第975回:ホンダ&スバルのTシャツがイタリアを席巻中
2026.08.20 マッキナ あらモーダ!大手ファストファッションが積極展開
2026年夏、イタリアのファストファッション店で目立っていた商品がある。ずばり、ホンダとスバルのロゴを配したアパレルだ。
展開しているのはプライマークとプル&ベアーである。前者は1969年の創業以来アイルランドに本拠を置き、19の国と地域に480店舗を展開している。後者は1991年の創立で、ザラなどと同じインディテックス・グループの1ブランドである。公式サイトによると2020年には970店舗を達成している。
イタリアにおける筆者の記憶を記せば、両ブランドによる自動車系アイテムの嚆矢(こうし)は、2025年春夏コレクションのフォードである。楕円マークが付いたTシャツなどだった。プライマークはフォードとともに、ホンダのウイングマーク、つまり同社製二輪のロゴをあしらったアイテムを陳列していた。プライマークは続く2025-2026年の秋冬でも、引き続きフォードのライセンスで「マスタング」「シェルビー」「ブロンコ」といった図柄を展開していた。
かわって2026年8月、フィレンツェのショッピングモール、イ・ジーリを覗くと、そうした自動車系コレクションは2025年以上に目立っていた。なかにはマネキンに着用させて展示しているコーナーもあった。
プライマークは新たにスバルを題材に、「Impreza」や「World Rally Team」の文字をあしらったスウェットやTシャツを展開。それらは子ども服にも拡大されていた。プル&ベアーは「シビック タイプR」や初代「NSX」と、ホンダ製四輪に関連した図柄も投入している。
プライマークとプル&ベアーのホームページを閲覧すると、ホンダおよびスバルのコレクションは近隣諸国でも展開されていることが確認できる。
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日本ブームが後押し
前述のショッピングモールで観察したところ、そうしたアイテムを積極的に手にとっていたのは、若い男性やカップルであった。なかには「bello(かっこいい)!」と声を上げている来客も確認できた。
このファストファッションにおけるホンダ&スバル隆盛には、いくつかの背景があると筆者は考える。
第一は、メーカー自身の積極的なブランド資産を活用したライセンスビジネスの本格化だ。ホンダは自社のホームページに「コラボレーション/タイアップ ブランドデザイン活用」と題したページを設け、商品化ライセンスの提供サービスを呼びかけている。スバルに関していえば、2026年8月14日付の『繊研新聞電子版』が「スバルがライセンス事業を本格化 アパレルでファンのより身近に」という記事で詳述している。
第二は、空前ともいえる日本ブームだ。ファストファッション界では以前から日本語、もしくはそれをイメージしたものが流行する兆しがみられた。2022年からの急激な円安に伴う訪日観光客の増加とともに、日本への親近感からそのトレンドは加速した。
そして、1990年代の日本製スポーツモデル、JDM(ジャパンドメスティックモデル)が近年注目を集めていることも、ファストファッション業界が日本に注目している理由のひとつであることは十分考えられる。ホンダは二輪ロードレースのMotoGP、スバルは世界ラリー選手権(WRC)での活躍が知名度を後押ししたことは疑う余地がない。
レガシー産業の証?
ただし自動車が、こうして取り上げられることを単純に面白がるだけでいいのか、という疑問も筆者は抱いている。
アパレルとなっているのは、フォードならシェルビー、マスタング、そしてブロンコと、欧州ではかなりクルマに詳しい人でなければ知らないモデルやモチーフが目立つ。ホンダ車も、前述の通りいずれも歴代モデルばかりである。
参考までに、日本では2026年にユニクロが、グラフィックTシャツの専門ブランド、UTを通じてトヨタ車を描いたTシャツをリリースしたが、図柄はやはり「2000GT」や初代「カローラ」「ハイエース」など古いモデルだった。顧客を虎視眈々と狙う新車の生々しさは、アパレルにそぐわないのであろう。
興味深いのは、この法則が単なる“新旧”の問題では済まないことだ。イタリアでは、ファンイベント以外で現行フィアット車のロゴや「FIAT」の文字をあしらった服を着用している人を見ることは稀(まれ)だ。フィアットは同国において“国民車”であり、あまりに日常に溶け込みすぎているがゆえに、かえってアイテムになりにくいのである。つまりアパレルに選ばれる自動車ブランドの条件とは、懐かしさだけでなく、いまの街並みにおいて「ちょっと珍しい」存在であることも含まれている。
その傍証となるのが市場シェアである。筆者が今回発見した、アパレルに用いられたブランドのシェアは、いずれも限定的だ。イタリアの2026年1~7月における市場占有率を参照すると、フォードは3.11%、それもマスタング、ブロンコといった米国由来のモデルではなく、欧州向け車両である。ホンダは二輪ではトップシェアを誇るものの、四輪はわずか0.74%にとどまる。スバルに至っては0.16%しかない。日常であまり見かけないブランドだからこそ、街で誰かが袖を通していれば「懐かしい」「かっこいい」という反応を引き出せるのかもしれない。
では、なぜそもそもアパレルの図柄に自動車が選ばれるのか? 答えを教えてくれるのは、懐かしいビデオゲームメーカーのアタリや、かつて写真用フィルムで世界的に有名だったコダックだ。それらのブランドのロゴを配した商品は、いくつものアパレルメーカーから発売されている。いっぽうでテスラ、アンソロピック、オープンAIのロゴが記されたライセンス商品は、少なくともファストファッションでは見たことがない。背後には、「アパレルの図柄になる=なんだか知らないけど懐かしい=成熟した産業」という図式がある。すなわち自動車がレガシー産業であることを、そうしたロゴを配したアパレルの流行は無言のうちに物語っているのかもしれない。
もうひとつ気になるのは、こうしたライセンス展開に前のめりなのが、いずれも量販メーカーという点だ。フェラーリやポルシェのような高級車メーカーは、ブランドの希少性を守るため、ファストファッションとのライセンスビジネスには総じて消極的である。逆にいえば、自らのロゴを気軽に差し出す姿勢は、長い目で見れば高級ブランドという選択肢をみずから手放しているのではないか、とも考えてしまう。
かくも複雑な思いはあるものの、イタリア人がホンダやスバルのTシャツを着る時代が来るとは。「日本車なんて、欧州車のコピーだぜ」と笑われていた1990年代には考えられなかったことである。
(文=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/写真=大矢麻里<Mari OYA>、Akio Lorenzo OYA/編集=堀田剛資)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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