開幕戦オーストラリアGP「嵐の前の嵐」の予感【F1 2013 続報】
2013.03.18 自動車ニュース【F1 2013 続報】開幕戦オーストラリアGP「嵐の前の嵐」の予感
2013年3月17日、オーストラリアはメルボルンのアルバートパーク・サーキットで行われたF1世界選手権第1戦オーストラリアGP。この週末、南半球に訪れた初秋の嵐のおかげで、土曜日の予選の1部が決勝日の午前中に持ち越されるという波乱の幕開けとなった新シーズンは、予選まではディフェンディングチャンピオンのレッドブルが他をリードしたものの、レースではフェラーリ、そしてロータスに逆転を許すという展開で始まった。
■NAエンジン最後の年、熟成を極めたマシンたち
「嵐の前の嵐」の予感がする、2013年シーズンが開幕した。
“2つの嵐”の1つ目は、2014年に控えるレギュレーション大変革のことである。2006年から続く2.4リッターV8エンジンは8年目の今年で最後となり、来年からは1988年を最後に禁止されていたターボが復活。1.6リッターV6ターボに、現在使われている「KERS(Kinetic Energy Recovery System)」を進化させ「ERS(Energy Recovery System)」として組み合わせた、まったく新しいドライブトレインへと移行する。一度築かれた各陣営のパワーバランスが一気にリセットされるかもしれないビッグチェンジだ。
この変革を目前にして、2013年は大きなレギュレーション変更はなかった。外観上の違いといえば、見栄えが悪いとの理由から、フロントノーズとボディーの段差(通称ステップドノーズ)を埋める「化粧パネル」が許されるようになった程度だ。
また昨年メルセデスなど一部チームがトライした、空気抵抗を減らしストレートスピードを稼ぐ可変リアウイング「DRS(ドラッグ・リダクション・システム)」連動の「ダブルDRS」は禁止。さらにDRSの使用に関しても、全セッションを通じてコースの一部に限られることになった(昨年まではフリー走行、予選ではどこでも自由に使えた)。
レギュレーションがほとんど変わらないなら、嵐の前の“静けさ”の方がふさわしいフレーズにも思えるが、そうも言えない。規定が安定しているということは、マシンの熟成が進み、いよいよ各陣営の差が接近することを示唆する。すなわち大接戦となるかもしれないのだ。
2012年は、最初の7レースだけで7人のドライバー、5つのチームが勝者となるまれにみる激戦が繰り広げられた一年だった。これは扱いづらいピレリタイヤによるところも大きかったが、同時に、自由度の狭い安定したルールのもとでは特定のチームやマシンの独走が難しくなることも意味している。各チームがマシンを正常進化させることを選んだことからも、昨年以上の僅差の戦いが予想されている。
ライバルを出し抜くため、少しでもアドバンテージを得ようと微細な領域――特に空力まわり――で激しい開発競争が繰り広げられ、さら今年は新規格のマシンを並行して開発するという負荷も各チームにのしかかる。コース上での接戦と、ファクトリーでの開発競争、まさに“嵐づくし”の予感がする2013年である。
■4連覇を目指すレッドブル、対抗するトップ集団
過去3年のドライバーズ&コンストラクターズタイトルを独占しているレッドブルが、今年もチャンピオン最有力候補であることに異論を挟む者はいないだろう。新型「RB9」は、昨年7勝を挙げた「RB8」の進化版、つまりはシャシー面の現行レギュレーションが始まった2009年の「RB5」から続く常勝マシンの系譜をたどっているといえる。この4年間、75戦で34勝している実績は並大抵のものではない。
チーム同様に4連覇がかかるセバスチャン・ベッテルと、着実にポイントを稼げる現役最年長ドライバー、マーク・ウェバーの強力なコンビは5年目に突入。技術面のトップは引き続き“空気と対話する男”エイドリアン・ニューウェイがつとめ、またエナジードリンクメーカーからの潤沢な資金に加え「インフィニティ」のスポンサーシップを新たに獲得した。ルノーエンジンを含めて盤石の態勢を維持している王者である。
打倒レッドブルを誓うライバルたちも新シーズンに期待をかけている。まずは昨年、遅いマシン、追いつかない開発に苦しみながらも最終戦までチャンピオン争いに食い込んだフェラーリ&フェルナンド・アロンソ。スクーデリアは、設備に問題があった自社風洞施設をいったん諦め、最高レベルといわれる元トヨタF1の風洞を使い、また出遅れているといわれるシミュレーション開発にも力を入れ、ニューマシン「F138」を誕生させた。冬の間に前作「F2012」のウイークポイントを徹底的につぶし、今年こそ栄冠をと意気込む。
昨年わずか3点差でベッテルに負けたアロンソと、前半まで絶不調ながら起死回生の復活を遂げ、コンストラクターズチャンピオンシップ2位獲得に貢献したフェリッペ・マッサのペアは変わらない。
そして、2012年はシーズンを通し一発の速さで群を抜いていたが、たび重なるメカニカルトラブルとオペレーションミスで勝利を逃し、コンストラクターズランキング3位に沈んだマクラーレン。新型「MP4-28」は、今年、最も大胆に変貌したマシンといっていい。フロントにプルロッドサスペンションを採用し、昨年低めで攻めたノーズを高めにもってくるという、2012年のフェラーリの英断に倣った開発をしてきた。しかし1年前のフェラーリ同様、冬のテストではセッティングに難儀し、スタートダッシュに若干の不安を残しつつ開幕を迎える。
チームの“息子”だったGP界随一の速さを誇るルイス・ハミルトンが離脱し、円熟期を迎えた2009年チャンプ、ジェンソン・バトンと、今季中堅ザウバーからトップチームに抜擢(ばってき)された若きメキシカン、セルジオ・ペレスがステアリングを握る。
ダークホースと目されるのはロータスだ。昨シーズンはF1カムバックを果たした2007年王者キミ・ライコネンを擁し、シーズン終盤のアブダビGPで1勝を飾った元ルノーチーム。今年のニューマシン「E21」で、課題とされた予選での速さが改善されていれば、トップを十分狙えるだろう。ライコネンと、“クラッシャー”の汚名を返上したいロメ・グロジャンという布陣を継続する。
メルセデスは、勝利を狙えるハミルトンというチャンピオンドライバーに加え、ウィリアムズの株主だったトト・ウォルフ、元チャンピオンのニキ・ラウダをチーム首脳に迎え、さらに2014年にはマクラーレンのテクニカルディレクター、パディ・ロウを加入させるという人事異動で冬の話題をさらった。
F1復帰3年で、昨年ニコ・ロズベルグが記録した1勝どまり。ドイツの巨人は、いよいよその名とコストに見合った成績を求められているのだろう。新型「W04」は奇をてらわないオーソドックスなマシンと言われているが、ハミルトンとロズベルグ、いずれも優勝を狙えるドライバーなだけに、“復帰後の2勝目”が待たれる。
今年はHRTが撤退し、11チーム22台、5人ものルーキードライバーを交えて争われる2013年のF1。戦いの火ぶたは、恒例のオーストラリアGPで切って落とされた。
■“決勝日”の予選、レッドブルが最前列独占
この週末、メルボルンは初秋の嵐に見舞われた。晴れの金曜日から一転、土曜日に行われた予選は時折雨風激しくセッションは延期を繰り返し、結局、後方グリッドを決めるQ1のみ行われただけで、Q2とQ3は決勝日の午前に持ち越された。
前日より天候は回復したものの、日曜朝はウエット路面で残りの予選セッション開始。徐々にコース状況がよくなるなかで、雨用からドライへのタイヤ交換のタイミングが上位グリッド獲得のカギを握った。ペレスはこれを誤り15番グリッドとQ3進出ならず、マクラーレンでの初戦は出だしからつまずいてしまった。
Q3に進出した10台のうち、最速タイムをたたき出したのはチャンピオンのベッテル。後続を0.42秒引き離し、自身通算37回目のポールポジションを獲得した。僚友ウェバーが隣に並び、レッドブルはフロントロー独占に成功。フリー走行中も安定して速かったこのマシンがレースでも逃げ切るのではないか、と思われた。
メルセデスのハミルトンが幸先よく3番グリッドを確保。続いてフェラーリ2台が連なったのだが、前をいくのはマッサの方で、アロンソは予選5位だった。ロズベルグのメルセデスを間に挟み、ライコネン、グロジャンのロータスのコンビが7、8位。ポール・ディ・レスタのフォースインディアの次に、ようやくマクラーレンのエース、ジェンソン・バトンが10番グリッドにつくというオーダーだった。
■レースではチャンピオンが苦戦
3年目を迎えたピレリによるコントロールタイヤは、コンパウンド、コンストラクションともにソフト側にシフトし、特に今回メルボルンに持ち込まれた「スーパーソフト」は、「実質的には予選用タイヤ」ともいわれるほどやわらか。つまり、ライフも短いとされている。
この新タイヤの扱いに慣れないシーズン序盤戦においては、各チームとも手探り状態のはずなのだが、初戦でこのタイヤの潮目を的確につかみ、かつ過度に“いじめる”ことなく走ることに長(た)けていたのが、ロータスとライコネンだった。
58周のレースは弱雨がたまにコースに落ちる程度の曇りで行われ、全車ドライタイヤを履いてダミーグリッドをあとにした。
シグナルが変わると、ベッテルが真っ先に1コーナーへ。その後ろではフェラーリの2台が抜群のスタートで予選2位ウェバーに襲いかかった。レース序盤、ウェバーのマシンはテレメトリー情報とKERSが機能しないトラブルに見舞われ、オープニングラップを7位で終えた地元のヒーローは、早々に優勝争いから脱落してしまった。
1周回ってのトップ10は、1位ベッテル、2位マッサ、3位アロンソ、4位ハミルトン、5位ライコネン、6位ロズベルグ、7位ウェバー、8位ディ・レスタ、9位バトン、そして10位にエイドリアン・スーティル。この時点でベッテルは2秒もリードしていたが、5周もするとレッドブルのスーパーソフトタイヤは威力を失い始め、2位マッサはDRS作動域の1秒以内に接近した。
ベッテルのみならず、スーパーソフトでスタートしたドライバーは数周で問題を抱えるようになり、バトンやウェバーは5周目、ベッテルも7周を終えてタイヤを硬めのミディアムにスイッチした。
9周してピットに飛び込んだのは、暫定首位のアロンソと2位まで上がっていたライコネン。その後、タイヤを変えずにメルセデスのハミルトンとロズベルグ、そしてフォースインディアのスーティルがトップ3を走行したが、14、15周にメルセデスが立て続けにミディアムへと交換する一方で、ミディアムでスタートしたスーティルは22周目まで交換のタイミングを遅らせ、トップを守り続けた。昨年1年間を“F1浪人”として過ごしたスーティルは、復帰後早々に好走を披露した。
■アロンソとライコネン、ピット作戦を巡る攻防
18周目、スーティルを先頭に、2位ベッテル、3位マッサ、4位アロンソ、そして5位ライコネンまで5秒以内という接近戦が繰り広げられていたが、この段階でアロンソが動いた。スーティルに抑えられていたトップ集団に見切りをつけたフェラーリのエースは、20周終了時にライバルに先駆けて2度目のタイヤ交換のためピットへ。先手を打ったアロンソはニュータイヤで飛ばし、それまで前にいたスーティル、ベッテル、マッサを抜くことに成功した。
だが、優勝にぐっと近づいたアロンソの前に思わぬ伏兵があらわれた。ライコネンである。
ほとんどのドライバーが3ストップで走り切ろうとしたが、ロータスは2ストップに挑戦してきた。もともとタイヤにやさしいのがロータスのマシン特性でもあり、これにライコネンの卓越したスムーズなドライビングが加わり、作戦は見事成就するのである。
ライコネンは、最初のピットストップをアロンソと同じ9周目に行いスーパーソフトからミディアムに履き替えたが、20周で2度目の交換に踏み切ったフェラーリを尻目に、アロンソと同じミディアムタイヤで、34周までハイペースをキープできたのだ。
同じ2ストッパーのスーティルを43周目にやすやすとオーバーテイクすると、その後はライコネンの独壇場となった。諦めず食い下がる2位アロンソがペースを上げると、残り2周の時点でライコネンはファステストラップを更新し応酬。チェッカードフラッグが振られた時には、12秒ものギャップを築いていた。
開幕戦は、昨年1勝にとどまったロータス&ライコネンという意外なウィナーを誕生させた。
■全19戦の1戦目
アイスマンの異名を持つライコネンは、自身通算20回目の優勝を「最もイージーな勝利だった」とクールに語ったが、もちろんシーズンを楽観しているわけではない。「いい感じだけど、たった1回のレースだからね。われわれの狙いや、やるべきことが変わるわけではないよ」。
優勝できなかったことに落胆はしつつも、2位に終わったアロンソは過去2年(昨年5位、2011年は4位)にはみられなかった順調な滑り出しに満足な様子。「とても前向きだし、おもしろいシーズンが待っているだろう」と自信をのぞかせた。
予選までの出来からすれば予想外に苦戦した3位ベッテル。ライコネンはおろか、アロンソにも10秒も逃げられたが、チャンピオンの余裕か「今日の結果にはハッピーだ。ポールからスタートしたのなら、当然もっと上の順位がほしいところだけど」と素直に負けを認めた。
トップ5にロータス、フェラーリ、レッドブル、そして5位入賞のハミルトン駆るメルセデスが入ったが、マクラーレンはといえばバトンの9位完走がやっと、ペレスはポイント圏外の11位だった。こちらはマシンに深刻な問題を抱えているようで、2012年の開幕戦ウィナー、バトンは、トップ争いに加わるまでには時間がかかるだろうと断言した。
いずれにしても、19戦が予定される長いシーズンの1戦目が終わったにすぎない。ちょうど1年前、トップから1秒以上離されたフェラーリが最終戦までタイトル争いを繰り広げたことや、最初の7戦で7人の勝者が生まれたことを思い起こせば、まだまだこの先の展開は分からないといった方がいいだろう。
第2戦マレーシアGPは、1週間後の3月24日に決勝スタートを迎える。
(文=bg)
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