライしたのがこのボクスター スパイダーだ。そうした結果によるMT仕様で1275kgという重量は、同じ3.4リッターの心臓を積む「ボクスターS」に比べて80kgのマイナス。加えて、20mmローダウンの専用サスペンションの装着や電動ソフトトップを脱ぎ捨てたことなどにより、重心高は25mmダウンされたという。
そう、「ストライキングドーム」なる膨らみを備えたアルミ製リアリッドを手に入れて、オリジナルモデルとは一線を画した魅力的なリアビューを見せつけるスパイダーは、ボクスター13年の歴史の中にあっても最も“走り”に特化した1台。そんなモデルの国際試乗会が、冬なお陽光眩しい米国はカリフォルニアを舞台に開催されたのは、半ば当然だろう。何故ならば、“手動巻上げ式”の簡易型ソフトトップを標準装備するとはいえ、そこはあくまでも「デフォルトの姿はオープン」というのがこのモデル。テストドライブを晴天の下で行えることが、必須の条件であるからだ。
軽やかにドライブできる
スタンダードモデルの電動トップを、マニュアルトップ(幌)とアルミ製リアリッドへと置き替えたことで21kg。ドアを「911ターボ」や「GT3」譲りのアルミ製に替えたことで15kg。シートを軽量アイテムに替えて12kg……と、様々な部分に軽量化の手段を講じた結果の、トータル80kgの減量に加え、「ケイマンS」から譲り受けたボクスターS用比で10psプラスを標榜する心臓を搭載するこのモデルのパワー・トゥ・ウェイト・レシオは、わずかに3.98kg/ps。0-100km/h加速のデータは5.1秒と、ボクスターSの5.3秒を確実に凌駕。これがPDK車では5秒フラットとより俊敏さを増し、そこにローンチコントロールの機能が加わるスポーツクロノパッケージを選ぶと4.8秒という最速仕様となる。
ただし、今回用意されていたテスト車両は、その全てがMTモデル。このところ「PDKで売り出し中」のポルシェ車だが、さすがに走りの快感を最重要課題とするこのモデルは、例外であるようだ。
期待通りに眩い陽の光が降り注ぐ米国西海岸の地に用意された、ボクスター・スパイダーの走りのテイストは、ひと言で表現すればまさに「どこをとってもゴキゲン!!」なものだった。
前述のパワー・トゥ・ウェイト・レシオの向上は、クラッチミートの瞬間からしっかり体感出来る。そもそも、ボクスターSでも溢れるトルクに支えられて楽々だったスタート操作は、そのイージーさを一層増した印象。たとえスポーツモデルとは言え、ペダルワークにナーバスさを強いられる強化クラッチなどを無闇に採用しなかったのは大正解。肩肘張らず、あくまでも軽やかにドライブできることこそ、このモデルの真髄であるはずだからだ。
一方で、4000rpm付近からサウンドがクリア度を増し、同時にパワーの大きな上乗せを体感できる高回転域にかけてのスポーツカーらしい伸び感も、明確にボクスターS以上だ。もちろん、そんな強力パワーがしっかり路面に伝達されて駆動力へと変換されるのは、ミドシップレイアウトの持ち主ならでは。
試乗車の中にはオプションアイテムの「ショートシフター」を装着したモデルもあったが、ボクは標準仕様のフィーリングに軍配を上げたい。前述のように、ここは操作ストロークの短縮よりも、軽快な操作感の方を重視したいからだ。
殿様商売と言うなかれ
コーナリングのシーンで、ほとんどロールを意識させないボディコントロール性からも、オリジナルボクスター比での低重心感は、やはり明白。路面凹凸はそれなりに直接的に上下Gへと変わるものの、手足の動きを司る筋肉の動きが、そのままピュアにクルマの挙動に反映されるという観点からすれば、そんなキャラクターは、絶対値は異なっても、911GT3などに通じる部分があるようにも思えたほどだ。
「軽量化を軸としたこうした手法を、そのままケイマンでもやってくれれば、どんなに気持ち良いスポーツクーペが生まれることか!」と一瞬そんな思いが脳裏をかすめたが、それは“禁じ手”というものだろう。走りの自在度と快感は、きっとこのスパイダー以上に大きく得ることが出来そうだが、一方でそれはやはり、自ら911を窮地に追い込むシナリオそのものであるに違いないのだから……。
ボクスターSをベースとしたことは明らかなのに、それよりも100万円近く高いプライスタグを付けるとは、“殿様商売”もここに極まれり、と、第一印象ではそんな思いを抱く人も少なからず存在してしまいそう。しかし、そう考えていながらも、いざ触れてみればその新鮮な乗り味に「もしかして、ボクスターってこっちが本道だったのでは?」と、たちまちヤラれてしまう人が全国に多発しそうな、新しいポルシェの誕生である。
(文=河村康彦/写真=ポルシェ・ジャパン)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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