大矢アキオの「パリモーターショー2024」探訪記 ぎこちない「いいね」とTikTok 3人娘
2024.11.01 画像・写真ああ、それが資本主義なのだ
第90回パリモーターショーが2024年10月20日に閉幕した。主催者発表によると7日間の会期中、報道関係者4000人、コンテンツクリエイター1000人に加え、50万8007人の一般来場者が訪れたという。約2週間行われていた2000年代との比較は難しいが、同様に1週間だった前回の2022年が40万人未満だったことを考えると、まずまずの結果といえる。
「マッキナあらモーダ! 第882回」で記したように、今回は中国ブランドが目立った。気になったのは、彼らが記者発表会の最後に必ず、親指を突き出す「サムズアップ」をしていたことだ。言い換えれば「いいねマーク」である。中国ショーではよく見られる光景で、彼らとともに働く欧州出身の首脳たちも、同様のポーズをぎこちなくまねている。紅旗ではアンバサダー役のフランス人女性シンガーが、サムズアップだけでなく「We love Hongqi(紅旗)!」と唱和した。人はお金のあるほうに流れてゆく。やはり自動車産業は、資本主義の権化なのだ。
いっぽう最終日に訪れたプティ・パレ美術館でのこと。階段の下で来館した若い女性3人が踊っていた。振り付けからして、TikTokなどに投稿するショート動画を撮影していたのだろう。「踊ってないで、モネでも見て帰れ」と突っ込みを入れたくなった。だが、近未来の購買層である彼女たちの世代に「あか抜けないブランド」と思われないために、欧州メーカーはローラースケーターまで導入して記者発表したのに違いない。そう思うと、こちらもまた複雑な心境に陥ったのであった。
(文と写真=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/編集=堀田剛資)
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1/22パリモーターショー会場で。「ソフトカー」はスイスの電動マイクロモビリティー研究開発会社による参考出品車だ。一般的な乗用車で約4万5000点ある部品点数を1800点にまで減らしている。現在、生産ライセンスの供与先を募集中だ。デザインを担当したフランソワ・ビュロン氏と。
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2/22ルノーの新世代モビリティー会社モビライズは、マイクロEV(電気自動車)「デュオ」と、その商用車版である「BENTO」を公開した。記者発表ではローラースケーターのパフォーマンスを展開。内燃機関では高齢者ユーザーが多かった軽便車の市場に、新しい世代を取り込もうという意図が感じられる。
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3/22中国第一汽車の紅旗のプレゼンテーションより。欧州に投入するEV「EHS7」のオーナー第1号である歌手のジョイス・ジョナサン氏への、キーの贈呈式が行われた。
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4/22紅旗の記者発表における締めの様子。ロールス・ロイスから移籍したデザイン担当副社長ジル・テイラー氏(写真向かって右端)や、ジョイス・ジョナサン氏(同右から3人目)も一緒にサムズアップ。
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5/22GAC(広州汽車)の記者発表会でも、ヨーロッパ市場に投入するEV「アイオンV」と並んで関係者がサムズアップ。写真向かって左から1人目は、GAC研究開発センターの副社長で、グループのデザイン部門を統率するファン・ツァン氏。
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6/222024年9月のフランス国内EV新車登録では、「テスラ・モデルY」が4591台で首位。2位の「シトロエンe-C3」を965台も引き離している(データ出典:Avere-France, CCFA)。極めて簡素なブースは、覇者の余裕といったところか。
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7/22イヴェコの小型商用EV「eムーヴィー」。どこか「マッキナあらモーダ! 第876回」で紹介した「ヒョンデ・スターリア」に似ていると思ったら、スターリアのトラック版「ST1」の姉妹車であった。
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8/222024年パリモーターショーの運営団体が予算管理に厳格であったことを思わせるのは、ブースとブースをつなぐ通路の床。メーカーが出展するパビリオンでも従来のようなじゅうたんは省かれていた。
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9/22以下はパリ各地でのスナップ。ロン・ポワン・シャンゼリゼから遠くないタバコ店兼立ち飲みカフェで。プレスデー翌日の『ル・パリジャン』紙の1面写真は「GACアイオンV」。「中国製EVがサロンを席巻」の見出しが躍っていた。
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10/22セーヌ左岸15区のルノー販売店。グループ内ブランドのダチアを併売しているのは、もはや欧州各地のルノー販売店でありふれた光景だ。またフランスでは、「ルノー5 E-Tech 100%エレクトリック」の販売がすでに開始されている。
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11/22モーターショー会場の地下鉄最寄り駅で。旧フランス・ガス公社の流れをくむアンジー社による充電ネットワークの広告だ。かつてショー期間のパリでは、駅はもとより空港まで自動車メーカーが華やかなポスターを競うように掲げていた。だが、今回はほとんど見られなかった。時代は流れている。
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12/22パリ8区で見かけた「BYDドルフィン」。2024年9月のフランス国内EV新車登録トップ10にBYDの姿はないが、浮上してくるのは時間の問題だろう。
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13/222010年に旧FCAが鳴り物入りでロン・ポワン・シャンゼリゼに開設したショールーム跡。同施設は2021年に撤退。現地報道によれば、一時過激化したデモと新型コロナ外出規制がきっかけだったという。しかし筆者に言わせれば、“本当の”シャンゼリゼ通りから離れていて、客足が限られていたのが理由だったと思う。現在は、あるファッションブランドが開店準備中だった。
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14/22パリの市電「T3a」の車内で。路線図にはオリンピック/パラリンピック競技会場の最寄り駅を示す、ピンクの矢印が残っていた。
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15/22パリの交通機関は、2024年から「iPhone」の「Appleウォレット」に交通系ICカードを追加できるようになった。従来、切符売り場で現金もしくはクレジットカードを出すのはスリの被害を招く行為だったが、それも解消されることとなりそうだ。ただし「Apple Watch」の場合、筆者が使っている古いモデルは非対応であることが判明。とほほ。
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16/22地下鉄13号線は、パリにある16路線のなかでも古い部類に属し、ホームには“駅長室”という愛称で1970年代まで使われていた監視小屋が残る。この駅の場合、現在は近隣の学校の作品展示に活用されている。
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17/22投宿した古いアパルタマンの部屋には、昔ながらのドアノブが残っていた。2001年のフランス映画『アメリ』の劇中で、意地悪な食品店主を混乱させるため、主人公がひそかに表・裏を付け替えていたドアノブと同形状である。
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18/222011年に導入されたものの赤字が膨らみ、2018年に終了してしまったパリのカーシェアリング「オトリブ」。その端末ステーション跡が今も残る。稼働していた頃は、「免許証を再度スキャナーに置いてください」などといった集中管理センターのオペレーターによるリモート指示に悪戦苦闘したものだった。パリ近郊マラコフで。
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19/22デパート「ル・ボンマルシェ・リーヴ・ゴーシュ」付近で。パリでは2023年9月から、電動キックスケーターのシェアリングが住民投票によって禁止された。以来、同じくシェアリングの自転車の存在感が再び増加。だが場所によっては、乱雑な放置によって景観を損ねる原因になっている。
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20/22バス運転士の人材不足は、いずこも同じ。パリ交通営団(RATP)による募集広告が鉄道駅に貼られていた。運転士の一般的呼称である「conducteur/conductrice」ではなく、「pilote(パイロット)」の語を用いて、関心をひこうとしている。
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21/22「VIVE LA GREVE(ストライキ万歳)」の落書き。ああ、ここはフランス。
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22/221900年パリ万博のために建てられたプティ・パレ。美術館の一角で、TikTok用と思われるダンスを繰り広げる女子3名。