第228回:ハイブリッド車のオフセット前面衝突試験
自動車アセスメント公開試験リポート
2014.03.05
エディターから一言
独立行政法人 自動車事故対策機構(NASVA)は2014年2月20日、ハイブリッド自動車のオフセット前面衝突試験と衝突後の感電保護性能評価試験、被害者救出訓練を報道陣ほかに公開した。その様子をリポートしよう。
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64km/hでバリアーに衝突
公開試験が行われたのは、茨城県つくば市の日本自動車研究所(JARI)。今回の公開試験には、われわれメディアに加え、初めての試みとして東京モーターショーの会場でアンケートに答えた一般ユーザーも招かれた。
衝突試験は、JARIの衝突試験専用の施設で行われる。巨大な体育館のようでもあり、倉庫のようでもある試験場は、高速度撮影に必要な光量を確保するためにたくさんの照明がともされていて、屋外よりも明るいように感じられる。さらに、正確な試験データを得るために、室温も季節にかかわらず25度に設定されているとのこと。この日のつくば市は北風が冷たかったのでありがたかった。
衝突試験の対象となるのは「ホンダ・アコード ハイブリッドLX」。もちろんピカピカの新車だ。
このアコードは、試験に際してメーカーによる特別な対策が講じられないよう、NASVA職員が納車の直前まで身分を隠して購入したものだ。つまり、正真正銘の市販車である。
衝突試験の開始を伝えるアラームが鳴り、カウントダウンの後、ガラガラガラと駆動装置が試験車両を加速させる音が響く。数秒後、目の前にアコードが現れたかと思った瞬間、バリアーに衝突した。
衝突時の速度は64km/h、オフセット衝突のオーバーラップは40%。
ズシンと空気が震えるのと同時に、フロント部分の樹脂パーツが周囲に飛び散る。衝突直後は、試験会場がしんと静まりかえったように感じたが、衝突音の大きさのせいだろう。
衝突試験なのだから、クルマがバリアーに衝突するのはわかっていたはずなのに、やはり目の前でクルマがぶつかるというのは、気持ちいいものではない。けれども、衝撃の激しさの割には、クルマのダメージは予想よりもずっと少ない。現代のクルマの安全性をこの目で感じると同時に、やはり交通事故は起こしたくない、巻き込まれたくないものだと感じた。
衝突後は、ハイブリッド車特有の問題である高電圧バッテリーへのダメージについて、評価が行われた。
高電圧バッテリーの固定状況や、電解液が漏れていないか、高電圧自動遮断装置の動作状況などが確認された。
今回の試験結果はデータ解析の後、自動車アセスメント結果発表会において公表される予定だ。
ハイブリッド車で救出訓練
続いて行われたのが、衝突試験を終えた試験車を利用した、レスキュー隊による救出訓練だ。
通常では廃棄処分となる試験車両を使った、いわば再利用で、こちらも今回初の試みとなる。NASVAによると、今後はこうした再利用を進めていきたいとのこと。
訓練に使われるのは「トヨタ・クラウン ハイブリッド アスリートS」。
車内に、家族に見立てた男性と女性そして子ども、計3体のダミー人形が閉じ込められているという設定だ。
通報によりレスキュー隊が駆けつけると、まずは高電圧回路の遮断から作業が始まる。
感電を防止する特殊な服と絶縁手袋をはめて、ハイブリッドシステムのサービスプラグを外して高電圧を遮断するところから、救助が始まるのだ。
衝突時には高電圧遮断装置が自動的に働くように設計されているクルマでも、万が一の危険性を排除するために、この作業を必ず行うという。
高電圧の遮断後、機器類に残っている電圧が低下するまで一定の時間待機(車種によってマニュアルに定められており、今回の訓練では90秒間)を置いてから、実際の救助作業にかかる。
車内でけがをしている人がいるのに待機しなければならないというのは、救助をするレスキュー隊員の安全を守るための作業だが、隊員の一人に話を聞いたところ「けがの状況が悪い要救助者がいる場合、待機している時間は長く感じる」と語っていた。
一刻一秒を争う救命の現場で、ハイブリッド車にこういったリスクがあるということを、恥ずかしながら始めて知った。
もちろん、このリスクは「万が一の状況において」であり、それだけでハイブリッド車を否定する理由にはなり得ないが(同様に、SRSエアバッグシステムを搭載するクルマは、救出のための車体切断による作動を防ぐため、救出作業を開始する前に、エンジンを止めてから数十秒間時間を置く必要がある)、心のどこかにとどめておきたい。
救助作業は、訓練車両のドアを開くことができないという設定で進められたが、実際はすべてのドアが手で開閉可能だった。
レスキュー隊員はそれぞれ声をかけ合いながら、テキパキとドアのヒンジを切断し、けが人に見立てたダミー人形を救助していた。
交通事故による死者数は、1970年の1万6765人をピークに、2013年は4373人と着実に減少している。これには自動車の安全性向上と、救命体制の充実が少なからず貢献しているのだろうが、それでも毎日12人近い人が交通事故で命を落としているということになる。
一連の試験と訓練を見学し、安全技術の進歩は目を見張るものがあるものの、クルマがすべての人にとって幸せな道具となるまでには、まだ時間がかかるという現実を突きつけられた思いだ。
衝突試験の激しさを目にして「安全運転を心がけよう」と思ったが、悲しいかな人間は忘れっぽい生き物だ。時々試験の様子を思い返して、事故は起こさないという気持ちを再確認していこうと思う。
(工藤考浩)

工藤 考浩
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