第29回:2008年度、ヨーロッパ自動車殿堂入り発表! 大矢アキオが選ぶ自動車殿堂入りさせたい、町の自動車マンたち
2008.02.24 マッキナ あらモーダ!2008年度、ヨーロッパ自動車殿堂入り発表!大矢アキオが選ぶ自動車殿堂入りさせたい、町の自動車マンたち
もちろん、意義なーしッ!
殿堂といえば、世の中では即座に「野球殿堂」を思い出す人が多いと思う。
実はクルマ界にも米、欧、日にそれぞれ「自動車殿堂」が存在する。
そのなかの「ヨーロッパ自動車殿堂」は、業界紙オートモーティブニュース・ヨーロッパが執り行っている。協賛企業もついていて、2008年度はベントレー、BMW、ダイムラー、フォード、GM、ポルシェなど8社がサポートしている。
すでに殿堂入りしている人物の一例を示すと、ゴットリープ・ダイムラー、カール・ベンツ、エンツォ・フェラーリ、フェルデナント・ポルシェといった人たちだ。誰が見ても「意義なーしッ!」な人物が、くまなく押さえられている。
同時に、近年功績があった自動車マンにも殿堂入りの機会は与えられている。たとえば昨年は、メルセデス・ベンツのデザイン・ディレクターを長年務めたブルーノ・サッコが選ばれた。
彼はイタリア出身でありながらメルセデスのスタイリング・ポリシー確立に献身し、ついにはドイツに帰化してしまったくらいだから、受賞に充分値するだろう。
名設計者から「コストカッター」まで
そのヨーロッパ自動車殿堂、2008年度に選ばれた4名の顔ぶれを紹介しよう。
まずは「オペル兄弟」。
オペルの社祖アダム・オペルは1885年にミシン工場を設立。のちに自転車製造にも着手するが、創業10年めの1895年に世を去ってしまう。しかし5人の息子=オぺル兄弟は家業の存続に尽力。1899年に自動車産業進出への足がかりをつくった。今回はそれが評価されたものである。
2人目は、往年のフィアットにおける名設計者ダンテ・ジアコーザ(1905-1996)だ。
彼は業界でも早くからデザインの重要性を認識し、それをエンジニアリング部門から分割・独立させた。「トポリーノ」「500」「600」「アウトビアンキA112」など、フィアットで名車と呼ばれるモデルの多くは、彼のディレクションによるものである。
対して、あとの2名は「ご存命」の方々だ。
ピニンファリーナのセルジオ・ピニンファリーナ名誉会長(1926-)と、1990年代にPSAプジョー・シトロエンの会長を務めたジャック・カルヴェ氏(1931-)である。
ピニンファリーナ氏は父バッティスタが興したカロッツェリアを1961年に社長として引き継ぎ、業界の近代化に貢献。ミラノ証券取引所の上場企業にまで育てあげた。
カルヴェ氏は徹底した経費削減で、プジョー&シトロエンという2ブランドを両立させた功績が認められた。今やフランスで「コストカッター」といえばルノーのカルロス・ゴーン氏だが、カルヴェ氏はいわばその先代である。
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殿堂入りの特典
ところでこの殿堂入りを果たすと、どういう「いいこと」があるのか。
特典1はジュネーブ・モーターショーに合わせて開かれる記念パーティーである。今年も3月4日に同地のインターコンチネンタルホテルで行なわれる。このパーティーは、予約さえすれば一般参加も可能。ドレスコードもタキシードまでは要求されず、ビジネススーツでいいという。ただし、参加費は1人185ユーロ(約2万9000円)、10人テーブル1750ユーロ(約27万5千円)也。もちろん、受賞者はご招待であろうが……。
特典2はジュネーブショーの会場「パレクスポ」の片隅に、似顔絵入りプレートを掲げてもらえる。
しかしこのプレート、猫の手も借りたいほど忙しいモーターショーのプレスデイに、誰からも相手にされていないのが悲しい。
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町の自動車マンも忘れるな!
そんなヨーロッパ自動車殿堂だが、話の勢いついでに、ボク個人が自動車殿堂入りさせたい町の自動車マンも紹介しておこう。
その1:ディーラーのパーツセンターで働くアンドレア(49歳)
彼が勤務するのは地元で長年フィアット、ランチア、アルファ・ロメオを扱っているディーラーだ。だが近年のフィアット系販売店の例にもれず、経営基盤安定のためメルセデス、スマート、クライスラーもいきなり扱うことになった。計6ブランドの各年代モデルの部品注文を一人で捌く姿は、まさに千手観音である。
その2:ガソリンスタンドのジュゼッペ(61歳)&マリア夫婦
朝7時から夜7時まで、スタンドを守り続けて29年。要らないガソリン添加剤など薦めぬかわり、「タイヤの空気減ってるぞ」とまめに注意してくれ、ついでにワイパーの前に溜まった落ち葉を空気入れで吹き飛ばしてくれる。
その3:自動車書店のステファノ君
自動車書籍出版社として有名なジョルジョ・ナーダ出版の直営屋台を仕切る。イモラ、トリノ、パドヴァ……と、イタリア中どこの自動車スワップミートにも必ず出没する。「こんな本ないかな?」というと、即座に出してくる姿はソムリエを通り越して、ボクにとってはドラえもんだ。加えて、自社以外の在庫本も、良書なら迷わず薦める心意気。
実はこのステファノ君、実は泣くも黙るナーダ会長の御曹司である。にもかかわらず、顧客の嗜好を察知すべく現場を離れぬ姿勢に思わず涙を誘われる。
以上がボクが選んだ、マイ自動車殿堂受賞者である。
ただし晩餐会を催すおカネもない。そこで皆さん、イタリア旅行で彼らに出会ったら、せめて「『webCG』で見ましたよ!」と声をかけてあげてください。
(文=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA/写真=GM、FIAT、Pininfarina、大矢アキオ)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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