第13戦イタリアGP「ダメージ最小化でポイント差拡大」【F1 2012 続報】
2012.09.10 自動車ニュース【F1 2012 続報】第13戦イタリアGP「ダメージ最小化でポイント差拡大」
2012年9月9日、イタリアのモンツァ・サーキットで行われたF1世界選手権第13戦イタリアGP。マクラーレンのルイス・ハミルトンがポール・トゥ・ウィンを飾るいっぽうで、予選で失敗し10番グリッドからスタートしたフェラーリのフェルナンド・アロンソは3位表彰台を獲得した。ここ3戦で3連勝したマクラーレンは、ポイントリーダーのアロンソにとって最大の敵。しかしこのフェラーリのエースは、今回も強運に恵まれていた。
■フェラーリの“勝てない理由”
2000年代の最初の数年に常勝軍団として輝かしい戦績を残したフェラーリ。だがそれ以前のタイトルは、1970年代後半から80年代前半までさかのぼらなければならないほど、スクーデリアは栄冠から長らく遠ざかっていた。最古参チームの復活に向け、ジャン・トッド、ミハエル・シューマッハー、ロス・ブラウンやロリー・バーンらが集結。このドリームチームのおかげで、1999年から6年連続コンストラクターズチャンピオン、2000年からシューマッハー5連覇という輝かしい戦績が残された。
2006年を最後にシューマッハーが(最初の)引退。翌年はマクラーレンからキミ・ライコネンを招き新たなエースとしてシートを用意した。そして初年度、ランキング3位で迎えた最終戦で劇的な大逆転を果たし、ライコネンは初のドライバーズタイトルを獲得。同時にコンストラクターズタイトルを勝ち取った。まさに夢のような“ポスト・シューマッハー時代”の幕開けとなった。
ドリームチームを引き継ぐ新生スクーデリアは、フェラーリの経理出身という異色の経歴を持つイタリア人、ステファノ・ドメニカリをチーム代表に据え、新しい体制下、次なる黄金期を迎えるかにみえたが、行く手には隘路(あいろ)が待ち構えていた。
2008年、コンストラクターズタイトル2連覇は達成したが、その後が続かない。レギュレーション大変革の年となった2009年はライコネンの1勝のみ。翌年はフェラーリを背負って立つ男、フェルナンド・アロンソが加わったが、タイトルにあと一歩のところまでいったものの最終戦の作戦ミスが響きランキング2位。この惜敗の責任を取らされ、チーフトラックエンジニアのクリス・ダイアーは異動となった。
2011年、エキゾースト・ブロウン・ディフューザーやピレリタイヤをなかなかマスターできないフェラーリはアロンソの1勝にとどまり、今度はテクニカルディレクターのアルド・コスタが更迭された。
勝てない理由を個人に押し付けるのは、フェラーリがイタリアという難しい国のチームだから。しかし本当の勝てない理由は、フェラーリのマシン開発思想そのものが旧態依然としたものだからという指摘がある。
現代のF1マシンは、予算を抑える対策として実車走行テストが著しく制限される。走らせないでどうマシンを速くするか。従来の風洞による開発のみならず、計算流体力学(Computational Fluid Dynamics=CFD)やシミュレーション技術といった、コンピューターによる複雑な計算が多用されているのだ。
F1マシンの要、空力開発で威力を発揮するのがCFDである。複雑な空気の流れをコンピューターで解析、狙い通りの値が出たものを物理的な成形行程に通し、今度は本物の空気を流し試験用の実車モデルに当てる風洞実験に進める。風洞は既に与えられた時間いっぱいを使い切っているが、コンピューターなら演算処理の速さが伴えばまだまだ向上の余地が残っている。ヴァージン(現マルシャ)は当初、このフロンティアたるCFDのみでマシンをつくると意気込んだが、時期尚早、早々に断念した。いまはCFDと風洞をあわせた開発がベースとなっている。
フェラーリは、このトレンドに一歩乗り遅れたとされる。ファクトリーの隣にテストコース「フィオラノ」を持つというチームの“財産”に頼り過ぎ、最新技術への投資を積極的に行ってこなかったのである。
今年5月、4年ぶりとなるシーズン中の合同テストが行われたが、背後にはフェラーリのロビー活動があったといわれる。場所はスクーデリアのお膝元でもあるイタリアのムジェッロ。高度なシミュレーション技術を擁するマクラーレンなどはテストに乗り気ではなく、メインドライバーを参加させなかったが、フェラーリは何としても走って試したかったのだろう。
そんな古い衣を脱ぎ捨て、最新のマシン開発のかじ取りを任せられているのが、かつてマクラーレンに在籍したパット・フライ。今年の「F2012」の背景には、そんなマラネロ内部の変革までもが透けて見える。
アロンソがポイントリーダーのまま、舞台はモンツァに移った。直線に申し訳程度のターンやシケインが付いた屈指の高速サーキット。そしてフェラーリがどこよりも勝ち、また勝たなければならないGPである。同じラテンの国からやってきたエースドライバーが、ヨーロッパGPでみせたような母国での劇的勝利を飾れるか。
■マクラーレン、ライバルを突き放し最前列独占
モンツァはとても極端なコースである。平たく言えば、5つのストレートに3つのシケイン、複合「レズモ」コーナー、そして最終コーナー「パラボリカ」で構成される“だけ”。コーナリングよりも、直線をいかに速く駆け抜けるかがカギを握る。その点からすれば、GPウイークが始まる前からマクラーレンに一日の長が認められていた。
土曜日の予選Q3、前戦ベルギーGPで悔しい0周リタイアとなったルイス・ハミルトンが、今年4回目となるポールポジションを獲得。0.123秒遅れてジェンソン・バトンが2位につけ、マクラーレンがフロントローを独占した。
地元期待のフェラーリは、フェリッペ・マッサが3位と大健闘。2台でタンデム走行し、スリップストリームで後ろを“引っ張る”戦法に出たが、チームのエースでありポイントリーダーのアロンソは何とマッサから1.4秒遅れの10位。リアのアンチロールバーの不備が疑われた。
パワフルなメルセデスエンジンをもって、フォースインディアのポール・ディ・レスタが4位に入ったが、ギアボックス交換による5グリッド降格で9番グリッド。かわりにメルセデスのミハエル・シューマッハーが4番グリッド、続いて、やや力が劣るルノーユニット搭載のレッドブル、セバスチャン・ベッテル、メルセデスのニコ・ロズベルグ、ロータスのキミ・ライコネンが並んだ。ベルギーで予選2位を生かせず涙をのんだザウバーの小林可夢偉は、8番グリッドからの挽回を狙った。
■アロンソ、予選10位から2位に
レースは、ハミルトンとバトンのマクラーレンの間に、今年一番のデキのマッサが割って入りスタートした。ハミルトンは2位マッサとのギャップをジワジワと広げ、53周のレースの15周目には4.7秒突き放すことに成功。その後、彼にチャレンジするドライバーは現れなかったと言っていいだろう。
好走を続けるマッサに、もう1台のマクラーレンが迫り、19周目の第2シケインでバトンが2位の座を仕留めた。今年どのチームも成し遂げていない1-2フィニッシュなるかと思われたが、33周目、バトンのマシンはバックストレートで突如スローダウン。燃料のピックアップに問題が発生し、前戦ベルギーGPウィナーはコースから姿を消した。
これで1位ハミルトン、再び2位に返り咲いたマッサ、そして3位には、10番グリッドスタートのアロンソが上がってきていた。
予選で負ったダメージを最小限にとどめたいポイントリーダーは、オープニングラップで7位、すぐさまライコネンをオーバーテイクし6位、7周目にはシューマッハーをパスし5位まで順位を上げた。
26周目には、ランキング2位のベッテルとつばぜり合いを繰り広げ、レッドブルがフェラーリをコース外へ押し出す場面も。ベッテルはスチュワードからドライブスルーペナルティーを言い渡され、アロンソはタイトル争いのライバルの脱落を尻目に4位に躍進、そしてバトンのリタイア後の40周目には、チームメイトのマッサから2位を“プレゼント”された。
■ペレスの猛追、2位でフィニッシュ
1位ハミルトン、2位アロンソ、3位マッサ。マクラーレンが目の上のコブだが、イタリアGPとしては悪い順位ではない。そんなフェラーリの思惑を打ち砕いたのが、フェラーリ・ドライバー・アカデミー出身、ザウバー・フェラーリに乗るセルジオ・ペレスだった。
12番グリッドと中団からスタートしたペレスは、ほとんどが第1スティントをミディアムタイヤで走行したのに対し、長持ちするハードを履いてロングランに打って出た。遅めの29周目に唯一のタイヤ交換で、よりグリップが望めるミディアムに変えると、8位から他車より1、2秒速いペースで猛追を仕掛けた。
43周目にマッサを、46周目にはアロンソをも攻略し、残り数周で10秒以上あった首位ハミルトンとのタイム差もあっという間に削られていく。結局初優勝まではいかなかったが、トップから4.3秒差の2位は、次期フェラーリ・ドライバーの呼び声高いメキシコ人の評価をさらに上げることとなった。
■アロンソ、37点にリード拡大
優勝も狙えるポテンシャルがあったが予選で失敗。レースではダメージ最小化を図って結果として3位表彰台。タイトルを争う1人には10点多く得点されたが、ランキング2位との差は24点から37点に拡大 ─ 2012年のアロンソは、やはり持つものを持っている。熱狂的なフェラーリのファン(ティフォシ)は、そんなアロンソの表彰台に喜び、そしてこの先の活躍、つまりは待望のタイトル獲得に期待した。
チャンピオンシップ2位のハミルトンから5位マーク・ウェバーまで10点差。この団子状態から頭四つ分近く抜け出ているのがいまのアロンソのポジションだ。
ここ3戦を連勝しているマクラーレンは、アロンソ最大の敵となるだろうが、既に3勝分以上離されたバトンは、自ら栄冠を追う立場よりも、チームメイトのハミルトンを助ける役割の方が似つかわしくなっている。混沌(こんとん)とした今シーズンも、レース数が少なくなるにつれ、徐々にだがカタチがはっきりし始めている。
イタリアGPを最後に、F1はヨーロッパを旅立ち、7戦すべてがフライアウェイとなる。次のレースはシンガポールGP。決勝は9月23日に行われる。
(文=bg)
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