第13戦シンガポールGP「王者に敵なし」【F1 2013 続報】
2013.09.23 自動車ニュース ![]() |
【F1 2013 続報】第13戦シンガポールGP「王者に敵なし」
2013年9月22日、シンガポールのマリーナ・ベイ市街地コースで行われたF1世界選手権第13戦シンガポールGP。恒例となったナイトレースは、レッドブルのセバスチャン・ベッテルが他を圧倒しポールポジションから完勝した。ライバルは善戦するも、その差は歴然としていた。
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■来季のフェラーリには2人のチャンピオン
9月に入って早々にレッドブルの来季のシートがセバスチャン・ベッテル&ダニエル・リチャルドに決まったことで、ドライバーの移籍市場がまた大きく動いた。ベッテルのチームメイト候補として最後まで名前が挙がっていたロータスのキミ・ライコネンのフェラーリ入りが、9月11日に発表されたのだ。
前戦イタリアGPの直後から、状況は日ごとに具体化していった。まずはレースの翌日にライコネンが2014年の去就を間もなく発表するとの報道が流れた。明くる9月10日には、2006年以来スクーデリアに在籍してきたフェリッペ・マッサが今季限りでチームを去ることが分かり、そして11日、その空席にライコネンが収まることが明らかになった。契約期間は2014年から2年という。
2007年から3年間跳ね馬を駆り、初年度には6勝してマクラーレンのフェルナンド・アロンソとルイス・ハミルトンを打ち負かし、悲願のタイトルを獲得したライコネン。しかし2008年には僚友マッサの援護役にまわり2勝どまり、翌年は競争力のないマシンで1勝しかできず、2010年、F1を去り心機一転ラリーに挑戦した。
2012年に中堅ロータスでF1復帰を果たしたライコネンは現在まで2勝を記し、さらには27戦連続得点という記録まで打ち立て、そして2014年、再びマラネロのチームに戻ることとなった。
フェラーリにエースドライバーが2人名を連ねることは極めて異例なこと。チームとしては、来年1.6リッターターボに移行する重要な時期に、近年戦績が芳しくないマッサではなくトップレベルのドライバーをそろえたかったともいえるし、アロンソを中心とした体制で4年を戦うもタイトルをとれていない現状の打破を狙っているとも考えられる。
また残留も十分にあり得たライコネンだが、移籍決断の背景にはロータスチームの厳しい台所事情があったといわれている。
来年は、最古参のイタリアのチームで、同じラテン系の熱き血が流れるスペイン人と、“アイスマン”の異名を持つクールなフィンランド人が同居を始めることになる。合わせて3つのタイトル(アロンソ2回/ライコネン1回)と52回の勝利(同32回/20回)を誇るダブルチャンピオンが、どんな戦いを見せるか、非常に興味深くなったことは事実だ。
一方、貴重なアセットを失ったロータスの空席には、今年ザウバーで戦っているニコ・ヒュルケンベルグが入るのではとうわさされている。また名門を“追われる”こととなったマッサは、トップチームへの移籍を希望しているというが、前途は決して明るいとはいえないだろう。
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■ベッテル、余裕の2戦連続ポールポジション
夏休み後の高速コース、ベルギー、イタリアで連勝し、今季のちょうど半分にあたる6戦で勝っているベッテルは、シンガポールGPを前にチャンピオンシップで53点ものリードを築いている。この差は、仮にランキング2位のアロンソが残り7戦で全勝(7×25点=175点)し、ベッテルが全てで2位(7×18点=126点)に入っても埋まらないほどの大きなギャップである。
さらにベッテルにとっては都合のいいデータが残る。過去2年のシンガポールで連勝しており、このナイトレースとの相性はいい。また昨季はシンガポール、日本、韓国、インドと4連勝し、怒濤(どとう)の巻き返しで3度目のタイトル奪取に成功している。チャンピオンの4連覇に不安があるとしたら、ずばぬけて速いがたまに脆(もろ)さを露呈する、レッドブルの信頼性ぐらいだろうが、大きなウイークポイントは見当たらないといっていい。
実際、今回もベッテル&レッドブルは余裕すら漂わせながら週末を過ごし、予選でも2戦連続のポールポジションを獲得。Q3セッションではたった1回のアタックで誰よりも速いタイムをたたき出し、その後はライバルたちの戦いぶりをガレージで眺めていたほどだった。ただ終盤コンディションが好転し、最後は予選2位につけたメルセデスのニコ・ロズベルグに0.091秒差まで詰め寄られハラハラもしたが、今年5回目の予選P1は揺るぎないものだった。
一方のアロンソは7番グリッド。負けが込んだ過去2戦とは違うローダウンフォース・コースであっても、フェラーリは予選での“定位置”から脱することができなかった。
予選3位にロータスのロメ・グロジャン、その後ろにレッドブルのマーク・ウェバーと続き、ランキング3位につけるメルセデス駆るルイス・ハミルトンがようやく5番手に名を連ねた。タイトル争いという観点からすれば、ベッテルの実質的な敵はことごとく後方グリッドに沈んだことになる。
6番グリッドにマッサ、その後ろのアロンソを間に挟み、マクラーレンのジェンソン・バトン8位、トロロッソのリチャルド9位、そしてザウバーで善戦したエステバン・グティエレスが10番グリッドを勝ち取った。
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■ベッテル、異次元の速さで姿を消す
レースの最長時間である2時間に垂(なんな)んとする、長く暑く過酷なナイトレースは、予想通りベッテル独走という展開に終始した。このチャンピオンが他のドライバーの視界にとどまっていたのは、スタート直後と、シンガポールGPではお決まりのセーフティーカーが入った時ぐらいだったろう。
好スタートを決めた2番グリッドのロズベルグは、ターン1で一瞬ベッテルを抜いたものの続くターン2、3で再び2位に戻った。
オープニングラップで1位ベッテルのリードは1.9秒。それが翌周には、他車に2秒以上勝る異次元の速さで、4.1秒にまで拡大した。2ストップのうちの最初のタイヤ交換までに8秒、そして61周レースも3分の1を過ぎたあたりで10秒もの差がついていた。
25周目、来季レッドブルをドライブするトロロッソのリチャルドがウォールにクラッシュ、セーフティーカーが導入されたことでベッテルが稼いだタイムは帳消しに。しかし31周目にレースが再開すると、このチャンピオンは次のラップで2位ロズベルグを3.2秒も引き離し、後続とのマージンはチェッカードフラッグが振り下ろされる頃には32秒を超えていた。まさにこの日のベッテルに敵はいなかった。
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■タイヤ交換の賭けに出たアロンソ2位、ライコネン3位
別格のベッテルを除けば、レースはかの地の気候同様に熱を帯びた緊迫した内容となった。ポディウムに上るものと届かなかったものの違いは、セーフティーカーにどう反応したかで分かれた。
徐行が始まるや否や、アロンソ、グロジャン、マッサ、バトン、ライコネン、セルジオ・ペレス、ヒュルケンベルグ、グティエレスらは2度目の(そして多くにとって最後の)タイヤ交換のためピットに飛び込んだ。この“先行ピットイン組”は、レース距離の半分以上をかためのミディアムタイヤで走り切ろうという賭けに出たのだ。
これに対しピットストップを保留したベッテルは1位をキープし、ロズベルグは2位、ウェバー3位、ハミルトン4位でレースは再開した。
ロズベルグ、ウェバー、ハミルトンはその後のタイヤ交換で順位を落とし、既にタイヤを替えていた集団に先行を許した。その後フレッシュタイヤのおかげで追い上げたもののロズベルグは4位、ハミルトン5位で表彰台までは届かなかった。またウェバーはギアボックストラブルでペースを落とし、ファイナルラップにマシンが止まりポイント圏内から脱落してしまった。
一方でポディウムの座を手に入れたのはアロンソとライコネン。“先行ピットイン組”のトップだったアロンソは5位でリスタート、ハイペース(ただしベッテルは別)でもタイヤを持たせることができ2位でフィニッシュした。
ライコネンは背中の痛みという体調不良もあり予選13位と後方スタートだったが、レース終盤の54周目、マクラーレンの今季初表彰台がかかったバトンをぶち抜き3位を奪い取った。
13戦して7勝、自身通算勝利数ではアロンソを抜き33勝目を記したベッテル。ベルギー、イタリア、シンガポールと夏休みが明けて3連勝、チャンピオンシップでのリードはさらに7点増して60点へと膨らんだ。
そして3戦連続2位に入っているのがランキング2位アロンソである。高速コースでも市街地コースでもつかまえられないレッドブルに、フェラーリは事実上なすすべがないといっていい。まさに王者に敵なしの状態だ。
週末ごとにベッテル&レッドブルの4連覇が現実味を帯びてきているシーズン終盤戦。アジアラウンド2戦目は、10月6日に行われる韓国GPだ。
(文=bg)