ポルシェ・ボクスター スパイダー(MR/6MT)
名車の予感 2016.03.12 試乗記 ポルシェのミドシップオープンモデル「ボクスター」に、高出力エンジンの採用と軽量化によってパフォーマンスを向上させた「ボクスター スパイダー」が登場。“自然吸気ボクスター”のフィナーレを飾る高性能モデルの実力に触れた。自然吸気ボクスターの集大成
かねてウワサとなっていた4気筒ターボ搭載の「718ボクスター/ケイマン」が、年明け早々、国内でも正式デビューした。そんな718の登場前夜、まるで“6気筒ミドシップ、究極のフィナーレ!”といわんばかりに現れたのが、ボクスターにおける「スパイダー」とケイマンの「GT4」だ。
両車のスペックについては、『webCG』でも何度も紹介されているので、ここで詳細を繰り返すことはしない。ともに「911」でいうと「カレラS」に相当する3.8リッター水平対向6気筒は、ボクスター/ケイマン史上最大排気量にして、もちろん最高性能でもある。
ボクスターにおけるスパイダーは“走りに直接関係ない部分の装備や機能を省略して軽量化”しているのが売りで、それは最新スパイダーも例外ではない。今回の試乗個体の車検証重量は1350kg。981型ボクスターの車体構造がすでに軽合金を多用した軽量設計であることもあって、同じ6MTの「ボクスターS」比で10kgほどの減量にとどまる。
ボクスター スパイダーといえば、ソフトトップの軽量簡略化が象徴のひとつだ。先代スパイダーが布1枚を上からかぶせるだけのような構造だったのに対して、新スパイダーのそれは同じ手動の1枚モノながら一般的な折り畳み式となり、キャビンが密閉されるようになったのが改良点……というか変更点だ。
ただ、直立したリアの樹脂ウィンドウと、それを支えるリアクオーター部のテンショナーフィンは残されており、フィンの脱着(とルーフを収納するリアフード開閉)作業のためにクルマを降りる必要はある。よって、「マツダ・ロードスター」のように、すべての開閉作業をシートに座ったままできるわけではない。先代よりずいぶん簡単になったとはいえ、スパイダーならではの儀式は健在である。
なにより強烈なエンジンの存在感
軽量ポルシェのトレードマークともいえるベルト式ドアインナーハンドルなど、ソフトトップ以外にも軽量化策は散見されるが、絶対的な減量幅が驚くほどでないのは、大幅に強化された動力系で“いってこい”になった面もあるのだろう。
いずれにしても、1.5リッター前後のエンジンでも不足なく軽快に走らせられるCセグメント程度の重量に、3.8リッターの375psだ。冷静に考えて、“超”の字をつけてもさしつかえない高性能車であることは間違いない。
走りだすと、なによりまず、そのエンジンの存在感がすごい。
この3.8リッターは基本的には911カレラSの軽いデチューン版である。しかし、オープンカーであり、しかもエンジン搭載位置がより耳に近いミドシップ、さらに遮音対策の省略のおかげだろうか、ポルシェ・フラットシックス特有の金属サウンドを超特等席で聴いている迫力と官能がある。
回転上昇に伴うドラマチックな展開もハイチューン自然吸気ならではだ。車重が絶対的に軽いので3000rpm以下でも軽くひねるような速さを見せてくれるが、3000~4000rpmでなにかしらの可変機構が働いて、音とレスポンスが一段階上乗せとなり、5000rpmからリミットの7800rpmまでは、さらに鋭さを増しながら、いい意味でヒステリックな金切り声で鳴きが入る。
加速側で鋭く速く力強いのはもちろんだが、スロットオフでの回転落ちまで右足裏に吸いつくように鋭く、ダウンシフト時の空吹かしも突き刺すがごとし……なのが、ポルシェの自然吸気フラットシックスである。今どきとしてはかなり重いクラッチペダルを蹴飛ばしながら、ついつい意味のない変速を繰り返してしまう。
街中でも快適な乗り味
シャシーも基本的にノーマルより硬い。ただ、ケイマンGT4がレース参戦やサーキット走行を大前提としているのに対して、こっちはあくまで公道での快感を第一義としているのが特徴だ。
たとえば、GT4がデフォルトでギッチギチに締め上げたうえで、可変ダンパーの「PASM」で最低限の乗り心地を確保するのに対して、スパイダーはボクスターのスポーツシャシーより柔らかめの固定減衰。タイヤ幅もGT4よりナローなうえに、タイヤ銘柄も公道優先型の「ピレリPゼロ」である(GT4はほとんどSタイヤの「ミシュラン・パイロットスポーツカップ2」)。
だから、スパイダーの乗り心地は、市街地で転がしていても、背骨をきしませるような暴力的な硬さではない。こういう場合でも、その優秀な乗り心地以上に、乗り手の意識をうばうのは、とにかく盛大なエンジンサウンドのほうである。
今回の試乗取材は2月中旬のことだった。それでもスパイダーの真価を味わいたくて、積雪の心配がなくはない箱根の山坂道に、あえてアシを向けた。もちろん直近の数日間は降雪していないことを確認したうえで、できるだけ凍結リスクを回避するために晴天の午後遅めの時間を選んだ。
それでも路面のところどころに凍結とおぼしき路面の黒ずみがあり、最初はおっかなびっくり気味にペースを落として走らざるをえなかった。しかし、そうした領域でも、スパイダーは氷上を滑るがごとき味気なさは、まるでない。スロットルのオンオフや弱めのブレーキングにも、微妙だがしっかりと荷重移動で応えて、常に濃厚な接地感を伝える。こうした低速での滋味を市街地でも確実に味わえるのが、公道での究極のプレジャーを目指したスパイダーの美点である。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
コーナリングに見る自由自在の操縦性
夕暮れの箱根の路面状況を把握できたところで、私なりにムチを入れると、スパイダーはさらに滋味深かった。
前記のように決してガチガチのチューンではないこともあって、表面的なステアリングレスポンスは意外なほどマイルドで、いい意味で“タメ”のある身のこなしは、いかにもフレンドリーである。
981型ボクスターのデビュー直後、前型より飛躍的に向上したリア限界性能とトラクションをもって、“安定しすぎて、ちょっとツマらなくなったな……”などと生意気にも思ってしまった私だが、スパイダーはちがった。上乗せされたパワー/トルクと加減速両方で鋭いレスポンスに、981型の前後バランスはまさにドンピシャ。絶妙の極致である。
ブレーキングとともにカジを切ると、じわりとロールしつつ路面に食いつきながら旋回をはじめるのが、文字通り手に取るようにわかる。そして、わずかでもヨーが発生すれば、こっちのもの。右足指の微妙な力加減で、旋回コントロールは自由自在。それでいて「加速しよ……」と脳裏によぎった次の瞬間には、リアタイヤにじわっと荷重がのった脱出姿勢に移行しているのだ。
今回は凍結を避けつつも、低ミュー路で調子に乗りすぎてオットットッと思った瞬間もなくはなかった。が、そこは“45:55”という世界一理想的な前後重量バランスをもつミドシップである。よくできたLSDもあいまって、下手なFRよりはるかに穏やかでコントロールしやすい。
さらにブレーキも素晴らしい。あまりに強力な食いつきに、乗り出して1、2回は“カックンかよ”と錯覚してしまいがちだが、実際は正反対。あつかいのタイミングとツボを理解できれば、これほどリニアで頼れるブレーキはそうはない。
長く乗っても飽きないクルマ
操縦性や乗り心地のサジ加減も絶品というほかないボクスター スパイダーだが、そのシャシーチューンは事前に予想していたより“良識派”だった。そのせいもあって、より直接的に官能に訴えてくるのはエンジンである。
スパイダーにはおなじみの「スポーツクロノパッケージ」が標準装備されており、コンソールのボタンで、“スポーツ”、そして“スポーツプラス”を選んでいくと、前記のエンジンの排気音は、爆音、そして超爆音に変わっていく。で、最後にはスロットルオフで“ズパンパンパン!”とアフターバーン音まで加わるのだ。
この究極にして最新鋭のアナログ・スポーツカーに、この種のギミックが与えられることには、少しばかり引っかかるものを感じる古典派マニアもいるかもしれない。しかし、厳しい環境規制に加えて、SNSの発達ですっかりチクリ社会になってしまった現在では、これは必須のデバイスだろう。
先代スパイダーもそもそもの台数が少ないうえに、手放すオーナーもほとんどおらず、中古車市場に出回ることはまれだ。この新スパイダーも正規輸入分はすでに完売。市街地でも山坂道でも、そしておそらくサーキットでも味わい深いスパイダーは、ほんの数日のにわか体験でも“こりゃ長く乗っても飽きないだろうな”としみじみと思った。今回のスパイダーもおそらく、中古車でねらうには、相応の時間と覚悟、そして運が必要となるだろう。
次回のボクスター スパイダーがあったとして(たぶん、あるだろうけど)、それが4気筒なのか6気筒なのかは分からない。ただ、この981型のスパイダーもまた、ヴィンテージポルシェの一台として語り継がれることだろう。こうして、にわか体験できただけでも幸せである。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏)
テスト車のデータ
ポルシェ・ボクスター スパイダー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4414×1801×1262mm
ホイールベース:2475mm
車重:1315kg(DIN)
駆動方式:MR
エンジン:3.8リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:375ps(276kW)/6700rpm
最大トルク:42.8kgm(420Nm)/4750-6000rpm
タイヤ:(前)235/35ZR20 88Y/(後)265/35ZR20 99Y(ピレリPゼロ)
燃費:9.9リッター/100km(約10.1km/リッター、NEDC複合サイクル)
価格:1012万円/テスト車=1089万9000円
オプション装備:ポルシェ・ダイナミックライトシステム<PDLS>内蔵バイキセノンヘッドライト・ブラック(12万8000円)/カラークレスト・ホイールセンター(3万円)/オートエアコン(13万9000円)/シートヒーター(7万6000円)/フロアマット(2万円)/スパイダー・クラシックインテリア(38万6000円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:3990km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:530.1km
使用燃料:77.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.8km/リッター(満タン法)
拡大 |

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.12.30 ホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。といってもただのリバイバルではなく、ハイブリッドシステムや可変ダンパー、疑似変速機構などの最新メカニズムを搭載し、24年分(以上!?)の進化を果たしての見事な復活だ。果たしてその仕上がりは?
-
ルノー・キャプチャー エスプリ アルピーヌ フルハイブリッドE-TECHリミテッド【試乗記】 2025.12.27 マイナーチェンジした「ルノー・キャプチャー」に、台数200台の限定モデル「リミテッド」が登場。悪路での走破性を高めた走行モードの追加と、オールシーズンタイヤの採用を特徴とするフレンチコンパクトSUVの走りを、ロングドライブで確かめた。
-
レクサスRZ350e(FWD)/RZ550e(4WD)/RZ600e(4WD)【試乗記】 2025.12.24 「レクサスRZ」のマイナーチェンジモデルが登場。その改良幅は生半可なレベルではなく、電池やモーターをはじめとした電気自動車としての主要コンポーネンツをごっそりと入れ替えての出直しだ。サーキットと一般道での印象をリポートする。
-
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(FF)【試乗記】 2025.12.23 ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」に新グレードの「RS」が登場。スポーティーなモデルにのみ与えられてきたホンダ伝統のネーミングだが、果たしてその仕上がりはどうか。FWDモデルの仕上がりをリポートする。
-
メルセデス・ベンツGLA200d 4MATICアーバンスターズ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.12.22 メルセデス・ベンツのコンパクトSUV「GLA」に、充実装備の「アーバンスターズ」が登場。現行GLAとしは、恐らくこれが最終型。まさに集大成となるのだろうが、その仕上がりはどれほどのものか? ディーゼル四駆の「GLA200d 4MATIC」で確かめた。
-
NEW
第326回:三つ子の魂中高年まで
2026.1.5カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。ホンダの新型「プレリュード」で、いつもの中古フェラーリ販売店「コーナーストーンズ」に顔を出した。24年ぶりに復活した最新のプレリュードを見た常連フェラーリオーナーの反応やいかに。 -
NEW
スズキ・クロスビー ハイブリッドMZ(4WD/CVT)【試乗記】
2026.1.5試乗記デビューから8年を迎え、大幅な改良が施された「スズキ・クロスビー」。内外装に車体にパワートレインにと、全方位的に手が加えられた“AセグメントSUVの元祖”は、フォロワーであるダイハツ・トヨタ連合のライバルとも伍(ご)して戦える実力を獲得していた。 -
NEW
僅差の2025年、その先へ――F1は2026年、大改革でどう変わるのか?
2026.1.5デイリーコラムホンダがアストンマーティンとタッグを組んで臨むF1の2026年シーズンは、抜きつ抜かれつのバトルを視野に入れ、大幅に変更されたマシンで争われる。その内容と、勝敗の決め手、主要チームの見通しについて詳しく解説しよう。 -
BMW M235 xDriveグランクーペ(後編)
2026.1.4ミスター・スバル 辰己英治の目利きミスタースバルこと辰己英治が、「BMW M235 xDriveグランクーペ」に試乗。FFベースのハイパワー4WD、しかもCセグメントコンパクトということで、ある意味「スバルWRX」と似ていなくもない。そんな両車は、走りの面でも通じるところがあるのだろうか? -
にっこり笑顔の名車特集
2026.1.1日刊!名車列伝2026年最初の名車列伝は、フロントまわりのデザインがまるで笑顔のように見える、縁起の良さそうなクルマをピックアップ。国内・海外の名車を日替わりで紹介します。 -
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】
2025.12.30試乗記ホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。といってもただのリバイバルではなく、ハイブリッドシステムや可変ダンパー、疑似変速機構などの最新メカニズムを搭載し、24年分(以上!?)の進化を果たしての見事な復活だ。果たしてその仕上がりは?










































