第6戦モナコGP「父子優勝と、タイヤを巡る“黒い疑惑”」【F1 2013 続報】
2013.05.27 自動車ニュース ![]() |
【F1 2013 続報】第6戦モナコGP「父子優勝と、タイヤを巡る“黒い疑惑”」
2013年5月26日、モンテカルロ市街地コースで行われたF1世界選手権第6戦モナコGP。大本命とされたメルセデスのニコ・ロズベルグが見事ポール・トゥ・ウィンを達成し、30年を経て“伝統の一戦”を父と子で制したという世代を超えたストーリーは、しかしピレリとメルセデスによる“極秘タイヤテスト騒動”でケチがついてしまった。
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■是々非々、ピレリタイヤ
5月16日に正式発表された2015年のホンダエンジンF1復帰のニュースは、海外はもちろんのこと日本のメディアでも大きく取り上げられた。
しかしパドックの目下の興味は、2年も先のことよりも今シーズンの熾烈(しれつ)な戦いにある。モナコでの話題の中心には、タイヤを巡る各チームの激しく、極めて政治的な駆け引きがあった。
前戦スペインGPでは、フェラーリのフェルナンド・アロンソが母国で今季2勝目を飾った一方で、予選3位から4位でゴールしたトリプルチャンピオンのセバスチャン・ベッテル。レース後、レッドブルのオーナーであるディートリッヒ・マテシッツは、純粋な速さを競うのではなく、タイヤのマネジメントに注力しなければならない現状を批判し、「F1はもはやレースではない」とほえた。
3年目のピレリによるコントロールタイヤはハイ・デグラデーション、つまりタレやすい方向に振られている。これは初年度からのコンセプトの延長線上にあり、つまりはレース中複数のピットストップを誘発させ、取り得る作戦に幅を持たせ、可変リアウイング「DRS」と相まって、オーバーテイクをしやすくするための方策であった。
過去2年も各陣営がこの難しいタイヤと格闘し、度々批判の声があがったが、今年はその激しさは増しているようにみえる。過去3年のタイトルを総嘗(な)めにしているレッドブルはその先鋒(せんぽう)で、序盤5戦でベッテルが2勝し選手権をリードしているものの、チームオーナーもドライバーも総じてこの扱いづらいタイヤに否定的な意見を唱(とな)えている。またメルセデスは5戦でポールポジション3回と一発のタイムは最速ながら、レースでは特にリアタイヤの扱いに手を焼いて未勝利。タイヤの改善を願うグループの一員となっている。
だがこのアグレッシブなタイヤを歓迎する向きもいる。その筆頭はロータス陣営だ。彼らはデリケートなタイヤをうまくいなすマシンとスムーズな走りに定評があるキミ・ライコネンのドライブで、ライバルより1回少ないピットストップ戦略を実現、ライコネンはドライバーズランキングでベッテルと4点差の2位と好位置につける。またレースペースで好調なフェラーリやフォースインディアも現状維持派である。
スペインでは多くが4回ものタイヤ交換を実施し、2~3回が妥当としていたピレリもその頻度の多さを認めた。また構造として非常に丈夫に作られているゆえ、コース上の異物でタイヤが傷つくとパンクせず、表面のゴムの剥離(はくり)が起きてしまうことも問題視されていた。そこで安全性の向上を理由に、ピレリはリアタイヤの微調整を表明、第7戦カナダGPに投入することとなった。
このタイヤ改良に当然ながら賛否両論が巻き起こったのだが、これが“嵐”なら、もっとインパクトのある“大嵐”はまた別にあった。
グリッドが決まりあとは決勝を残すのみとなった時点で、ピレリとメルセデスが、スペインGP終了後に極秘のタイヤテストを行っていたことが明らかになったのだ。このニュースが流れるまで、ピレリとメルセデスは一言もその事実を口にしなかったという。当然のことながらライバルチームが黙っているはずはなく、レッドブルとフェラーリはスポーティングレギュレーション違反ではないかとFIA(国際自動車連盟)に正式な抗議を行った。
シーズン中のテストは禁止されているが、ピレリは契約上、必要に応じてチームと手を組んでテストを行えるといわれている。事実判明後、ピレリタイヤの責任者であるポール・ヘンベリーは、「テストの主な目的は来季用タイヤの開発にあって今季のメルセデスにアドバンテージはない」としているが、タイヤがこれだけ勝敗のカギを握っている以上、その言い訳がすんなりと通用するものではない。しかも組んだ相手が、タイヤに苦労している最速チームなのだからなおさらだ。
モナコGPのレース後に行われた公聴を経て、メルセデスへの抗議がリザルトに影響することはないことが確定した。しかしタイヤを巡る“黒い疑惑”の余波は、この先も残りそうだ。
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■大本命、メルセデスのロズベルグが3戦連続のポールポジション
モンテカルロの市街地コースは、ピレリタイヤもDRSも役に立たないほどに追い抜き困難な場所。世界のどのサーキットよりもグリッド順がものをいうということは、予選最速のメルセデスが前列につけば、今度こそ今季初勝利を挙げられるかもしれないという下馬評がこの週末支配的だった。
そして予想通り、ニコ・ロズベルグが3回のフリー走行すべてでトップタイムを記録。雨に見舞われた予選でも難なくQ3まで駒を進め、ついにロズベルグは3戦連続となるポールポジションを決めた。この週末常にチームメイトに先行を許していたルイス・ハミルトンが2番手につけ、メルセデスは2戦連続のフロントロー独占、そして4戦続けてのポール奪取となった。
フリー走行で苦戦の色が濃かったレッドブルがセカンドローに並び、セバスチャン・ベッテル3位、マーク・ウェバー4位。一方でメルセデスに次ぐ好調さをみせていたフェラーリにとっては最悪の予選となり、アロンソはライコネンのロータスにも抜かれ6位、フェリッペ・マッサは予選直前の走行でクラッシュ、修理が間に合わず出走できずに終わった(ギアボックス交換のペナルティーも加わり最後列スタートが決定)。
現在復興中のマクラーレンが次いで、セルジオ・ペレス7番グリッド、エイドリアン・スーティルのフォースインディアを間に挟み、ジェンソン・バトンが9番グリッドを得た。トップ10のしんがりは、トロロッソで善戦したジャン=エリック・ベルニュがつとめた。
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■メルセデス、1-2を維持できず
前日とは打って変わり決勝日は快晴に見舞われたコートダジュール。しかし穏やかなのは天候だけで、ガードレースに囲まれた狭いコース上では、モナコならではの、数珠つなぎになったマシンによる神経戦が繰り広げられた。
しかし、ライバルからのプレッシャーにさらされても、今季初めてのセーフティーカーが2回出動しても、他車のクラッシュで赤旗中断を迎えても、レースウィナーとなるロズベルグの冷静かつ的確なドライビングにまったく影響はなかった。
スタートで1-2フォーメーションを守った1位ロズベルグと2位ハミルトン。オープニングラップを終え、上位10台のなかで順位が変わったのは1つポジションを落としたスーティルぐらいで、さすが難攻不落のストリートコース、隊列はしばし硬直した。
78周と長丁場のモナコGPだが、高速コーナーもないため、ピレリが持ち込んだソフトとスーパーソフトタイヤは(我慢をすれば)1ストップ、もしくは2ストップで走りきれるだろうといわれていた。
30周目、マッサのフェラーリが、前日のフリー走行と同じようにターン1手前でウォールにヒットし激しくクラッシュ。この日最初のセーフティーカーの出番となる。まだタイヤ交換をしていなかったメルセデス勢は同時2台ピットストップを敢行。後に入ってきたハミルトンがコースに戻ると、既にタイヤを替えていたレッドブルの2台がメルセデスの間に割って入っていた。
2位から4位に落ちたハミルトンは、3位ウェバーを追い立てるものの、やはりここはモナコ。39周目にレースが再開し、直後のラスカス・コーナーでメルセデスがレッドブルに並びかけたものの、数少ないチャンスを決め切ることができなかった。
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■世代を超えた父子のストーリー
マッサのクラッシュの次は、46周目のタバコ屋コーナー。マックス・チルトンとパストール・マルドナドが接触、マルドナドはフロントウイングを壊して前輪が宙に浮いたままウォールに激しくヒットした。これでレッドフラッグが出され、レースは一時中断となった。
最初のセーフティーカー同様、約2秒のリードをまた帳消しにされた首位ロズベルグだが、中断中に許されるタイヤ交換(つまり実質の2ストップ)を済ませレース再開を迎えると、55周目までには2秒のマージンを取り戻していた。
63周目、今度はダニエル・リチャルドのトロロッソにロメ・グロジャンのロータスが追突したことで2度目のセーフティーカー。トップのロズベルグは築いた4秒差を失ったが、67周で徐行走行が解かれると、またもや2位ベッテル、3位ウェバーらを突き放し、最終的に3.8秒もの差をつけてチェッカードフラッグを受けた。
1982年チャンピオンの“フライング・フィン”、ケケ・ロズベルグの息子ニコは、かつて父が成し遂げたモナコ優勝を30年後に完勝というカタチでなぞってみせた。昨年の中国GPに次ぐ自身通算2勝目は、幼少期に育った地モンテカルロで達成。そんな世代を超えた父子のストーリーに、上述の極めて政治的なケチがついてしまうのが残念である。
GPサーカスは一瞬ヨーロッパを離れ北米に渡る。次戦カナダGPは6月9日に行われる。
(文=bg)
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