第11戦ベルギーGP「盤石のベッテルと、フェラーリ復活の兆し」【F1 2013 続報】
2013.08.26
自動車ニュース
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【F1 2013 続報】第11戦ベルギーGP「盤石のベッテルと、フェラーリ復活の兆し」
2013年8月25日、ベルギーのスパ・フランコルシャン・サーキットで行われたF1世界選手権第11戦ベルギーGP。雨絡みの予選ではメルセデスのルイス・ハミルトンが最速タイムをたたき出すも、ドライとなったレースではレッドブルのセバスチャン・ベッテルが圧勝。ベッテルのポイントリードはさらに広がったが、予選での失敗から2位まで挽回したフェラーリのフェルナンド・アロンソには、今後のタイトル争いをおもしろくさせる可能性が感じられた。
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■残り9戦、怒濤(どとう)の後半戦に突入
およそ1カ月の夏休みを終え、2013年シーズンが再開した。ヨーロッパ、アジア、中東、南北アメリカを舞台に、8月後半から11月末まで14週に9戦、そのうち3つはバック・トゥ・バック(連戦)という、多忙極まる後半戦の始まりである。
前半の10戦で4勝、38点のリードで折り返したドライバーズランキングトップのセバスチャン・ベッテル。その後ろには、わずか1点差で2位のポジションを争うキミ・ライコネンとフェルナンド・アロンソというおなじみのチャンピオン経験者が控えているが、休み前のハンガリーGPで今季初勝利を飾った、ランキング4位のルイス・ハミルトンも忘れてはならない。
10戦で7回ものポールポジションを獲得しているメルセデス「W04」の最大のウイークポイントとされるのがタイヤとの相性。予選での大活躍と比較すると勝利数はやや寂しい3勝にとどまり、レースでのタイヤマネジメントに課題を残していた。
それが猛暑のハンガリーでハミルトンがポール・トゥ・ウィンを達成。タイヤ・バースト騒動を受けて新たに導入されたピレリタイヤが最速マシンにポジティブな影響を与えているか、あるいはファクトリーでの継続開発が実を結びつつあるかもしれない、という予感を抱かせるものだった。
ベッテルは4連覇に向けて盤石の態勢を築いているようにも見えるが、昨シーズンを振り返ればあながちそうもいえない。数字上では、2012年シーズンの第11戦ハンガリーGP時点でアロンソはライバルに40点以上差をつけてトップに立っていたが、それから9戦後の最終戦では、ベッテルに3点差で負けタイトルを奪われたということもある。もちろんこの年のシーズン序盤、アロンソのリードが度重なる幸運に恵まれてのものだったことも事実だろうが、今年はまだ9戦=最大225点ものポイントが待っているのだ。結論を出すにはあまりにも時期尚早である。
ベルギーGPを前に、首位ベッテルからランキング4位ハミルトンまでのポイントギャップは48点。1勝で25点獲得できるということは約2勝ぶん離されていることになる。1カ月前のメルセデスのレースペースが本物だったなら、この4人にはタイトル奪取の可能性が残されているといえた。
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■スパ・ウェザーを味方につけ、ハミルトン4戦連続ポール
「“いいドライバー”と“偉大なドライバー”を見分けたければスパが絶好の場所である」といわれるほど運転技術の腕が試される難コースがスパ・フランコルシャンだ。変わりやすい天候、“スパ・ウェザー”は今年も健在で、特に予選では全長7kmの長いコースの一部で降ってはやみを繰り返す難しいコンディションとなった。
全22台が出走する予選Q1はセッション開始から雨、16台に絞られてのQ2はドライに傾き、そしてトップ10グリッドを決めるQ3開始前になると、徐々に悪化するであろうという予報だった。
とにかくマシなコンディションのうちにタイムを記録しようと、各車ドライタイヤを装着して真っ先にコースに出たものの、しかし状況は想像以上に悪く、アタックを諦めピットインせざるを得なかった。だがたった1台、フォースインディアのポール・ディ・レスタは最初からウエットのインターミディエイトを選び、最速タイムを計時。その後ウエットに履き替えた9台のタイムはディ・レスタに届かず、フォースインディアが2009年以来となるポールポジション獲得か、とパドックは色めきだった。
しかし、わずか10分のセッション中、ウエット時には1周2分以上かかるこのコースで、天候と路面状況は急速に好転する。そしてクライマックスはセッション終了を告げるチェッカードフラッグが振られた後に訪れた。
トップドライバーたちによる最後のフライングラップは手に汗握る迫力満点の戦い。レッドブルのマーク・ウェバーがトップタイムを出した次の瞬間には僚友ベッテルがそれを塗り替え、そしてメルセデスがコントロールラインを通過すると、ハミルトンの名前がタイムシートの最上段に躍り出た。前戦ハンガリーでメルセデス移籍後初勝利を味わったハミルトンが、4戦連続、今季通算5回目となるポールポジションを奪い取った瞬間だった。
金曜日のフリー走行から好調だったレッドブル勢が続き、ポールタイムの0.188秒差でベッテル2位、ウェバーは3位。メルセデスのもう1台、ニコ・ロズベルグが4番グリッドに収まり、結局ディ・レスタは予選5位に落ち着いた。
そのフォースインディアとコンストラクターズチャンピオンシップ5位を争うマクラーレンはジェンソン・バトンがQ3に進出し予選6位。ロメ・グロジャン7位、そしてキミ・ライコネン8位とロータス勢が並び、ここのところの劣勢をはね返しとにかく勝利が欲しいフェラーリ勢はアロンソ9位、フェリッペ・マッサ10位と予選戦略で失敗した。
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■ベッテル、得意の逃げ切り独走、アロンソは9位から2位
決勝日はドライで迎えた。しかしそれは結果的にドライだったのであって、スパにあってはいつコースのどこで雨が降るか誰にも予想ができないということである。雨の可能性を意識しながらスタートは切られたが、ハミルトンとメルセデスのトップはコース半ばまでもたず、そしてベッテルとレッドブルの独走劇が早々に始まるのであった。
鋭角の1コーナーを抜け短いストレートを下ると、名物「オールージュ」の急坂が待ち構えている。スタートで首位を守ったハミルトンだったが、このオールージュと続く「ラディヨン」でベッテルに差を詰められ、「ケメルストレート」の序盤であっさりと抜かれて2位に落ちてしまった。
早くも1位の座を奪ったベッテルは、オープニングラップでハミルトンに1.4秒差をつけ、そのギャップは7周を過ぎると4秒以上に拡大。ベッテル得意の“逃げ切り”に持ち込まれたライバル勢に追いかける力はなく、特にメルセデスには、やはり予選の時のような輝きは見られなかった。
一方、予選で不発だったアロンソはレースで息を吹き返していた。お得意のスタートダッシュを決め、9番グリッドから5位までジャンプアップ。4周目にはバトンをオーバーテイクし4位、その2周後にはロズベルグを料理し3位まで順位を上げた。
今回の44周のレースでは、ミディアムとハードの2種類を2回のピットストップで使い分ける作戦が主流を占めた。アロンソは14周目に最初のタイヤ交換を済ませると、既に交換を終えたハミルトンの後ろでコースに復帰。翌周のメインストレートでメルセデスを射程圏内に捉えたフェラーリは、1コーナーを抜けると前に出ることに成功していた。
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■ライコネン、痛恨のリタイアで連続入賞記録も止まる
1位のベッテルを、2位アロンソ、3位ハミルトンが追う展開となっても、レッドブルの優位は揺るがず。最終的にベッテルはアロンソに16.8秒もの大差をつけチェッカードフラッグを受け、ハミルトンはさらに10.8秒も離されてしまった。
本来ならこの優勝争いに加わってもおかしくなかったのが、スパ現役最多4勝を記録しているライコネンだった。しかし予選8位から10位に落ち、そこから追い上げをはかっていた最中にロータスの左フロントブレーキの異常が発覚。実際マシンからはブレーキダストが多く吹き出し、さらにカーボン製ディスクが真っ赤に発熱するシーンも見られた。
レース半ばを過ぎた25周目、マッサの真後ろを走っていたライコネンは最終シケインでコースをはみ出し、そのままピットに入りガレージへと姿を消した。ランキング2位だったライコネンは痛恨の無得点に終わり、また連続入賞記録の更新も「27」でストップ。レース後、トラブルの原因はヘルメットの“捨てバイザー”が付着し冷却を邪魔したことによるとの見解が報告された。
今回の結果を受け、チャンピオンシップにおける首位ベッテルのリードは38点から46点に広がり、ランキング2位にはライコネンではなくアロンソが返り咲いた。同じくポジションを上げた3位ハミルトンはトップに58点差、4位ライコネンは63点も離され、ベッテルが4度目のタイトルにまた一歩近づいたことは否定できない。
ただ、レースでのアロンソの速さに、スクーデリア復活の兆しを確認できたことは、今後の選手権争いをおもしろくする好材料といえる。何しろ次戦はフェラーリのお膝元であるモンツァで行われるイタリアGPだ。スパ同様の高速コースゆえに、地元で優勝を狙ってくることは間違いない。9月8日の決勝後に笑うのは、果たして誰なのか?
(文=bg)