パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム
2018.06.26 画像・写真今年で96回目の開催となるパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム(PPIHC)が、2018年6月19日~24日にアメリカ・コロラド州で開催された。世界で最も高低差のあるコースを走ることから、その過酷さで知られる伝統の山岳レース。代表的な参戦車両やレースの模様を、写真とともに紹介する。(文と写真=廣本 泉/text&photo=Izumi Hiromoto)
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1/24今大会で最も注目を集めたのが、フォルクスワーゲンのEVスポーツ「I.D. Rパイクスピーク」だった。ドライバーは3度の優勝経験を持つロマン・デュマで、予選からトップタイムをマーク。2013年の大会においてセバスチャン・ローブが「プジョー208 T16パイクスピーク」で記録した予選タイムを10秒も短縮するなど、抜群のパフォーマンスを披露した。
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2/24PPIHCのレースウイークは長い。6月24日に決勝を迎える2018年の大会も、同月18日の公式車検で幕を開けた。車検場となったのは、ホストタウンであるコロラドスプリングス郊外の屋内施設、ワールドアリーナの駐車場。公開形式によりファンに見守られるなか、四輪部門で64台、二輪部門で24台のエントラントが車検を受けていた。写真は「ポルシェ911 GT3」で、ステアリングを握ったのは、アタック1クラスに参戦した日本人ドライバー小林昭雄。国内のヒルクライムで活躍するものの、PPIHCは初参戦で、「ガードレールのない怖いコース。慣れるまで大変でした」などとコメント。それでも予選でクラス15位につけ、決勝でも15位で完走を果たした。
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3/24フォルクスワーゲンの「I.D. Rパイクスピーク」とともに今大会で注目を集めたのが、ベントレーが投入した新型SUV「ベンテイガ」だ。安全装備を除けばほぼノーマルの状態ながら、ドライバーには2度の優勝経験を持つリース・ミレンを起用。「エンジンパワーは素晴らしいけれど、軽量化をしていないから車体そのものは重い。ただ、ヒルクライムでは車重とエンジンパワーのバランスが重要で、ベンテイガは悪くないと思うよ」とのことで、練習走行から好タイムを連発していた。事実、予選ではエキシビションクラスで1位を獲得。決勝でも10分49秒402の好タイムでクラス2位の座を獲得した。
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4/24国内外のラリー競技で活躍する日本人ドライバー奴田原文雄も、PPIHCに参戦した。奴田原は2009年に哀川 翔のコドライバーとして「フォード・フィエスタ」で参戦したほか、2012年にはドライバーとしてTMG(TOYOTA Motorsport GmbH)のEVレーシングカー「TMG EV P002」でEVクラスを制した実績がある。4度目の参戦となる今大会には、「日産リーフ」でタイムアタック1クラスにエントリー。「ダンパー以外はほぼノーマルの状態。予選ではバッテリーがオーバーヒートしてセーフモードに入った」と言うとおり、予選は18位と低迷。最終的にクラス18位で完走した。
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5/24PPIHCはパイクスピークの山頂へと向かう有料道路を舞台に開催される。朝8時30分より一般開放されることから、6月19日~22日の練習走行および予選は5時30分から8時30分までの、早朝の3時間に限って実施されている。各チームは、4時のコースオープンと同時に入山を開始。ちなみに、練習走行と予選は二輪部門、四輪部門のグループA、四輪部門のグループBからなる3つのグループに分けられ、コースもボトム、ミドル、アッパーの3つのセクションに分割される。各グループは、各セクションで予選と練習走行に臨む。
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6/24早朝の練習走行および予選に備えて、各チームはそれぞれのスタート地点にマシンを搬入。スタート地点の駐車スペースで走行準備が行われるほか、セッション中にはコースコンディションに合わせてマシンセッティングを変更するなど、細部の調整に余念がない。写真はアンリミテッドクラスに参戦した「シボレー・カマロ」。徹底的な改造が施されている。
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7/24ワークスチームのフォルクスワーゲンは、準備万端でレースに臨む。スタート地点のメンテナンスエリアには巨大なサービスカーを持ち込み、数多くのメカニックが作業にあたったほか、発電用および冷却用のトラックも搬入。走行後にはモーターやバッテリーのクーリングを実施するなど、パイクスピークを攻略するためのサービス体制は万全となっている。
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8/24独自のレギュレーションを採用するPPIHCの参加車両は、多彩なバリエーションとなっている。特にアンリミテッドクラスは、その名のとおり、安全基準さえクリアすれば改造範囲はほぼ無制限の状態で、徹底的なカスタマイズが施されたモンスターマシンが集結している。写真の「フォード・フォーカス」は大胆なエアロキットを装着した上で、「日産GT-R」の3.8リッターV型6気筒エンジンを搭載。予選ではクラス4位につけ、決勝はクラス4位(9分52秒720)でフィニッシュした。
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9/24PPIHCにはオリジナルのレーシングカーが数多くエントリーする。写真の「ウルフTSCホンダ」も、オリジナルのシャシーを採用し、北米仕様の「S2000」に搭載されていた2リッター直列4気筒「F22」エンジンにターボをインストールした個性的な一台だ。同車はライトウェイトを武器に、6月22日の練習走行ではアンリミテッドクラスで2番手タイムをマーク。しかし決勝ではクラス7位に終わった。
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10/24PPIHCはFIAのGT3モデルも参戦可能。「マクラーレンMP4-12C」や「ポルシェ911」などヨーロピアンスポーツのレーシングマシンもエントリーしていた。ほかのレースで採用されている性能調整「BoP(Balance of Performance)」も不要になっていることから、GT3勢がタイムアタック1クラスで好タイムを連発。ポルシェ911に続いてマクラーレンMP4-12Cが2番手のタイムをマークした。決勝でもマクラーレンMP4-12Cは9分52秒748を記録し、クラス2位で完走した。
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11/24PPIHCには最新マシンのほか、旧型モデルも数多く参戦している。2018年の大会で最も古いマシンが、1949年型の「フォードF1」だ。その名のとおり、フォードのピックアップトラック「Fシリーズ」の初代モデルで、5.9リッターのディーゼルエンジンを搭載するほか、巨大なリアウイングを装着するなどカスタマイズには余念がない。黒煙をまき散らしながらワインディングロードを駆け抜けていく光景は迫力満点。ファンからは“スモーキー”の愛称で親しまれている。
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12/24PPIHCには「ポルシェ・ケイマンGT4」のワンメイククラスが設定されている。タイヤもヨコハマのワンメイクとなっていることから、僅差のタイム争いが展開される。ちなみに同クラスにはアメリカラリー選手権やGRC(グローバルラリークロス)で活躍するトラビス・パストラーナも199号車(写真)でエントリー。今回、同クラスで予選1位を獲得したのは66号車のJ.R.ヒルデブランドで、決勝では199号車のパストラーナが10分33秒897でクラス優勝を果たした。
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13/24トニー・ジレットが立ち上げたベルギーのブランド、ジレットも登場。ベルギーチームがフラッグシップスポーツの「ヴェルティゴ」を投入した。パイクスピーク仕様のエンジンはフォルクスワーゲン製の2リッターターボで、ジャッキー・イクスの娘でありDTM(ドイツツーリングカー選手権)で活躍したバニーナ・イクスがドライビングを担当している。レースウイークはトラブルにたたられるものの、タイムアタック1クラスで2位につけたほか、決勝では10分54秒901をマークし、クラス6位でチェッカーを受けた。
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14/24こちらは1966年型の「シェルビー・コブラ」。当初、同チームでは「シボレーSS」で参戦する予定だったが、マシントラブルが発生したことから、コブラにスイッチした。同モデルは2014年に設立されたパイクスピークオープンクラスをターゲットに開発されたマシンで、大胆なフロントウイングとリアウイングを装着するなど、さまざまなモディファイが施されている。決勝はクラス8位で完走。
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15/24標高4000m付近で撮影したカット。パイクスピークのコースは、ミドルセクションの後半から高木が生息できない森林限界に入り、アッパーエリアは岩場に覆われた独特のロケーションとなっている。写真はホンダがアメリカで展開するブランド、アキュラの「TLX Aスペック」。ホンダブランドとしては「アコード」に類するマシンで、前後のウイングをはじめ、さまざまなモディファイが施されている。決勝では10分48秒094をマークし、パイクスピークオープンクラスで7位につけた。
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16/24イタリアのチームが2台の「ノーマM20 SF PKP」を投入。同モデルはフランスのコンストラクターが開発したプロトタイプスポーツカーで、ルマン24時間レースで活躍したほか、PPIHCにおいてもロマン・デュマのドライブで3回優勝するなど、モータースポーツシーンで豊富な実績を持っている。エンジンは「ホンダ・インテグラ」でおなじみの「K20A」にターボを装着したレーシングスペックで、ライトウェイトを武器に今大会でも好タイムをマーク。決勝では11号車を駆るシモネ・ファッジオリが8分37秒230をたたき出し、アンリミテッドクラスで2位を獲得した。
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17/246月19日~21日の公式予選および練習走行に続いて、22日の早朝にも希望者を対象にしたオプションとして練習走行が実施された。決勝前のセッションがすべて終了した同日の夕刻には、ホストタウンのコロラドスプリングスでファンフェスタも開催。ファンフェスタは文字通り、ファンを対象にしたイベントで、市の中心部を封鎖して競技車両が展示された。エクストリームバイクのデモランが行われるなど、まさに“前夜祭”のような雰囲気で、数多くのファンが年に一度の祭典を満喫していた。写真のマシンはタイムアタック1クラスに挑んだ「アキュラNSX」。決勝で10分02秒448をマークし、クラス4位を獲得した。
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18/24ファンフェスタにはドライバーも参加し、サインや記念撮影に応じていた。「ベントレー・ベンテイガ」でエキシビションクラスに参戦したリース・ミレンなど、PPIHCのレジェンドドライバーと触れ合えるチャンスとあって、数多くのファンが来場した。ちなみにこのファンフェスタ、市の中心部を4ブロックも封鎖して実施するほどの大規模なイベントとなっている。
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19/24こちらはパイクスピークオープンクラスに参戦した1972年型の「フォルクスワーゲン・バグ(ビートル)」。2リッターのディーゼルターボを搭載している。ドライバーはWRC(世界ラリー選手権)で活躍したマンフレッド・ストールで、「PPIHCは初めての参戦。高い山だけど、ラリーに似ているから違和感はないよ」と語った。とはいえ、「レースウイークはトラブルが多くてまともに走れなかった」とのこと。決勝は、クラス10位にとどまることとなった。
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20/246月24日の決勝は二輪部門のタイムアタックから幕を開けた。今大会には24台のバイクがエントリー。写真は「カワサキZ900RS」で参戦した日本人ライダーの井上哲悟で、アタック中に転倒を喫しながらもすぐに再スタートし、チェッカーを受けた。
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21/242018年の大会を制したのはフォルクスワーゲンのEVスポーツ「I.D. Rパイクスピーク」を駆るロマン・デュマだった。四輪部門の先頭で出走したデュマは7分57秒148をマークし、自身4度目の総合優勝を獲得。同時に、2013年の大会でセバスチャン・ローブが「プジョー208 T16パイクスピーク」を駆って記録した8分13秒878を約16秒も短縮。前人未到の7分台で、コースレコードを更新した。
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22/24パイクスピークでは、チェッカーを受けたドライバーたちがフラッグマンと記念撮影したり、チェッカードフラッグにサインをしたりする。「ポルシェ・ケイマンGT4」で参戦したトラビス・パストラーナ(写真左)もこの習慣に応じたひとり。アメリカンモータースポーツらしいワンシーンだ。
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23/24好天の下、二輪部門のアタックで幕を開けた2018年のPPIHCだが、四輪部門が始まるころになると曇天に変わり、終盤には雪と霰(あられ)が舞い始めた。アッパーエリアが積雪したことから、最後の15台はコースを短縮してのタイムアタックが実施されることとなった。
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24/24フィニッシュしたマシンは山頂で一時保管されるのだが、降雪の影響によりモンスターマシンたちも雪に覆われた。ちなみにこの時、スタート地点のボトムエリアは小雨程度。このように、標高4300mのパイクスピークは目まぐるしく天候が変化するため、世界屈指のチャレンジングなヒルクライムレースとなっている。