第9戦イギリスGP「混戦から抜け出す力」【F1 2012 続報】
2012.07.09 自動車ニュース【F1 2012 続報】第9戦イギリスGP「混戦から抜け出す力」
2012年7月8日、イギリスのシルバーストーン・サーキットで行われたF1世界選手権第9戦イギリスGP。金・土と不安定な天候にたたられた週末、同様の空模様が見込まれた日曜日は打って変わって好天に恵まれた。一部のドライバーから雨を望む声が聞こえるいっぽうで、ウエットでもドライでも速く強いドライバーがレースの主導権を握った。
■シーズン後半を占う3戦
スペインはバレンシアでの前戦ヨーロッパGPで、6年ぶりとなる母国優勝を成し遂げたフェルナンド・アロンソ。今季2勝目をあげた初めてのドライバーとなり、チャンピオンシップでも20点リードで堂々のトップに立ったフェラーリのエースだったが、スクーデリアを率いるステファノ・ドメニカリのレース後の発言に、悦に入る様子は見られなかった。
「レッドブルの大幅な向上を目の当たりにしたことは忘れられるものではない」
これまで8戦して7人の勝者が生まれた混戦の今シーズンにあって、バレンシアで見られたセバスチャン・ベッテルのペースは、11勝し2連覇を達成した2011年を思い起こさせる、圧倒的なものだった。今年3度目のポールポジションからオープニングラップの1周だけで1.9秒も先行したベッテルは、9周もすると2位を走るマクラーレンのルイス・ハミルトンを10.1秒も突き放してしまった。
タイヤの性能劣化に苦しんでいたハミルトンに代わり、ロータスのロメ・グロジャンが2位にあがり追撃を開始したところで、トップとのギャップは開くばかり。15周を終え15.2秒、ピットストップを挟んで20秒近くまで逃げたところで、セーフティーカーが導入された。
結局、再スタート直後にオルタネーターを壊し、レッドブルは戦列を去ったのだが、大幅なマシンアップデートが施された「RB8」のポテンシャルに、ライバルチームが脅威を感じた1戦となったことは間違いないだろう。
F1は、4週間で3戦をこなす忙しい7月に入った。8月の夏休み期間目前、シーズン後半を占う上で非常に重要な位置を占める3レースだ。
その初戦となる第9戦イギリスGPの舞台、シルバーストーンは高速で空力がものをいうサーキット。近年はレッドブルのテリトリーとしても知られ、過去3年の戦績を振り返れば、3ポールポジションから2勝を記録している。
2012年も間もなく折り返し。混戦の中から、昨季までの常勝チーム、レッドブルが抜け出すのか? それとも温度に敏感なタイヤに振り回され、また予想外の展開が待ち受けているのか?
全12チーム中8チームがファクトリーを置くイギリス。1950年の記念すべき世界選手権第1戦目が開かれた伝統のシルバーストーン。GPの本場での週末は、時折コースをたたく激しい雨に翻弄(ほんろう)されながらも、今季のタイトル争いが“ある方向”に進みつつあることを感じさせるものとなった。
■アロンソ、2010年以来のポールポジション
天気が目まぐるしく変わることが珍しくないシルバーストーンだが、今年の雨は例年になく激しかったようだ。特に土曜日の予選は、Q1セッション開始前から雨粒がコースをぬらし、Q2に入ると大雨となり、アロンソやミハエル・シューマッハーといったベテランでもハイドロプレーニングを起こしスピン。6分19秒を残した時点で赤旗が振られ、およそ1時間半も中断された。
雨脚の弱まりとともに再開され、トップ10グリッドを決するQ3に突入すると、コースコンディションは時間の経過とともに改善していった。
わずか10分という短いセッションの後半、トップタイムはレッドブルのマーク・ウェバーで1分51秒793。チェッカードフラッグが振られた後、それまで0.8秒近く離され2位だったアロンソが土壇場で0.047秒上回り、今季初、2010年9月のシンガポールGP以来となる久々のポールポジションを獲得した。
2位に甘んじたウェバーのレッドブルに続いたのは、メルセデスのシューマッハー。前戦、6年ぶりにポディウムにのぼった“レイン・マイスター”の異名を持つ43歳のベテランは、決勝でも雨を期待しつつ、復帰後初、通算92回目の勝利を目指した。
レッドブルのセバスチャン・ベッテルが4番グリッド、フェリッペ・マッサが5番グリッドにつけ、フェラーリはトップ5に2台が入った。
2007年まで5年連続シルバーストーンの表彰台にあがり続けたロータスのキミ・ライコネンが6位、ウィリアムズのパストール・マルドナド7位。3人いる母国イギリス出身のドライバー最高位は、8位に入ったマクラーレンのルイス・ハミルトンだった。
翌日の決勝も雨だろう、というのが大方の予想だったが、日曜日のレースは、雲の切れ間から日が差し込むドライコンディションとなった。
■明暗を分けたタイヤの使い方
今回の勝敗は、レース中使用が義務付けられる2種類のタイヤ(ハードとソフト)を、どのタイミングで使うかという考え方で分かれた。
上位10台のうち、52周のレースの最初のスティントでハードを選んだのが、ポールシッターのアロンソと予選8位のハミルトンだけ。アロンソはライフが短めのソフトを最後にまわす選択をした。これが、結果的に最後の5周でウェバーに逆転を許すことにつながった。
レースはスタートからアロンソがトップをキープ。5周を過ぎ、2位ウェバーがDRSを使えなくなる1秒以上の差を獲得すると、13周目までに5秒のクッションを築き上げることに成功した。3位を走るシューマッハーのメルセデスは、ウエットを懇願していただけあってドライではペースが伸び悩み、トップ2台を追えないでいた。
14周目、ウェバーがピットに飛び込みソフトからハードに交換。この間、首位アロンソは、より長寿命のハードで周回を重ねギャップを広げるかと思いきや、ウェバーの翌周にはピットストップを行い、再びハードを履きコースに戻った。
2ストップが大勢を占めたイギリス。既にソフト―ハードを使って義務を果たしているウェバーに対し、アロンソは最後のスティントに不安が残るソフトを残した。
■残り5周で逆転
37周目、アロンソが2度目のタイヤ交換でソフトを装着、1位のままコースに復帰すると、4周前に新しいハードに履き替えていた2位ウェバーとの勝負が始まった。38周目に3.9秒あったアロンソの貯金は徐々に切り崩され、46周目、いよいよDRSが使える1秒内の攻防戦となった。
48周目、ペースの違いが明らかな、優勝を争う2台は順位を逆転させ、やすやすと先頭に立ったウェバーは5周後にトップでチェッカードフラッグを受けた。2位アロンソは、もう1台のレッドブル、ベッテルにも追われたもののそのポジションをなんとか守り切り、2位で今年5回目の表彰台にのぼった。
予選4位のベッテルにとっては、スタートでフロントウイングにダメージを負い、シューマッハー、フェリッペ・マッサに先行を許したのが痛かった。レッドブルチームは、10周目という早いタイミングでベッテルをピットに呼び、この2台を抜き返すことに成功。チャンピオンチームの作戦勝ちとなったが、勝利を目指すには遅かった。
■レッドブル、フェラーリの躍進
雨に翻弄された感があるイギリスGPだったが、ウエットでもドライでも速いマシン、ドライバーがポディウムにのぼった。
最後に勝利を奪われたとはいえ、2位に終わったアロンソと、4位でゴールしたマッサの力走は、フェラーリ「F2012」が着実にパフォーマンスを上げていることを示していた。またレッドブル1−3の背景には、レース前からライバルを怖がらせていた「RB8」の優位性もあるだろう。
トラクション重視の前戦バレンシア市街地コースでも、高速で空力性能が武器となるシルバーストーンでも強さを発揮していた両チームの躍進は、この2チームが混戦から抜け出す力を持ち合わせていることを示唆している。
いっぽうで予選、決勝を通じ上位を狙えなかったマクラーレン、勝てそうでいながらなかなか勝てないでいるロータス勢、レースでは速さが実を結ばないメルセデスが、トップ2から遅れをみせているのも事実だ。
混戦模様から戦況が把握しづらかった今シーズンに、少しずつカタチが与えられようとしているのかもしれない。
イギリスの後はドイツ、ハンガリーと続く。次戦の舞台はホッケンハイムリンク。決勝は7月22日に行われる。
(文=bg)
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