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第882回:「パリモーターショー2024」見聞録 これはヨーロッパの白旗か、新時代の「のろし」か

2024.10.24 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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欧州ブランド続々復帰 気になるEVシフトは……

2024年10月14日から20日まで、フランス・パリ市内のポルト・ド・ヴェルサイユ見本市会場で、「第90回パリモーターショー」が公開された。

2年前、2022年のショーは、欧州主要メーカー出展がルノーグループとステランティス(プジョー、ジープ)のみという寂しいものだった。対して今回は、ステランティスはプジョー、シトロエン、アルファ・ロメオを、フォルクスワーゲン(VW)グループはVW、アウディ、シュコダを、BMWグループはBMWとMINIを出展させたのに加え、フォードもブースを構えた。また質素な設営ではあったがテスラも出展し、韓国のキアも復帰を果たした。背景には、ジュネーブショーが消滅したことで欧州における2024年唯一の主要自動車ショーとなったことに加え、欧州都市のなかでは比較的充電インフラの整ったパリが、引き続き電動車の有望なマーケットであることがある。

最も勢いがあったのはルノーグループであった。ルノー、ダチア、アルピーヌ、そして都市用電動モビリティーのモビライズ、小型商用車のルノー・プロ・プリュスの各ブランドが、コンセプトカーや世界初公開の新型車を展開した。ルカ・デメオCEOは、2024年にグループで毎月1台新型車を出してきたことを強調。過去30年において、最も成功した年であったと定義した。ただし、彼が欧州自動車工業会の会長でもあることを考えると、ヨーロッパ自動車産業の健闘を自らのメーカーで表現する必要もあったと思われる。

注目すべきは、電動化へのニュアンスだ。ルノーグループは2020年から、「ルノーブランドは電動化推進、ダチアは内燃機関中心」という慎重な戦略をとってきた。今回は、それをさらに一歩進めると思われる発言がデメオCEOから発せられた。「電気自動車(EV)は未来における大きな部分だ。しかしそれがすべてではない」とし、社外の約20社と協力しながら空力、素材、パワートレイン技術といった広い分野で二酸化炭素の排出量削減を目指していくと説明したのだ。これはフルEV一択ではなく、ハイブリッドも含む内燃機関の将来性をあらためて認めたものといえる。参考までに、数年前までEVに“全振り”、もしくはそれに近い姿勢を示していた他の欧州系メーカーからも、同様のプレゼンテーションが聞かれた。

パリモーターショーに出展された各社の展示車両を紹介。まずはアルピーヌの「A390_β」。ファストバックの5ドアEVで、タイヤの間で駆動力を最適に制御するアクティブトルクベクタリングが、コーナーでのダイナミクスを向上させる。量産型は、2025年からアルピーヌの本拠地ディエップで生産される。
パリモーターショーに出展された各社の展示車両を紹介。まずはアルピーヌの「A390_β」。ファストバックの5ドアEVで、タイヤの間で駆動力を最適に制御するアクティブトルクベクタリングが、コーナーでのダイナミクスを向上させる。量産型は、2025年からアルピーヌの本拠地ディエップで生産される。拡大
「アルピーヌA390_β」のインテリア。通常運転モードから「F1モード」にスイッチを切り替えることで、ステアリングやペダルの位置が変わる。
「アルピーヌA390_β」のインテリア。通常運転モードから「F1モード」にスイッチを切り替えることで、ステアリングやペダルの位置が変わる。拡大
「ルノー・アンブレム コンセプト」は、後輪駆動用アーキテクチャー「AmpR」をもとに構築されたCセグメントのクロスオーバー。通常はEV走行、長距離では水素を用いて燃料電池で走行する、デュアルドライブシステムを採用。
「ルノー・アンブレム コンセプト」は、後輪駆動用アーキテクチャー「AmpR」をもとに構築されたCセグメントのクロスオーバー。通常はEV走行、長距離では水素を用いて燃料電池で走行する、デュアルドライブシステムを採用。拡大
「ルノー4 E-Tech」は、「シトロエン2CV」と並ぶ戦後の国民車「ルノー4」をモチーフにした全長4140mmの電動SUV。2025年初頭の発売予定で、価格は3万〜3万5000ユーロ。フランス北部のモーボージュ工場で生産される。
「ルノー4 E-Tech」は、「シトロエン2CV」と並ぶ戦後の国民車「ルノー4」をモチーフにした全長4140mmの電動SUV。2025年初頭の発売予定で、価格は3万〜3万5000ユーロ。フランス北部のモーボージュ工場で生産される。拡大
1971年「ルノー17クーペ」をEVで再解釈した「R17コンセプト」。プロジェクトにはフランス人デザイナーのオラ・イト氏が参画した。オリジナルが前輪駆動であったのに対し、後輪駆動が採用されている。
1971年「ルノー17クーペ」をEVで再解釈した「R17コンセプト」。プロジェクトにはフランス人デザイナーのオラ・イト氏が参画した。オリジナルが前輪駆動であったのに対し、後輪駆動が採用されている。拡大
「R17コンセプト」のインテリア。カバの目のようにダッシュボートから独立したメーターも、オリジナルの意匠を参考にしている。
「R17コンセプト」のインテリア。カバの目のようにダッシュボートから独立したメーターも、オリジナルの意匠を参考にしている。拡大
ルノーの「エスタフェット コンセプト」。「シトロエンHトラック」と並ぶ往年のフランス製ワンボックス型バンの名が、EVで復活。
ルノーの「エスタフェット コンセプト」。「シトロエンHトラック」と並ぶ往年のフランス製ワンボックス型バンの名が、EVで復活。拡大
「モビライズBENTO」は、ルノーの新モビリティー専門会社による都市型商用EV。全長は2540mmで荷室容量は649リッター。
「モビライズBENTO」は、ルノーの新モビリティー専門会社による都市型商用EV。全長は2540mmで荷室容量は649リッター。拡大
「ダチア・ビッグスター」。ルノーグループのダチアが2021年に公開した同名のコンセプトカーが、量産車となって登場。全長約4.6mで、ブランドのフラッグシップを担う。
「ダチア・ビッグスター」。ルノーグループのダチアが2021年に公開した同名のコンセプトカーが、量産車となって登場。全長約4.6mで、ブランドのフラッグシップを担う。拡大
「シトロエンC5エアクロス コンセプト」は、次期「C5エアクロス」の予告版。ステランティスのミディアムプラットフォームを採用した車体は全長4650mm。マイルドハイブリッドとプラグインハイブリッド、そしてEVが用意される。
「シトロエンC5エアクロス コンセプト」は、次期「C5エアクロス」の予告版。ステランティスのミディアムプラットフォームを採用した車体は全長4650mm。マイルドハイブリッドとプラグインハイブリッド、そしてEVが用意される。拡大
「フォード・カプリ」という懐かしいネーミングが、VWの「MEB」プラットフォームを用いた電動クロスオーバーとして復活。RWDとAWDがあり、システム出力は125kW、210kW、250kWの3種。独ケルン工場製。
「フォード・カプリ」という懐かしいネーミングが、VWの「MEB」プラットフォームを用いた電動クロスオーバーとして復活。RWDとAWDがあり、システム出力は125kW、210kW、250kWの3種。独ケルン工場製。拡大
「フォルクスワーゲン・タイロン」は、「ティグアン・オールスペース」の後継車となる7人乗りSUVだ。
「フォルクスワーゲン・タイロン」は、「ティグアン・オールスペース」の後継車となる7人乗りSUVだ。拡大
「アウディQ6スポーツバックe-tron」は、アウディのEVファミリーにおける新たな選択肢。ファストバックスタイルの採用により、Cd値はSUV版の0.28から0.26に改善。航続可能距離は656kmだ(WLTP計測値)。
「アウディQ6スポーツバックe-tron」は、アウディのEVファミリーにおける新たな選択肢。ファストバックスタイルの採用により、Cd値はSUV版の0.28から0.26に改善。航続可能距離は656kmだ(WLTP計測値)。拡大

あの紅旗もパリ上陸

日本の完成車メーカーは、前回に続きすべて出展を見送った。ただし東京に本社を置き、自動車部品も手がける工作機械メーカーのTHKは、2023年のジャパンモビリティショーで展示した自社製インホイールモーター内蔵のコンセプトカー「LSR-05」を欧州初公開した。デザインを担当したSNデザインプラットフォームの中村史郎CEOもプレゼンテーションを実施。ファブリツィオ・ジウジアーロ氏をはじめ、何人もの著名デザイナーが会場を訪れていた。

ところで、乗用車に割り当てられた3館のひとつは、“中国館”と呼ぶべき雰囲気を醸し出していた。ヨーロッパで躍進著しい上海汽車のMGこそ姿を見せなかったものの、すでに欧州進出から2年のBYDに加え、中国第一汽車の紅旗、東風の風行(フォーシン)、広州汽車(GAC)のアイオン、上海汽車のマクサスが出展。新興EV系では小鵬(シャオペン)や、赛力斯(セレス)と通信機器大手ファーウェイが出資するアイトが出展した。

紅旗では、ロールス・ロイスのチーフデザイナーから紅旗のデザイン担当副社長に電撃移籍して話題を呼んだジル・テイラー氏も車両解説を行った。彼は、欧州ローンチした「EH7」とそのSUV版である「EHS7」は、今後登場する数多くのユニークな商品群の第1弾であると説明。紅旗の拡大する車種系列で、低価格帯モデルではダイナミックかつ若々しさを、大型セダンではクラシックな伝統の優雅さと気高さを表現してゆくという。フランスでは、先にMGを扱っているインポーターが販売を担当。ショー直前に欧州メディアを対象に試乗会も実施済みだ。記者発表中には最初のEHS7オーナーとなるフランスの歌手、ジョイス・ジョナサン氏を招いてキーの引き渡し式を行った。この手のセレモニーは、中国本土のショーでよく行われるものを踏襲している。

紅旗といえば、かつては事実上、中国共産党の幹部専用車であった。それがメーカー自ら「世界の新しい高級車ブランド」と定義し、先の中東上陸に続いて欧州デビューを果たしたことに時代の変節を感じざるを得なかった。

2023年のジャパンモビリティショーで発表された「THK LSR-05」。THKの自社製インホイールモーターを内蔵したコンセプトカーが、欧州で初公開された。
2023年のジャパンモビリティショーで発表された「THK LSR-05」。THKの自社製インホイールモーターを内蔵したコンセプトカーが、欧州で初公開された。拡大
紅旗のプレスカンファレンスの様子。欧州で販売が開始されるEV「ES7」(中央)と「EHS7」(右)を、デザイン担当副社長のジル・テイラー氏が紹介する。
紅旗のプレスカンファレンスの様子。欧州で販売が開始されるEV「ES7」(中央)と「EHS7」(右)を、デザイン担当副社長のジル・テイラー氏が紹介する。拡大
「BYDシーライオン7」は、容量91.3kWのバッテリーを搭載するミッドサイズのクロスオーバーEV。欧州の業界関係者の間では「テスラ・モデルY」の好敵手としてどこまで市場で伸長するか注目されている。 
「BYDシーライオン7」は、容量91.3kWのバッテリーを搭載するミッドサイズのクロスオーバーEV。欧州の業界関係者の間では「テスラ・モデルY」の好敵手としてどこまで市場で伸長するか注目されている。 拡大
GAC(広州汽車)のブースで。同社は環境対策車専門ブランド、アイオンの世界戦略EV「V(ブイ)」で欧州に挑む。フルチャージで520km、15分の急速充電で255kmの走行が可能とされている。
GAC(広州汽車)のブースで。同社は環境対策車専門ブランド、アイオンの世界戦略EV「V(ブイ)」で欧州に挑む。フルチャージで520km、15分の急速充電で255kmの走行が可能とされている。拡大

ステランティスの危機感

しかしながら欧州メディアが最も注目した中国系ブランドといえば、EVメーカーのリープモーター(零跑汽車)である。同社は2015年に杭州で創立。2023年にはステランティスが20%出資した。さらに同年、両社はステランティス:リープモーター=51:49の出資比率でオランダにリープモーター・インターナショナルを設立。同社は中国以外でのリープモーター車の販売権を有する。

リープモーターは中国系でありながら、前述のパビリオンではなく、ステランティス系であるアルファ・ロメオ、プジョー、シトロエンと同じパビリオンにブースを構えた。ここからも――公式には定義されていないものの――ステランティスにおいて15番目のブランドに限りなく近い位置づけにしようという意図が伝わってくる。

プレスカンファレンスでは、リープモーターの創業者兼CEOである朱 江明氏に続き、ステランティスのカルロス・タバレスCEOも登壇。製品の高い技術と品質を強調するとともに、世界各地で手ごろな電気モビリティーソリューションを提供できると説明した。

ところでイタリアの経済紙『イル・ソーレ24オーレ』は2024年9月末、「ステランティスがルノーと合併するうわさがある」と報道した。それに関して後日ロイターは、ステランティスのタバレスCEOが「臆測にすぎない」、ルノーのデメオCEOも「ただのうわさだ」としてコメントを控えたと報じた。ただし、ステランティスが2024年前半に続き、第3四半期も業績不振が明らかになったことを考えると、ただのうわさとして一蹴できないのもたしかだ。さらにショー開幕前の2024年10月4日、欧州連合(EU)が中国製EVに対する最大35.3%の追加関税案を成立させた。リープモーター車にどのような影響があるか、注意深く見守りたい。

ステランティスとリープモーターの提携は、欧州メーカーにとって中国ブランドに対する白旗すなわち降伏なのか? それとも新時代の狼煙(のろし)か? 答えは2年後の、ここパリでわかるだろう。

イタリアに戻った翌々日、フィレンツェ郊外のシトロエン/プジョー/オペル販売店の前を通りかかって驚いた。各ブランドのロゴとともに、「Leapmotor」の文字が掲げられ、ショールームにはパリで見た車両が早くも並んでいた。前述のリープモーター・インターナショナルの報道資料を読み返せば、すでに2024年9月にヨーロッパで事業を開始。第4四半期からはインド、アジア太平洋、中東、アフリカ、南米に拡大する予定となっている。資本提携から1年後にディーラー販売を開始し、それも国際ショーでのお披露目よりも早いとは、タバレスCEOが抱く危機感が伝わってきた。自動車業界における意思決定のスピードは、もはや過去とは比べ物にならないほど加速しているのである。

(文と写真=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/編集=堀田剛資)

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すでに欧州に進出している東風汽車系の「フォーシン」は、2024年4月に中国で発表した全長4935mmの高級EV「S7」を欧州で初公開した。
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アイトは中国のセレスグループとファーウェイによって、2021年に創立されたブランド。今回は中国から“ユーラシアツアー”を敢行し、38日をかけて1万5000kmを走破し、会場に到着した。
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リープモーターの記者発表より。同社に出資し、かつ合弁で販社を設立したステランティスの、カルロス・タバレスCEO(右から2番目)も登壇した。
リープモーターの記者発表より。同社に出資し、かつ合弁で販社を設立したステランティスの、カルロス・タバレスCEO(右から2番目)も登壇した。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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